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ミルトン

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小説や短歌を書いたりしています。 漫画やアニメを見るのも好きです。 介護士をしていますが、今は訳あって休職中です。 一人暮らしで寂しいです。
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雪の夜も、自転車でA子の家を見に行った。

中学、高校とずっとA子のことが好きだったのだ。

席替えで、A子のうしろの席になったことがきっかけだった。

僕はよくA子に消しゴムを借りた。椅子をかるく蹴って合図をしていた。

「やめてよねー」とA子は言った。じゃれあっていたのだ。

僕はいじめられることになる。クラスの不良たちに殴られたのだ。

それをA子に見られた時は本当に屈辱だった。それでも僕は殴り返せなかった。

また席替えになり、僕らは離れ離れになった。蜜月は終わってしまったのだ。

中一の時に好きになり、高三までずっと好きだった。高校は別々になってしまった。

高三の時に、家業の店の前をほうきで掃除していたら「ミルトン!」と声がした。

見るとA子だった。自転車で走りながら僕に手を振っている。

一瞬にして幸せいっぱいになってしまった。狂ってしまいそうだった。

久しぶりにA子と会えたのだ。すっかり有頂天になってしまった。

僕は親に聴かれないように、電話ボックスからA子に電話をかけた。

「11月25日に映画に行かない?『ゴースト』っていう映画なんだ」

勇気を出して誘ってみた。しつこく何度も誘ったのだ。そしてなんとかOKがもらえた。

僕はすっかり嬉しくなり、11月25日を待った。

「ミルトンごめんね。今日映画に行けない。バイトが忙しくて…」

がっかりしたが、どうしてもA子に会いたかった。

僕はA子のバイト先、新月という和菓子屋に向かった。

店の中に入ると、店員をしていたA子が驚いた顔をしている。

なにか店の中が気まずい雰囲気になってしまった。

「これください…」とA子に言った。安い和菓子を買ったのだ。

「あ、はい、ありがとうございます…」A子の動きはぎこちなかった。

和菓子を買って店を出た。迷惑だっただろうか…。

その夜またA子に電話した。「ごめんね、店にいっちゃって」

「ううん、私も映画に行けなかったから…」

「今日って実は僕の誕生日だったんだ」

「あ、おめでとー」

自分のことしか考えてなかったと思う。『ゴースト』は後に一人で観ることになった。

「あのね、実は私、好きな人がいるんだ」

「え!だれ?」

「先輩なんだけどね、いま日立の工場で働いてるの。私もそこで働くんだ」

すっかり絶望してしまい、電話を切った後、電話ボックスの中にしばらく座り込んでしまった。

一時間くらい経っただろうか。電話ボックスの中に財布を取りに来た女性から心配された。

自転車でどこを走っているのか分からなかった。気がつくとA子の家に向かっていた。

僕の青春は、自転車でA子の家を見に行くことで、いつの間にか終わってしまったのだ。
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ミルトン

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「ハイスクール!奇面組」の新しいアニメが始まった。

観てみたら、そんなに悪くないかなという印象。

奇面組の漫画は小学生の頃から読んでいた。あの頃はみんな「変態」になりたがっていた。

学校で零くんの「おどろきしぱた」や、塊くんの「魔球」を真似したものだった。

僕は零くんになったつもりだったが「お前は剛くんだな!」と言われショックだったのを覚えている。

親友のAが零くんだった。激しく嫉妬してしまった。

奇面組が最終回を迎えた時、あの盛大な夢オチにみんなが落胆した。

零くんたちはどうあっても存在していなければならなかった。

そんなみんなの願いを、夢オチは裏切るものだったのだ。

実は奇面組は昔一度アニメ化されていて、その時は実はがっかりした。

唯一の救いは主題歌がうしろゆびさされ組だったこと。

高井麻巳子が千絵ちゃん、岩井由紀子が唯ちゃんのイメージキャラクターだった。

「渚の『・・・・・』」や「かしこ」といった名曲を毎週聴くことができた。

妹が「ふ・わ・ふ・ら」というアルバムを買い、僕が「♾️」というアルバムを買った。

両方ともカセットテープだった。レコードはうちでは聴けなかったし、CDは当時まだ無かったのだ。

作詞は秋元康、作曲は後藤次利が担当していた。

秋元康の作詞はAKB時代よりもこの頃のほうが優れていて、円周率や英語の構文が出てくる詩は彼独特のものだった。

後藤次利の作曲もやはり素晴らしいもので、ポップソングを作らせたら右に出る者はいなかった。

僕は自分の部屋にうしろゆびのポスターを貼った。アルバムを買って手に入れた物だった。

そんな部屋の中でうしろゆびを聴いたものだった。僕は高井麻巳子のファンだった。

高校一年の頃、秋元康と高井麻巳子が結婚。

後藤次利はすでに河合その子と結婚していた。

みんなが絶望したものだった。

文化祭ではうしろゆびのポスターが投げ売りされていた。

僕は壁からうしろゆびのポスターを剥がして、ビリビリに破いた。

うしろゆびの曲を聴くと、中学生の頃にタイムスリップしてしまう。

当時好きだった子、高校受験、真夜中のテレビ、徹夜明けの空などがよみがえってくるのだ。





短歌

モノクロの町の夜明けにだれからも愛されぬまま自転車をこぐ
song to story
〜音楽がくれるもうひとつの物語〜
song to story 〜音楽がくれるもうひとつの物語〜
参加
ことばりうむの星ことばりうむの星
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ミルトン

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双極性障害のOさんが退院することになった。

彼女は最初、統合失調症だと診断されていたらしい。

お別れ会でトランプ。セブンブリッジをすることになった。

彼女は創価◯会員だ。患者の中には創価◯会員が多い。

病気を治したい人が多いからだろう。切ない願いが伝わって来る。

Oさんは弱っている患者に優しかった。いつも苦しんでいる人を気にかけている。

彼女はいつも病棟の廊下を歩き回っていた。運動したがっていたのだ。

一度だけ一緒に歩いたことがある。彼女の幻聴について話しながら。

一緒に歩くのは不思議と楽しかった。

退院間際、Oさんがカラオケに行きたいと言っていたので、

「じゃあ、今度みんなで行きましょうか」と言ったら、

横から「いいねえ!」とKさんが大声で言ったが、

「だって連絡先交換しちゃ駄目って言われてるし…」とOさんが言ったので、みんなでカラオケに行くのは無しになった。

Oさんは二回結婚して二回とも別れている。何があったのかは訊けなかった。

Oさんが退院した時、一緒にカラオケに行きたがっていたKさんは泣きそうになっていた。

彼女のために、サッポロ一番味噌ラーメンを作ることになった。

病院内には鍋もどんぶりもないので、他の患者が食べた緑のたぬきのうつわを拾ってきた。

うつわをよく洗い、そこに麺と熱湯を入れて作ったのだ。

すごく美味しそうにできた。まずはKさんに食べてもらった。

彼女はほとんど食べない。麺を少し食べて、スープは僕がうつわを持って飲ませてあげた。

そこに女性の看護師がやってきてこう言った。

「食べ物を分けるのは禁止です!このラーメンは廃棄します!」

看護師はラーメンを持って行ってしまった。

せっかくうまく出来たのに、棄てるなんてあんまりだ…。

Kさんはまた泣きそうになっていた。

おまけに、僕が女性と仲良くし過ぎていることが問題となる。

僕はラーメンを一口も食べられなかったが、Kさんが少しでも食べられて良かった。

早く退院したい。退院したらチェンソーマンの映画を観に行くのだ。

映画の帰りにはラーメン二郎か杉田家に行く。

そこできっと棄てられたラーメンのことを思い出すだろう。





短歌

さみしくてならないときは川底に沈むオートバイに会いにゆく
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歌会 テーマ「冬」

1.日光が長く差し込み暖かく背中に当たるつかむ吊り革 (Sさん)

2.町じゅうが雪につつまれ白い紙だけの手紙をいま出しにゆく (ミルトン)

3.逢ふめなき心をすさみ言の葉も散りつもりなほ霜の置くらむ (Cさん)

4.部屋に入る陽がストーブに鈍く光り冬の三時にあなたはいない (Hさん)

5.冬の陽のあたたかささえかなわないきみの笑顔とお茶とお菓子と (Nさん)



先日、皇室の歌会始めが行われた。雅子様と愛子さまの歌が良かったと思う。

僕も今ネット上の歌会始めに参加している。ラインナップは上記の通り。

僕の以外の全ての歌に感想を書いてみた。

1.日光が長く差し込み暖かく背中に当たるつかむ吊り革

「暖かく背中に当たる」の箇所を読むと読者も暖かくなるような素敵な歌ですね。

最後まで読むとバスや電車の中だと分かります。
四句目でいったん切れるのでしょうね。

動詞が多いせいか若干読みにくいような。
特に「当たるつかむ」と二つの動詞が繋がる箇所は工夫が必要かも知れません。

3.逢ふめなき心をすさみ言の葉も散りつもりなほ霜の置くらむ

【あなたに逢うことができずに心がすさんでしまい、私の心の中には言の葉が散り積もり、さらに霜が降りてしまうことだろう】

というような意味にとりました。
幻想的で切ない歌です。

「言の葉」とはおそらく歌のことだろうと思いました。

心の中に言の葉が散り積もり、霜が降りるという発想が秀逸だと思いました。

4.部屋に入る陽がストーブに鈍く光り冬の三時にあなたはいない

ストーブが鈍く光ることと、あなたがいないことが響き合う、寂寥感ただよう技ありの歌です。

「あなたはいない」を結句にもってきたのがいいなと思いました。最後にズシンと来ますね。

「部屋にいる」ではなく字余りであっても「部屋にはいる」と読むのでしょう。

ストーブが光ることも、きみがいないこともおそらく一回性のことであるのに「冬の三時」の「冬」が少し言葉が大き過ぎるのかもという気がしました。

5.冬の陽のあたたかささえかなわないきみの笑顔とお茶とお菓子と

「きみ」と一緒にお茶やお菓子を頂いている場面かなと思いました。

迷ったのは「冬の陽」がいま当たっているのかどうかということでした。

個人的には当たっていないととりたいところ…「きみ」とのふれあいだけに集中させたいと思ったのです。

文字通り、冬の陽以上にあたたかい歌ですね。



どの歌が一位になるのかはまだ分からない。

結果をすごく楽しみにしている。
短歌の星短歌の星
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メンヘラが好むアーティストといえばCoccoだと思う。

それも初期のCoccoだ。病気が癒えて?元気になってからの彼女は正直退屈だ。

僕も大好きだが、最近のCoccoのことはほとんど知らない。

看護学校に行っていた頃、全てがうまく行かなかった。

看護学校の帰りにCDショップに寄った。そこではCoccoの「Rainning」が試聴できるようになっていた。

ヘッドホンを着けて聴いてみる。「ハサミをにぎりしめて おさげを切り落とした」という歌詞のところで泣いてしまった。

「Rainnig」は文字通り雨のように、一時的にだとしても、僕の苦しみを洗い流したのだ。

すぐに「Rainning」が入っている「クムイウタ」というアルバムを購入した。

このアルバムにはもう一曲「強く儚い者たち」というシングル曲が入っている。

「あなたのお姫さまは 誰かと腰を振ってるわ」という衝撃的な歌詞で有名だ。

数年前、昭和女子大学のホールでCoccoのライブがあり、見に行った。

初期の曲はまったく歌わなかったが「強く儚い者たち」だけは歌っていた。

Coccoには初期の曲をまとめた2枚組のベストアルバムあって、おそらく統合失調症だと思われる知人にプレゼントしたことがある。

「CoccoのCD聴いた?」と僕が訊いた。「いえ、まだです」「なぜ?」「もったいなくて…」と知人は言った。

このベストの中に「遺書。」という曲があり、それがメンヘラの極みなのだ。

「だけど誕生日だけは ひとりあの丘で泣いて 裸のまま泳いだ海 私を想って」と歌うCoccoに涙が止まらない。

Coccoは結婚し子供が生まれてからも病んでいたようだ。

拒食症でガリガリになり、身体中に切り傷をつけた姿で雑誌の表紙に登場したのだ。

好きな人に「南の島の星の砂」というCoccoが描いた絵本をプレゼントしたことがある。

絵本の感想はもらえなかったけど、ずっと忘れない。

明日はCoccoの誕生日だ。

生き続けてくれてありがとうと言いたい。





短歌

有線で忘れてた歌ながれだすこんな奇跡で生きのびてゆく
song to story
〜音楽がくれるもうひとつの物語〜
song to story 〜音楽がくれるもうひとつの物語〜
参加
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今日はGRAVITYで知り合った唯一のリアルな友達、Rの誕生日だ。

Rは今ディズニーシーに行っている。彼氏と一緒なのだ。しかし僕は彼氏が羨ましくない。

なぜならRには他にも男がいっぱいいるのだから。むしろ彼氏が可哀想になってくる。

彼氏はRの胃袋をがっちり掴んでいて、こないだは高いウナギを御馳走したそうだ。

結婚するかも…ということだったが、どうなることやら。

実はRに金を借りたことが原因で、一時友情が壊れたことがある。

GRAVITYはもちろん、LINEなどもすべてブロックされ、連絡が取れなくなってしまったのだ。

この時は本当に絶望した。リアルな友達がひとりもいなくなってしまったのだから。

何とか許してもらうことができて、今では毎日電話している。

知り合った当初、Rの家に泊まったことがある。Rの父が買って来た冷凍パスタを食べた。

Rがトイレの中で彼氏と電話していて、おしっこすることができなかった。

僕はかんかんに怒って、ペットボトルの中におしっこをした。

おしっこが出来ないことを怒ったのではない。彼氏と仲良くしていることが僕を怒らせたのだ。

朝になってバス停まで送ってもらった。「気をつけてね」とRは言ってくれた。

「タヒね!!」と僕は大声で怒鳴った。

家に帰って僕はひとりぼっちになってしまったことに気付いた。

大泣きながらRにLINEで謝った。Rは「タヒね!!」と言った僕を許してくれたのだ。

しばらくしてRが自殺未遂した。薬を大量に飲んだのだ。

彼氏と僕とどっちがいいか分からなくなり、薬を飲んでしまったらしい。

Rは入院することになり、僕はすぐに病院に駆けつけた。

Rは統合失調症だ。彼氏がバイクで病院に来てくれたと言ったが、実際に来たのは僕だけだった。

Rは初詣に行ったらしく、御守りを買って来てくれた。

それがRとお揃いなだけでなく、彼氏ともお揃いだというのだ。まいってしまった。

誕生日おめでとう。
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父はカレーにソースをかけて食べていた。

「美味いんだよ、これが」と言っていたが、家族は誰も真似しなかった。

関西ではよくソースをかけるらしいが、少なくとも我が家ではなじみがなかった。みんな気持ち悪がっていたのだ。

父は家族の中でも少し浮いていたかも知れない。孤独だっただろうと思う。

父には家業の洋服屋で働く以外は生きがいがなかった。一心不乱に仕事だけをした。まったく遊ばなかった。

そのくせ「寝るより楽は無かりけり」というのが父の口癖だったのだ。

「なぜ遊ばずに仕事ばかりするのか」と父に訊いたことがある。「怖いんだよ…」と父は言った。

父はパーキンソン病にかかっていた。

今は良い薬があるらしいが、昔はパーキンソン病にかかるとだんだん身体が動かなくなった。

父は仕事中に転ぶことが多くなり、顔面が血だらけになっていた。それでも仕事をやめないのだ。

転んだ父を、僕は冷ややかな気持ちで見ていた。家業が嫌いだったのだ。

二浪してどこの大学にも受からず、家業を継ぐことになったが、ろくに働かずに店を潰すことになる。

一度だけ店の仕入れの帰りに、父とお茶の水の明治大学に行ったことがある。

父は明治大学の商学部卒だった。僕が日本大学に落ちた時「日大に落ちるなんて…」とずいぶん呆れられたことを思い出す。

「ずいぶん変わっちゃったな」と明治大学の校舎を見て父が言った。

それでもまだ学生運動の独特な字体の立て看板が残っていた。

明治大学の帰りに三省堂書店に行った。こんなに大きな書店は千葉には無かったので喜んだ。

カフカやセリーヌの本を買ったのを覚えている。父は何も買わなかった。

父の本棚にゲーテの「若きウェルテルの悩み」があった。父にもウェルテルのような時期があったのだろうか。

父と母はお見合いで結婚している。母はよく「お父ちゃんと結婚しなきゃ良かった」と愚痴をこぼした。

食べるものが無く、父にマクドナルドのテリヤキバーガーを買って来たことがある。

「なんだこりゃ、すごくまずいな…」と一口食べただけで父は言った。

父はハンバーガーを食べるような世代ではなかったのだ。父の食べ残しは気持ち悪いので捨てた。

父の身体はパーキンソン病によってほとんど動かなくなった。それでも仕事をしていた。

「俺はもうすぐ死ぬ…分かるんだよ…」と父は言った。

「何言ってんだよ」と僕は言った。死なないと思ったのだ。ところが父は死んだ。

朝に父の寝床にゆくと、布団から這い出して、右手を大きく伸ばしたまま硬直していたのだ。

まるで誰かに助けを求めるように。

医者を呼んだ。一緒にやって来た看護婦が、曲がったまま死後硬直した腕を力づくで直した。僕は怖くなった。

父の死後、一度だけボンカレーにソースをかけて食べたことがある。

思いのほか美味しかった。

父に冷たい態度を取った自分を酷い奴だと思った。
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今日は妹の誕生日だ。もう梅の花が咲いている。

妹とは東船橋で二人暮らしをしたことがある。妹のマンションに転がり込んだのだ。

僕は無職の状態が好きな怠け者だが、妹はそれを許さなかった。

警備員のアルバイトを見つけた。しかしそこはバリバリの右翼だった。

「うちははっきり言って右ですから」と上司は言った。至る所に日の丸の旗が飾られている。

怖くなって研修初日に逃げ出してしまった。次はブックオフのバイトを見つける。

仕事中にみうらじゅんの漫画を立ち読みしていて、女の店員に思い切り頭を殴られクビになった。当然だ。

はれて無職に戻ったわけだが、妹はイライラしていた。

当時僕は拒食症の女の子に恋をしていて、彼女とのことを全て日記に書いていた。

妹が僕の日記を読んでいることは分かっていた。いつも日記の位置が微妙に変わっていたから。

妹はディカプリオと槇原敬之が好きだった。しかし槇原敬之が薬物で捕まることになる。

槇原敬之がゲイであることも広まった。妹は槇原敬之のCDを全てゴミ箱に捨てた。

ゴミ箱を見ると「愛が分からない」とたくさん書かれた紙がぐしゃぐしゃに丸めて捨てられていた。

妹は苦悩していたのだ。しかし僕には妹を救うことが出来なかった。

妹のことが本気で怖くなり、部屋から出てトイレにも行けなくなってしまった。

ペットボトルの中におしっこを溜めて、2階から外に流した。1階の住民はたまったもんじゃない。

妹に対する恐怖から、僕はドアの覗き穴から黒服の男が見えるようになってしまう。

幻覚が現れたのだ。すぐに男しかいない病棟に入院させられることになる。酷い所だった。

僕は毎日窓に向かって、スピッツの「渚」を大声で歌った。

狂っていたのだ。窓からは梅の花が咲いているのが見えた。

「うるせえよ!」と他の患者から怒鳴られたが、気にしなかった。僕は毎日歌った。

妹は僕との縁を切った。関わりたくないというのだ。

風の噂で妹が結婚したと聞いた。子供もいるらしい。

妹は愛が分かっただろうか。

僕が愛を知っているかどうかはあやしいが。

妹とはもう二度と会えない。

誕生日おめでとう。
#みんな空の下
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小学校に入学してすぐ、学年一可愛い女の子を好きになった。

ようこ(仮名)は顔が小さく、綺麗で長い髪をしている。

子供がよくそうするように、僕は好きなようこをいじめていた。

彼女や彼女の持ち物に触れて「ようこ菌!」と言ってみんなでからかったのだ。

ようこはそんなに嫌がっている風でもなかった。もしかしたら根底には愛情があると見抜いていたのかも知れない。

僕はようこが泣いているのを見たことがない。逆に泣かされていたくらいだ。

いたずらでようこの給食の牛乳パックを潰して変な形にした。そうしたら先生に言いつけられてしまった。

女の先生は僕を強く叱った。ようこの可愛さに嫉妬したと見るのは邪推だろうか。僕は泣いてしまったのだ。

しかしこういうことができるのも、好きな人たちで集まって給食を食べているからだ。

だからようこには僕の愛情が伝わっていたのかも知れない。

僕はようこに下敷きをよく借りていた。僕は下敷きを買う気がなかったのだ。

「しょうがないなあ。じゃあこの下敷き、あげるわよ」

と言ってようこはピンクの透明な下敷きをくれた。うさぎのイラストが描いてある。

「えー、ミルトンにあげるのもったいないよ!」とようこの友達は言った。

『いいの。私ミルトンを教育するんだから!』

とようこが言った。なんだか幸せな気持ち。

僕は下敷きを見つめた。うさぎがようこであるように思えた。

下敷きをもらったとき「ようこ菌!」と言ってからかったりしなかった。本当に嬉しかったのだ。

この下敷きは僕が高校生の時までは家にあったが、いつのまにか無くなってしまった。

浪人生のころ、ようこと再会した。ようこも浪人していて、彼女は立教に行きたがっていた。

校舎に蔦がからまっていておしゃれだからというのが理由だった。

僕は立教の文学部や早稲田の文学部を受けるが、すべて落ちることになる。

ようこは扱いはそれほど大きくないものの、おしゃれな雑誌にモデルとして載っていた。

ようこを自転車の後ろに乗せて、家まで送ったことがある。

自転車で一番楽しいのは、女の子を後ろに乗せて走るときだ。

ようこが立教に受かったかどうかは知らない。

僕たちは大人になりかけていて、もう小学生の頃には戻れなかったのだ。

自転車は風を切って走った。振り返るとようこのスカートが揺れていた。
月がきれいですね〜キザな台詞イベント~
月がきれいですね〜キザな台詞イベント~
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躁鬱病で入院して、トランプばかりやっている。

トランプではもろに性格が出る。文章以上にごまかしが効かないものだ。

ダウトをやっていると、同室のSさんは正直に答えてしまう。

例えば5がないとすると、Sさんは嘘をつけなくて「無い」と答えてしまうのだ。それではゲームにならない。

しかしSさんは神経衰弱をやると本領を発揮する。超能力があるのではないかと思うほどカードを当てるのだ。

Sさんはほとんどしゃべらない。しゃべっても断片的な言葉だけだ。

Sさんが僕をトランプに誘うことが多い。そしてみんなが嫌う神経衰弱をやりたがるのだ。

みんな精神の病気なので、神経衰弱は嫌がる。やるとへとへとに疲れてしまうのだ。

Sさんは食事の時、いつもメインディッシュを最後までとっておく癖がある。

僕は真っ先にメインディッシュを食べるので、不思議な気持ちでそれを見ていた。

Sさんはひとりで窓から給水塔を見るのが好きだ。

同室のTさんもダウトが苦手だ。性格的に嘘がつけないのだ。

例えば5が無いと「嘘はつきたくないよ」と言って捨てられているカードを全部もらってしまう。

「嘘つくと、体調が悪くなるんだよ」とTさんは言う。

そのくせ7ならべになると、カードをいくつもせき止めて意地悪するのだ。

Tさんは立教大学出身なので、正月は熱心に駅伝を観ていた。

立教は最下位だったので、随分がっかりしていたが。

Tさんは職場でいじめられたそうで、いつもひとりごとでいじめてきたやつの名前を呼ぶ。

「◯◯、お前のせいで俺は病院に入ってるんだぞ。◯◯◯、お前もだ。お前らのせいだ」

いじめてきたやつの名前なんてよく覚えてるなと思う。

僕は双極性障害だが、SさんもTさんも統合失調症だ。

Sさんはしゃべらないから分からないが、Tさんは昔の友達からの幻聴が聴こえるらしい。

「幻聴が聴こえるとね、寂しくないんだよ」とTさんは言う。そんなものなのだろうか。

もう退院したが、友達のMも統合失調症で幻聴が聴こえるらしい。

アイドルや女子アナが告白してくると言うのだ。

Mは半分、幻聴かもと疑っているが、もう半分は告白を真実だと思っている。

申し訳ないが笑ってしまった。願望がもろに出ている。

Mは毎日電話をくれるが、幻聴の話で僕を笑わせてくれるのだ。





短歌

きみの吐く息がまっ白だったこと想いをつげてくれた公園
双極性障害の星双極性障害の星
GRAVITY
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ミルトン

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僕のときの成人式は雪が降っていた。

本当は行きたくなかった。なぜなら二浪していたから。恥ずかしかったのだ。

勉強などしていなかった。文学書とハードコアパンクのCDを買いまくっていた。

だけど好きだった女の子、Mが一目見たくて、それだけのために成人式に行ったのだった。

父のヨレヨレのスーツを着て雪の舞う中を歩いた。慣れないネクタイは曲がっていた。

親友のAと会い、彼が曲がったネクタイを直してくれた。

やがてBもやって来て、3人組が揃った。Aは明治大学の学生、Bは社会人だった。

中学の時に告白してきてくれた女の子を見つける。彼女は振袖ではなくスーツを着ていて、赤ちゃんを抱いていた。

可愛い彼女の告白を断ったのはMが好きだったからだ。手紙と消しゴムをくれた。僕がいつも消しゴムを借りていたから。

式は滞りなく終わって、記念品としてカタカナ辞書をもらった。

Mをさがす。そして友達と楽しそうに話しているMを見つけた。綺麗な振袖を着ている。

違和感を覚えた。Mはあんな顔だったっけ?僕は本当に彼女のことが好きだったのか?

Mが僕に向かって手を振ってくれた。すると僕は有頂天になってしまい、その場で何回も何回も飛び跳ねて喜んだ。

やっぱりMだ。僕が好きになった人だ。僕は幸せでいっぱいになってしまった。

AとBと僕の3人で夢庵に食事に行った。雪はまだ降っていた。

僕は味噌煮込みうどんを食べた。それがすごく美味しく感じられたのを覚えている。

その夜、僕は電話ボックスからMに電話をかけた。

「振袖、とても綺麗だったよ。会場では話せなかったけど…」

「実はね、会場まで車で送り迎えしてくれる彼氏がいるの。だからもう電話しないで」

絶望して、大量の十円玉を電話ボックスの中で落としてしまった。

その後Mが結婚したと風の噂で聞いたが、それでもまだ彼女のことが忘れられなかった。

Mに子供が生まれたと聞いた時、そこでやっと彼女をあきらめる決心がついた。

それまではどうしてもあきらめることが出来なかったのだ。

電話ボックスは今ではあまり見かけなくなってしまった。

たまに見かけると、いつでもMのことを思い出す。
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小学校低学年のころ、おじいちゃんにノコギリクワガタを買ってもらった。

それは素晴らしいオスで、ペットショップで買ってもらったのだ。僕は大切にした。

しかし野生のノコギリクワガタを捕まえるクラスメイトもいる。

Hは学校の桜の木を蹴飛ばしたらノコが落ちてきたというのだ。本当に羨ましかった。

ペットショップで買ったノコより、野生のノコの方がカッコいいのだ。

そればかりではない。Tが学校の桜の木でヒラタクワガタを捕まえた。その噂は瞬く間に広がった。

ノコよりもヒラタの方がカッコいい。僕は羨ましくてたまらなかった。

たやすく大量のカブトムシを手に入れる者もいた。

Sの家は材木屋をやっているので、大量のカブトムシのサナギを持っていたのだ。

僕はSと仲が良かったので、カブトのサナギを二匹分けてもらった。

Sの姉がフランクフルトをくれた。それはとても美味しくて、僕は姉が欲しくてたまらなくなった。

野生のクワガタを捕まえる上級者はピンセットを使う。木の穴に突っ込んで捕えるのだ。

僕もピンセットを使っていたが、一度コクワガタの羽をメチャクチャにしてしまい、それから使わなくなった。

野生のノコ、ヒラタを捕えたクラスメイトに負けたくなくて、僕はペットショップでオオクワガタを買うことに決めた。

それは二万円もするクワガタだった。母の金を盗んで買おうとしたのだ。

「本当に買っていいってお母さん言ったの?」とペットショップのおばさんが訊いた。

「うん」と僕は答えた。もちろん嘘である。

「じゃあ電話番号教えて。お母さんに訊いてみるから」

僕は電話番号を教えた。おばさんは電話をかけに店の奥に行ってしまった。

「買っていいよ」とおばさんは言った。僕は嬉しくなり、母から盗んだ二万円を渡した。

母が電話で何と言ったのか知らない。盗んだ金だと分かっていて、オオクワを買うことを許してくれたのだろうか。

僕はオオクワガタの入ったケースを持って、走って家に帰った。

学校に持っていけばヒーローになれる。自分で捕まえたと嘘をつくのだ。

あした学校に行くのが楽しみで、その日はなかなか眠れなかった。
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躁鬱病で入院して「ノルウェイの森」(村上春樹)を再読している。

最初は高校一年の時に読んだ。その頃はこの小説が大嫌いだった。

主人公が気取りすぎているし、Hな場面が多かったからだ。

それでも再読してみる気になったのは、高一の頃の自分に会いたかったからだ。

成績は最下位であり、好きな子は別の高校に行った。苦しみの中で、僕は宗教ではなく文学の中に救いを求めようとした。

教科書には「こころ」(夏目漱石)、「檸檬」(梶井基次郎)、山月記(中島敦)、などが出てきて夢中になった。

「こころ」も「ノルウェイの森」も自殺者が出て来る。特に「ノルウェイの森」はたくさん出て来るのだ。

高一の頃の僕が密かに感じ取ったのは、自殺の義務、ということだった。

自殺しなければならない、子供は作ってはならない、というのが、その頃の僕の稚拙な哲学だった。

「ノルウェイの森」の内容は不思議と隅々まで覚えている。もしかしたら良い小説なのかも知れない。

ひとつ覚え違いがあって、恋人の実家の本屋で手に入れたのは「魔の山」(トーマス・マン)ではなく「車輪の下」(ヘッセ)だった。

「ノルウェイの森」を読んで思い出したのは、高校時代、夜いつまでも起きていたということだ。

夜起きていてずっとテレビを観ていたのだ。勉強は決してしなかった。

テレビに飽きると、別の高校に行った好きな子の家まで自転車で行き、ずっと眺めていた。

二階に彼女の部屋があり、窓に彼女の影が映ることがあった。

たとえ影でも、彼女の姿が見れれば胸が熱くなった。満足して自転車で家に帰った。

自転車で帰る頃には夜が明け始めていた。そのまま高校に通うのだ。

いつも徹夜でフラフラになって高校に行っていた。まともに勉強なんて出来なかった。

夜中に好きな人の家を見に行くこと…それが僕の青春だった。

「ノルウェイの森」のようなスカしてやりまくりの青春とは真逆だったのだ。

僕の青春はひとりぼっちの夜だった。自転車だけが相棒だった。

そういう青春をおくったことを後悔していない。むしろ誇りに思っている。





短歌

居場所などどこにもなくてオリオンの下をパジャマでさまよっていた

ひとけない真冬の浜辺 砂蟹よおまえもひとりぼっちなんだね

海に来るはずじゃなかった砂浜のタコノマクラを拾って帰る
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躁鬱病がひどくないころ、介護士として働いていた。

老人ホームにはいろんな利用者さんがいる。僕が受け持ったのは認知症の利用者さんたちだ。

いつも「ありがとう」しか言わないおじいさんのKさん。

非常に好感が持てるが、自分の部屋のドアが閉まっている時だけ、

「馬鹿野郎!この野郎!ぶっ殺すぞ!この野郎!死ねこの野郎!」と騒ぎ始めるのだ。

ドアを開けてあげると、また「ありがとう、ありがとう」しか言わなくなる。元歯科医だそうだ。

ある日、車椅子のおじいさん、Mさんを床に落としてしまったことがある。

他の介護士に見つからないように、急いでMさんを持ち上げて車椅子に戻した。

「ごめんね、許して」と言ったら、「許せないよぉ…」とつぶやかれてしまった。

悪いが笑ってしまった。Mさんはある女性と結婚し、その後その妹とも結婚した。やるじゃん!

夜勤を終えて当時付き合っていた人に触ろうとした時、

「老人のうんこ触った手で触らないで!」

と言われ、手をたたき落とされたことがある。非常に傷つき、そのまま寝てしまった。

一番印象に残っているのは、Uさんというおばあさんだ。

「私はね、莫大な遺産をもっているの。だからあなたに全部あげるわ」

いつもこんなことを言っていた。男性の介護士が大好きで、女性の介護士には冷たかった。

もちろん遺産なんか貰えないのは分かっていたが、悪い気はしなかったのだ。

僕がレクリエーションで「茶摘み」を歌った時も、「あなた綺麗な声をしてるわねえ」とUさんだけは褒めてくれた。

Uさんには家族のお見舞いがまったく来なかった。どんなに寂しかっただろう。

ある日Uさんの部屋に行くと空っぽになっている。Uさんは他の老人ホームに転所してしまったのだ。

他の介護士はみな喜んでいたけれど、僕は最後のお別れが言えなかったことを悔やんでいた。

莫大な遺産はもらいそこねた。新しい老人ホームでもきっと「遺産あげる」と言うのだろう。





短歌

ありがとうだけしか言えぬKさんに触れて何度も言わせてしまう

「わたしはね遺産いっぱいあるからねあげる」Uさん皆に言ってる

夜勤終えきみに抱きつく「老人の糞をいじった手で触れないで」

莫大な遺産をくれる約束をしたUさんが転所してゆく

終の場へ転所してゆくUさんのピンクのパジャマ棄てられている
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心を病んだ友達で、Tさんという4コマ漫画を描く人がいた。

彼は服薬し過ぎで、常にろれつがまわっていず、何を言っているのか分からない時もあった。

彼の漫画は病気の自分の体験を描いたものだ。

絵がとんでもなく下手だったが、ネタには見るべきところがあったかも知れない。

でも僕は彼の漫画を認めなかった。僕の小説や短歌は認めてくれたのに。

無職同士で、いつも二人で漫画を描いたり短歌を作ったりして楽しく遊んでいた。

ある日Tさんから一行のメールが届いた。

【愛している】

僕は頬が真っ赤になってしまった。正直嬉しかったのだ。

しかし僕は【愛しているという大事な言葉を、冗談で使うような人とは友達でいられません】と返信してしまった。

照れ隠しだったのだ。何度も何度もTさんからおそらくは謝罪のメールが届いたが無視した。

次の日、僕が外から家に帰ろうとすると、Tさんが路上で待ち伏せていた。

「すまなかった!」と叫んでTさんは路上で土下座した。

僕はスルーしてそのまま行ってしまった。頭を蹴っ飛ばせば良かったと思いながら。

Tさんの素直さが僕の嗜虐心を刺激したのだ。自分でも酷い奴だと思う。

その後、僕は好きだった女の子に振られてしまい、オーバードーズすることになる。

Tさんが心配してくれて、そこで仲直りした。本当にありがたかった。

しかしその後、Tさんがブログで「手のひらから金粉が出た」と言い出した。

「これは選ばれた者のしるしだ」とTさんは続けた。僕は呆れてしまった。

僕はコメント欄でTさんを激しく攻撃した。するとTさんは本気で怒った。それから絶交状態になってしまったのだ。

Tさんの金粉は本当に悲しい。きっと汗が手のひらで光っていただけなのだろう。

自分を偉く見せたいという思いがTさんを狂わせた。それは切ない願いだった。

数年後、ブログに家族からのお知らせが載った。

【Tは◯月◯日に亡くなりました。仲良くしてくださった皆様、本当にありがとうございました】

驚愕した。共通の友達に電話すると、Tさんは末期癌にかかっていて、自殺したというのだ。

仲直りできないままTさんに先立たれてしまった。なぜ素直に謝らなかったんだろう。

【愛している】の言葉についてTさんは、恋愛とは違うが、決して冗談ではないと言ってくれた。

そんな大切な人にずいぶん残酷なことをしてしまった。

いつかTさんのことを小説にして、お墓参りをしたいと思っている。
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かつてゲームセンターは不良の溜まり場だった。

そこに僕たち少数のオタクがまじっていたのだ。

カツアゲされることもあったが、それでもゲームをやりたい気持ちが勝った。

店内には女の子や家族連れは全くいない。プリクラやUFOキャッチャーのまだなかった頃だ。

中学の頃、大人気の「グラディウス」や「魔界村」といったゲームに夢中になっていた。

当時はゲームセンターにもキャラの立った人が多く、そういう人にはあだ名が付けられていた。

ショットボタンを両手で交互に打つ「イーグルショット」を使う【師匠】。

学ランのボタンをいつも全開にしてプレイしている【マメ】。

上半身を限界まで前倒しにしてプレイしている【神様】。

これらのプレイヤーはみな天才であり、この人たちがプレイしていると決まってギャラリーが集まった。

不良の溜まり場なので、ケンカもしょっちゅうだった。

タバコの煙を吹きかけられることもあった。因縁を付けられて、殴られたこともある。

それでも中学生の頃の僕はゲームセンターに行くのをやめなかった。居場所がなかったのだ。

駄菓子やカップラーメンを食べられる、駄菓子屋のゲームセンターもあった。

ゲームしながら食べるカップラーメンは最高だ。買った人はみな得意になって食べたものだ。

しかし一番人気があったのはフライドポテトだ。

マヨネーズかケチャップを選んでかけることができたが、誰もがマヨネーズをかけて食べていた。

マヨネーズが最高にうまかったし、これ以外の選択肢はなかった。

たまにケチャップをかけているやつがいたが、マヨネーズが切れていたか、頭がおかしいかのどっちかだろうということになった。

友達がカツアゲにあっていて、勇気を出してそれを助けたことがある。

僕は3人がかりでボコボコに殴られてしまった。

しかし友達は解放されて、一緒に帰ることになった。

帰り道、お互いまだ家には帰りたくなくて、自転車をどこまでもどこまでも走らせた。

きれいな夕焼けだったのを憶えている。
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風邪で小学校を休んだ日は、子供でないと味わえないことがたくさんあった。

風邪を引くと母がいつもより優しくなるのが嬉しかった。

熱が出たときの空気のにおい。

風邪の日に飲むポカリスエットの美味しさ。

学校を休まないと聞けなかったゴミ収集車から流れるBGM。

家の中が妙に広く感じられた。

寝ながら読むコロコロコミックの面白さ。

いつもは観れない「笑っていいとも!」でタモリが笑わせてくる。

僕の家は風邪をひくと、必ず鍋焼きうどんを食べさせてもらえた。

母が更科そば屋から注文したものだ。エビの天ぷらが入っていて、これが最高に美味しかった。

これだから病欠の日は特別なのだ。

いまごろ学校は給食の時間だな。ミルメーク出たかな?

親友のAや、気になるあの子はどうしてるかな?やっぱり学校行けば良かったかな?

ふと外に出てみる。誰もいない昼下がりの空虚な町がそこにはあった。

【水枕ガバリと寒い海がある (西東三鬼)】という俳句を、水枕に頭を沈めるたびに思い出す。

サッカー野球(キックベース)やりたかったな。

家のチャイムが鳴り、親友のAが学校のプリントを持って来てくれた。

「今日お前がいないから学校つまらなかったぞ」とAが笑いながら言う。

「いや悪い悪い」と僕も笑いながら言った。

とても嬉しく、何だか恥ずかしく、明日は必ず学校に行くと約束した。

これらのことはみな、大人になると忘れてしまう。

風邪で小学校を休んだ日は、人生の素晴らしさがつまっていた。

もう二度と味わえない素晴らしいことだった。
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小学校低学年の頃、一匹の猫と仲良くなった。

それは黒ぶち猫で、我が家の庭をうろついていたのだ。

頭をなでると喉を鳴らして喜ぶ。僕も喜んだ。

「母ちゃん、この猫飼っていい?」と母にねだった。

「ダメよ!汚いから!」と母は言った。たしかにノミがたくさんいる。母は動物が嫌いだったのだ。

僕はこの猫を飼うことをあっさり断念してしまった。猫にかまうこともやめた。

ある日どうやって登って来たのか、猫が我が家の2階にまで登って来ていた。

切ない鳴き声を上げている。僕に会いに来てくれたのだ。

しかし子供とは残酷なもので、僕は猫のヒゲをハサミで切ってしまった。

猫はふらついているように見える。僕は猫を庭に出した。

また次の日、猫は2階に登って来た。切ない鳴き声を上げている。また僕に会いに来てくれたのだ。

しかし僕は猫を2階から落としてしまった。

猫は空中で暴れて、着地すると同時に急いでどこかに行ってしまった。

それから猫は会いに来てくれなくなった。酷いことをしたくせに、僕は寂しくなった。

誰かに愛されたことを思うとき、いつもこの猫のことを思い浮かべる。

酷いことをした僕に、何度も会いに来てくれたのだ。

こんなに激しく愛されたことはなかった。

それからしばらく経って、僕は庭に猫の遺骸を見つけてしまう。

僕は愕然とした。ヒゲをハサミで切ったり、2階から落としたりしたので死んでしまったのだ。

あんなに愛してくれた猫を僕が殺してしまった。僕はたまらず走って逃げた。

母には猫の死を伝えなかった。

もしも死後にこの猫と会えるならば謝りたい。

そしてお礼が言いたい。愛してくれてありがとう、と。
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昨夜、千葉はわずかに雪が降った。

子供の頃はもっと寒かった気がする。雪はたくさん降ったし、水道も凍った。

あさ小学校に行く時、凍った水たまりを割って、氷を食べたものだ。

小学校に着くと水道が凍っている。それはみんなのテンションを上げる出来事だった。

教室にはストーブがあり、みんなで抜いた髪の毛を燃やした。硫黄の匂いがした。

休み時間になれば、少ない雪でも泥だらけの雪だるまを作ったし、雪合戦をした。

教室内にはたくさんの小さな雪だるまがいたし、雪うさぎもいた。

みんなは新しい手袋やマフラー、ニット帽を身につけていて自慢気だった。

たくさん雪が降った時はかまくらを作った。中で駄菓子を食べた。

みんなの吐く息は真っ白で、夢中になって動きまわっていた。

クラスの中の一人が「おーい!シロップ持ってきたぞー」と叫んだ。

見るとかき氷のシロップだった。それはイチゴ味だった。

「雪にかけるのか?いいねえやろうやろう!」という声が上がる。

クラスの一人が、積もった新雪に直接シロップをかけた。

イチゴ味のシロップは赤くて、それはまるで血のようだった。

みんな手づかみでたべる。変な味だなと思ったけれど、誰かが「うまい!」と叫んだ。

「超うめー」とか「最高!」と言う声。みんなで食べれば美味しかったのだ。

みんなでお腹いっぱいになるまで食べた。





短歌

積もってる雪にイチゴのシロップをかけてみんなで食べたおもいで

きみの吐く息がまっ白だったこと想いをつげてくれた公園
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親友のAからは毎年、年賀状が届いていた。

Aは年賀状に素敵なイラストを描いて送って来たけれど、それがいつしか子供の写真をプリントしたものに変わっていた。

大人になっちまったなあ、と思う。そしていつまでも大人になれない自分を憐れんだ。

Aとは小学校低学年からの親友で、僕がいじめられて泣いているところを、遊びに誘ってもらったのがきっかけで仲良くなった。

Aは僕の救世主であり、ヒーローだったのだ。

Aは明治大学に現役合格したけれど、僕はどこの大学にも受からなかった。

Aが創価◯会に入信してしまった時、僕は激しいショックを受けた。

憧れのヒーローが宗教に入るなど、僕にとっては許し難いことだったのだ。

そしてAは僕を創価◯会に勧誘してきた。そこで僕の怒りが爆発してしまったのだ。

「祈れば何でも叶うんだよ」と言われたがとても信じられなかった。

あまりに必死の勧誘に、僕はとうとう大泣きながら断った。Aも泣いていた。どうして入信してくれないんだと。ふたりで大泣きした。

僕はできればAを創価◯会から抜けさせたかったけれど、それは敵わぬ夢だった。

Aは創価◯会の信者と結婚して、子供を3人も作ってしまった。

子供の写真をプリントした年賀状が来るようになったのはそれからだ。

ここ数年はAから年賀状が届いていない。見捨てられてしまったのだ。

子供の顔はみなAに似ている。目がぱっちりしていて、鼻が少し上を向いてるのだ。

小学校の卒業アルバムをめくると、Aが笑っている。僕も笑っている。

この頃に戻れなくても、仲直りすることがなくても、遠くからAの幸せを祈っている。
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いつかの大晦日、末期癌の母が病院から家に帰って来た。

もう長くないので、最後に家で過ごしてもらいたいという病院側の配慮なのだ。

家族で紅白歌合戦を観たのち、母と僕の二人で二年参りに行った。

近所の神社で、僕は母の癌が治るようにと祈った。治らないだろうけど、と思いながら。

母が何を祈ったか知らない。自分の癌をよそに、僕の幸せを祈ったのかも知れなかった。

母は僕を医者にしたかったが、僕にそんな頭は無かった。二浪してもどこの大学にも受からず、プライドはズタズタになっていた。

医学部でなく文学部を受けると母に言った。落伍者の文学をやりたかったのだ。しかしどこの文学部も受からなかった。

「最後に訊いておきたいことはない?」と母が言った。

「ないよ」と僕は答えた。訊いたら本当に最後になってしまうような気がしたのだ。

母の容態が急変し、病院にもどることになった。

親戚一同が集まり、母を見守った。母は静かに息を引き取った。

泣きながら、僕は何を考えていたか。これで母の圧倒的な支配から逃れられると考えていたのだ。

僕は母を本当に愛していたけれども、母からの過剰な溺愛で窒息しそうになっていた。

これで解放される、と泣きながら思っていたのだ。

あれから長い年月が経ち、僕は母と同じ歳になった。

母よりも歳上になろうとしてるなんて不思議な気持ちだ。





短歌

自らのそう遠くない通夜のため母が大きなテーブルを買う
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躁鬱病で入院中、ひまなので犬の動画ばかり観ている。

僕も犬を飼っていたことがあった。ゴールデンレトリバーと柴犬のミックスだ。

ミルとの出会いは真夏だった。僕は夏になるとおかしくなることが多い。

上半身裸で、笑いながら自転車を乗り回していたのだ。狂っていたと思う。

田舎なので、上半身裸くらいでは通報されなかったのだ。

草むらの影から犬の鳴き声が聴こえる。それは鳴き声というより、泣き声に近いものだった。

すぐに草むらに分け入り、泣き声の主を探した。生まれたてに近い犬が、ふるえながら歩いていた。

上半身裸の僕は、犬のあまりの可愛らしさに、すぐにさらうことに決めた。

保護するというよりは、まさにさらうという感覚だったのだ。すでに飼うことに決めていた。

犬を飼った経験はなかったが、躁状態だったので、すぐに飼う気になったのだ。

頭がおかしくなっていなければ、ミルを飼うことはなかっただろう。

ミルはメスだった。ミルは僕の伴侶になった。

一番思い出に残っているのは、真夏に散歩してミルがまいってしまい、長い距離をおんぶして帰ったことだ。

食いしん坊で散歩が大好きで、17年生きた。

様子がおかしく、病院に連れて行く途中で眠るように亡くなった。

ミルは僕といて本当に幸せだったのだろうかと悩んだ。もうちょっと良くしてやれたのではないか。

ミルの遺骨はまだ持っている。申し訳ないが部屋の片隅にしまってあるのだ。

僕は躁状態のときに国際ロマンス詐欺に騙され、親が必死で貯めた財産をすべて失っており、申し訳なくて家族と同じ墓には入れない。

葬式も戒名も墓もいらない。僕の骨はミルの骨と一緒にして、好きだった勝浦の海に撒いて欲しいと思っている。

死んだあともしもミルと会えるのならば、死ぬのもそんなに悪くない。
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躁鬱病の一番ひどい時、カラスが僕に話しかけて来た。

カラスが「山に登れ!!」と命令してきたのだ。

はだしのまま外に出て、駅に向かった。はだしのまま電車に乗った。

生まれ育った茂原に着くと真夜中になっていた。僕は山に行き、登り始めた。

カラスはずっと僕を見張っている。「しっかり登れよコラ!!」と脅してくる。

山はひどい薮になっていて、枯れた植物がこれでもかと茂っていた。薮が体を傷つけた。

11月の寒空の下、僕はクロミちゃんのTシャツ一枚にジーパンという格好だった。

山に登っている最中にジーパンが脱げ落ちてしまい、それと一緒にパンツも脱げてしまった。

僕は下半身が真っ裸になってしまい、クロミちゃんのTシャツ一枚の姿になってしまった。

「ケツの穴まで丸見えだぜ!!」とカラスが僕をからかう。

僕はそれでも必死に山に登りつづけた。沼に落ちてしまい、もう助からないと思った。

最後に祈った事は、僕との縁を切ってきた妹の幸せだった。心から妹の幸せを願った。

「おいおい祈ってんじゃねーぞー!!」とカラスが叫んだ。

僕はなんとか沼を抜け出し、頂上をめざした。頂上につくと、転がって下山した。

下山するとそこに白くて可愛い家があった。下半身裸のまま助けを求めてチャイムを鳴らした。

下半身裸のまま誰かが出て来るのを待ったが、誰も出てこなかった。

しばらくすると警察がやって来た。

僕は車に乗せられ、精神病院まで連れて行かれて入院した。
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同じ病室で統合失調症のTさんは立教大学卒だ。

病室に立教附属高校、立教大学の卒業アルバムを持ち込んでいて、僕らに披露してくれた。学歴に対する執着がものすごいのだ。

僕はかつて立教の文学部フランス文学科を受験して落ちている。

僕は高校で落ちこぼれた。無理して偏差値の高い高校に行ったからだ。

高校の最初の中間テストで、古典のテストが返却される時、教師がこう言った。

「この中でひとりだけ赤点がいる」

まさか僕じゃないだろうと思ったが、僕だったのだ。

思えばこれが原因で狂ったのかも知れない。

「お前どうしたんだ……」と教師に言われ、僕は教室の中で泣いてしまった。

これでクラスの中で僕が一番馬鹿だというのがバレてしまったのだ。

その後卒業するまで、僕はずっとビリの成績だった。

高校時代、坂口安吾を読み、僕は落伍者の文学というものを信じていた。

しかし落伍者の全てが作家になれるわけではない。

作家志望の仲間たちは、自殺してしまった者も多い。

亡くなった仲間たちのことも書いておきたい。商業誌じゃなく同人誌でもいいじゃないか。

なによりもまず、恥を書いていく。
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自閉症スペクトラムの小学生が退院するので、お別れ会をした。

少年のたっての希望で、みんなでモノポリーをすることになった。

しかしモノポリーはみんなが苦手とするところで、誰一人ちゃんとしたルールを知らない。

自閉症は規則性のあるものに惹かれるという。少年がモノポリーに夢中になったのもそういうことなのだろうか。

少年が独自に考案した「探偵ゲーム」という数字を当てるトランプのゲームがあり、その完成度には驚かされた。

しかしそのゲームの終わりに、僕は少年に紙のライフルで撃たれることになり、正直いい気持ちはしなかった。

僕はいつの間にか少年が苦手になっていたのだ。

少年にはがんとして譲らないところがあり、そこが僕を疲れさせた。

ルールのよく分からないモノポリーをやるのも、正直苦痛でしかなかった。

しかし少年は見違えるように優しくなった。それが僕を驚かせた。

モノポリーのカードを落とせば率先して拾ってくれる。みんなの椅子をちゃんと並べてくれる。困っている人がいたら助けにゆく。

当初は見られなかったこれらの優しさが、僕を感動させた。

少年は学校の勉強が苦手だという。しかしそんなものはどうだっていいのだ。

これからも悩むときはあるだろうけど、その優しさがあればきっと大丈夫だ。

その優しさがあれば、みんなから愛されるだろう。

少年は来年のクリスマスに、サンタにモノポリーを頼むと嬉しそうに言っていた。
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クリスマスになると思い出す人がいる。

小学校から高校までずっと通っていた、英語塾の女の先生だ。

先生は個人的に英語を教えてくれて、僕を高校に合格させてくれた恩人だ。

敬愛の念がいつの間にか恋心に変わってしまい、僕は先生のストーカーになってしまった。

真夜中に先生のマンションに行っては、インターフォンを鳴らし、

「先生、クリスマスを一緒に過ごしてください」

「先生、結婚してください」

とお願いをした。

「帰って、お願いだから、ね?」と先生は繰り返し言った。

思えばこの頃から僕は狂っていたのかも知れない。

先生はカトリックの教会に通っていた。あの元気で可愛い先生に、どんな苦悩があったのだろう。

クリスマスに先生と一緒に教会に行けたらどんなに幸せだったか。

先生はストーカーの僕を警察に通報するようなことは決してしなかった。優しすぎたのだ。

今では先生も僕も独身のまま年をとってしまった。

実は今でも先生に年賀状と暑中見舞いだけは送っている。

迷惑だと分かっていても、送らずにはいられないのだ。業が深いと思う。

先生は今年のクリスマスに教会に行っただろうか。

どうか先生が幸せでありますようにと祈った。
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今夜はクリスマス・イヴ。病棟では昼食に小さなクリスマスケーキが出た。

子供の頃、まだヤマザキデイリーストアがない時代、小さなヤマザキのお店で毎年クリスマスケーキを買っていた。

そこのお店はおばあちゃん一人で経営していて、僕は塾の帰りにお菓子をよく買っていた。

僕はそこのおばあちゃんが大好きだった。とても優しかったのだ。

クリスマス前、母と二人でヤマザキのお店に行った。僕はクリスマスケーキの予約をしに行くのだと思っていた。

「今年のクリスマスケーキはいかがなさいますか?」とおばあちゃんが母に訊いた。

「子供がお寿司を食べたいって言うんですよ。だから今年は結構です」と母。

ショックだった。僕はそんなこと言ってない…。母が嘘をついたのだ。

クリスマス・イヴはお寿司を食べた。正直に言うとケーキよりもお寿司の方が好きだったのだ。

塾の帰りにヤマザキに行くと、お店が閉まっていて貼り紙がしてあった。

【閉店いたします。長い間ありがとうございました。】

僕は動揺した。僕たちがクリスマスケーキを買わなかったからヤマザキが潰れてしまったのだ。

母に泣きながら報告して責めると、ヤマザキのおばあちゃんは田舎で子供たちと暮らすことになったのだという。

「だってクリスマスケーキ、毎年残っちゃうしもったいないじゃない」と母。

僕がケーキよりもお寿司を好んだのが悪かったのだ。

子供心に、ヤマザキのおばあちゃんの幸せを祈った。

病棟で出たクリスマスケーキはとても美味しかった。

千葉は雨のクリスマス・イヴ。

雪にならないまま。
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躁鬱病で入院して10㎏も太った。

僕は太りやすい体質だ。躁の時は痩せるが、鬱になると途端に太ってしまう。

以前かなり太っていた時、痩せるためにサナダムシを6匹飲み込んだことがあった。

サナダムシが体内の栄養分を吸収してくれる。サナダムシダイエットだ。

業者から一匹一万円のサナダムシを6匹買い、気持ち悪いが思い切って飲み込んだ。

サナダムシを飲み込むとまず何が起こるかと言うと、下痢になるのだった。

電車に乗っていると漏らしそうになり、何度も途中下車して急いでトイレに駆け込むことになった。

サナダムシは分裂を繰り返し、体じゅうがサナダムシでいっぱいになると聞き、気持ち悪くて気が狂いそうになった。

また、サナダムシは脳に行ってしまい、宿主は発狂してしまうと聞いて恐れ慄き、自殺したくてたまらなくなった。

すぐに虫下しを飲んで事なきを得たが、精神的にボロボロになってしまった。

結果から言うと、サナダムシダイエットは効果覿面だ。僕は80㎏台から60㎏台まで痩せた。

20㎏ほど痩せたことになる。もしかしたら下痢で痩せたのかも知れないが。

痩せたい人は多いだろうが、サナダムシダイエットは勧めない。下痢と自己嫌悪で死にたくなるからだ。

精神科には拒食症でガリガリになって入院してくる女の子もいる。

彼女らは死にそうになっても、ガリガリであることに誇りを持っている。どんなに苦しくても。

そんな彼女らに言いたい。僕なら太っていてもOKだよと。

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躁鬱病で入院中、やることがないのでスマホをいじっていることが多い。

注目しているのが、トー横キッズと呼ばれる女の子たちのXでの発言だ。

放浪、ホテル暮らし、労働の拒否、売春、成熟の拒否、地雷系ファッション、低身長女子、自殺、リストカット、選ばれたい、幸せになりたい、精神病、可愛い、自虐、メンヘラ、ストリートファイト、整形手術、帰りたくない、消えたい、結婚したい

つぶやきと呼ぶにはあまりもに胸を打つこれらの叫びは、あまりにも切ない。

これもう文学だろ……と思う。

僕が女の子でもっと若かったら、仲間に加わりにトー横に行ったかも知れない。

トー横キッズの中から、次世代の作家や歌人が出てくることを心から願っている。

だいぶ昔「だめ連」というグループに参加したことがある。

その名の通り、だめな自覚があるひとが参加するグループだが、中に入ってみるとほとんどが社会性のないインテリであることがわかる。

社会不適合者や反社会的な人たちのなかで、たくさんの友達ができて生きるのがずいぶん楽になった。

しかしだめ連で知り合った友達は、10人以上が自殺してしまっている。

彼らはあまりにも感じやすかったのだ。

僕は自殺をみずからに禁じたけれども、発狂してそのまま死んでしまうのではないかと恐れている。

その前に少しでもましな小説や短歌を書きたい。

もう残された時間は少ないような気がするから。





短歌

「助けて」と他の患者がもらしてる悲鳴を暗い部屋で聞いてる
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今日は精神科病棟でクリスマス会があった。

普段は白衣を着ている看護師さんはみなサンタの格好をしていて、めちゃくちゃ可愛く感じられて驚いた。

普段はバリバリ働いている医者や看護師が和気あいあいとしているので、普段は見れない姿を見ているようで楽しい。

患者も参加するクイズのコーナーがあったが、これがカオスそのもの。

基本的にみな狂っているので、とんでもないことばかり起こる。

患者は踊り出したり、歌い出したり、派手なリアクションをとったり、ずっと沈黙していたり、とんでもない誤答をしたり、叫び出したりした。

爆笑につぐ爆笑で、腹がよじれた。こんなにも楽しくなるなんて思ってもみなかったのだ。

医者も看護師も一生懸命やってくれて、感極まって思わず泣いてしまった。

精神病患者ばかりのクリスマス。

みな楽しそうに笑っていた。
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S君は電気治療を受けている。

正解には電気けいれん療法と言って、脳に電気を流す治療法だ。

最初聞いた時は驚いてしまった。そんな危険な治療法があるのかと。

S君は統合失調症であり、それもかなり重症だと思われる。

ほとんどしゃべらないし、ポーカーも僕のアドバイスなしではできない。

ごくたまにS君が笑う時がある。それはひまわりが咲いたような満面の笑みなのだ。

S君は正直、美しい顔立ちとは言えない。

しかしその笑顔は魅力的だった。歯茎を剥き出し、顔全体で思い切り笑う。

僕はS君の笑顔が大好きで、それに何度救われたか知れない。

今日も僕がディズニーランドのミッキーマウスのダンスを踊っていたら、S君が笑い出した。

僕はすっかり嬉しくなってしまい、一緒に笑った。

S君が電気けいれん療法を受けて帰って来た。心なしか元気がないように見える。

「電気どうだった?」と僕が訊くと「受け……てきた……」とS君がたどたどしく答えた。

僕は硬あげポテトをあげた。お菓子を分ける時はS君は笑わない。

ふと見るとS君はショートパンツを履いていた。僕も真冬にショートパンツとTシャツという格好だ。

と思ったらS君が履いていたのは下着のパンツだった。僕が爆笑すると、S君も笑ってくれた。

それが嬉しくて、硬あげポテトをもっとたくさんあげたのだった。
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玉置浩二が躁鬱病だというのはわりと有名な話だと思う。

入院中、テレビから流れて来た「メロディ」という歌に泣かされた。

世代的に安全地帯や玉置浩二には詳しいが「メロディ」を知らなかったので驚いた。こんな良い歌を知らなかったなんて。

僕が中学一年の頃に安全地帯の「悲しみにさよなら」が大ヒットした。

この曲を聴くと当時好きだった女の子のことを思い出す。

クラスメイトの彼女の家は床屋だった。僕はその床屋で髪を切ってもらおうと思ったのだ。

床屋に入るとオウムがいた。彼女が育てているのだろうか。

彼女が何か言葉を覚えさせているかも知れないと期待したが、何もしゃべらなかった。

散髪の順番が回って来た。「見ない顔だね」と彼女の父親らしき人に言われた。「ちょっと遠くから来たんです」と僕は言った。

まずい。彼女に好意を抱いている男だとバレるかも知れない。

彼女の母親らしき人も少し不思議そうな顔をしている。

冷静になるんだ。バレやしない。彼女の両親に髪を切ったり洗ったりしてもらっている。

このことはきっと一生忘れないだろうと作業してもらいながら思った。

彼女にはこの5年後、告白して振られることになる。別々の高校だった。

悩み多き思春期にあって、彼女の存在だけが希望だった。

どうか幸せでいて欲しいと思う。

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あと10日でクリスマスだ。

精神科病棟では18日にクリスマス会がある。医者や看護師が芸を披露するらしい。

とても楽しみにしている。彼女もいないので、精神科病棟でクリスマスを過ごすのも悪くない。

両親がまだ生きていた子供時代は、クリスマスが楽しみでしょうがなかった。

僕は不幸にして、小学三年生頃にはサンタの正体を知ってしまった。

それでも知らないふりをして、サンタさんにプレゼントを頼んだ。

ある年のクリスマス、僕はゲームウォッチが欲しかったのだけれど、それをサンタさんには伝えなかった。

両親も僕に欲しいプレゼントはないのか訊いて来なかった。両親は自営業をしていて忙しかったのだ。

きっと両親は僕の欲しいものを理解してくれている、そんな期待もあった。

果たしてちゃんとゲームウォッチが届くのかどうか不安に思いながら眠りについた。

朝起きると、枕元に手紙が置いてあった。

「今年のクリスマスはきみの欲しいものを買ってね。いつも見守っています」

手紙の中には5000円札が一枚入っていた。

僕はひどくショックを受けた。プレゼントが現金であることに何か夢が壊されたような気がしたのだ。

隣で手紙を読んでいる妹の顔を見た。

「サンタさん、きっと忙しいんだな……」と僕が言うと、

「知らないの?サンタって父ちゃん母ちゃんだよ?」

と言ってきた。なんだ……知っていたのか。お前も知らないふりをしていたんだね。

躁状態でのやらかしが原因で、いまでは妹には縁を切られてしまっている。

妹も結婚して息子ができたと風の噂で聞いた。

妹は息子とどんなクリスマスを送っているのだろうか。

きっとうまく欲しいプレゼントを聞き出して、ちゃんとそれを与えているに違いない。
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大好きな歌のひとつに一青窈の「ハナミズキ」がある。

「君と好きな人が百年続きますように」

という祈りの歌詞に泣いてしまう。

躁鬱病のせいかすぐ泣いてしまうし、感動で鳥肌が立つ。

実はこの歌と「君が代」がとても良く似ているのだ。

君が代の歌詞は、

「君の健康と幸せが、小さな石が巌になり苔むすほど長く続きますように」

というような意味だ。

ハナミズキとの類似に気づいた時に、めちゃくちゃ感動してしまった。

君が代は元々、

我が君は千代に八千代にさざれ石の巌となりて苔のむすまで

という短歌から来ている。

僕も短歌をつくるが、一首だけでも人の心に残る歌が作りたい、と願っている。





短歌

縁切られ二度と会えない妹に子が生まれたときき涙する
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精神科病棟に小学五年生の少年が入院してきた。

僕は躁鬱病で何回も入院しているが、小学生の入院患者は初めて見た。

自閉症スペクトラムだと言っていた。そして電車が大好きだとも。

鉄オタは自閉症である場合が多いと聞く。電車の持つ規則性に惹かれるのではないかとの説がある。

逆に僕は17才になるまで、怖くて電車に一人で乗れなかった。どこに連れて行かれるか分からずに怖かったのだ。

少年はトランプをやりたがったが、遊び方を知らなかった。そこでみんなでポーカーを教えた。

少年はすぐに覚えて、フォーカードを出し、みんなを驚かせた。

もともと頭のいい子なのだろう。じゃなければ精神科に入院してこないと思う。

少年はチョコスナックを持って来て、みんなが食べられるようにしてくれた。

あまりにもそれが美味しく感じられたので、ポーカーをやりながらバリバリと食べてしまった。

僕が全部食べてしまったので、少年は驚いていた。

僕は自分が恥ずかしかった。子供のお菓子をぜんぶ食べてしまうなんて。

すまん、少年よ。今度は君の好きなチョコモナカジャンボを買ってくるよ。それで許してくれたまえ。
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GRAVITYと私の思い出GRAVITYと私の思い出
GRAVITYを始めたのは一番苦しんでいた時だ。

躁鬱病の躁状態で周りに迷惑をかけまくり、友達が1人もいなくなってしまったのだ。

そんな中GRAVITYに出会った。「孤独な人は夜の長さを知っている」「誰にも話せずに、一人ぼっちを抱えている」といったコピーに惹かれ、すがるような気持ちでGRAVITYを始めた。

ルームをやっていて、同じ躁鬱病の女性と出会った。出会いはあまり推奨されていないようだが、そんなこと言っていられなかった。人恋しくてたまらなかったのだ。

躁状態のせいで、お互い国際ロマンス詐欺に騙されたことがあり、大金を失っていた。

一緒に初詣に行って、おみくじを引いた。僕は大吉だったが、彼女は末吉だった。

すると彼女がショックで泣き出してしまったのだ。

「だって彼氏と別れることになるかもしれないじゃん……」

彼氏いたのかよ……とショックを受けた。

「末吉だって吉なんだから」「末ひろがりと言って縁起がいいんだよ」などとなぐさめたが、彼女はますます泣くばかりだ。

仕方がないのでもう一度おみくじを引くことになった。

彼女とは今でも連絡を取り合っている。やっと友達が1人できたのだ。GRAVITYには本当に感謝している。

引き直した彼女のおみくじは大吉だった。

泣きながら笑っていた彼女の笑顔が忘れられない。
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躁鬱病で入院中、一度だけ脱走を試みたことがあった。

担当の女医さんとATMでお金を下ろしに行った時、全力疾走で逃げ出したのだ。

どこへ逃げようと思ったのだろう、帰るところなどないのに。

帰ったとしても一人暮らしのゴミ屋敷にもどるだけだ。

薬がないとやっていけない。どの道病院に戻らなくてはならないのだ。

全力疾走で逃げたが、床があまりにもツルツルしていて派手に転倒してしまった。

女医さんに捕まった。僕の腕を掴んでいる女医さんの手は震えていた。

僕は独房のような部屋に入れられて、両手足と腰をベッドに縛り付けられた。

たとえ家にいても「帰りたい」と思う。いったいどこに帰りたいというのか。

それを探して生きている。





短歌

両手足ベッドにしばりつけられたまま首を曲げ外を見ている

家にいるにもかかわらず帰りたい出しっぱなしの水道の音
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現在、躁鬱病で入院中だが、お小遣いが残り100円となった。

しかたなく一本15円の「うまい棒 チーズ味」を6本買った。

しかしこれが物凄く美味しく感じられたのだ。

残りのお金で買った大切なオヤツだったからだろうか?他の患者に分けることも忘れて一気に6本食べてしまった。

うまい棒を小さな頃、妹とよく食べたことを思い出す。

小さな頃は妹と仲が良かったが、今では縁を切られている。

仕方が無いのだ。僕は躁鬱病になり、妹に多大な迷惑をかけたのだから。

妹は僕に内緒で結婚をし、子供を産んだ。

親戚がうっかり口を滑らせて、僕はそれを知ることになったのだった。

それを知ったときに、僕は内緒にされたことの絶望から、全ての親戚と縁を切ったのだった。

今ではたた妹一家の幸せを願っている。もう一生会うことはないだろうけど。

保証人から入金が確認できたら、もう一度売店に行って、他の患者に分けるために、うまい棒を全て買い占めようと決めた。

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松屋の味噌汁が好きだ。

松屋の味噌汁は全てのメニューに無料でついてくる。

かつて2ちゃんねるで「味噌味のお湯」と揶揄されていた松屋の味噌汁に何度救われたことか。

深夜、行くあてもなく街をうろついていて、松屋にたどり着く。居場所なんてなかった。

精神的にも肉体的にも疲れ切っているところに、身体を芯から温めてくれるのが松屋の味噌汁だった。

あれを不味いと思ったことがなかった。いや、美味い不味いの問題ではなく、大袈裟に言うと、僕にとって救いの問題だったのだ。

松屋は男性のお一人様の客が圧倒的に多い。特に深夜、皆どこか寂しそうだ。

家に帰りたくない。

そう思っている客の心を温め、家に帰るか…と思わせてくれるのが松屋の味噌汁なのだ。

入院中の今、切実に松屋に行きたい。
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