

エッセイ好きの為の惑星です。エッセイ風の投稿をするもよし、あなたの好きなエッセイを語るのもよし、長文の投稿歓迎です。読むだけの方ももちろん大歓迎です。

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ぽやぽや


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とも
半年後に店を訪ねても、もう彼はいなかった。
祖父母を見送り、母の病が癒えて、私が3人の介護から解放されたあと、何度も通ったけれど、彼には会えなかった。
「彼はどうしたのか」と他の店員に尋ねる勇気もなく、
私は最新曲の感想を胸にしまった。
季節がいくつも過ぎた。
それでも、今もあの店の前を通ると、
「おねえさん、久しぶりですね」
と背後から呼ばれた気がしてしまう。
振り返っても、そこには誰もいない。
終
ぽやぽや
天気がいいので、久しぶりに街をぶらぶらした。少し汗ばむくらいの陽気で、道行く人たちの服装も軽やかだ。
アンティークショップの前を通ると、軒先で作家らしき人たちが手作りの作品を並べていた。何気なく覗いていると、小さなリングの上に立つマスクマンの姿が目に入る。
「マスクマン、可愛いですね」
思わず声をかけると、店番をしていた作家さんが顔を上げた。
「これ、ブローチなんです。使わないときは、こうしてリングに立たせられるんですよ」
オブジェかと思っていたが、それはピンのついたブローチだった。リングまで作り込まれていて、プロレスファンの心をくすぐるデザインだ。
「リングもよくできてますね」
「プロレスが好きなんです」
なるほど、そういうことか。
「私も好きです」
「全日本を見に行きます」
「ああ、全日なんですね」
「新日も見ますよ」
どうやら、私が新日本プロレスのファンだと思ったらしい。確かに、プロレスといえばまず新日本を思い浮かべる人が多い。でも、私はというと──。
「私は大日です」
「大日!?」
作家さんが意外そうな声を出した。
「あと、みちのくとかも見ます」
「そっち方面なんですね」
「普通のプロレスでは物足りなくなってきてしまって」
そう答えると、作家さんは軽く頷いた。
「そういえば、さっきのお客さんもみちのくが好きだって言ってました。みちのく、人気なんですね」
みちのくファンに日常で出会ったことがなかったので、少し驚いた。
インディープロレスの話にすんなり乗ってくるあたり、本当にプロレスが好きなのだろう。
「ノアとかも見てたんですけど、小さくて、まるめ込みばかりで……」
どうやら作家さんは、大きなレスラーが好きらしい。分かる、分かる。あの迫力は確かに魅力だ。
その後も少しプロレスの話をして、気に入ったマスクマンのブローチを購入することにした。
知らない人とプロレスの話ができる、そんな日も悪くない。
#プロレス #エッセイ #日記

ぽやぽや
久しぶりに寝付けない。
今日が3.11だからか、それとも月末の旅行が楽しみすぎて興奮しているのか、自分でもよくわからない。ただ、寝付けないのだ。仕方がないので、14年前の今日のことを思い出してみる。
当時の私はすでに会社を辞めてフリーになっていた。買ったばかりの42インチのテレビで『ミヤネ屋』を見ていたら、地震が来た。ゴゴゴゴ、と地鳴りがして、まず小さく揺れる。おさまったかと思ったら、今度は大きく揺れた。緊急地震速報は、揺れてから鳴るという意味のなさ。固定していなかったテレビが倒れそうになるのを必死で押さえながら、「大阪も揺れてます!」と興奮気味な宮根の声を聞いた。でも、こっちはそんなレベルの話じゃない。そう思いながら、揺れが収まるのをじっと待った。
その後は、テレビに映し出される各地の被害や津波の映像を、言葉もなく見続けた。現実とは思えなかった。
そんななか、出張で空港にいた友人から連絡が来た。「地震で飛行機が飛ばないんだけど、どうなってる? 出張先に行く方法ないかな?」とのこと。いや、そんな場合じゃないだろう、と思いながら「可能なら家に帰ったほうがいいよ」と伝えた。でも友人は、「お客さんはもう出張先に行ってて、自分が行かないと仕事に支障が出るから、なんとか行きたい」と言う。その後、どうしたのかは覚えていない。
日が暮れてから、都内で働く妹から「電車が止まって帰れない。迎えに来てほしい」と連絡があった。パートナーには「危ないからやめたほうがいい」と言われたが、非日常の興奮で気持ちが高ぶっていた私は、迎えに行く気満々で家を出た。でも、普段はそんなに混まない家の前の道路が、両車線とも渋滞でまったく動かないのを見て、すぐに諦めた。結局、妹は同僚を迎えに来た車に乗せてもらい、深夜になんとか帰宅できた。ほっとした。
その夜は、普通に眠った気がする。
翌日、家具屋さんが注文していたテレビボードを届けに来た。テレビの中では大変なことになっている地域が映し出されているのに、ここは日常なんだな、と妙に冷静に思ったのを覚えている。
今でもあのときの津波の映像を見ると、胸がギュッと締めつけられる。たぶん、これから先もずっと忘れることはないだろう。
ぽやぽや
いつもは外からガラス越しに眺めるだけの金子眼鏡店。
今日はお客さんがそこそこ入っていたので、便乗して中へ入ってみた。
店内をくるくる見て回っていると、気になるデザインがいくつも目に入る。
「いや、これは絶対似合わないでしょ。というか、この眼鏡が似合う人ってどんな人?」
そんな一本に目が留まった。
せっかくだからと試しにかけてみると――思いのほか、悪くない。
いや、むしろ好きかも。うん、好き。もうこれ、欲しいです。
……となったものの、フレームだけで四万四千円。さて、どうしたものか。
つい最近、新しい眼鏡を買ったばかりなのだ。
あれはJINSで、フレームは一万円ちょっと。
でもレンズを少し良いものにしたので、結局五万円ほどかかった。
今回のものは、フレームとレンズで六万円弱というところだろうか。
一旦ここは持ち帰らせていただき、家でじっくり考えます。
たぶん、買うけど。
しばらく外食を控えて、“眼鏡貯金”でも始めようか。
ぽやぽや
久しぶりにIKEAに行った。何か特別な用事があったわけじゃない。ただ、実物を見て確かめたいものがひとつだけあったのだ。
ネットでクリックするのも悪くないけれど、ときには自分の足で歩いて、物と向き合ってみたくなることがある。
店内を歩いていると、あいかわらず無駄に広いスペースと、人を迷わせる導線に軽くめまいがした。でもそれも含めてIKEAなんだと思う。そういうふうに設計されているのだ。きっと。
レストランのことは最初から頭にあった。IKEAに行くなら、あそこで何か食べよう、というのがほとんど半分くらいの目的だった。もちろん期待もしていた。あそこはけっこう僕のツボを突いてくる。
そして案の定、カウンターの前に立った僕は、少しばかりテンションが上がってしまった。トレイを片手に、あれこれ選んでいくうちに、気がつけばフルコースまがいのラインナップになっていた。少しやりすぎたかな、とも思ったが、後悔はしていない。たぶん。
「春のチキンレッグのコンフィ ガーリックソース」は、文字どおり驚くほどおいしかった。こういうところで出てくる料理としては、ちょっと異常なくらい完成度が高い。正直、うっかり感動しかけた。
「春のサーモンフィレ レモンディルソース 雑穀添え」も気にはなったが、胃袋には限界というものがある。たぶん次回にまわすのが正しい判断だったと思う。
食事を終えてから、なんとなく椅子にもたれかかり、しばらくぼんやりと天井を眺めていた。周りにはほとんど人がいない。平日の午後のIKEAは、驚くほど静かで、少し拍子抜けするくらい快適だった。
それはなんというか、世界の音量がひとつ下がったみたいな感覚だった。しばらくそこに身を置いていたら、いろんなことが、ほんの少しだけどうでもよくなってきた。いい意味で。

ぽやぽや

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ひつじ
回答数 3>>
[星]日記の練習
くどうれいんさんの本のなかでもオススメの一冊になりました
日記なかなか続かないって人も、この本を読むと考え方が変わるかも知れません[照れる]


ひつじ
どうぞよろしくお願いします[星][UFO1][星]

とも
半年後に店を訪ねても、もう彼はいなかった。
祖父母を見送り、母の病が癒えて、私が3人の介護から解放されたあと、何度も通ったけれど、彼には会えなかった。
「彼はどうしたのか」と他の店員に尋ねる勇気もなく、
私は最新曲の感想を胸にしまった。
季節がいくつも過ぎた。
それでも、今もあの店の前を通ると、
「おねえさん、久しぶりですね」
と背後から呼ばれた気がしてしまう。
振り返っても、そこには誰もいない。
終

とも
ある日、思い切ってきいてみた。
「〇〇さんは、ライブとかしないの?」
彼の表情が、少し曇った。
「俺、ライブあんまり好きじゃないんすよ」
ミュージシャンがライブ嫌いとは、どこかチグハグで違和感があったが、私は「ふーん、そっか」とだけ言った。
しばらくして、彼がまた私の席にやってきて、
「だって、お客さん入るかわからないし…とかさ…」
と、蚊の鳴くような声でこぼす。
ああ、本当は好きなのだ。
好きだからこそ、怖いのだ。
そのことに気づいた時、いたいけな子だな、と私は胸の奥で笑った。
「もしライブやる時は、教えてね」
「はい」
それが最後の会話になった。

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とも
さて、また彼に新しい曲を教えてもらった。
聴く。
感想を言う。
するとまた新しい曲ができていて、それを教えてもらう。
そんな繰り返しが、私と彼の間で、小さな決まりごとのようになっていた。
彼の曲作りの速さは私の想像をはるかに超えてきた。
「曲はいくらでも作れる。形にするのが大変」
彼はそんな風に言った。
私が店を訪れるのは半年に一度になったが、その一度が、ほかのどの日よりも幸せな日になっていた。

とも
「どれが一番よかったですか?」
正直に答えると、「それ、最初に作った曲なんです」と彼は言った。
「期待しないでって言ったから、本当に期待せずに聴いたら、驚きました」と言うと、
「作戦通り」とニヤリ。
その後、彼はぽつりと体調を崩して休んでいた話をした。
「大丈夫?」と言い終わらないうちに、「大丈夫」と返ってきた。嘘が下手な人だと思った。
彼はまた紙を差し出して「曲を作った」とボソボソと言う。そこには新しい三つの曲のタイトルが書かれていた。
彼が前回渡した曲名まで覚えていてくれたことに、私は内心ほっとした。
実は、私は少し怖かったのだ。
彼が他の女性客にも同じことをしているかもしれないと、そんな想像をした自分がいた。
怖いと思った自分をなぜか恥ずかしく思った。
「ニースサラダだけで足りるの?」
ようやく彼の目が見えた。
彼の目は、天井からぶら下がっているたくさんのワイングラスに反射した光を受けて、キラキラしていた。
私はその恥ずかしさを、胸の奥にしまい込んだ。

とも
「なんだ、いないじゃんか」と心の中で腹を立てながら、ふと気づく。あの会話も、もう一年半も前のことだった。そんな古い情報を、まるでお守りのように握りしめて来てしまった自分が、少しおかしかった。
店の中には、彼に似ている店員が何人もいた。けれどよく見たら、別の人だった。
私の記憶の中の彼は、すでに輪郭がぼやけ始めていた。
その日は結局、その店で一人で食事をして帰った。
「あれ、こんな味だったかな」と思った。

とも
それからの私は、彼の曲をよく聴いた。
苦しいとき、悲しいとき、電車の窓に映る自分の顔を眺めながら、イヤフォンから流れる音楽にすがった。
けれど、感想を伝えることはできないままであった。
推し活と呼ぶにはほど遠い日々が続いた。
その頃ちょうど、介護と仕事の両立が自分には難しいと気づき始めていた。体も心も、限界に近かった。どちらかを手放さなければ、自分が死んでしまうと思った。

とも
教えてもらった三曲は、ヒップホップ、ロック、バラードとそれぞれに色を変えていたが、いちばん心に残ったのは、彼の声とバラードが重なった時の見事さだった。
彼の歌声は、孤独を慰めるというより、孤独そのものに寄り添うような不思議な温かさを持っていた。
「今すぐ感想を伝えたい」と思った。けれど、彼のYouTubeのアカウントはコメント欄を閉じていて、私は彼の連絡先を知らない。
胸の中にあふれ出てきた言葉は行き場を失った。
そして、私は冷めかけたマグカップに手を添えて、白湯を飲んだ。
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3人回答>>
2025/04/21 20:28

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