人気
うたら
店内はもちろんのこと店前に積み上げたパック詰め寿司もバーゲンセールのように跡形もなくなり、紙コップに注いだ生ビールも500円なのに飛ぶように売れる。サーバー交換に寿司の補充にうたら青年は大忙しであった。
さらにその日のために寿司職人組合(?)的なものから助っ人が派遣されてきており、その人たちはここぞ鉄火場よ!と啖呵を切ったり切らなかったりマグロを切ったりしながら厨房でわちゃわちゃしている。人が多い。どこもかしこも。
その時、雷鳴一発。喧騒の中に地響きのような通底和音がひとつ加わり次第に大きくなっていく。雨だ。それもどしゃぶりの。
それまで四条通りを歩いていた人たちがいっせいに屋根のある歩道に入ってくる。わあわあ。あっという間に雨の日の満員電車のような有様になってしまい、押されるようにひとが入店していく。いらっしゃいませ──?ああ。20人ぐらい一気に入った気がする。もうぐちゃぐちゃだ。
さらに外で動けなくなってしまった人たちはパック即売用のテーブルを立ち飲み屋のカウンターのようにそのまま飲み食いし始め、ビールを追加注文したりする。「生3つとうなぎとカニみそ、サーモンください」待って。注文しないでくれ。
あまりの混乱ぶりに派遣寿司職人のひとりがイライラし始めトイレに行ったかと思ったらそのままバックレてしまった。ああーもうおわた。かわりにうなきゅうとネギトロをひたすら巻くうたら青年。
結局雨が上がる1時間後まで混乱は続き、終わったあとはもうみんな疲労でへたりこんだ。売上は即売含め普段の土日の5倍強。特別ボーナスが後日支給されたがもう二度とあんな混乱は体験したくない。
最初はホールの子と文化祭的なノリで楽しいねーとかピースフルなことを言っていたが一瞬であった。今年は雨、降らないといいね…。
うたら
ただ焼いても良かったけどホイル焼きにする。ネギときのこをたっぷり盛り合わせ、醤油みりん酒にんにく生姜味噌のタレを作りそれを上からかける。バターも5gほど。ちゃんちゃん焼きだなほぼ。トースターのマックス火力で15分ほど焼く。
「えらい、おおきに」祖母はにっこり笑ってもしゃもしゃ食べ始めた。昔はネギは食べなかったのだけど、最近はもう好き嫌いもなくなったらしい。
親父はいまだに毎晩ビールを飲ませたりする。今年の正月もケイジャンチキンとヱビスでご機嫌だったし。長寿の秘訣はビールなのではなどと思い、俺は冷蔵庫から瓶ビールを取りだした。
グラスはふたつ。
また年が明けるよ。おばあちゃん。#utalog
うたら
紅茶に詳しくなってファーストフラッシュとか言いたい。ステレオに詳しくなってインピーダンスとか音像定位とか言いたい。ワインに詳しくなってカベルネ・ソーヴィニヨン種とか言いたい。
しかしどうやっても何事にも詳しくなれないのは飽き性なのと性格が適当すぎるからだ。凝り性とは縁遠いダメ人間。実はどうでも良いとすら思っている。だから俺は早口で自分の好きなものを語りまくるオタクが大好きなんだ。なにかに没頭できるって素晴らしいことだよ。
#utalog
うたら
事の発端は父がAmazonで買って欲しいものがあると見せてきた画面だった。父は毎年子供向けのクリスマス会を開催していてそこで使うきぐるみを注文してほしいらしい。
「あ。これ銀魂のエリザベスやん。こいつは喋らへんキャラクターやで」「別にええよ」「誰が着るん?」
30才ぐらいの女性らしい。そこらへんは銀魂直撃世代だ。自分がもしもエリザベスに入ってぺらぺら司会進行をやれと言われたら嫌だろう。
俺はゆっくりと説明をした。そのキャラクターは喋らない。プラカードで会話やボケツッコミを行う。中身はおっさん。
それが女声で普通に話しだすと知っている人にとってはずっとスベリ続けることになってしまう。
これが他の喋らないキャラクター、例えば進撃の"超大型巨人"のきぐるみとかだったらアリかもしれない。普通に喋ってること自体がギャグになるからだ。
子供はどうせ知らないと父は言うが子供がいるということはもちろん親も来る。年代的にたぶんほとんどの人が銀魂を知っている。中には二次創作をしていたお母さんもいるかもしれない。そういった人たちにとって自分が愛した作品をよく分かってないやつに解釈違いされるのが一番腹立たしいのである。
子供とニコニコ笑っていても心の中では
「オイイイイィ!!ちょっとォ!喋っちゃってるってエェェ!!」「屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……」とか言ってるに違いないのだ。
しかし父は少し意固地になってしまいこれで決定だとぷりぷり怒った。しかし俺も知ってしまった以上これを通すわけにはいかぬ、と名も知らぬ30才女性の為に説得を続ける。なにかいい例えはないか。考えろ考えろ。
「例えばお父さん、鬼太郎の目玉おやじいるやん?あいつのきぐるみ、あるんか知らんけど着たとしてさ、普通には喋らんやろ。下手なりにもちょっとはモノマネするやん」父は鬼太郎好きなのである。
「そりゃそうやろ。あいつが普通に喋ってたら変やん」勝ったな。「そう。変なのよ」「うん」
父はアッという顔をして俺の目をジッと見た。
「お前は、正しい」素直でよろしい。
結局父親が着る予定だったトナカイを女性に渡しあの後すぐ注文した目玉おやじのきぐるみがもう届く。親父殿は目玉おやじのモノマネの練習に余念がない。
「オイ!キタロウ!」結構似てて笑う。

うたら
10km先までも見通せる弧形の湾岸道路。車も全然走ってない。馬鹿みたいに青い海と空、濃い緑の山がジリジリと迫ってきて窒息しそうだった。とにかく暑い。
地元の食料品店といった風情の小屋の前におじさんが座り、ぼんにゃりしていた、ノボリにはアイスクリンと書いてある。くださいと言うとおじさんはまじで?買うの?という顔をしてあたふたと立ち上がりそういえばどこにいったかなというようにアイスクリームディッシャーを出してきた。
越冬したのだろうか、ストッカーでガッチガチに凍ったアイスクリンをそれでゴリガリガリガリガリあれかったいねぇとか言いながら削りとりペラッペラのコーンにのせてくれた。逆三角錐の上辺にぺこっと乗っているだけで下は空洞である。
「はい」うだるような暑さの中、冷気がふわりと漂う。その美味さといったらなかった。上唇で少しコーンに押し込むように食べるのだとおじさんが言う。なるほど。下まで入れてくれたりはしないんだな。
今でも酷暑の日はあの海辺の街で食べたアイスクリンを思い出す。キンと冷たく爽やかなあの味わい。と、少し湿気たコーン。#utalog
うたら
役者の個性、というよりもプライベート感、素の部分が演じる役に浸食してしまって見続けるのがどうにもダメな感じになってしまうことが多々ある。気にしなければいい。それも楽しみ方のひとつだよと言われればそうなんだが、俺はフィクションに没頭したいんだ。コメディは別にいいんだけどシリアスものはなおさら。
近年では大泉洋や安田顕を見るたびどうでしょうを思い出してしまう。特に安田さんは牛乳大リバース事件や手術のあれやらのイメージが焼き付いてしまっておりなかなか集中できない。やっかいだ。好きなんだけどな。
洋ドラを好んで見るのもそこらへんがあるのかもしれない。母国語と違って演技くささが分かりづらいし、役者もだいたい知らない。演技がうまい、下手、という次元の話をしなくて済む。
まあでもそもそもだ。世界的に映像作品の知能指数が下がってきてないか?くどい脚本や演技のものばっかりになってきてるように思う。
もっと自然に、さらっといこうよ。#utalog
うたら
その数十歩はきっと、ほんの少しの非日常感とスリルと興奮を与えてくれるだろう。楽しいに違いない。でも俺は渡れない。なぜ渡れないのか。気をつければ落ちることなんてない。恥ずかしい?もしものことを気にしてる?
きっと今までもこれからも、俺はそうやって手が届くかもしれない楽しみや幸せを逃し続けるのだ。そう思っていたら向こう岸からタンタンと跳ねるように女性が渡ってきた。そのままお互い走ってすれ違う。うぬぬ。そしてやはり俺には渡れないのだった。#utalog

うたら
理由のひとつは四人家族で部屋を分けて生活するのは限度があったので、自分は庭にテントを張って生活していた。いいなそれ。
ふたつ目は先週の金曜日のこと。本当は待機は木曜まででその日はでてくるつもりだった。
朝にテントを片付けていると小1の長男がやってきて真っ赤な目で「ごめんなさい」と言った。自分がコロナになったせいで迷惑をかけたと。ぐすぐすと涙を流して。子供は何も悪くない。ウイルスにも意思はない。それでもやはり少しイライラしていたのを見られていたのかなと。
上司も長男の背中を泣きながらさすった。そしたら家の中から奥さんと次男も出てきてみんなでガシッと抱き合った。犬もやって来た。自分も奥さんもボロボロ泣いて。
俺は、朝の陽光のなか抱き合う四人家族と一匹の情景を想像し不覚にも涙がちょちょぎれた。
上司は続ける。僕は仕事なんてどうってことないと行動で示す必要があったんです。だから急でしたが休みを貰いました。その日は川に行ってずっとみんなで遊びました。で、めっちゃ日焼けした。ハハッと笑う。
「皆さん自身や周囲に余裕がなくなっている人はいませんか?やっぱりこれだけ長い間コロナ禍が続くと変な考えも起こったりする。そういう場合はしっかりと休むことも必要です。何かあるなら僕のところに来て下さい。休みとか働き方とかできる限り相談に乗ります。以上です。迷惑かけました。」頭を下げる。
いや、イケオジすぎるやろ。ええ話好きの上司はたまにこうやってええ話をする。今回のは過去一ええ話だった。皆が解散したあと俺は上司に歩み寄った。
「お。相談か?」首を振る。伝えなければいけない事があった。
「金曜の昼前に来客がありました」
上司の目が見開き口は"あ"の形で固まった。
「休みだと伝えたらしばらく固まってはりましたよ」来客は"え"だった。「で」「んなアホな…って呟いてすぐ帰らはりました」「やべえ」
上司は携帯をひっつかむとどこかへ走っていった。社会的信用をひとつ失ったが長男くんの笑顔を取り戻した上司に拍手を送りたい。#utalog
うたら
"ピーキーさん"という方がいた。
もちろん本名ではない。
初老にさしかかったぐらいの不機嫌な筒井康隆といった印象の彼は、いつもくたくたのスラックスで金曜日など、週末にふらりと現れる。カウンターの端に陣取りキープしている焼酎のボトルをちびちびと少しずつ、だがせわしなく飲む。いつもCDウォークマンを持ち歩いており、落語などを聴いていた。
そんな彼がなぜピーキーさんと呼ばれていたか。それは、飲んでいるうちにどんどん佇まいや言動に余裕がなくなり、内面が張りつめていくのが見てとれるからである。貧乏ゆすりが激しくなり独り言が多くなる。聴いている何かにコメントしたりしているようだが、時折「畜生、畜生」「くそ」「もうあかん」「やるか」などと物騒な発言をしたりする。かと思えば突然「説破ァッ!!」と叫び、けたけたと笑いだした5秒後にぴたりと動きを止めそのまま数分動かないといった異常行動が目立つようになってくる。禅の法話集でも聴いていたのか。
そんなものがあるのか。謎である。
もうその頃は店長もまともに出勤しておらず、そのような少し迷惑な客であってもよほどではない限り売上のために強い対応をすることは控えていた。
なにより、彼が異常行動をするたびに思い出すのだ。筒井康隆の小説であった、筒井先生自身を模したと思われるキャラクターが文壇バーで「畜生」「SF作家だと馬鹿にしやがって」「直木賞が欲しかった」などと喚いて編集者に暴行を加えるシーンだ。大いなる助走だっけ。
とにかく似ている。いつもその場面を思い出してカウンター内でくすくすしていた。
「何わろとんねん」「いえ。べつに。何も」「レモンくれ」「へい」
懐かしい日々だ。ピーキーさんは今もあの界隈の店で小さな迷惑をかけ続けているのだろうか。どのような年月を過ごしているのだろう。
ちなみに、そのあだ名を付けたのは俺である。
#GRAVITY飲酒部 #utalog
うたら
こういった少額の贈り物は難しい。最低限自分が貰っても嬉しいものにしておけば大きな失敗はないだろうとは思っているが、いつしか社会性や客観性を人知れず失った時、手痛いしっぺ返しを食らうのではないか。
俺がこう思うのは、ひとつ教訓にしている事件があるからだ。まだ二十歳そこそこの頃、会社関連でXmasパーティなるものが催された。
比較的若いメンバーの有志だけ集まってやっていたのだが、そこにゲスト的に参加していた中堅社員が、プレゼント交換で"やっちまった"のである。
3000円くらいまでで。というルールのみが公布され皆なにかしら無難なもの、あるいは奇をてらったものを買ってきていた。俺はたしかディスコみたいな爆音と光を発する目覚まし時計だったと思う。それはどうなんだ。まあさておき。
彼が買ってきたのは"クリスマスリース"であった。当たった女の子の表情は一瞬こわばったが儀礼的に「ありがとうございます」と笑顔を見せた。さすがである。司会も「では次の番号」とあっさり流したが、俺たちはざわついていた。まじ?クリスマスリース?あの輪っかのやつ?
それを貰ってどうしろというのか。やったーちょうど欲しかったんですクリスマスリース。ドアに飾ろ♪と喜ぶ人間がこの中にいるのか。
俺たちを震撼させたらしめたのはそれがLOFTの紙で綺麗にラッピングされていたことである。彼はLOFTまで行ったにもかかわらず数ある商品の中からリースを選択したのだ。
センスがないという次元ではなく、何も考えてないのではないか。少しでももらう人間のことを考えればこの選択は絶対にあり得ないはずなのだ。だってそれは、お年玉にしめ縄を、誕生日プレゼントにくす玉をあげるようなものだろう。他の文化圏ではあるのかもしれないが。
この事件で彼の株は大いに下がり(特に女性陣から)仕事にもいろいろと影響がでた。何をしても「でもクリスマスリースだからなぁ」と思われてしまう。想像力や共感能力の欠如を公の場で大々的に発表してしまったのだ。
クリスマスリースを当てた子が席に戻ってきた時、いつもより半オクターブ低い声でベテラン漫才師のようにこう言った。
「どないせえっちゅうねん」
隣の子と俺は飲んでいたビールで咳き込んだ。#utalog
もっとみる 
