共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

うたら

うたら

昔、居酒屋でバイトしていた頃の常連で
"ピーキーさん"という方がいた。
もちろん本名ではない。

初老にさしかかったぐらいの不機嫌な筒井康隆といった印象の彼は、いつもくたくたのスラックスで金曜日など、週末にふらりと現れる。カウンターの端に陣取りキープしている焼酎のボトルをちびちびと少しずつ、だがせわしなく飲む。いつもCDウォークマンを持ち歩いており、落語などを聴いていた。

そんな彼がなぜピーキーさんと呼ばれていたか。それは、飲んでいるうちにどんどん佇まいや言動に余裕がなくなり、内面が張りつめていくのが見てとれるからである。貧乏ゆすりが激しくなり独り言が多くなる。聴いている何かにコメントしたりしているようだが、時折「畜生、畜生」「くそ」「もうあかん」「やるか」などと物騒な発言をしたりする。かと思えば突然「説破ァッ!!」と叫び、けたけたと笑いだした5秒後にぴたりと動きを止めそのまま数分動かないといった異常行動が目立つようになってくる。禅の法話集でも聴いていたのか。
そんなものがあるのか。謎である。

もうその頃は店長もまともに出勤しておらず、そのような少し迷惑な客であってもよほどではない限り売上のために強い対応をすることは控えていた。

なにより、彼が異常行動をするたびに思い出すのだ。筒井康隆の小説であった、筒井先生自身を模したと思われるキャラクターが文壇バーで「畜生」「SF作家だと馬鹿にしやがって」「直木賞が欲しかった」などと喚いて編集者に暴行を加えるシーンだ。大いなる助走だっけ。
とにかく似ている。いつもその場面を思い出してカウンター内でくすくすしていた。
「何わろとんねん」「いえ。べつに。何も」「レモンくれ」「へい」

懐かしい日々だ。ピーキーさんは今もあの界隈の店で小さな迷惑をかけ続けているのだろうか。どのような年月を過ごしているのだろう。

ちなみに、そのあだ名を付けたのは俺である。
#GRAVITY飲酒部 #utalog
GRAVITY
GRAVITY26
話題の投稿をみつける
関連検索ワード

昔、居酒屋でバイトしていた頃の常連で