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空栗鼠
『サイレントシンガー』小川洋子
言葉にならない想いを丁寧にすくい取った静かな物語だった。主人公リリカは、自分の声や言葉に微妙な距離を感じながら生きていてる。
印象に残ったのは、リリカを育てたおばあちゃんが、森で行方不明になった子のために人形を作る場面。人形は奇妙なのに、静かに何かを伝えてくるような存在で、沈黙のなかに込められた祈りのようだった。
この物語には、説明されないものの中にこそ本質があるという、小川洋子らしいやさしさが満ちている。読後には、ふわっと心に残る余韻があって、声にならない気持ちにそっと寄り添ってくれるような一冊だった。

空栗鼠
『丕緒の鳥 十二国記』小野不由美
小野不由美の『丕緒の鳥』は、「十二国記」の壮大な世界を舞台にしながらも、華々しい英雄の物語ではなく、その世界に生きる名もなき人々の姿を丁寧に描いた短編集。
表題作の“丕緒の鳥”は、王の即位式に使う“陶鵲”を作る職人。彼の苦悩や葛藤を通じて、芸術と権力、理想と現実のはざまでもがく人間の姿が浮き彫りになる。
他の話でも、正義に迷う司法官や、国を救おうと奔走する役人たちなど、「誰かのために働く」人々の苦しい選択が描かれている。
どの物語も決して明るい結末ではないが、そこにこそこの世界のリアリズムがある。
ファンタジーでありながら、どこか現実と地続きに感じられる作品だった。華やかさよりも地に足のついた人間ドラマに心を打たれた。

空栗鼠
『ユービック』フィリップ・K・ディック
現実か幻想か?生きてるのか死んでるのか??どっちでもなくて、どっちでもある状態を行ったり来たりする感覚がめちゃくちゃ面白かった!
結局、ユービックってなんやねん!とか色々と余韻が残るディックらしい作品。

空栗鼠
『異能機関』スティーヴン・キング
来月、翻訳版が発売されるスティーヴン・キングの新刊を一足お先に読ませていただきましたー!!(写真は原書)
もうね、圧巻!!
圧倒的に面白い!!!
やっぱりキングは凄い!改めてキングは天才だと認識した作品!
超能力を持った子どもたちを集める極秘施設、といえば日本の漫画『AKIRA』や、アメリカのドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス』や、韓国映画『魔女』など、昔から散々使い古されたネタなのに、キングの手にかかればここまで面白くなるのか!?という驚きがあった。
“ページをめくる手が止まらない”なんて感想を時々見かけますが、正直「いやいや、それはないわ。手は止まるって」と思ってました。でも、この本は本当にページをめくる手が止まらない!!
ここまでハラハラドキドキワクワクした読書体験は本当に久しぶりで、もう「参りました」と言わせていただきたいですね。
一旦中断しても、読み始めるとスッと物語世界に入り込んでいけるのはキングの文章の上手さ、構成の上手さなんだろうなぁ。
前半では絶望と恐怖を味わい、後半では興奮と感動を味わえました。
面白い小説が読みたい方は来月発売されるこの作品をぜひ読んでみてほしいです!
HBOあたりでドラマ化してほしいなー。

空栗鼠
『完全な真空』スタニスワフ・レム
めちゃくちゃ面白かったけど、正直めっちゃ難しかった!
これは全部“存在しない本”の書評だけで構成された変わり種の一冊で、最初は「なんじゃこりゃ?」って思ったけど、読んでるうちにその構造自体がクセになってきた。
架空の書評集という斬新な形式で、哲学、科学、ユーモアが詰まった傑作!
特に「新しい宇宙創造説」は、宇宙がゲームのプレイヤーによるデザインというぶっ飛んだアイデアが印象的。ノーベル賞講演という設定が、荒唐無稽なのに妙に説得力があり、科学や真実の概念を皮肉りつつ思考を刺激する。
難解で頭がパンクしそうになるが、レムのアイデアの洪水とメタな遊び心に引き込まれる。こんな世界もあり得るかも?と思わせる力があり、改めてレムって天才。と思われせてくれる。
読後は、宇宙や現実について考え直したくなる、楽しくも深い一冊だった。

空栗鼠
『流れよ涙、と警官は言った』フィリップ・K・ディック
ディックらしい、「現実」と「虚構」の境界が曖昧な一冊だった。
国民的スターである主人公ジが、ある日突然「存在しない人間」になるという不条理な状況に放り込まれ、そこから彼のアイデンティティと社会のシステムが崩れていく過程が描かれる。
ラスト近くでは、その異常体験に一応の説明が提示されるが、かなり強引で、「結局何だったの?」という疑問は残る。ただ、その“納得しきれない”感覚こそが、まさにディックらしさでもある。
整合性よりも、喪失や孤独、不安といった精神のリアリティが強く伝わってきた。
タイトルに込められたルネサンス音楽の哀しみが全編に響いており、読後には不思議な余韻が残る。「説明できないけれど、何かが壊れ、何かが変わった」——そんな読後感を与えてくれる、特異な作品だった。

空栗鼠
『月と六ペンス』サマセット・モーム
世間一般の倫理観からするととんでもない男ストリックランドの物語。
妻も子どもも捨てて、1人画家を目指す。
自分は今まで、ここまで何かに打ち込んだことあるだろうか?いやほとんどの人間には無理だろうなー。
ゴーギャンの生涯をモデルにしている小説だけど、現代の価値観で見るとかなりキツい。
死後、その絵の価値が認められる事になるし、とんでもなく酷い男なのに何故か女性にモテるところなんかはなんか男の妄想って感じもしてちょっと嫌だったなー。

空栗鼠
『火星からの来訪者』スタニスワフ・レム
特に印象に残った二作の感想。
『火星からの来訪者』
粗削りながらも、すでに後の『ソラリス』に通じるテーマ──人間にとって“他者”とは何か──が浮かび上がっていたのが印象的だった。作中、謎めいた異星生命体と人類の科学者たちが接触を試みるが、そこに成立したのは「対話」ではなく、どこまでも一方的な「観測」だったように思う。特に、教授が体験する“火星のヴィジョン”の場面は、人間側の希望的観測の象徴に感じられた。リオンが何かを伝えようとしたのではなく、教授自身が「意味を見出したい」という欲望から幻を見たのではないか。この作品を通じて、レムは早くも「知性とは、他者と本当に理解し合えるのか?」という問いを投げかけている。その問いは、今なお新しく、静かな余韻を残す。
『異質』
スタニスワフ・レムの短編『異質』は、少年が「永久機関を発明した」と物理学者の家を訪ねるという、ユーモラスな導入から始まる。しかし、物語は思いがけない方向へ進み、ラストは唖然とさせられる。
作中では「プランク定数」や「シュレーディンガー方程式」などが語られ、科学の理論がいかに不確実性と隣り合わせであるかが示唆される。確率的に“ありえない”はずの出来事が、ほんの僅かな可能性のもとで起こり得る——その問いかけが、後の『ソラリス』や『無敵』に通じる「人間には理解できない存在」や「科学の限界」というレムの核心的テーマに直結している。短くも鋭いこの作品は、知性への皮肉と想像力への畏怖が詰まった、まさに“プロト・レム”的一編。

空栗鼠
『レギュレイターズ』リチャード・パックマン
リチャード・パックマン(スティーヴン・キングの別名義)の『レギュレイターズ』は、日常が突如として異物に侵食される恐怖を描いたホラー小説。
舞台となるのはごく普通のアメリカの郊外住宅地。しかしその風景は一瞬にして歪み、アニメや西部劇の虚構が現実にねじ込まれていく。子供の想像が具現化し、町全体を異様な舞台装置へと変貌させる光景は、コミカルでありながら逃れようのない悪夢のような恐怖がある。
テレビ番組のキャラクターが実体を持ち、人間を殺戮していく様子は、親しげなポップカルチャーが突然凶器に変わる恐怖を鮮烈に突きつけてくる。
『デスペレーション』が壮大で重厚な宗教ホラーだったのに対し、『レギュレイターズ』はむしろカオスと狂気の奔流だ。次々と変質していく現実に抗う術はなく、読者は登場人物と共に「世界が書き換えられていく」悪夢を味わう。ありふれた住宅街という親近感のある舞台設定が逆に恐怖を強調し、キングらしい不条理でグロテスクな想像力が最大限に発揮されている。平凡な日常が一瞬で崩れ去る、その背筋の寒くなる感覚こそが、この小説の真骨頂だろう。
個人的には『デスぺレーション』の神秘的な感じの方が好きだったかなー。

空栗鼠
『屍者の帝国』伊藤計劃×円城塔
世界観は好きだったけど…
円城塔の文体が、やや象徴的で情報量が多くて、正直読みづらかったー。
この人の小説他のもめっちゃ読みにくいんだよなー。肌に合わない。
伊藤計劃の文章は割とストレートで読みやすいから、余計にしんどく感じたのかも。
内容は割と面白かったけど、退屈なシーンが多すぎる。
ホームズのキャラクターやカラマーゾフの兄弟のキャラクターが出てきたりするのは面白かったよ。

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空栗鼠
『タリスマン』スティーヴン・キング&ピーター・ストラウブ
スティーヴン・キングとピーター・ストラウブの合作小説。
ホラー作家二人の手による作品でありながら、王道の冒険小説として存分に楽しめる物語だった。
少年ジャックが病に伏す母を救うために、異世界と現実世界を行き来しながら旅を続ける姿は、まさに現代版の寓話でありロードムービーでもある。
旅の途中で出会う仲間や敵とのエピソードはファンタジーの要素に満ちているが、そこに漂う不気味さや残酷さはキングならではの筆致で、緊張感を生み出している。
一方で、ジャックの成長や勇気がしっかりと描かれているため、全体の印象は希望に満ちた冒険譚として心に残る。暗さと光が交錯する独特のバランスが本作の魅力であり、読後感は不思議な余韻と共に温かさも感じさせるものだった。

空栗鼠
『やさしい女 白夜』ドストエフスキー
『白夜』は、ペテルブルクの幻想的な白夜の季節を背景にした「儚い夢の恋」を描く。そこにあるのは、ズルい女性と愚かな男性という現代でもよくある関係性で、甘酸っぱくも切ない余韻を残す物語だ。登場人物の未熟さやアンバランスさはあるけれど、全体を包む季節の美しさがそれをロマンチックに昇華してくれる。
一方で『やさしい女』は、その正反対のトーンを持つ。ここで描かれるのは、現代の感覚で言えば「40代の男が16歳の少女を支配する関係」であり、そこにロマンはほとんど存在しない。男は自己弁護的な独白を繰り返すが、その裏に透けて見えるのは彼の支配欲と不器用さだ。少女の孤独は解消されず、最後には死という形でしか出口を見いだせなかった。
つまり、『白夜』が「叶わなかったけれど幸福を残す恋」を描くのに対し、『やさしい女』は「愛がすれ違い、死を招く関係」を描く。どちらも男女の不均衡を描いている点では共通しているが、その結末の明暗の差が大きい。夢のような白夜の恋と、暗闇に沈む独白の悲劇——両者を並べると、ドストエフスキーが人間の愛を“幻想と破滅”の両極から照らし出していたことがよくわかる。

空栗鼠
『デスぺレーション』スティーヴン・キング
暴力的な恐怖と神の意志という重たいテーマが交錯する、まさに“キングらしさ全開”の一冊!
中でも心を掴まれたのは、少年デイヴッドの過去のエピソード。
親友の事故をきっかけに信仰に目覚めていく過程は、そこだけで独立した小説として成立するほど濃密で、悲しくも美しい物語だった。
彼の祈りが物語全体に及ぼす影響も印象的で、子どもゆえの純粋さが奇跡を起こすという展開には、思わず胸が熱くなった。
狂気に満ちた世界の中で、神と人間の意志が交錯する終盤まで、緊張感が途切れることなく、一気に読まされた。ホラーとしてもヒューマンドラマとしても一級品で、まさに“読んで良かった”と思える作品!!

空栗鼠
『全滅領域 ザザーン・リーチ1』
ストルガツキー兄弟の『ストーカー』が好きだから、この小説の世界観はドンピシャだった。
エリアXの不気味な未知の世界と、生物学者の緻密な心理描写が絶妙に絡み合うSFの枠を超えた文学的な深みが、読むほどにゾクゾクする。
特に主人公の内面の葛藤がリアルで、謎めいた雰囲気と相まって引き込まれた。『ストーカー』の哲学的な余韻とも通じる魅力。続編の『管理機構』も絶対読みたい!

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