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匿名
えっ、何だっけ。
またそうやってとぼけて。保険の勧誘の時、助けてくれたじゃないですか。
あー、あれね。
2週間ほど前、透の職場には保険の外交員が回っており、新採の佳穂のところにも勧誘が来ていた。
正直、まだ右も左も分からない社会人を捕まえて営業をかけるそのスタイルに、透は少々違和感を感じていたのだ。
まぁ、必要だと思うのなら、入っても良いとは思うけどね。
はい。でも今はまだいいです。
そんな話をしていると、注文した飲み物が届いた。
先日の駅前ロータリーの件以来、確実に透の中で何かが動き出していた。
で、初めてのボーナスで何か買うの。
そうですねー。まぁ洋服ぐらいかな。
おいおい。世話になった両親にも何か買ってあげろよ。
そりゃもちろん。父にはネクタイでも買ってあげる予定です。
なら良い。
そう言って、注文した肉を焼き始める。
今日は近場の焼肉屋に来ていた。
とは言っても、職場からは少し歩く距離で、透の家とは逆方面であった。
先日の居酒屋の後、改めて飲みに行くかと誘ったところ、焼肉が良いという流れになった。
何かの雑誌に書かれていたが、男女2人で焼肉屋に行く。そんな関係性が出来つつあった。
#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #牛角 #乾杯
匿名
揺れる柳の木の側を、二人並んで歩いた。
思えばこうして二人で歩くのも自然な流れだったかもしれない。
佳穂の隣には常に松本がいたが、それは業務上、そばにいるだけと佳穂も捉えている節はあった。
松本さんにみっちり指導されてるけど大丈夫か。
いや、大丈夫ですよ。
なんかオレも声かけてあげたいんだけど、まっちゃんにマンマークされているからさ。
まぁ、仕事上、松本さんと絡む機会が多いですからね。
とは言え、入ってそうそう、あんまり詰め込まれてもな。
そこは上手く流してるので大丈夫です。
たわいもない話しをしながら、駅までの道を歩く。
少し湿気を帯びた空気が、二人の周りを纏った。
川沿いの道は車の通りも少なく、街頭の灯りが二人を照らしていた。
今日までの約3ヶ月の間、二人の間に明確な変化があったかと言われたら、特段、大きな変化はなかった。
#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #川沿い #柳の木

Kei
20歳の丸ビルから
宇宙船のような国際フォーラムを左手に
以前より綺麗な有楽町駅前のマルイを通り
変わらぬ銀座の街並みを抜け
静かになった築地を後にし
レインボーブリッジを見ながら迷えるお台場に
そして遠くにはのんびりとした房総半島
どちらかというと東京の東側に縁があり
この景色は色んな思い出がある動線
ここ丸ビルも建て替えられてはや20年とのこと
仕事もプライベートも色んなことがあった場所
音や香り、味や風もそうですが、
写真ひとつで色々感じるところがありますよね
#私小説 #東京 #丸ビル

匿名
とは言え、こうして二人で飲みに来ていることに感慨深いものがあった。
佳穂には相変わらず彼氏がおり、ゴールデンウィーク明けにはお土産を職場の同僚に配っていた。それは紛れもなく、彼氏のところに行っていたという証だった。
つまりは、松本云々の前に、彼氏という絶対的な存在がいるのだと言う現実が透に突きつけられていた。
お疲れ様。
ひとまず、乾杯をして、この怒涛の3ヶ月間の労苦をお互い労う。
普通なら根を上げるような激務も
佳穂は淡々とこなしていた。
なんか透さんに誘って貰えるとは思っていなかったので嬉しいです。
どこまでが本気なのか、佳穂の真意を思い計る。
まぁ、ひと段落したってことでね。
マジで新採でここまでやるのは感心したよ。
いやぁ、皆さんの足を引っ張らないよう必死でしたよ。
そう言う佳穂の目元には、少なからず余裕があった。
そう言えば、こないだはお土産ありがとね。
少し強がって言ってみる。
いえ、あんな物で良ければ。
彼氏に会ってきたの?
はい。
躊躇することなく、佳穂は素直に答えた。
彼氏とは長いの?
大学2年からだから、かれこれ3年目ですかね。
さぞかしモテたんだろうね。
そんなことないですよ。
なんか、そう見えるのか、あまり声かけられないんですよね。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #駅ナカ #居酒屋
🌵無色🦎
理解ってもらう努力を放棄した日
後味の悪さが残る
太陽に顔向け出来ず、ただ俯き歩く
元々、花を育てるのは苦手、すぐに枯らす
でも、どうしても
自分を変えようする刃に抱く悲みは拭えず
変えようとするのは全否定と同じ
信じてもらえないのは
言いたい事を言わずに
迷いや疑いを拭えなかった
自分に非がある
つまりは
そういう事だ
#私小説
#イマソラ



性善説
匿名
え、だめなの。
当たり前じゃないですか。
じゃあ、今日だけは外してくれる?
運ばれてきたドリンクに、透が佳穂から差し出された指輪を入れようとしていた。
えー、でもなぁ。
じゃあ、返さない。
分かりましたよ。
そんなんで気持ちが変わるものなんですかね。
変わるものなの。
そう言って、透は握っていた指輪を佳穂に返した。
透も、そんなことをしてみても、現実は1ミリも変わらないことは分かっていた。
でも、今日だけは、いや、2人でいる今だけは、視界の中からその光るものを消し去りたかった。
当然、佳穂もそのことは分かっていて、透に付き合ってくれたのだ。
今日もご馳走様でした。
その後、2人は好きなアーティストや家族の事、同期の近況などを話しながら金曜の夜を過ごした。
まぁ、入ったばっかは奢られるのも仕事のうちだから。
そう言って、お会計を済ませた2人は店を後にした。
最寄りの駅までは歩いて10分もかからない距離だった。佳穂の自宅までは、こないだ飲んだ駅よりもひと駅分近くなる。その分、透の自宅からは遠くなるのだが。
車通りも多い道から逸れて、街灯の少ない路地に入る。
駅までは300メートルの距離だった。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #牛角 #最寄り駅
匿名

ひでちゃま
※暗いです。
私は今、天国にいる。
天国には、秩序がある。
家族は助け合って、一緒に生活しなければならない。
人には親切にしなければならない。
安全で健康で正しく生きる為に、正しい生活をしなければならない。
その為には自分の感情を理性でコントロールしなければならない。
自分の夢や目標は、天国を守るためのものでなければならない
いつも朗らかで優しく、笑顔でいなければならない
体が動く限りは、どれだけ悲しくても、辛くても、怒りが込み上げてきても、与えられた役割を粛々と果たさなければならない
感情に振り回され、決められた役割を果たせない人間は、天国に必要ない
私は、天国には必要ない人間だ。
天国から出ていって、危険で、汚くて、誰からも無視され、必要とされず、たったひとりで、
行く場所もなくて、痛くて、寒くて、辛くて辛くて、何も感じなくなるまで、進み続けなければならない。
死ぬのが怖くなくなるまで、進み続けなければならない。
地獄で生きていけるように、強くならなければならない。
私の望みは、みんなの幸せだ。
だけど本当は、絵を描いて、物語を紡いで、歌を歌って、楽器を鳴らして、踊りながら、好きなように生きてみたい。
そうしてみたい
いつか、新しい命に出会いたい
それが私の望み
天国から地獄へいく。
私の望みは叶わない。

ひでちゃま
今私は、料理を味わうように小説を読みたい。
メニュー表を見て、美味しそうな料理を注文するように、最初の1文を読んでみる。
ワクワクが止まらない。
運ばれてきた料理。主菜、副菜、材料は何が使われているのか。どんな香りがするのか。そして切り分けながら、どんな味がするのかを想像する。
主人公の個性が描写され、情景を想像しながら、登場人物が出揃い、だんだん物語の流れがつかめてくる。
この時点でまだ、私は食事を食んではいないし、物語の面白みを味わっていない。
口に含んで、味わってみる。見た目通りの味なのか、それとも味付けこだわりがあり、見た目とは違う味わいがあるのか。スパイスや香草がきいていたり、隠し味があるのか、それとも昔どこかで食べたような、安心するような味なのか。私の口に合わない事だってある。
最初の一口が美味しくても、だんだん飽きてしまったり。副菜や付け合せ、ソースを組み合わせることにより、最後まで美味しく食す事ができる事もある。そして私は、もう一度食べに来ようと思うのだ。
物語が進むと、作者の描きたい作品の旨みが見えてくる。それは、どこかで読んだような平凡な展開なのか、登場人物の個性が引き立ち、素材の味がそのまま味わえるような、安心して楽しめる物語なのか、それとも、伏線や思わぬ急展開によって、物語が美しく流れ、するすると私の中に入ってきて、最後まで、私を楽しませてくれるのか。
そして、満足した私は、この物語をもう一度味わってみたいと思う。そういう作品に出会えたなら、私は最高の幸福感に包まれる。
今、私はそのように、小説を味わいたい。
ところで、今私は寂れた遊園地にいる
ここにはたくさんの思い出が詰まっていて、私はここを離れたくない
けれど、ここはもうコーヒーカップもジェットコースターも壊れてしまって、私はただ汚れたベンチに座り、遊ぶ事もせずに、ただじっとしている
以前の私は、ここを管理して、また幸せな空間にできると思っていた
しかし、もう、私にそんな力は無い
ここではどんなに美味しい料理も、小説も、音楽も、芸術も、寂れた風景を一瞬慰めてくれるだけ
私はここにいては、それらを心から味わう事が出来ないんだ
だから、私はここから出ていく
悲しい、悔しい、不安、そして、僅かな望みと、必ず帰ってくる決意を持って
さようなら。

fossil_p
ペンネームでクスッと笑ってしまい、帯の文言で私小説だと分かるのは僕が教え子だからだろう。
分かる人がいたらきっとその人は同じゼミの卒業生だと断定する。名を名乗れ。そして校歌を一緒に歌おう。
記憶を辿る旅、というのは僕もやってみたいことだし、ハッキリと覚えているその場所にもう一度行ってみると、その当時とは異なる、何かしらの違和感があったりする。
先生ならそんな現象に、なんて名前をつけるのだろうか。
#私小説
#思い出

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新着
匿名
うーん、まぁ仙台に行くぐらいですかね。
彼氏のところか。
まぁ、そんなとこです。
職場では相変わらず松本がマンマークでついており、佳穂も嫌がる素振りを見せなかったが、それは業務上ということも分かっていたので、さして気にはならなかった。
それよりもやはり、大学時代からの彼氏の存在だ。
彼は就職せずに院へと上がり、今は仙台にいるとのことであった。
遠距離になり、関係性も途切れるかと思っていたが、4ヶ月過ぎてもこうして会いに行く間柄が続いていた。
着ていた上着を椅子の背もたれに掛け、隣に座る佳穂の薬指には、しっかりと光るものがまだ見えていた。
手を伸ばせばすぐ届く距離にいるにも関わらず、どこか2人の間には計り知れない壁があるように思えた。
それ取っちゃえば。
不意に透がトイレから戻って来た佳穂の右手を指す。
えっ、どれですか?
これだよ、と言って佳穂の薬指を掴む。
えー、外して欲しいですか。
せめて今日ぐらいは外しても良いじゃん。
やっぱり気になります?
イタズラっぽく佳穂が笑う。
当たり前だよ、ずっと気にしてるわ。
注文した飲み物が運ばれてくる。
じゃあ、ちょっとだけオレが預かるよ。
預かるって何ですか。
そう笑いながら、佳穂は指輪を外して透に渡した。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #指輪 #ドリンク
匿名
まぁ、それは透にも好都合ではあったのだが。
こんなところを職場の同僚に見られたら、何を言われるかたまったもんじゃない。
ましてや、松本に知られたら、余計厄介なことになる。
次の日も通常勤務のため、2人とも、さほど深酒はせず、早々に店を出た。
次の電車は何時なの。
うーん、15分後ぐらいですかね。
じゃあ、まだ時間あるな。
そう言って透は駅のロータリーにあるベンチに向かった。
頭では分かっていた。
どれだけ追いかけても、彼女には彼氏という存在がいることも。
しかしながら、酔いも回っていたのか、透の気持ちは抑えきれなかった。
ほんと可愛いな、お前。
ほんとですか?
お前に彼氏がいなければな。
どういう意味ですか。
それ以上でもそれ以下でもないよ。
そう言って、隣に座った佳穂の頭を撫でていた。
佳穂も嫌がる様子もなく、少し照れながら、そう言って貰えると嬉しいですと返事をしていた。
もうすぐ、次の電車が来る。
早くお別れを言わなければならないのは分かっていたが、どうにも彼女を手放すことは出来なかった。
そろそろ電車が来るので。
あー、そうだな。
ようやく、ベンチから腰を上げ、透は答えた。
また、明日も会えるのだ。
何より、今は彼氏よりも自分の方が近い距離にいる。
そんなつまらない事実でも、透には少しだけ優越感を与えた。
駅の改札口まで佳穂を見送り手を振る。
じゃあ、また明日。
今日はご馳走様でした。
彼女と別れた帰り道、透の中で、いや、二人の間で何かが動き出した。
夜風が夏の到来を感じさせていた。
#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #夏の思い出 #夜風の帰り道
匿名
少しずつ夏の気配を帯びた空気のなか、気づけばその日は佳穂と二人で残業していた。
じゃあ、そろそろオレも上がるけど。
あ、私ももう上がります。
そう言って、二人職場を後にした。
残業したと言っても、時間はまだ7時前だった。
たまには二人で飲みに行くか。
そう透が言うと、良いですよ。
と佳穂から返事が返ってきた。
初めての飲み会の時に、佳穂がそこそこ酒が飲めるのは分かっていた。
そして、今日はお目付役の松本もいない。
佳穂と二人っきりになるには絶好の機会だった。
駅中の店でいいか。
そう透が言うと、良いですよ。
と返事が帰ってきた。
パソコンを閉じ、鍵を閉めて職場を後にする。
透達の職場から最寄りの駅は歩いて10分ほどだった。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #駅ナカ #居酒屋
匿名
お昼をどうするか聞かれて、出前を頼んだ彼女は、まだ足りないとでも言わんばかりの顔で、ペロリと平らげた。
その度胸と愛嬌、そして何より新人とは思えぬ落ち着きとテキパキとした受け答えで、あっという間に彼女の評判は上がっていった。
そして一人、完全に彼女の虜になったやつがいた。
同じ職場の松本だ。
で、何て答えたんですか。
翌日、喫煙所で会った後輩の島田が聞く。
いや、普通にいないって言っただけだよ。
またぁ。
そんなこと言ってると、松本さんに取られちゃいますよ。
いや、まっちゃんほど熱心にオレは仕事教えられないし。
実際、松本は新採の渡邉に、これでもかと言うほど丁寧に、そして熱心に仕事を教えていた。
とはいえ、側から見れば、そこには明らかに好意が見え隠れしていたのも事実だが。
そしてもう一つ、中途採用の透からして見れば、入ったのは先でも年齢的には年下の松本とは、イマイチ距離を測れない状況にあるのも事実だった。
そんなことを見透かしていたのか、オレもですよと言う顔で笑っていた福田の頭を叩いて、喫煙所を後にした。
#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #喫煙所 #新採
匿名
いないよ。
初めての飲み会でそう聞いてきたのは、透の隣に座った佳穂だった。
透の職場は年度末からの業務がようやく一区切りつき、その日は、今年新採で入った彼女のお祝いも含めた課の歓送迎会だった。
ほんとかなぁ。
そういう渡邉こそ、入社前から話題になってたぞ。
ほんとですか?
実際、彼女が入ってくるとの情報が流れた時、採用担当から入手した履歴書が回ってくるほど、彼女の話題で盛り上がっていた。
そしてそこには、残念とも言うべき情報も付いてきていた。
そう、彼女には大学から付き合っている彼氏がいるという噂ばなしが。
#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #指輪 #歓送迎会
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