
daisuke107
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文学
詩
創作

daisuke107
夜の椅子に 誰かが凭れてゐる
それは 私の影に似てゐて
静かに 別の夜を 呼吸してゐる
街燈は
濡れた石畳に 沈み
遠ざかる靴音だけが
記憶の底で かすかに 鳴る
(あれは 私のなかの 誰だったのだらう──)
胸の奥に 罅の入った硝子があり
そこに 言葉になるまへの沈黙が 澱んでゐる
浮かびかけては ほどける声たちが
水の皮膚に かすかに触れて 消えてゆく
私は 私に 触れようとして
凍えた手を
もう一方の手が
そっと 拒んでゐるのを 見つめてゐた
夢のなかでは いつも
ふたつの月が 空に浮かび
ひとつは 私の影を 照らし
ひとつは 私の眠りを 静かに 見下ろしてゐる
#自由詩

daisuke107
『風のあとに残るもの』
Ⅰ
春の終わりの午後だった。
白い花が、風にゆれていた。
その小径のほとりで、私はふと立ちどまった。
ほどけぬままの記憶が、胸の奥で音もなく揺れていた。
Ⅱ
ひとつは、やわらかな風の記憶。
もうひとつは、その風に背を向けた日のこと。
どちらも、私のなかにあり、
どちらも、名を呼ぶ前に、風のように過ぎていった。
Ⅲ
水面に映る空は、ほんとうの空よりも澄んでいた。
私は、その澄んだ像に支えられていた。
それが、ほんとうでないと知りながらも。
Ⅳ
陽が傾きはじめると、
その澄んだものも、ゆらぎはじめる。
私はまた、ひとつの椅子に、ふたつの影を見る。
Ⅴ
ひとつは、私の影。
もうひとつは、
かつて私だったものの、淡い余韻だった。
#自由詩

daisuke107
Ⅰ
その部屋には、
いつも薄い光が射していた。
午後の終わりのような光であり、
夢の名残のようでもあった。
彼は、
その光の中で、
何かを見つめていた。
声を持たぬまなざしが、
沈黙のかたちをなぞるように、
そこに在りつづけていた。
Ⅱ
壁には、
古びた紙片がいくつも貼られていた。
それらは、
風化した記憶の皮膜のように見えた。
夜になると、
一枚ずつ剥がれ落ちて、
音もなく
床に降り積もっていった。
まるで、彼の時間が
静かに崩れてゆく音だった。
Ⅲ
「そんなものに、なぜ……」
誰かが、あるいは風が、
そうつぶやいた。
けれど、彼は答えなかった。
ただ、
口元に
ひとつの歪みが浮かんだ。
それは笑みではなく、
否定の届かぬ場所に
漂う
嘲りの残響だった。
Ⅳ
彼は、
古びた紙片に囚われていた。
だが、
そこに温もりはなかった。
その執着は、
夜の底にかすかに浮かぶ漁火ではなく、
沈まぬための錨だった。
Ⅴ
わたしは、
いつもあの部屋を
遠くから見ていた。
灯りが揺れるたび、
彼の輪郭が
この世界から
少しずつ剥がれていくのを、
黙って見つめていた。
それが、
彼の選んだ
孤独だった。
わたしは、
ただそれを
見送るしかなかった。
#自由詩 #自己同一性

daisuke107
ひとつの名が 静かに消える
夜に棲むものたちに 気づかれぬように
今の私は 灰のように崩れ
言葉たちは 風に埋もれていく
私は 何度も生まれ変わる
出会いと 別離のあいだで
短き過去を 脱ぎ捨てるたびに
我知らず 存在が霞んでいく
過ぎし私を
朝露のなかへ そっと溶かす
それでも 私は ここを選ぶ
その矛盾のなかで
私は 新しい名を選ぶ
静寂は
夜明け前の雪のよう
無垢にして 孤独
──それでも 満ちている
やがてまた
名づけられぬ気配に 耳を澄ませはじめる
逃避ではない──
それは 自己という檻を壊す儀式
「わたしは まだ名づけられていない」
そう信じながら
私は 名もなく 影のまま 再び消えていく
#自由詩

daisuke107
ひとつの裂け目が
無名の濃度に 微光を孕ませるとき
名指されぬものが 静けさのなかで芽吹く
それは
砂の時計でもなく
心の鼓動でもなく
ただ
移ろいの影が 新たな影を抱くこと
水底に沈んだ夢は 輪郭を持たず
不在のなかに 在るものがある
わたしたちは 名を与えられた「いま」に
無限の反響を そこに聴く
ある人は言う
それは呼吸の間にある
また別の声が囁く
それは知覚の裂け目にすぎぬ
けれど わたしのなかの
消えゆく音の 残響の襞に
名づけえぬものが ひそやかにゐる
ああ あなたの声が 遠ざかる───
#自由詩

daisuke107
『時間ノ詩 』
Ⅰ 鐘の音
夜の底で、古い時計塔が、静かに軋む骨のような音を漏らす。
誰も気づかぬほどの微かな響きだが、それは確かに、
わたしの耳の奥で震えていた。
遠い記憶のように、
あるいは忘れられた夢の残響のように、
その鐘の音は、わたしの内側で微かに鳴りつづけている。
Ⅱ 影
時間とは何か。
煤けた街燈の下、
うつむいて佇む影のようなものだ。
誰もその姿を見たことはないのに、
いつもわたしの背後で、そっと息をしている。
気配だけが、風のようにまとわりつき、
わたしの歩みに寄り添ってくる。
Ⅲ 尾を曳くもの
あるいは、時間は首輪のない犬かもしれない。
わたしの足跡を嗅ぎまわり、
過ぎ去った日々の匂いを確かめる。
そして、何かを思い出したように
尾を曳くようにして、未来の闇へと消えてゆく。
呼び止めることも、撫でることもできない。
ただ、その背中を見送るしかないのだ。
Ⅳ 懐中時計
わたしは、壊れかけた懐中時計を胸の奥にしまい込む。
それはもう時を刻まない。
けれど、わたしの中でだけ、かすかに鼓動している。
誰にも見せることのないその小さな震えを抱いて、
わたしはただひとり、沈黙の階段を降りてゆく。
Ⅴ 夢の階(きざはし)
どこへ向かうのかも知らぬまま、
夢の底へと、音もなく沈んでゆく。
#自由詩

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