

投稿で載せている小説のみをあげる予定です。

🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第17話転移
ミズキは、三つの装置を見比べた。
構造を見抜くスキャナー。
重力を操る装置。
見た場所を立体的に記録できるカメラ。
どれも、この先の旅で使えそうだった。
「……迷うな。」
腕を組んで考え込むミズキの隣で、鬼灯も三つの装置を眺めている。
「どれが一番いいと思う?」
「うーん……。」
鬼灯はしばらく悩んだあと、スキャナーを指差した。
「これ。」
「スキャナー?」
「うん。なんか面白そう。」
「理由、それだけ?」
「大事だよ。面白いって。」
鬼灯が当然のように答える。
ミズキは思わず笑った。
「まあ……確かに。」
結局、ミズキが選んだのは構造スキャナーだった。
薄い板状の装置を手に取る。
思ったより軽い。
「これにします。」
「了解。」
キュリオは残った二つを棚へ戻した。
「はい、じゃあ、これ使ってね。」
「ありがとうございます。」
スキャナーをバッグへしまう。
これで準備は終わった。
そう思った、その時。
「じゃあ、そろそろ行こうか。」
キュリオが言った。
「……はい。」
研究室の奥。
さっきまで三人が話をしていたテーブルから離れ、キュリオは転送装置へ向かう。
巨大な機械。
中央には、人ひとりが立てるほどの空間がある。
さっきまで見ていた時とは、少しだけ違って見えた。
これから自分たちが、あの中に入る。
ミズキは装置を見上げた。
「……本当に、これで塔の近くまで行くんだ。」
「うん、そうだよ。」
キュリオは操作卓を確認しながら答える。
「何度も言ってるけど、転移そのものは大丈夫。」
「……何度も聞きました。」
「じゃあ大丈夫だね。」
キュリオは軽く笑った。
ミズキは小さく息を吐く。
ここまで来たら、もう腹を括るしかない。
耳にはめている翻訳イヤーカフ。
バッグに入っている必要なもの。
そして、さっき選んだ構造スキャナー。
「忘れ物ない?」
キュリオが振り返った。
「ないですよ。」
ミズキは淡々と答えた。
その声には、ほとんど迷いがなかった。
けれど。
「……。」
隣にいる鬼灯は、転送装置をじっと見つめていた。
さっきまでは研究室の機械に夢中になっていたのに。
今は、その目が少しだけ揺れている。
「鬼灯?」
「……うん。」
返事が小さい。
「どうしたの?」
「……なんでもない。」
そう言いながら、鬼灯は転送装置から目を逸らさなかった。
キュリオがその様子に気づく。
「怖くなってきた?」
「そ、そんなわけ……う、うん、ちょっとだけ。」
鬼灯は正直に答えた。
「さっきまでは、面白そうだったんだけど。」
巨大な装置を見上げる。
「こうやって入るってなると……なんか、本当に行くんだなって。」
「そりゃそうだよ。」
キュリオが笑う。
「実験だからね。」
「そういう言い方すると、もっと怖い。」
「ごめんごめん。」
キュリオは操作卓の横に置いてあった小さな箱を開けた。
「じゃあ、これでも舐めてなさい。」
「え?」
鬼灯が振り返った瞬間。
キュリオは、小さな飴を鬼灯の口へぽんっと放り込んだ。
「んっ!?」
「ちょ、何これ……!」
鬼灯が目を丸くする。
次の瞬間。
パチパチパチッ。
「……!?」
鬼灯の口の中で、小さな刺激が弾けた。
「なにこれ!」
「パチパチキャンディ。」
「パチパチ……?」
「昔、日本で売ってたお菓子を改良したんだ。」
キュリオは楽しそうに笑った。
「一口で食べられるようにした特別版。」
鬼灯は口の中で弾け続ける飴に困惑していた。
けれど、しばらくすると、その顔が少しずつ緩んでいく。
「なにこれ! 楽しい!!」
「でしょ!」
「ねぇ、ミズキ! 見てみて!」
鬼灯は嬉しそうに口を開ける。
「パチパチ言ってる!!」
「ハハ……。」
ミズキは思わず笑った。
昔。
同じように、口の中で弾けるキャンディを面白がって、見せたことがある。
そんな記憶が、ふいに蘇る…………。
「俺もよくやってたな。」
「やっぱり!」
鬼灯が嬉しそうに声を上げる。
「うんうん、誰でもそうするよね!」
キュリオも納得したように何度も頷いた。
「そうそう。これは見せたくなるんだよ。」
鬼灯は、なぜか得意げに胸を張った。
三人の間に、小さな笑いが起きた。
ついさっきまで、転送装置を前に固まっていた鬼灯も、今ではすっかり飴に夢中になっている。
「ね、怖い気持ち、どっかに行ったでしょ。」
キュリオが楽しそうに尋ねる。
「……うん。」
鬼灯は少し恥ずかしそうに頷いた。
「ならよかった。」
キュリオはもう一つ飴を取りミズキの口に放り込む。
そして、箱ごとミズキへ差し出す。
「はい。」
「えっ全部?」
「うん。」
ミズキは受け取った小さな飴の箱を見つめる。
「僕の分はまた作るから大丈夫。」
「……ありがとうございます。」
「携帯食品にもなるから、小腹が空いたら食べるといいよ。」
キュリオは笑った。
そして、転送装置へ視線を戻す。
「それと。」
「はい?」
「もし君たちがこっちに残ることになったら。」
キュリオは少しだけ間を置いた。
「どこに着いたか、教えに来てね。」
「……分かりました。」
ミズキが頷く。
鬼灯も飴を舐めながら頷いた。
「ちゃんと教える。」
「約束ね。」
キュリオは笑った。
その笑顔は、ほんの少しだけ寂しそうだった。
操作卓の前に立つ。
画面にいくつもの情報が表示される。
転送先。
座標。
エネルギー出力。
確認項目が次々と消えていく。
「準備完了。」
キュリオが呟いた。
「二人とも、中央へ。」
ミズキと鬼灯が転送装置の中央へ入る。
足元から淡い光が広がった。
ミズキは一度だけ、研究室を振り返った。
さっきまで見ていた機械。
三人で話をしていたテーブル。
そして、操作卓の前に立つキュリオ。
俺たちは、この場所へ戻ってくるのか。
それとも……。
そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。
けれど、ミズキはすぐに前を向いた。
隣には鬼灯がいる。
それで十分だった。
「じゃあ、行くよ。」
キュリオが言う。
鬼灯が小さく息を呑む。
ミズキは黙って頷いた。
キュリオが送信ボタンへ手を伸ばす。
ほんの一瞬。
その指が止まった。
キュリオは二人を見る。
そして。
「……気をつけて。」
小さく呟いた。
ミズキが頷く。
鬼灯も頷く。
次の瞬間。
送信ボタンが押された。
白い光が、三人の視界を埋め尽くした。
★☆★☆★☆★☆★☆
白い光が消えた。
「……。」
ミズキはゆっくり目を開けた。
目の前に、巨大な運河が広がっている。
そして。
その向こう側には、見慣れた巨大な塔。
「……。」
「……。」
二人はしばらく塔を見つめた。
鬼灯が、ゆっくりとミズキを見る。
「……近いね。」
「うん。」
「……でも。」
「うん。」
鬼灯は無言で、広大な運河を指差した。
「…………川、デカくない?」
「そうだね。橋、探さなきゃ。」
鬼灯は空を見上げた。
「…………。」
そして。
「キュリオーーー!!」



🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第16話研究室の三つの道具
キュリオはテーブルの上のカップを片づけると、立ち上がった。
「よし、じゃあ準備しよう。準備には少しかかるから、その辺を見てていいよ。」
「いいの?」
鬼灯が目を輝かせる。
「もちろん。触っちゃ困るものには、ちゃんと触らないでって書いてあるから。」
ミズキは思わずキュリオを見た。
……まだ参加するって、はっきり言ってないんだけどな。
心の中でそう呟いたものの、もう何を言ってもキュリオは準備を始めそうな気がした。
けれど。
「まあ……もういいか。」
ミズキは小さく息を吐き、苦笑しながら研究室を見回した。
さっきまでは転送実験のことばかり考えていて、ゆっくり見る余裕がなかった。
改めて見渡してみると、研究室には見たことのない機械が所狭しと並んでいる。
天井から伸びた細いアームが、宙に浮かぶ立体映像を操作している。
壁際には透明なケースに収められた装置。
その隣では、何もない空間に光の線が浮かび上がり、複雑な図形を描いていた。
「……すごい。」
ミズキは思わず足を止めた。
「面白そうでしょ?」
操作卓の向こうからキュリオが声をかける。
「はい。」
返事が思ったより少し早かった。
キュリオが口元を緩める。
「へえ。」
「…何ですか。」
「いや。もっと興味ないのかと思ってた。」
「興味は…ありますよ。」
口を尖らせ、そう答えながらもミズキの視線は機械から離れない。
机の上に置かれた奇妙な装置。
壁に映し出される立体映像。
透明な容器の中でゆっくり回転する金属片。
どれも見たことがない。
それなのに、どこか懐かしい。
昔から、こういうものが好きだった。
現実には存在しないような未来の技術。
空を走る乗り物。
機械だけで動く街。
見えないものを映し出す装置。
そんなSFの世界を眺めていると、つい時間を忘れてしまうほどだった。
そして今、目の前にあるのは、それが現実になったものだ。
「ミズキ、こういうの好きなんだね。」
鬼灯が隣から言った。
「え?」
「さっきからずっとキラキラしながら見てる。」
(キラキラ?!)
「そ……そんなに?」
「うん。」
言われて、ミズキは視線を逸らした。
そのとき、横顔から覗いた耳が、ほんのり赤くなっているのが見えた。
「……好きだけど。」
そんな2人を見てキュリオが楽しそうに笑う。
「やっぱりね。」
「やっぱり?」
「君を見つけた時から、思ってたんだよ。妙に俺の腕とか機械を見てたから。」
「見てました?」
「見てたよ。」
キュリオは操作卓に向き直った。
「じゃあ、好きなだけ見ていって。」
「ありがとうございます。」
ミズキは研究室の奥へ歩き始めた。
鬼灯もその後をついていく。
「これ、何だろう。」
鬼灯が棚に並んだ装置を眺める。
「触らない方がいいよ。」
ミズキに止められて、鬼灯は少しだけ口を尖らせた。
「分かってるってば。……ちょっとくらいいいじゃん。」
渋々と手を引っ込める鬼灯を見て、ミズキは思わず小さく笑った。
「……なに笑ってるの。」
「いや、別に。」
そう答えながらも、ミズキの口元にはまだ笑みが残っていた。
二人で少しずつ研究室を見て回る。
その途中、ミズキが一つの机の前で足を止めた。
「……これ、何ですか?」
机の上に置かれていたのは、手のひらほどの板状の装置だった。
薄い金属の縁に、細かな発光部品が埋め込まれている。
「それ?」
キュリオが振り返る。
「構造スキャナー。」
「こうぞうスキャナー?」
「うん。物にかざすと、中の構造を立体映像で表示できる。」
「内部までですか?」
「そう、内部まで。」
キュリオが手に取ると、近くにあった機械へ向けた。
次の瞬間。
機械の外側が透け、内部に収まっていた無数の部品が、立体映像となって浮かび上がる。
「……すご。」
ミズキが一歩近づいた。
「これって、壊れてる場所とかも分かるんですか?」
「調べ方次第ではね。機械の構造を確認したり、壁の内部を調べたりもできる。」
「壁も?」
「材質によるけど。」
ミズキはしばらく映像を見つめた。
「……便利。」
「でしょ?」
キュリオがスキャナーを机に戻す。
その隣に置かれていた小さな円盤に、ミズキの目が止まった。
「じゃあ、こっちは?」
「ああ、それは重力制御装置。」
「重力制御……?」
「ほんの少しだけだけどね。」
キュリオが装置を床に置く。
近くにあった金属球をその上へ置き、スイッチを入れた。
ふわっ。
金属球が浮いた。
「……!」
ミズキの目がわずかに見開かれる。
「重力を弱くしてる。」
「どのくらいまで?」
「設定次第。」
キュリオが設定を変える。
金属球がさらに高く浮き上がった。
「すごい……。」
鬼灯が楽しそうに手を伸ばす。
「触っていい?」
「いいよ。でも、円盤の上から取ったらダメだよ。重量は元に戻るから。」
ツンツンと鬼灯の指が金属球に触れる。
ふわふわと浮かぶ球を見て、鬼灯は嬉しそうに笑った。
「面白い!」
「移動にも使えるし、重い物を運ぶ時にも便利だよ。」
キュリオが装置を止め、金属球を元の場所に戻す。
「落下の衝撃を減らしたり、自分が浮いて高い場所の物を取ったりもできる。」
「……それ、かなり便利ですね。」
「そうなんだよ!」
キュリオは装置を元の場所へ戻した。
その横に置かれていた小さなカメラに、今度は鬼灯が気づく。
「これは?」
「それは、一時記録カメラ。」
「普通のカメラ?」
「ちょっと違う。」
キュリオがカメラを手に取り、研究室の中央へ向けてシャッターを切る。
カメラから光が広がった。
すると、その場にさっきまで見ていた研究室が立体映像として再現された。
「撮影した場所を、立体で記録できる。」
キュリオが映像を指で動かす。
視点がぐるりと回った。
「あとから好きな角度で見られる。拡大もできる。」
「……撮った時には見えてなかったものも?」
ミズキが尋ねる。
「記録されていればね。」
「じゃあ、街を撮っておいて、あとから調べることも……。」
「できるよ。」
ミズキは黙った。
三つの装置を見る。
どれも便利そうだった。
どれも、この世界を歩き回るのに役立ちそうだった。
構造を調べられるスキャナー。
重いものを浮かせられる重力制御装置。
見た場所を立体的に記録できるカメラ。
「……これ、全部すごいな。」
思わず本音が漏れる。
キュリオは三つの装置を見比べた。
「気に入った?」
「はい。」
「じゃあ、一つ持っていけば?」
「え?」
ミズキが顔を上げる。
「実験に参加してくれるんだから、それくらいはいいよ。」
「もらっていいんですか?」
「うん、もちろん。」
キュリオは三つの装置を並べた。
「好きなのを一つ。」
ミズキは三つの道具を見つめた。
どれも欲しい。
どれを選んでも、きっと役に立つ。
けれど、持っていけるのは一つだけ。
鬼灯も横から三つを眺めている。
「ミズキ、どれにする?」
ミズキはすぐには答えられなかった。
まさか、転送実験を前にして。
こんなところで別の選択を迫られるとは思わなかった。
構造を見抜くスキャナー。
重力を操る装置。
記録を残すカメラ。
どれも、この先の旅で使えそうだ。
ミズキは三つを見比べた。

構造を見抜くスキャナー6
重力を操る装置5
立体で記録を残すカメラ2投票終了 13人が参加中

🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第15話実験台になる覚悟
キュリオは、机の上で指を鳴らした。
「お互い、目的は一致してると思わない?」
「そうだね!」
鬼灯がすぐにうなずいた。
あまりにも迷いがなくて、ミズキは思わず隣を見る。
「……鬼灯?」
「だって、塔まで行けるんでしょ?」
「いや、そうだけど……。」
鬼灯はキュリオへ向き直る。
「じゃあ、お願いします!」
「うん。任せて。」
キュリオは笑いを堪えるように、口元をわずかに歪めていた。
「話が早くて助かるよ……ふふっ」
「ちょっと待って。」
ミズキは慌てて二人の間に入った。
「なんでそんな簡単に決まってるの。」
「え?」
鬼灯がきょとんとする。
「だって、転送してくれるんだよ?」
「そうだけど、そこじゃなくて。」
ミズキはキュリオを見る。
キュリオはまだ変な顔をしている。
「実験なんですよね?」
「ふふっ、そうだね。」
「人間を使うんですよね?」
「うん。」
「……だったら、もう少し警戒した方がいいと思う。」
そう言ってミズキは鬼灯を睨んだ
キュリオは楽しそうに笑った。
「慎重だね。」
「普通だと思います。」
そこまで言って、ミズキは少し黙った。
鬼灯はもう少し考えてから決めてほしい。
そう思っていた。
けれど、考えてみれば。
貨物列車に乗るとして、本当に安く済むのか。
二人分なら、ある程度アンカーを使うだろう。
キュリオが紹介してくれるとしても、いつ乗れるのかは分からないな。
右腕に視線を落とすと、そこに表示されている数字が目に入る。
今の自分たちにとって、移動にかかる時間もお金も無視できない。
「ちゃんと成功する可能性があるなら、転送実験に参加する方がいいのかもしれない。」
「でしょ?」
キュリオが勝ち誇ったような顔をした。
「いや、まだ参加すると決めたわけじゃないから。」
「うんうん。」
「その返事、絶対聞いてないよね。」
鬼灯がくすくす笑う。
「でも、ミズキも転送の方がいいって思ってきたんだ。」
「……まあ。」
否定できない。
むしろ、最初に研究室へ来たときよりも、少しだけ現実的な選択肢に思えてきていた。
そのとき。
ふと、ひとつの疑問が浮かんだ。
「……キュリオさん。」
「ん?」
「もしかして。」
ミズキは慎重に言葉を選ぶ。
「人間を使った転送実験って……今回が初めて?」
キュリオは一瞬きょとんとした。
そして。
「ふふっ、まさか。」
吹き出すように笑った。
「え?」
「初めてなわけないじゃない。」
キュリオは楽しそうに椅子へ背を預ける。
「僕がそんなに無謀に見える?」
「見えます。」
ミズキが即答する。
「僕も!」
鬼灯まで続いた。
「ひどいなあ。」
キュリオは笑っている。
カップを置くと、指を立てた。
「今まで、人間を対象にした転送実験は二十三回。」
「二十三……。」
ミズキの表情が変わる。
「そんなに?」
「うん。」
キュリオは淡々と答える。
「参加したのは七人。」
「七人で二十六回……?」
「同じ人に何度かお願いしたからね。」
鬼灯が少し首を傾げる。
「何度も転送されたの?」
「そう。」
キュリオは楽しそうに笑った。
「僕の周りには、なぜか変態しか集まらないんだよねー。」
「変態……。」
「褒めてるからね?」
「褒めてるんだ……。」
「もちろん。」
キュリオは胸を張った。
「普通の人なら、人間を転送する実験に付き合ってなんて言った時点で友達じゃなくなる。でも、僕のところに集まってくる人たちは違う。」
その顔には、どこか誇らしげな色が浮かんでいた。
「『面白そう!』って言って自分から実験台になりたがるんだ。」
「……。」
「……。」
ミズキと鬼灯は、また顔を見合わせた。
「だから、実験そのものは何度もやってる。」
「今までに二十六回。正確に到着できたのが九回、少し位置がずれたけど無事に転送できたのが十七回。」
「……じゃあ、失敗は?」
「ふふっ。」
キュリオは楽しそうに笑った。
「人体に異常をきたすような失敗は、したことないよ。」
……“ような”……か
「だから、実験そのものは何度もやってる。少なくとも『何が起こるか分からない装置に、初めて人間を入れる』って実験じゃないよ。」
さっきまで研究室の怪しい機械を眺めていたミズキは、もう一度キュリオを見る。
確かに、怪しい。
かなり怪しい。
けれど。
「……それなら。」
鬼灯がぽつりと言った。
「大丈夫かも?」
ミズキも黙って考える。
成功例がある。
しかも、一度や二度ではない。
少なくとも、キュリオ本人が思いつきで人を装置へ放り込もうとしているわけではないらしい。
「……うん。」
気づけば、ミズキも小さくうなずいていた。
「それなら……大丈夫かもしれない。」
「でしょ!」
キュリオがふっと笑う。
その顔を見て、ミズキは一瞬だけ嫌な予感がした。
「……ただし。」
「うん?」
「まだ参加するって決めたわけじゃないからね。」
「分かってるよ。」
そう言いながら、キュリオは明らかに嬉しそうだった。
鬼灯も隣で笑っている。
ミズキはそんな二人を見て、小さく息を吐いた。
……なんだか、もう半分くらい参加する流れになっている気がする。
けれど。
さっきまでより、その選択がずっと現実的に思えている自分もいた。



🏡*ana⸊ဂဗ◒
第14話 異世界の研究者
#第14話異世界の研究者
研究室の中は、外観とはまるで別世界だった。
天井を這う無数のケーブルが青白く光り、機械の低い駆動音が絶え間なく響いている。
ガラスケースには見たこともない鉱石や金属片が並び、壁際には分解途中らしいドローンや義手、奇妙な形の装置が所狭しと置かれていた。
「散らかってるけど気にしないで。」
キュリオは苦笑しながら奥へ進む。
「研究って、片付ける暇がなくてね。」
鬼灯はきょろきょろと辺りを見回す。
「あっ!」
机の上に置かれた小さな機械が、急に羽を広げてふわりと飛び上がった。
「わっ!?」
鬼灯は驚いて一歩下がる。
機械は鬼灯の周りを一周すると、「ピッ」と鳴いてキュリオの肩へ止まった。
「ああ、その子は警備用ドローン。」
キュリオは頭を撫でる。
「初めて来た人を観察してるだけだから安心して。」
「びっくりしたぁ……。」
鬼灯は胸をなで下ろした。
「座って。」
部屋の中央には、研究室には似合わない木製の丸テーブルと椅子が置かれていた。
二人が腰を下ろすと、キュリオは棚から人数分のカップを取り出す。
「甘いのと苦いの、どっちがいい?」
「甘い!」
鬼灯が即答する。
ミズキは思わず笑った。
「同じので。」
「了解。」
しばらくして、湯気の立つ飲み物が二人の前に置かれた。
ほのかに甘い香りが広がる。
「さて。」
キュリオは自分のカップを手に取り、向かいの席へ腰を下ろした。
「さっきは名前しか名乗ってなかったね。」
一口飲んでから、小さく笑う。
「キュリオっていうのは、この世界で名乗ってる名前。本当の名前は……もう何年も呼ばれてない。」
少しだけ遠くを見るような目をする。
「日本では量子テレポーテーションの研究をしてた。寝ても覚めても転送理論ばかり考えてるような人間でね。」
「に、日本……!?」
思わずミズキは声を上げた。
キュリオは驚く様子もなく、くすりと笑う。
「そう。実は日本人なんだよ。」
義手の指先で自分の胸を軽く叩く。
「こんな見た目だから意外だった?」
ミズキは何度もうなずく。
「キュリオっていう名前も、本名じゃない。」
そう言ってモノクルを押し上げた。
「英語の"キュリアス"。好奇心が強いって意味の言葉から、自分で名乗るようになったんだ。」
「自分で?」
「うん。僕にピッタリでしょ。こっちの方が今の僕にはしっくりくるんだ。」
どこか照れくさそうに笑う姿は、さっきまでの怪しい研究者とは少し違って見えた。
「向こうじゃ『変人』とか、『研究しか頭にない』とか、よく言われたよ。」
肩をすくめて苦笑する。
「ある日、実験をしていたら、そのままこの世界へ飛ばされちゃった。」
「実験って……。」
ミズキが思わず聞き返す。
「量子テレポーテーションの実験。」
その一言だけで、キュリオの目がぱっと輝いた。
「最初は驚いたよ。でも、この世界を知れば知るほど考えが変わった。」
そう言うと、義手をテーブルの上へ乗せる。
「見て。」
金属の指が静かに動く。
「この世界なら、自分の身体を実験に使っても、機械化してしまえばまた動ける。」
今度は肩の機械部分を軽く叩いた。
「日本じゃ止められるような研究も、ここなら誰も止めない。」
少し身を乗り出し、嬉しそうに続ける。
「研究したいことを研究して、作りたいものを作って、試したいことを試せる。研究者にとっては最高の世界なんだよ。」
熱っぽく語るキュリオとは対照的に、ミズキと鬼灯は無言で顔を見合わせた。
「……。」
「……。」
「え、なんでそんな顔してるの?」
不思議そうにミズキたちを見るキュリオ。
「いや……。」
ミズキは苦笑いを浮かべた。
「自分の身体を犠牲にしてまで研究したいっていう発想が、ちょっと理解できなくて……。」
「ああ。」
キュリオは納得したように笑う。
「昔からよく言われる。」
鬼灯も小さくうなずいた。
「なんか……やっぱり天才って変わってる人多いんですね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
キュリオは嬉しそうにカップへ口をつけた。
少しの沈黙のあと、ミズキが静かに口を開く。
「日本に……帰ろうとは思わなかったんですか。」
その問いに、キュリオはすぐには答えなかった。
カップを見つめたまま、少しだけ考える。
「もちろん、最初は帰ろうとしたよ。」
穏やかな声だった。
「でも、この環境を知ってしまったら、日本は僕には窮屈に思えたんだよね。」
研究室をゆっくり見渡す。
「ここは、僕が僕のままでいられる場所だったからね。」
ミズキはその言葉を黙って聞いていた。
「あ。」
何かを思い出したように、キュリオが顔を上げる。
「勘違いしないでね。帰らないと決めたとしても、一度はちゃんと塔へ行かなきゃいけない。」
「塔へ?」
「うん。この世界で暮らすにしても、元の世界へ帰るにしても、まずは塔で選択をしないと始まらない。」
ミズキは思わず鬼灯を見る。
鬼灯も真剣な表情で聞いていた。
「だからさ。」
キュリオは二人を交互に見て、にやりと笑う。
「塔へ行きたい君たちと、塔まで送る実験をしたい僕。」
机の上で指を鳴らした。
「お互い、目的は一致してると思わない?」




🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第13話研究室への招待
鬼灯は反射的に両手で角を隠した。
「や、やだ!」
ぶんぶんと首を横に振る。
「これはあげられない!」
その声には、はっきりとした拒絶が込められていた。
「そっか。」
キュリオは肩をすくめる。
「残念。」
その一言を聞いた瞬間だった。
鬼灯の表情が、さっと青ざめる。
「……え。」
恐る恐るミズキを見る。
「も、もしかして……。」
喉がごくりと鳴る。
「断ったから……転送も、貨物列車のことも……教えてもらえない?」
耳がぺたんと垂れそうなほど肩を落とし、不安そうにうつむく。
その様子を見たキュリオは、一瞬きょとんとしたあと。
「ぷっ……。」
肩を震わせた。
「ははっ!」
とうとう堪えきれず、大きな笑い声を上げる。
「あはははは!」
「えっ!?」
鬼灯は目を丸くする。
「ご、ごめんごめん。」
キュリオは笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭う。
「冗談だよ。」
ひらひらと手を振る。
「安心して。そんなことで話をやめたりしない。」
鬼灯はほっと胸をなで下ろした。
「よ、よかったぁ……。」
「まあ。」
キュリオは鬼灯の角をもう一度眺める。
「研究材料として、ほんの少し削って分析できたら最高なんだけどね。」
そう言って片目をぱちりと閉じる。
「もちろん、本人が嫌なら無理にはしないよ。」
鬼灯は慌てて角を押さえ直した。
「やっぱり狙ってる!」
「研究者だからね。」
悪びれもなく笑うキュリオに、ミズキは思わず苦笑する。
「……本当に研究者ってこんな風なんですね。」
「そうだね。」
キュリオは照れくさそうに頭をかいた。
「からかってごめんね。」
今度は少しだけ真面目な表情になって、ミズキと鬼灯を見た。
「実は僕も、この世界の人間じゃないんだ。」
「え……?」
二人の声が重なる。
「だから、君たちの気持ちは少しくらい分かる。」
キュリオは穏やかに笑った。
「研究室においで。」
街の奥を指さす。
「転送のことも、貨物列車のことも。」
「それから、この世界のことも。」
「詳しく話してあげるよ。」
ミズキと鬼灯は顔を見合わせた。
まだ警戒は消えていない。
それでも、この街へ来てから初めて、帰る方法について詳しく知っていそうな人物に出会えたのも事実だった。
「……どうする?」
鬼灯が小声で尋ねる。
ミズキは少しだけ考え、こくりとうなずいた。
「行こう。」
その瞳には、不安と期待が入り混じっている。
「ありがとう。」
キュリオはにこりと笑うと、二人に背を向けて歩き始めた。
「こっちだよ。」
三人は大通りを離れ、細い路地へ入る。
ネオンに彩られた賑やかな通りとは違い、人通りは少ない。
壁には配線が幾重にも張り巡らされ、頭上では透明なパイプの中を青白い光が流れている。
途中、小さな配送ドローンが三人の頭上を音もなく横切っていった。
「こんなところに研究所があるんですか?」
ミズキが周囲を見回しながら尋ねる。
「表向きは修理工房。」
キュリオは振り返らずに答えた。
「研究者って、お金がかかる仕事だからね。生活費くらいは稼がないと。」
「へぇ……。」
鬼灯は工具が並ぶショーウィンドウを興味深そうに眺める。
やがて路地の突き当たりに、一軒の古びた建物が現れた。
外壁には長年の風雨で色あせた金属板が貼られ、小さな看板には『Curio Repair Works』とだけ書かれている。
「ここ?」
鬼灯が思わず声を上げる。
「うん。見た目は普通でしょ?」
キュリオは笑いながら扉の横にある認証パネルへ手をかざした。
ピッ、と軽い電子音が鳴る。
次の瞬間。
重そうな金属製の扉が、低いうなり声を響かせながら横へゆっくりと開いた。
「ようこそ。」
キュリオは振り返り、いたずらっぽく微笑む。
「僕の研究室へ。」
扉の向こうには、外観からは想像もつかないほど広い空間が広がっていた。
天井近くまで伸びる機械のアーム。
壁一面に並ぶ見慣れない装置。
透明な筒の中を青い光がゆっくりと流れ、床には幾何学模様のような回路が淡く輝いている。
「……すごい。」
ミズキは思わず息をのんだ。
鬼灯も目を輝かせながら、一歩、また一歩と研究室の中へ足を踏み入れる。
その後ろで、金属製の扉が静かに閉まり、外の喧騒は完全に遮られた。

🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第12話怪しい誘い
二人は駅を出ると、人通りの多い通りへ向かった。
「すみません」
ミズキは通りかかった人へ声をかける。
「貨物列車に人を乗せてもらえるって聞いたんですが、知りませんか?」
相手は少し考えたあと、首を横に振った。
「貨物列車? 聞いたことないな」
「ありがとうございます」
別の人にも尋ねる。
「昔はそんな噂があったような気もするけど……今はどうだろうね」
三人目。
「貨物列車は貨物しか運ばないだろ?」
四人目。
「ごめん、分からない」
返ってくる答えは、どれも決め手に欠けるものばかりだった。
「うーん……」
鬼灯が腕を組んで唸る。
「誰も知らないね」
「もしかしたら、ただの噂だったのかも」
ミズキがそう口にした、その時だった。
「ねぇ。」
すぐ後ろから声がした。
二人が振り返る。
街路樹にもたれかかるように、一人の男が立っていた。
三十代くらいだろうか。
白衣ではないが、研究者らしい無機質な装いをしている。袖口からのぞく腕には、金属製の継ぎ目がいくつも走っていた。
「君たち、目立ってるよ。」
男はくすりと笑う。
「何人にも同じこと聞いてるからさ、つい気になっちゃって。」
鬼灯は少しだけ身構えた。
「貨物列車のこと、知ってるんですか?」
「知ってるよ。」
あっさり返ってきた答えに、二人は身を乗り出した。
「ほんと!?」
「地下貨物線を使えば、塔の近くまで行ける。」
キュリオは少し考えるように宙を見上げる。
「料金は……。」
腕を組み、首をひねる。
「二人なら二十アンカーくらいだったかな。」
少し間を置いて、
「……いや、十八だったっけ。」
さらに首をかしげる。
「まあ、その辺は担当じゃないから曖昧なんだけど。」
ミズキは思わず手首のアンカーへ目を落とした。
二十アンカー。
決して軽い金額ではない。
「でも。」
男はにやりと笑う。
「俺なら無料で送れるよ。」
「え?」
「塔の近くまで一瞬。」
軽く指を鳴らす。
「実験に協力してくれるならね。」
「実験?」
「うん。」
男は悪びれもせず笑った。
「実験材料。」
鬼灯が思わず一歩下がる。
「えぇ!?」
「大丈夫、大丈夫。」
ひらひらと手を振る。
「もう人間でも実験してるし、ちゃんと成功してるから。」
「そんな軽く言われても……。」
ミズキは警戒を解かない。
「知らない人に突然そんなことを言われて、信用できません。」
「それもそうか。」
男はあっさりとうなずいた。
「自己紹介がまだだったね。」
軽く頭を下げる。
「キュリオ。転送工学を研究してる。」
「転送工学?」
「簡単に言えば、人や物を別の場所へ送る研究。」
鬼灯はぽかんと口を開ける。
「研究所、来る?」
「研究所?」
「詳しい話はそこで。」
キュリオはにっと笑った。
「転送装置も見せてあげるし、量子テレポーテーションがどういうものかも説明してあげる。」
ミズキは鬼灯と顔を見合わせる。
研究所へ行けば、貨物列車より早く塔へ行ける方法が見つかるかもしれない。
だが、それは見知らぬ研究者を信用するということでもある。
どうするべきか。
二人が答えを出しかねていると、ミズキはもう一つ気になっていたことを口にした。
「……貨物列車について、もっと詳しく教えてもらえませんか。」
キュリオは少し困ったように頭をかいた。
「うーん……。」
「詳しい場所や乗り方は、知り合いの担当なんだよね。」
「紹介ならできるけど。」
鬼灯がぱっと顔を上げる。
「ほんと!?」
「ただし。」
キュリオは鬼灯の額をじっと見つめる。
そして、にこりと笑った。
「鬼の君。」
「その角、一本頂戴。」

研究所へ行く8
貨物列車について詳しく聞く2
自分たちで貨物列車の情報を探す4投票終了 14人が参加中

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#第11話次の一歩
二人の間に落ちた沈黙は、駅を行き交う人々の賑わいとは対照的に、重く静かだった。
やがて、鬼灯がぽつりと口を開く。
「……ミズキも、今初めて知ったの?」
「うん」
「そっか」
鬼灯は自分の手首を見下ろした。
「じゃあ、ちょっとだけ先輩だ」
「先輩?」
「だって、こっちはもうゼロになったことあるから」
そう言って、鬼灯はゼロの手首を堂々と見せて笑った。
「気づいたら全部なくなってて、言葉も分かんなくて、ほんと大変だった!」
あまりにからりとした口調に、ミズキは思わず目を瞬く。
「……笑いごとじゃないよ」
「うん」
鬼灯は素直にうなずく。
「だから、今知れてよかった」
ミズキの手首へ目を向ける。
「まだ、なくなってない」
「……」
「なくなってないなら、まだどうにでもなる」
鬼灯はそう言って笑う。
「今度は、ひとりじゃないし」
胸の奥に沈んでいた重さが、ほんの少しだけほどけていく。
「……知らないまま全部使っちゃう前に、分かってよかった」
「うん! じゃあ、残りのアンカーを大事にしながら、塔まで行く方法一緒に探そ!」
鬼灯の明るい声に背中を押されるように、ミズキはもう一度うなずいた。
鬼灯の明るい声に背中を押されるように、ミズキはもう一度うなずいた。
「まずは情報を集めよう」
「うん!」
二人は駅構内のインフォメーションセンターへ向かった。
白を基調としたカウンターには、人の姿はなく、代わりに案内用のAIロボットが静かに待機している。
「貨物列車について聞きたいんですけど」
『ご質問をどうぞ』
「人を乗せてもらえる貨物列車があるって聞いたんですが」
わずかな間を置いて、機械音声が返ってくる。
『貨物列車は貨物専用です。旅客の乗車はできません』
「でも、そういう話を聞いて……」
『貨物列車は貨物専用です。旅客の乗車はできません』
少し言い方を変えて尋ねても、返ってくる答えは同じだった。
『貨物列車は貨物専用です。旅客の乗車はできません』
決められた案内しかできないのだろう。
ミズキは小さく息をつき、鬼灯と顔を見合わせた。
「……だめか」
「うーん」
鬼灯も困ったように首をかしげる。
「ここで聞いても、これ以上は分かんないね」
「そうだね」
AIが案内できる情報には限界がある。
もし本当に人を乗せる貨物列車があるのなら、それは表には出ない話なのかもしれない。
「一旦、外に出よう」
「聞き込み?」
「うん。貨物列車のことも含めて、人に聞いて回ってみよう」
「よし!」
鬼灯は元気よく返事をすると、先に出口へ駆け出した。
「早く行こう!」
その後ろ姿に苦笑しながら、ミズキも駅の外へと足を踏み出す。
昼の光に包まれた街は、相変わらず多くの人で賑わっていた。
鬼灯は迷いなく街へ飛び出していく。
「聞いて回ろう! きっと誰か知ってるよ!」
その背中を追いながら、ミズキは小さく息を吐いた。
不安が消えたわけじゃない。
貨物列車のことも、アンカーのことも、分からないことばかりだ。
それでも、隣には鬼灯がいる。
その事実だけで、足取りは少しだけ軽かった。


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(分岐 他を探す)
#第10話アンカー
ミズキは案内板から視線を外し、隣に立つ鬼灯を見た。
「急いで塔へ行きたい気持ちはある。でも、着いた先で何が必要になるか分からない」
鬼灯も真剣な表情で頷く。
「うん」
「今あるお金を全部使ってしまうのは、少し怖い」
鬼灯は少し考えるように首を傾げた。
「じゃあ歩く?」
「歩くのも一つの手だけど、あの距離だと途中で何度も宿泊することになると思う」
ミズキは駅構内を見渡した。
仕事帰りらしい人、大きな荷物を抱えた人、旅行者らしい人。
皆、この街で暮らしている人たちだ。
「この街の人なら、塔まで安く行く方法とか、塔について知っていることがあるかもしれない。」
鬼灯の表情がぱっと明るくなる。
「なるほど!」
「この世界のことも、まだ知らないことばかりだから。」
鬼灯は勢いよく頷いた。
「よし! 聞いてみよう!」
そう言うと、鬼灯は近くを歩いていた男性へ一直線に駆け寄った。
「こんにちは!」
突然声を掛けられた男性は少し驚いたようだったが、足を止めて振り返る。
ミズキは思わず苦笑しながら、そのあとを追いかけた。
「すみません。この街のことで、少しお聞きしたいことがあるんですが。」
男性は穏やかに微笑んだ。
「ええ、何でしょう?」
鬼灯が一歩前へ出る。
「あのね! 塔に行きたいんだけど、お金があんまりなくて……」
両手を動かしながら懸命に説明しようとする。
「高速列車じゃなくて、もっと安く行けて……えっと……」
言葉がまとまらず、困ったようにミズキを振り返る。
ミズキは苦笑して言葉を引き継いだ。
「中央塔へ向かいたいんです。高速列車以外で、もう少し費用を抑えられる移動手段はありませんか?」
男性は「ああ」と納得したように頷く。
「高速列車以外でしたら、空を飛ぶタクシーがあります。ただ、あれも決して安くはありませんね。」
「やっぱりそうですか……」
「それと、貨物列車なら人を乗せてもらえる、という話は聞いたことがあります。」
「貨物列車?」
鬼灯が首を傾げる。
「荷物を運ぶ列車です。一般向けではないので詳しくは知りませんが、運が良ければ乗せてもらえることもあるとか。」
男性は苦笑した。
「もっとも、噂程度の話ですが。」
「そうですか。」
それでも少し考え込むように、自分の手首へ視線を落とした。
「できれば、もう少し節約したいんです。」
男性もその視線を追い、ミズキの手首を見る。
「……そのアンカー。」
「アンカー……?」
聞き慣れない言葉に、ミズキは思わず聞き返した。
男性は少し意外そうな表情を浮かべる。
「ご存じありませんでしたか。」
「その数字のことですか?」
「ええ。」
男性は頷いた。
「その手首に表示されている数字と印。それを、この世界では『アンカー』と呼んでいます。」
鬼灯も自分の手首を見つめる。
「これがアンカー……。」
「これと、見比べてみてください。」
男性はそう言って、自分の手首を差し出した。
ミズキも腕を前へ出す。
数字は同じように青く浮かんでいる。
しかし、その下に刻まれた光の模様は違っていた。
男性の模様には、ミズキたちにはない、もう一本の光の帯が重なっている。
「一本……多い。」
鬼灯が目を丸くする。
「この外側の印が、登録されている証です。」
「登録、ですか。」
「ええ。この世界の人間は、皆この印を持っています。」
男性は穏やかな口調で続けた。
「ですから、異世界人の方はアンカーの使い方には気を付けた方がいいでしょう。」
ミズキは少し首をかしげる。
「気を付けた方がいいというのは、どういうことでしょう?」
「アンカーは、一度使うと簡単には戻りません。」
「ですが、収入を得れば補えるんですよね?」
男性は小さく頷いた。
「この世界の人なら、その認識で合っています。」
その一言に、ミズキはわずかに安堵する。
だが、続いた言葉は予想外だった。
「ですが、異世界人は違います。」
「……違う?」
「異世界人は、この世界に登録されていません。」
ミズキの表情が固まる。
「登録されていない……。」
「ええ。そのため、仕事をしても、商売をしても、アンカーが加算されることはありません。」
鬼灯も自分の手首を見つめる。
「じゃあ……減るだけ?」
「そうなります。」
男性は静かに頷いた。
「詳しい仕組みまでは私も知りません。ただ、この世界では『登録されていない者のアンカーは増えない』と教わっています。」
ミズキは黙って手首へ視線を落とした。
51。
先ほどまでただの数字だと思っていたそれが、今は違って見える。
限りある旅の資金。
それだけではない。
もしこの数字が尽きれば、自分たちはどうなるのだろう。
そんな不安が胸の奥で静かに膨らんでいく。
隣では、鬼灯も黙ったまま自分の手首を見つめていた。
二人の間に落ちた沈黙は、駅を行き交う人々の賑わいとは対照的に、重く静かだった。


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#第9話仲間
二人は人通りの少ない通りを並んで歩いていた。
鬼の子は何度も口を開いては閉じ、信じられないというように目を丸くする。
「聞こえる?」
「うん……聞こえる! 本当に聞こえる!」
自分の口元に触れながら何度も声を出す。
「すごい……! あなたの言葉が分かる!」
その無邪気な笑顔に、ミズキも自然と口元が緩んだ。
「よかった。これでちゃんと話せるね」
「ありがとう……本当にありがとう!」
勢いよく頭を下げられ、ミズキは慌てて手を振る。
「そんな大げさな」
「大げさじゃないよ! ずっと誰とも話せなかったんだから!」
その一言に、ミズキの表情が少しだけ引き締まる。
そんなミズキを気にする様子もなく鬼の子が言った。
「そうだ。ねえ、君の名前教えて」
鬼の子は胸に手を当て、自分の名前を口にした。
「鬼灯」
「ホオヅキ?」
鬼灯はぱっと表情を明るくし、何度も頷く。
「そう!」
胸に手を当てて名乗る姿は、どこか丁寧な挨拶のようでもあり、それを満面の笑みでやってのける鬼灯が妙におかしい。
釣られるように、ミズキも胸に手を当てた。
「ミズキ」
「ミズキ!」
嬉しそうに名前を繰り返した鬼灯は、にっこり笑う。
「よろしく!」
やっと普通に話せる。
それだけのことなのに、不思議と肩の力が抜けていく。
二人はゆっくりと街を歩き始めた。
「そういえば、手首の数字がゼロだったけど……」
その瞬間、鬼灯の笑顔が固まった。
「……うん、もう、ないんだ」
鬼灯は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
「初日に観光ドローンについていったんだ。そしたら、この世界がすっごく面白くて……」
両手を広げながら、目を輝かせる。
「空飛ぶ乗り物も、食べ物も、あっちにある広場のお店なんてさ、見た目は狭いのに中に入るとすっっごく広いんだよ! ドローンがあっちもこっちも案内してくれて、気付いたら全部使っちゃってた」
ミズキは思わず額に手を当てた。
「全部……?」
「うん」
悪びれた様子もなく笑う鬼灯を見て、呆れるより先に苦笑が漏れる。
「それで、増やそうとは思わなかったの?」
鬼灯はゆっくり首を横に振る。
「ドローンと別れてから、困ってるって街の人に伝えたんだけど……」
さっきまでの笑顔が少し曇る。
「言葉が全然分からなくて」
その一言だけで十分だった。
屋台で必死に身振り手振りを繰り返していた姿が、ミズキの脳裏によみがえる。
「誰に話しかけても、なんて言ってるか分からなかった」
鬼灯は苦笑いを浮かべる。
「仕事も頼めないし、助けてもらうこともできなかった。だから、どうしたらいいか分からなくて」
ミズキは静かに息をついた。
もしかしたら、お金を稼ぐ方法くらい誰かが教えてくれていただろう。
けれど、言葉が分からずその最初の一歩を踏み出せなかった。
「……そういうことか」
鬼灯は小さく頷く。
少し歩いたところで、ミズキは一番気になっていたことを口にした。
「鬼灯。この世界の人じゃないよな?」
鬼灯は少しだけ目を丸くしたあと、あっさり頷いた。
「うん。気づいたら、この世界にいたんだ」
「やっぱり」
「最初は夢かと思ったよ。でも、見たこともない景色ばっかりでさ」
鬼灯は嬉しそうに空を見上げる。
「わくわくして、夢中になっちゃった」
その笑顔を見ていると、不思議と責める気にはなれなかった。
知らない世界へ突然放り込まれた。
普通なら、不安でいっぱいになるはずだ。
それなのに鬼灯は、恐怖よりも好奇心が勝ってしまう性格なのだろう。
全てを知らず知らずに使い切り、
だから今、こうして腹を空かせていた。
ミズキは少しだけ笑う。
「……実は、僕もそうなんだ」
鬼灯が足を止める。
「え?」
「僕も気づいたらこの世界にいた。だから、君がこの世界の人じゃないって分かった」
鬼灯は目をぱちぱちと瞬かせたあと、ぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ、仲間だ!」
その言葉に、ミズキは思わず笑ってしまう。
「そう……なるのかな」
二人はまた歩き始める。
その時だった。
「あっ!」
鬼灯が勢いよく前を指差した。
「ここ! ここ来たことある!」
視線の先には、大きな駅舎が建っていた。
ガラス張りの外壁は陽の光を受けてきらめき、その隣には開放的な広場が広がっている。大勢の人が足を止め、何かを待つように空を見上げていた。
「観光ドローンに連れてきてもらったんだ!」
鬼灯は目を輝かせながらミズキの手を引く。
「列車がすっごいんだよ! 速くて、窓の外びゅーって流れて!」
その時、遠くから滑るような走行音が近づいてきた。
一筋の光をまとった高速列車が駅へ向かって駆け抜ける。
次の瞬間、列車が残していった光の軌跡がふわりと宙へ舞い上がり、大きなクジラへと姿を変えた。
ゆったりと空を泳ぐクジラの周りを、色とりどりの鳥たちが羽ばたく。
光でできた生き物たちは広場の上を優雅に巡り、人々から歓声が上がる。
「わあ……!」
子どもたちは嬉しそうに空を指差し、大人たちも思わず足を止めて見上げていた。
列車の窓から景色を眺めていた子どもたちも、きらきらと目を輝かせて広場を見下ろしている。
そのうちの一人がこちらに気づくと、満面の笑みで大きく手を振った。
鬼灯も嬉しそうに両手を振り返す。
「ね! すごいでしょ!」
まるで列車そのものが、一つのアトラクションのようだった。
鬼灯は目を輝かせながらミズキの手を引く。
「はやく! また何か見られるかもしれないよ!」
期待に胸を躍らせる子どものような鬼灯に、ミズキは思わず苦笑しながら、ミズキも駅へ向かった。
駅の入口まで来たところで、ミズキはふと思い出したように口を開く。
「そういえば鬼灯。君も塔を目指せって言われたのか?」
「うん!」
鬼灯は迷いなく頷いた。
「でも、それ以外は何も分からない。塔に行けば分かるって、それだけ」
「……やっぱり同じか」
二人は顔を見合わせ、そのまま駅の中へ足を踏み入れた。
駅の中は、外から見た以上に広かった。
頭上には何層もの通路が張り巡らされ、光る案内板が行き交う人々を目的地へ導いている。
「すご……」
思わず漏れたミズキの声に、鬼灯は得意げに笑った。
「でしょ!」
そのまま歩いていると、ひときわ大きな案内板が目に入る。
そこには行き先がいくつも並び、その一番上に大きく表示されていた。
『中央塔 直通』
ミズキは思わず立ち止まった。
「塔まで……直通?」
鬼灯も案内板を見上げる。
「本当だ!」
その下には、所要時間と運賃が表示されていた。
ミズキは無意識に自分の手首へ目を落とす。
二人分を払えないわけじゃない。
けれど、その代わりに手元へ残るお金は心許ないものになる。
塔に着いたあと何が必要になるかも分からない今、その選択には少なからず不安があった。
ミズキは駅の大きな窓越しに、遠くそびえ立つ中央塔へ目を向ける。
ここからでも、その姿は街並みの向こうに小さく霞んで見えるほど遠い。
歩いて向かうこともできるだろう。
だが、あの距離なら数日はかかるはずだ。
しばらく案内板を見つめたあと、ミズキは小さく息を吐く。
「……どうするか」
列車に乗れば、あっという間に塔へ着く。
その代わり、お金を大きく消費する。
あるいは、ほかに塔へ向かう方法があるのかもしれない。
ミズキは案内板を見上げたまま、静かに考え始めた。


高速列車で塔へ向かう2
歩いて塔へ向かう5
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分岐
《助ける》ルート
第8話【助けた先に】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(ミズキは主人公の名前です。)
「あの。それ、一つください」
ミズキは財布代わりの手のひらを、店員へ差し出した。
「え?」
店員は一瞬きょとんとしたあと、安堵したように笑う。
「助かります」
代金を受け取ると、手際よく料理を包み、ミズキへ手渡した。
鬼の子はその様子を食い入るように見つめている。
料理。
店員。
ミズキ。
その三つを何度も見比べながら、小さく首をかしげた。
「はい」
ミズキは包みをその子へ差し出す。
「……?」
戸惑いながら受け取る。
恐る恐る包みを開くと、ふわりと温かい湯気が立ち上った。
その瞬間、顔がぱっと明るくなる。
「……!」
何かを勢いよく話しかけてくる。
もちろん、何を言っているのかは分からない。
いや。
正確には、ミズキには分かる。
『ありがとう! 本当にありがとう!』
イヤーカフが言葉を翻訳してくれるからだ。
「どういたしまして」
そう返しても、相手には通じない。
鬼の子は不思議そうに首をかしげながら、それでも嬉しそうに料理へかぶりついた。
ひと口。ふた口。
夢中で頬張る姿に、周囲から小さな笑いが漏れる。
「……よかった」
その姿を見届けると、ミズキは踵を返した。
これ以上、自分にできることはない。
そう思って歩き出す。
だが。
こつ。
こつ。
後ろから足音がついてくる。
振り返ると、鬼の子が料理を口に入れモグモグしながら後ろに立っていた。
「……」
ミズキは困ったように笑って手を振る。
「じゃあね」
そう言って歩き出す。
こつ、こつ。
また後ろから足音。
振り返る。
鬼の子がいる。
「……」
ミズキはもう一度手を振る。
「バイバイ」
鬼の子も笑顔で手を振り返した。
「いや、そうじゃなくて……」
ミズキは自分を指差してから前を指差し、さらに鬼の子を反対方向へ向ける仕草をする。
「私はこっち。君はあっち」
鬼の子は真剣な顔でその動きを見つめる。
そして何かを理解したように大きく頷いた。
「分かってくれた?」
鬼の子はにこっと笑い、ミズキの真横に並んだ。
「違う違う」
思わず声が漏れる。
今度は少し走ってみる。
鬼の子も同じ距離を空つ走ってついてくる。
立ち止まる。
鬼の子も止まる。
「……」
「……?」
首をかしげる鬼の子。
その口いっぱいに料理を頬張ったまま首をかしげる姿は、木の実を詰め込んだリスそのものだった。
同じくらいの歳のはずなのに、どこか幼く見えてしまう。そんな姿に、ミズキは思わず口元を緩めた。
その笑みに気づいた鬼灯が、きょとんとまた首をかしげる。
そして、何かを思いついたように、食べかけの料理を半分に割ると、ミズキへ差し出した。
「?」
『半分あげる』
「いや、君のために買ったんだから全部食べなよ」
もちろん伝わらない。
鬼灯はぐいぐいと料理を押し付けてくる。
「もう……」
肩を落とす。
鬼の子は自分の胸を叩き、それからミズキを指差した。
『お礼』
翻訳だけが耳に届く。
その目は冗談でも、その場しのぎでもない。
本気だった。
ミズキは小さく息を吐く。
「……このままじゃ話にならないか」
もちろん、その言葉は届かない。
鬼の子は首を横に振った。
『お礼』
「困ったな……」
会話が成立しない。
自分には相手の言葉が分かる。
でも、相手には自分の言葉が分からない。
「……まずは翻訳機か」
鬼の子は差し出した料理に目を落とし、それから不思議そうにミズキを見つめた。
ミズキは近くの露店へ向かい、並べられた翻訳機を見比べた。
「新品は高いな……」
値札には15、20。
とても手が届かない。
店の隅には型落ち品が積まれていた。
『旧式翻訳イヤーカフ 8』
ミズキは店員に話しかけ、新品と同様にどこの言葉も翻訳できるのか、新品と違いなぜこんなに安いのか聞いた。
「もちろん。翻訳精度は現行モデルと変わりませんよ」
「じゃあ、どうしてこんなに安いんです?」
店員は棚に並ぶ新しいモデルへ視線を向けた。
「そりゃあ型落ち品ですから。昔のモデルは、とにかく多機能だったんです。録音や文字起こし、自動検索、通信補助、特殊探索機能なんかも全部詰め込んでいて、その分、重かったんですよ」
そう言って、旧式のイヤーカフを持ち上げる。
「でも結局、みんな翻訳しか使わなくなったんですよ。だから今のモデルは余計な機能を省いて、小型で軽くなったってわけです」
「なるほど……」
旧式のイヤーカフは少し大きく重かったが仕方ない。
「これ、ください」
店員は商品を差し出す。
ミズキは少しだけ手首の59の文字を見てためらった。
この残高で8は決して安くない。
まだこの世界に来て2日目だ…
それでも。
「はい」
鬼の子の耳元へイヤーカフを差し出した。
鬼の子は目を丸くする。
「君のだよ」
もちろん伝わらない。
身振りで耳を指差すと、おそるおそる装着した。
小さな電子音が鳴る。
『……聞こえる?』
鬼の子が驚いて顔を上げた。
「え……?」
「やっと……分かる!」
初めて言葉が重なった。
二人は思わず顔を見合わせる。
「よかった」
その一言に、鬼の子は目を潤ませながら何度も頷いた。
#第8話助けた先に

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