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いと

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 人間社会には名前が溢れかえっている。モノという物質のあるものから関係性、空間、概念に至る触れることさえ無いものにまで名付けされている。私は特に人との関係性に名付ける友達や恋人、家族という言葉が嫌いだ。私と人との関係性は唯一無二であり、不特定多数との関係性と同じ名称である筈がない。あったとしても極めて類似しているだけである。そして、それはどれだけ似ていようが同一ではない。私とAとの間柄が友人のそれに当てはまったとしても、私とAの中にしかないものであり、それを友達という言葉で世界に可視化される謂れはない。人は大切なものを金庫などに大切にしまうだろう。その時、どれだけ金庫が頑丈だからと言ってガラス張りで中が見えるようにする人は少ない。私にとって、大切にしている人との繋がりを世間に知らせる必要もないし、個人間での秘め事にするべきである。人は認識できることに安心感を得る。それにより、人のスペックでは認識できないモノにも名前をつけ、定義付ける。傲慢な性である。

『君のいるセカイ』より

#架空小説書き出し
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いと

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「情報の海」人生で一度は聞いたことのある言葉である。しかし、現在では情報という怪物を海に喩えることは、少し荷が重くなり過ぎている。今を生きる私達にとって情報とは宇宙そのものであり、もはや何も見ることのできないブラックボックスである。肩肘の張った書籍には情報飽和社会と揶揄されることのある時代だが、情報の元になる事象の量に過去、現在、未来にそう違いがあるものではない。変化したものとは発信源と距離である。情報の始まりは、ただの会話から始まった。赤ちゃんの産声は自身の誕生を周囲に知らせるもっと原始的で単純なニュースである。ただ鼓動が脈打ち生きているという事実を伝達するのみで、そこに一切の嘘や脚色など無い。そこから噂話や近況報告など主婦の皆さまが大好きな井戸端会議、情報をビジネスにした新聞、不特定多数の人が同時に同一な情報共有する事ができるテレビ、そして、一人一人が情報の発信者となり全てを破壊するインターネットと今や情報は人間の支配から逃れ、世界を包み込む第二の宇宙と呼べる存在となった。

『創り上げた宇宙』より

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やまだ

やまだ

思ったことを突如行動に移してしまう性であったのと、子供ながら人生に酷く絶望していたのと。
警告音が鳴り響く駅のホーム、肌に張り付いた汗、カメラを通して見られる世間の目、鳴り止まない鼓動、母の腕の温かさ。
この情景が鮮明に頭の中を鮮やかに彩っていた。
『私の生、母の死』より
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 あなたは神を信じますか?
 この言葉を聞くと「神なんていない」「そんなのは宗教の中での話だ」と感じる人が今の日本人には多く存在している。しかし、「神は存在している」そう確信している人もいるし、信じていなくとも、勝負時には神頼みをするし、新年には初詣に行って願い事をする人がほとんどであろう。また、海外には信仰とは身近な文化である地域や超科学的存在を奉る風習もある。では、「本当に神という存在が実在するのか」「なぜこんなにも人間というものは神に縋ることになるのか」その様な見えない謎に近づいくお手伝いをしよう。

『外界をむく』より
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やまだ

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今日も彼のための料理をする。彼の好きな甘めのカレーをひとりで煮込んでいる。カレーを煮込む音や匂いが孤独を消してくれるようでほっとしたつかの間、包丁の先が少し肌をかすってしまった。まあこれくらいなら大丈夫だろう。
彼との出会いはなんでもないものだった。ドラマチックなものでも心ときめくものでもなんでもない。いつの間にか話すようになっていつの間にか仲良くなっていつの間にか置いてかれた。
いつの間にかこんなに血が出ていた。
『流るる愛』より
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 「レゲエパンチ1つで」
初めての体験というものはいつになっても心踊るものがある。しかし、歳を取るにつれ初めての体験というものを経験しなくなっていく。世界には1人の人生では体験しようもない景色、経験に溢れているはずなのに。
「お待たせ致しました」
 私は今、初めて行くバーで初めて飲むカクテルを頼んだ。レゲエパンチを飲む為に私は今日ここへ来たのだ。私は乾杯する相手もなく1人タンブラーグラスに口をつけた。
「マズっ」
 あと少しで口からその言葉と共に原因である液体すらも吐き出しそうになった。私は元より桃という果物があまり好きではない。それ故にピーチウーロンというカクテルを今まで飲んでこなかった。昨晩暇つぶしの一環で聞いている芸人さんのラジオでレゲエパンチの話を聞いた。

「レゲエパンチって言うカクテル知ってるか」「おお知ってるよ」「アレってただのピーチウーロンやんな」「そやで」「いや〜ピーチウーロンにレゲエパンチってイメージも格も全然ちゃいますやん」「そら、そやけどレゲエパンチって関西特有の言い方って言うやん」「いや関西人言うたかてピーチウーロンにレゲエパンチはないやろ何処がレゲエとパンチが効いてんねん」
 そこはかとなく、ただラジオを聞いていただけだが、レゲエパンチというフレーズが引っ掛かり、ピーチウーロンと言う名前ならば絶対に頼まないけれど、レゲエパンチなら1回飲んで見たいと思ってしまったゆえ、電車で30分かけてミナミまで来てしまった。初めての体験は心躍るものがある。しかし、その興奮は2度と戻っては来ないのである。私はなかなか軽くならないグラスを置き、つきだしのミックスナッツに手を伸ばす。

 「柳くん今日は珍しく遅刻してきたけど何かあったのかい?」「昨晩、飲み慣れない酒を飲んだせいで悪酔いしてしまい、寝坊しました。すみません。」
 私はこの出版社に勤めてに7年目になるが、初めて遅刻というものを経験した。

『辞世』

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ただの

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今日も私は箱の中から人を見る。
物心ついた頃から、嫁いでも恥の無いようにと祖母にお作法を1から叩き込まれ、教育熱心な父には学問を叩き込まれ、母からは家事を叩き込まれた。
家族一丸となり袋叩きになった私は、しっかり中学半ばでボロボロとなった。よく耐えたと思う。
なのに余生も折り返した今、大きい音に騒がしくなる心臓が出来上がる始末となった。

「夢売る箱入り娘」より
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ただの

ただの

基本的に朝、家に帰るのは好きじゃあない。気持ちよく酒を飲んだら気持ちいいベッドで寝たいと思うのは万国共通だ。新宿という街には硬いコンクリを枕にして寝たいといふ物好きもいるようだが、とうてい理解できない考えである。足を投げ出し無防備な格好で横になる禿げた親父を横目に僕は改札をくぐり抜けた。

『カサブランカ』より

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ただの

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クズなのよね、私と会う人なんて。私たちは高校の同級生だった。月曜の昼に歩き回ってやっと辿り着いた立ち飲み屋に、既に出来上がってるだろうオヤジの喧騒になだれ込む。空箱ばかりを重ねた頼りないテーブルに、無愛想な店員が生を2つドカッと置いた。700円。

『赤羽に咲く記憶』より

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