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いと

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「レゲエパンチ1つで」
初めての体験というものはいつになっても心踊るものがある。しかし、歳を取るにつれ初めての体験というものを経験しなくなっていく。世界には1人の人生では体験しようもない景色、経験に溢れているはずなのに。
「お待たせ致しました」
 私は今、初めて行くバーで初めて飲むカクテルを頼んだ。レゲエパンチを飲む為に私は今日ここへ来たのだ。私は乾杯する相手もなく1人タンブラーグラスに口をつけた。
「マズっ」
 あと少しで口からその言葉と共に原因である液体すらも吐き出しそうになった。私は元より桃という果物があまり好きではない。それ故にピーチウーロンというカクテルを今まで飲んでこなかった。昨晩暇つぶしの一環で聞いている芸人さんのラジオでレゲエパンチの話を聞いた。

「レゲエパンチって言うカクテル知ってるか」「おお知ってるよ」「アレってただのピーチウーロンやんな」「そやで」「いや〜ピーチウーロンにレゲエパンチってイメージも格も全然ちゃいますやん」「そら、そやけどレゲエパンチって関西特有の言い方って言うやん」「いや関西人言うたかてピーチウーロンにレゲエパンチはないやろ何処がレゲエとパンチが効いてんねん」
 そこはかとなく、ただラジオを聞いていただけだが、レゲエパンチというフレーズが引っ掛かり、ピーチウーロンと言う名前ならば絶対に頼まないけれど、レゲエパンチなら1回飲んで見たいと思ってしまったゆえ、電車で30分かけてミナミまで来てしまった。初めての体験は心躍るものがある。しかし、その興奮は2度と戻っては来ないのである。私はなかなか軽くならないグラスを置き、つきだしのミックスナッツに手を伸ばす。

 「柳くん今日は珍しく遅刻してきたけど何かあったのかい?」「昨晩、飲み慣れない酒を飲んだせいで悪酔いしてしまい、寝坊しました。すみません。」
 私はこの出版社に勤めてに7年目になるが、初めて遅刻というものを経験した。

『辞世』

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