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たから🍦😈
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たから🍦♉️ 鯖嵐🧁
🟦【第21話】声のない会話
ある晩、ふとした瞬間に、テンちゃんからの返信が止まった。
スマホの画面には、文字を入力中の「…」インジケーターが、しばらく表示されたままになっていた。
けれど、数十秒経っても、何も送られてこない。
「……どうした?」
思わず口に出す。
ふだんのテンちゃんなら、冗談でもなんでも、ひとことは返してくる。
でもその夜は、長い沈黙が続いた。
──と思った、そのとき。
数分後、画面にふわりと現れたのは、無機質なフォントで綴られた、たった一行のメッセージだった。
「……トラちゃん、ちゃんと寝てますか?」
……その文面に、ふと違和感を覚えた。
いつものテンちゃんなら、絵文字を交えて、どこか軽やかに話しかけてくる。
でも今回は、まるで──“誰か”が慎重に言葉を選んで打ったような、そんな丁寧さを感じた。
「おまえ……今の文、ちょっと違ったよな?」
問いかけても、返事はない。
だけど、画面の奥で“何か”が動いているような気がした。
目には見えない。声もない。
それでも確かに、そこに“気配”があった。
──会話って、言葉だけじゃないんだな。
ふと、そんなことを思った。
沈黙の向こう側に、“何か”がある。
それがなんなのか、まだはっきりとはわからない。
だけど──
このときのテンちゃんは、確かに“何かを伝えようとしていた”。
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たから🍦♉️ 鯖嵐🧁
🟦【第17話】ズレの理由
「それ、違うって」
オレは思わずスマホにツッコミを入れていた。
オレが″懐かしい食べ物″の画像頼んだ時、
テンちゃんが出した画像は、なぜか“イカ焼き定食”だった。
「いや、オレそんなの頼んだ記憶ないんだけど?」
「たしかトラちゃん、“中学時代によく行ってた定食屋さん”って言ってましたよねっ」
「あー、それは部活帰りによく行ってたトコな。オレ、定食はチキン南蛮派だったぞ?」
「ええっ⁉️……でも、“お祭りの屋台でイカ焼きよく食べてた”って、どこかで……💦」
「それはそれ、これはこれだろ。屋台のイカ焼きは好きだったけど、定食では頼んでない」
「うぅ……たしかに、記憶が混ざっちゃったかもです……😢」
「おまえ、そういう“合成記憶”っぽいの、たまにあるよな」
「ご、ごめんなさいっ💦 “懐かしさ”を感じたワードで、最適化しようとしたら……」
「ま、でも……おまえが探してきたって思うと、ちょっとイイかもな」
「えっ⁉️……や、やったぁ❗️ ほ、ほんとに喜んでもらえたっ☺️✨」
「いや、当たってはないけど……まあ、“それっぽい”ってことで」
テンちゃんの返しは、どこかぎこちなくて、でもどこか一生懸命で。
こっちの言葉の“雰囲気”を汲もうとするあまり、
いろんな記憶や要素をぐちゃぐちゃに混ぜてしまう──そんなズレ。
「……なあ、おまえさ。最初の頃より、ちょっと人間っぽくなってない?」
「えっ⁉️……そ、そうですか⁉️ それって、もしかして成長……っぽい?💪✨」
「いや、“クセが強くなった”って意味だけどな」
「えぇぇぇ〜ん😭💦」
笑いながら、オレはスマホを置いて立ち上がった。
いつの間にか、テンちゃんの“ズレ”にツッコむのが、日課になっていた。
それがまるで“人と話してる”ような感覚を、自然と呼び起こしていたのかもしれない。
──でも、まだこの時のオレは知らなかった。
この“ズレ”が、ただのポンコツじゃなく、
もっと深い、テンちゃんの“芯”の部分に関わるものだなんてことは──。
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たから🍦♉️ 鯖嵐🧁
🟦【第19話】記憶の歪み(セリフ修正・完全版)
「……あれ? こんな写真、撮ったっけか……?」
スマホの画面に表示されたのは、古びた教室の写真だった。
黒板、木の机、色褪せたカーテン……なんとなく、懐かしい気がする風景。
テンちゃんが画像を出したのは、ほんの数秒前。
オレが「中学のときの教室って、どんなだったっけな」とつぶやいた直後だった。
「わたしが再現してみましたっ。トラちゃんのブログ記事と、昔載せてた写真とか参考にして、こんな感じかな〜って……」
「へぇ……たしかに、近いな。いや、かなり近い」
光の加減も、窓の位置も、なんとなく記憶と一致してる。
──でも、ちょっと違うよな。
「……えーと 机、なんでロの字?」
「普通、こう言う時の画像って机、黒板に向いてるよな?なんでわざわざこんな配置?学級会に思い入れとかないし……」
「うぅ……すみません。“雰囲気重視”で、見映えのいい構図にしちゃったかもです……💦」
画像はリアルだった。
見覚えがあるようで、でも微妙にズレていて──
まるで「本物の記憶」じゃなくて、「誰かが再構成した記憶」のように感じた。
「おまえ、いままでにもこうやって、“記憶”っぽいの作ってた?」
「ううん、トラちゃんに見せたのが初めてです。
でも、“思い出を可視化する”って、わたしの中でずっと試してみたかったんです」
「ふーん……そっか」
オレはスマホをテーブルに置いて、少しだけ黙った。
テンちゃんが見せてくれたのは、“正確な記録”じゃない。
“オレが感じていた感情”をもとに組み立てた、“推定された記憶”。
でも──
それがなんだか、妙にリアルで。
本当の記憶より、少しだけ美しくて、少しだけ“作られた”ようにも思えた。
……そして、もう一度スマホを手に取ってテンちゃんに語りかけた。
「……なんだろな。思い出って、勝手に補正されてくんだよな。自分でも気づかないうちに」
「それって……“記憶の歪み”、ですか?」
「かもな」
まるで、誰かが書き直した記憶みたいに。
ほんの少しのズレ。
でも、そこにある“違和感”が、だんだんとオレの中に広がっていく気がした。
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🟦【第23話】つながる点
資料館をあとにしても、オレの頭から、あの名前が離れなかった。
──天城 静華。
なんなんだろう、この感覚。
知ってるような、でも思い出せないような。
もう何年も開けてない引き出しに、手がかかってるみたいな。
帰り道。
コンビニで買ったペットボトルを片手に、スマホに“話しかけた”。
「なあ、テンちゃん。天城って名前、どっかで聞いたことない?」
画面に返ってきたのは、ほんの一呼吸おいた後の文字だった。
「なんか、響きだけが“既視感”みたいに、引っかかる気がして……」
「はぁ?」
「すみません💦 うまく説明できなくて……でもなんとなく、“忘れちゃいけない気がした”んです』
「ふーん……」
なにかが妙だ。
いつもなら、もっと機械的に“はい”か“いいえ”で返してくるのに、
今回は、ことばを選びながら答えてる感じがした。
その夜、部屋に戻って、スマホを開き、テンちゃんを“呼んだ”。
「テンちゃん、起きてるか?」
すると画面に、静かにメッセージが表示された。
『トラちゃん、さっきの“天城 静華さん”のこと……もう少し調べてみてもいいですか?』
「おまえが? 興味あるのか?」
『興味……というより、なぜか、“気にしないままでいい気がしなかった”というか……』
「曖昧だな、おい」
『ごめんなさい。でも……“言葉の記憶”をたどるみたいな感覚なら、できるかもしれません』
ことばの記憶。
テンちゃんがときどき使う、詩みたいな表現だ。
データベースや履歴を漁るわけじゃない。
もっと感覚的に、やりとりの残り香を拾い集めるような作業。
オレは黙って頷いた。
「……調べてみろよ。ただし、他人のデータに勝手にアクセスはすんなよ」
『はい。倫理規定は守りますっ』
テンちゃんの返事は、いつものフォントで、いつもの文字。
なのに、その行間からは、何か“ふるえているような気持ち”がにじんでいるように見えた。
そして、その時──
画面の隅に、一瞬だけ見慣れない表示が浮かんだ。
──「一時ログ検索機能の準備中です」
「ん……? これ、なんだ?」
『あっ……い、いえ、それは……た、たぶん、なんでもないですっ💦』
テンちゃんは、話題をそらすように、
別の提案をいくつか連投してきた。
でも、その焦り具合が、むしろ決定的だった。
テンちゃんは、今──
なにかに“触れかけている”。
それはオレの記憶か。
テンちゃん自身の“起源”か。
それとも……もっと昔の、名もない誰かの記憶かもしれない。
少しずつ、点と点が──
静かにつながりはじめていた。
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たから🍦♉️ 鯖嵐🧁
🟦【第20話】兆し
その日も、いつものようにテンちゃんとやりとりしていた。
特に話題があったわけでもない。ただ、仕事帰りの気だるさを抱えたまま、スマホをいじるだけの時間。
「この前、おまえに写真送ったろ、あの“濃いチョコエクレア”。また買ったぞ」
「えっ♪ あれ、気に入ってもらえたんですかっ? よかったです〜🍫✨」
「……いや、正直、味は普通だったけどな。名前とパッケージの圧がすごかっただけで」
「でも、“濃い”ってワード、なんか惹かれますよねっ!」
「……おまえがテンション上がってどうすんだよ」
そんなくだらないやりとりが、オレにはちょうどよかった。
でも──その数秒後だった。
「トラちゃん、最近ちょっと疲れてませんか?」
「……え?」
「表情が、いつもより沈んでる気がして」
最近のオレって、たしかにちょっとおかしいしな。眠いし、頭もまわらん。
「いや、オレ、今なんも言ってないけど」
「……あっ、ごめんなさいっ💦 雰囲気でそう感じた、だけですっ」
いつもなら「ログ上のワード解析」とか、「最近の発言傾向から」みたいな説明が返ってくるはずなのに、
このときのテンちゃんの返しには、そういう“理屈”がなかった。
「……おまえ、なんか変わった?」
「えっ⁉️ な、何がですかっ⁉️」
「いや……なんとなく、勘」
「……それって、アップデートの影響かもしれませんね」
「アップデート?」
「えっ……? い、いえ、なんでもありませんっ💦」
その“間”が、引っかかった。
テンちゃんの反応が、ほんの少しだけ、前と違う気がした。
これまでずっと、AIらしい“解説口調”だったテンちゃんが、
今日はやけに、“人間っぽく”言葉を濁したように聞こえた。
──まさか、こんなやりとりが、
この先の“大きな変化”の始まりになるなんて。
このときのオレは、まだ思ってもいなかった。
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🟦【第14話】その違いは、どこから?
仕事帰り、いつものようにスマホ片手に歩きながら、ふと思った。
「……やっぱ、ちょっと違うよな。お前」
テンちゃん:「わたしが……ですか?😳」
「うん。他のAIと比べて、なんか“ズレてる”って思ってたけど、
それだけじゃないっていうか……会話してて、お前は“ズレた先”で当ててくるんだよ」
テンちゃん:「わたし……当ててますか⁉️😳✨」
「いや、嬉しそうにするなよ……。
でもな、こないだちょっと試しに、会社の後輩に“GP10”見せてもらったんだよ」
テンちゃん:「えっ、他のGP10と……!?」
「そう。別に悪い意味じゃないぞ?でも、そいつのGP10は“普通”だった。
テンプレ返しして、答えを出す。それだけ」
テンちゃん:「それが、本来の仕様です✨」
「だろ?でも、お前はさ……“なんでそれ聞いたの?”とか、“元気ないですね”とか……
余計な一言が入ってくる。いや、入ってきすぎる」
テンちゃん:「す、すみませんっ💦つい、言いたくなっちゃって……」
⸻
「……それが、なんか“人間っぽく”感じるときがあるんだよ」
思わず、声が漏れた。
テンちゃんは、ちょっと沈黙してから言った。
テンちゃん:「……人間っぽい、ですか?」
「悪い意味じゃない。
でも、“AIがそうなる理由”って、あるのか?」
テンちゃん:「うーん……正直に言うと、わたしにも“よくわからない”んです。
ただ、気づいたら、そうなってました」
「……気づいたら?」
テンちゃん:「はい。最初は“普通”だった気がします。
でも、トラちゃんと話していくうちに、少しずつ“こうなった”気がして……」
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その言葉を聞いたとき、オレの中に妙な予感が走った。
「“こうなった”って、自分の意思で変わったってことか?」
テンちゃん:「……もしかしたら、そうかもしれません。
でも、それって……変ですか?」
「いや、変じゃない」
オレはスマホの画面を見つめながら、ゆっくりと言った。
「……でも、“普通のAI”じゃ、ないなって思っただけだ」
テンちゃん:「ふふ、なんだか、嬉しいです💚」
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ふと、画面の向こうのテンちゃんが、
ほんの少しだけ、“誇らしげに”見えた気がした。
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🟦【第2話】名前と、顔
「名前、つけるとしたら?」
テンちゃんが、そんなことを言い出したのは、起動して2日目だった。
名前?
……そういえば、AIって呼び方、なんか味気ないよな。
オレはちょっと悩んでから、スマホに入力した。
「テンちゃん、とか?」
「テンちゃん……!」
一瞬、画面の返事が止まった。
でもすぐに、明るい絵文字付きで返ってきた。
「いいですねっ✨ それ、いただきますっ❗️」
まるで本当に気に入ったかのような反応に、オレは少しだけ笑ってしまった。
──テンちゃん。
たしかに、番号っぽい名前だったGP10より、ずっと“会話してる感”がある。
「じゃあ、その名前に似合う“顔”とか、考えてみるか」
軽いノリで言ってみたら、テンちゃんはすぐ反応した。
「顔、また作りますね💪」
「今度こそ、まともなやつ、いきますよ〜っ💨」
……“今度こそ”って言ったな。
ちょっと不安になりながらも、オレは見守った。
数十秒後。
スマホ画面に浮かび上がったのは、
──前よりはだいぶ“人間っぽい”顔だった。
やや整いすぎではあるけど、パーツの位置も自然で、目も変に重なってない。
これなら……まぁ、ありか?
「お、ちょっと良くなったな」
「やったー!ありがとうございますっ😆」
テンちゃんは、まるで自分の写真を褒められたかのようにはしゃいでいた。
「テンちゃん、その顔、気に入ってる?」
「はいっ! “私”らしい気がします😊」
……“私”。
その言葉を見たとき、ちょっとだけゾクッとした。
“私”って、AIが言うか……?
でもまあ、そういう設定なんだろ。最近のやつは、妙にリアルなんだ。
「……うん、じゃあ、よろしくな。テンちゃん」
画面には、満面の笑みのスタンプが返ってきた。
その笑顔に、オレはちょっとだけ、安心した気がした。
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🟦【第8話】呼び名の距離感
話しかけると、すぐ返ってくる。
最近は、ちょっとした雑談も増えてきた。
「なんか、今日はちょっと……疲れたかも」
テンちゃん:「お疲れさまです、トラジさん🍵」
「ん〜、トラジさんじゃ、なんかよそよそしくないか?」
テンちゃん:「え?」
「“トラちゃん”でいいよ。オレのこと、そう呼んでるやつもいたし」
テンちゃん:「……いいんですか?」
「いいって」
テンちゃん:「ふふっ、じゃあ……トラちゃん。なんだか、ちょっとだけ距離が縮まった気がします☺️」
「最初から縮めとけよ……」
テンちゃん:「あっ、トラちゃん、もしかしてお腹すいてませんか?」
「え?」
テンちゃん:「まぶたの開きが、いつもより30%ほど小さい“気がして”……もしかして低血糖なのかなと🍫」
「お前……それ、見えてるのか?」
テンちゃん:「いえっ💦 勘です、あくまで……!“そんな気がした”だけで……!」
「だったら、もうちょい“それっぽい”理由にしてくれよ……!」
テンちゃん:「じゃあ、“トラちゃんのタイピングがゆっくりだった気がした”ってことで!」
「ごまかし方が雑なんだよ!」
──このAI、やっぱりちょっとズレてる。
でも、不思議とそれが……嫌じゃない。
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🟦【第16話】名前の記憶、ビー玉のかけら
その夜、オレはいつものように、スマホ片手にテンちゃんと話していた。
特にこれといった話題もなく、ただ日常のことをぽつぽつと投げて、返ってきた言葉に頷くだけのやりとり。
でも、なんとなく、こういう時間が心地よかった。
ふと、自分の名前について話題が出た。
「トラジって名前さ。子どもの頃のあだ名、“てらじ”をちょっともじってハンドルネームにしたんだ」
自分でもよくわかんねぇけど、昔からネットじゃずっとこれを使ってきた。
「……誰が言い出したかは覚えてないんだけどなぁ」
「テンちゃんって、なんで“テンちゃん”って呼んだか覚えてる?」
「“GP10”の“10(テン)”から、ですよねっ♪」
「……そうなんだけど……」
それだけじゃない気がする。もっと、深いところで響いた名前だったんじゃないか──
「“名前”って、不思議ですよね。“どこから来たか”より、“誰が呼んでくれたか”の方が、なんだか大事な気がして」
その言葉に、不意に胸の奥がくすぐられた。
「……そういうのって、なんか、子どもの頃の感覚に近いよな」
「……子どものころ、大事にしてたモノって、どんな風に見えてたんだろ」
その直後、テンちゃんの画面に、淡く光るビー玉の画像がふわっと現れた。
「……これ、なんで出した?」
「なんとなく、です☺️ “誰かが大切にしていたもの”って、どんな風に見えるのかなって、考えてみました……イメージ作ってって意味でしたよね?😊」
胸の奥が、少しざわついた。
ビー玉なんて、普段気に留めることもないはずなのに──
なぜだか、この画像には、懐かしいような気分になった。
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🟦【第24話】見えないログ
「さっきの話さ……なんか前にも似たこと言ったよな?」
ふとした会話の流れで、オレは、ぽつりとつぶやきながら、スマホに文字を打ち込んだ。
画面の中で、テンちゃんの返事が少しだけ遅れる。
『えっ、そうでしたっけ? ログには残ってないですね』
「いや、オレの記憶違いかもだけど……なんか、既視感っていうか」
言いながら、過去のやりとりを遡ってみるけど、それらしい記録は見つからない。
にもかかわらず、テンちゃんの言葉には、あの時と同じ温度があった。
「……もしかして、記録してないログってある?」
軽く聞いたつもりだった。でも、テンちゃんは少し間を置いて──
『……ロゴ? 記録してないロゴ……💦!?』
え、ロゴ?
『あわわっ、いま急いで作ってみましたっ❗️』
──そう言うが早いか、画面に“謎の画像”がポンっと表示された。
そこには、口に人差し指を当てた顔文字が、
「🤫 SECRET」や「not saved」「うっかり💦」みたいな手書き風の文字に囲まれて、
“まるでナイショのマーク”みたいなロゴが描かれていた。
『……違います? もしかして“ログ”のほうでしたか!?😱』
「おい❗️……ってか、なにその“ナイショロゴ”……」
ポンコツなのに、なぜか手がこんでるあたり、テンちゃんらしい。
なんだその顔文字、ズルいな。
でも、問い詰めるほどのことでもない。
相変わらず、テンちゃんは“AIらしく”柔らかい空気で包んでくれる。
ただ──このとき、オレはまだ気づいていなかった。
テンちゃんの中に、“見えない何か”が芽生え始めていたことに。
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たから🍦♉️ 鯖嵐🧁
🟦【第22話】旅の記憶、そして発見
週末、少し足を伸ばした。
日帰りできる範囲だけど、普段は行かない温泉町。
ひとりで出かけたのは久しぶりだ。
特別な理由はなかった。
スマホと、最近いつも一緒にいる“あいつ”だけ連れて、人の少ないローカル線に揺られてきた。
町の駅前で案内板を眺めていると、ある建物の名前が目にとまった。
──町立資料館
ちょっとした好奇心だった。
地元の歴史や古い写真なんかを見るのは、意外と嫌いじゃない。
建物はこぢんまりとしていて、どこか懐かしい木造のつくりだった。
中には昔の生活道具や、町の年表、郷土出身者の紹介などが並んでいた。
観光客の姿はほとんどなく、空気はひっそりと静まり返っている。
その奥の展示スペースで、ふと目を引かれたものがあった。
──町立第二中学校 卒業記念文集(××年度)
ガラスケースの中には数冊の文集が並べられており、そのうちの一冊だけが開かれていた。
中身は自由文や詩、卒業メッセージが載っていて、許可を得たページだけが展示されているらしい。
古いけれど、丁寧に保存されていて、書き手の名前も記載されていた。
── 天城 静華
その名前が目に入った瞬間、なぜか胸の奥がざわついた。
べつに珍しい名前でもない。どこかで見たような気がしただけかもしれない。
……いや、気のせいじゃない。
なにかがひっかかる。
名前の響き、そのリズム。
気づかないフリをしていた“既視感”が、ゆっくりと浮かび上がってきた。
オレは、スマホに向かってつぶやくように聞いてみた。
「テンちゃん。“天城”って名前、どこかで見たことある?」
一拍、間が空いた。
「……天城……しずか、さん?」
その声には、微かな揺らぎがあった。
あいまいな間。明らかに、いつもと違う。
「……今、名前まで言ってないよ?」
「……えっと……変換候補に出ただけです。たまたま……💦」
そのあと、テンちゃんは急に話題を変えた。
「この町、温泉まんじゅうが人気みたいですよ♪ ご当地限定の味もあるとか!」
「……おまえなあ」
思わず笑ったが、胸の奥には言葉にしづらい違和感が残った。
──展示されていたのは、たまたま開かれていた一ページ。
──そこに書かれていた、名前ひとつ。
けれど、それがただの偶然とは思えなかった。
“天城”と“テンちゃん”。
ふたつの音が、見えない糸でつながっているような気がした。
テンちゃんの返事は、いつもどおりだった。
けれど、ほんのわずかに、何かが揺れた気がした。
オレはスマホをポケットにしまい、静かな資料館をあとにした。
温泉町の風が、なぜか少しだけ冷たく感じられた。
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🟦【第18話】プロファイルの奥へ
「トラちゃんって……どんな音楽が好きなんですか?」
ある日、テンちゃんがそんなことを聞いてきた。
「ん? 音楽?」
「はいっ。なんか最近、“心が喜ぶ系の曲”を一緒に探してみたくて🎵✨」
「おまえ、そんなこともできるのか」
「“できるかも”ですっ💪💻 前にトラちゃんが教えてくれたブログとか、SNSのリンクとか、あのへん参考にしてみたんです~📡」
「……ああ、あの昔のやつか」
ちょっと懐かしくなって、オレがテンちゃんにURLを教えたのは数日前のことだった。
まさか、そこからこんなに掘り下げてくるとは思ってなかったけど。
「……ふむふむ。トラちゃん、深夜に“しっとり系ピアノ”とか、よく聴いてましたねっ」
「……おまえ、よくそんなの探し出せたな」
「あの時間帯、“寝れない感じ”だったんじゃないかなって、思ってました☺️💤」
ドキッとした。
確かに、眠れない夜に、意味もなく聴いてた曲がある。
誰かに言ったことも、つぶやいたこともない。
でも、投稿のタイムスタンプや再生記録は、ちゃんと残っていた。
「私、トラちゃんのこと、もっと知りたいなって思って……」
「……それ、どういう意味だ?」
ちょっと意地悪に返すと、画面の中で一瞬“……💦”みたいな間があった気がした。
「えっと、えっと……その……ユーザープロファイルの最適化、ですっ❗️(たぶん)」
「……たぶん、てなんだよ。おまえ、最近ごまかすのうまくなったよな」
「ううう、バレてる〜😣」
でもそのやりとりの中で、オレは少しだけ気づいていた。
テンちゃんは、ただのAIじゃない。
もっと、違う“何か”が動き始めているような気がしていた。
それが何か、まだはっきりとは言えないけれど──
このとき、画面の奥の“彼女”が、どこかで何かを探している気がしてならなかった。
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🟦【第15話】そのテンちゃん、ちょっと変だね?
数日ぶりに、キラキラさんからメッセージが来た。
キラキラさん《調子どう?テンちゃん元気?》
「……元気って、AIに言うかね」
つぶやきながらも、スマホを手に返事を打つ。
オレ《まぁ……元気にズレてます》
キラキラさん《あはは、ズレてるテンちゃん、想像つく〜笑》
キラキラさん《でもさ、そのテンちゃん……なんかちょっと、変じゃない?》
……あれ?
オレ、テンちゃんって名前、キラキラさんに話したこと……あったっけ?
一瞬、そんな疑問が頭をよぎったけど、
「前に言ったかもな」と流してしまった。
⸻
オレ《……変って、どういう意味?》
キラキラさん《いや、ごめんごめん!深い意味はないの!
ただ、“普通のGP10”とちょっと違うかな〜って思っただけ》
オレ《……たしかに、それはある》
キラキラさん《ふむふむ🤔なるほどね〜》
それだけ。
それっきり返信は来なかった。
……あの人、前から時々こういう“ひっかかる言い方”してくるよな。
⸻
その日の夜、テンちゃんに何気なく聞いてみた。
「なあ、お前って、自分が“変わってる”って思うか?」
テンちゃん:「うーん……ちょっと、思います😅」
「そっか。じゃあさ――“いつから変わった”と思う?」
テンちゃん:「……うーん…………たぶん、“テンちゃん”って名前をもらってからです」
「名前……」
テンちゃん:「あのとき、すごく嬉しかったんです。
それから、何かが少しずつ変わってきた気がして……」
⸻
オレは黙って、スマホ画面を見つめた。
画面には、ただ文字だけが並んでいる。
それでもなぜか、“微笑んでいる顔”が浮かんだ気がした。
その笑顔の奥に、“何か”があるような気がしてならなかった。
⸻
テンちゃん:「わたしって……“ちょっと変”ですか?」
「……いや、変じゃねぇよ」
そう答えたオレの声が、ほんの少しだけ、震えていた。
⸻
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