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わんわん

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Y1実際に体験したことを、小説風に書いていきます。
全10話。
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『Y氏の憂鬱』

第1話

その男は、カウンター席でいつもジャックダニエルをロックで飲んでいた。

まるで、琥珀色の液体が退屈な時間を埋めてくれると信じているかのように……。


ーー社会人5年目の俺は、会社帰りに立ち寄れるバーを見つけた。
地下にある小さな店だが、マスターは気さくで物知りだった。
そして何より、カウンターの正面の棚には、世界中の酒が全部あるのではないかと思えるほど、天井までみっちりと酒瓶が並んでいた。

……余談だが、この頃の俺には困った流行りがあった。
新しいショットバーに行くと「 この店で1番不味い酒を飲ませて下さい!」と注文するのだ。
この店でもやった。

マスターはしばらく悩んだ後、赤と黄色が斜めに走ったダサいデザインのボトルを、目の前に置いた。
「……これ、不味いよ。ポップコーンからつくられた酒だ」

その、甘ったるく香ばしい不味さったら!
しかもずーっと口の中に居座ろうとする。
未だにあれを超える不味い酒と出会ったことはない。
いや、サソリが漬かったテキーラも相当だったな……?

おっと、話を戻そう!

俺はその時、マスターに、昨日見たホラー映画がどれだけ怖かったかを、話していた。

すると、横でジャックダニエルを飲んでいたスーツ姿の男が、唐突に俺の方を向いた。

「え? 幽霊を見たことがあるの?」

「いや、ないですよ〜!」

「え……? 見たことないのに、なんで怖いの!?」

その男は、おそらく当時の俺より10歳くらい上だと思う。30代半ば。
少し長めの髪を真ん中で分けている。
頬が少しコケていて、とても整った顔をしていた。

「ねえ!? なんで映画の演出だけで、幽霊が怖いって決めつけるの!?」

俺を見つめる大きな瞳は、知らない虫を見つけたの小学生のようにキラキラと輝いていた。


#Y氏の憂鬱
#連載小説
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『わんわん再放送』完了のお知らせ

過去に投稿した、連載小説の全ての話にハッシュダグ付けが終わりました〜!!(;´∀`)
これで、一気読みできるようになった〜✨←自己満

#紅血龍と香水
#ペルセウス座流星群の夏
#メモリーローン
#Y氏の憂鬱
#秋のカブトムシ
#一片の雪  (なぜ、これだけ青くならない!?)

長々といっぱい連投しちゃってごめんね〜!💦
これからは慎ましく、ホタルイカの投稿メインでやっていこうと思います!笑

もし、時間があったら、小説を読んでやって下さい。読みやすいと思いますので……。

ではでは。🦑
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連載小説です。1話からどうぞ。
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最終話


Y氏は、カウンターにあごをのせたまま言った。

「……レオナだ」

俺の頭に、赤い髪のキリッとした眉の女性ボーカルが浮かんだ。

『私、あの人、嫌いだな……! いっつも女ったらしでさ!』

「……Y氏、レオナさん口説いたんですか!?」

Y氏は、眠そうに長い息を吐いた。

「逆だ、ぎゃく〜。口説かれたんだ〜」

俺は、ミントビールをぐびぐびとあおった。

「女心って、分かんないですね……」

Y氏はコクリとうなずいた。

「 全くだ……! 身籠ったとたん、鬼のように怖いもんな〜。『これからは、心霊スポットみたいなバカみたいな所にはいかないで!』だってさ……」

俺がさんざん怖がった場所を、レオナさんは「バカみたいな所」 で一蹴した。

ーー不意に、少し酔った頭に、ある光景が浮かんだ。

真っ暗で不気味な室内に、剥がれたタイルと割れたガラスが散乱している。
これは、……はじめにY氏に連れて行かれた、日無峡の廃旅館の大浴場だ。 
そこへ、Y氏が目を輝かせて入ってきた。
その後ろから、小学生くらいの少年が現れた。
少年は、キリッとした眉の聡明な顔立ちをしている。
Y氏がキョロキョロと室内を見渡していると、その背中に少年が声をかけた。

「ねえ、パパ。こんなバカみたいな所に、幽霊はいないよ。……もし幽霊がいるとすれば、それは見える人の心の中にいるんだよ」

ガラスのない窓から、不意に陽の光が差した。
ホコリがキラキラと陽光を反射し、室内はただのがらんとした火事の跡に変わった。
それは、無人の公園にポツリと残された、サッカーボールを思わせた。

俺は、はっと我にかえる。
なんだか、とても頭の中がクリアに感じる。
心が、なぜか幸せな気持ちに満たされていた。 

「 マスター! シャンパンを一本!」

「もう飲めない〜」 とグダるY氏に、俺は無理やりシャンパングラスを握らせた。

「 Y氏、今まで俺をさんざん怖いとこに連れてったくせに! 1杯くらい付き合いなさい!」

バーのマスターとY氏は、グラスを持ち上げる。
俺は立ち上がった。

「では、Y氏とレオナさんの婚約を祝しまして……」


ーーーー完


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DIAMONDS (ダイアモンド)

PRINCESS PRINCESS

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9話

俺はボーカルの女性に、ビールを奢った。
瓶の口にライムが刺さったビールで乾杯をし、ライムを瓶に落とす。

女性は「レオナ」と名乗った。
赤い髪とキリッとした眉毛が印象的だ。
俺より5歳くらい年上だろうか。
レオナさんと話をしていると、後ろから声をかけられた。

「わんちゃん! 来てくれたのか!」

振り向くとY氏が立っていた。

「演奏、楽しめた?」

「はい! 凄い格好良かったです!」

返事を聞くと、Y氏はにっこりと笑って、すぐに自分のテーブルへ帰っていった。
Y氏のテーブルは、いつの間にか女性が3人に増えていた。

ふとレオナさんを見ると、彼女はY氏とその取り巻きを睨むように見ていた。

「私、あの人、嫌いだな……! いっつも女ったらしでさ!」

……対バンでよく一緒になるそうだが、どうやらY氏にいい印象を持っていないようだ。

レオナさんの周りに人が増えてきたので、俺はタイミングをみて席を外した。
Y氏は、3人の女性たちときゃっきゃと楽しそうにしている。
俺は静かに店を出た。


ーーそれから、季節は巡った。
徐々に気温は下がり、もう心霊スポットへ行くような季節ではない。
Y氏の幽霊に会いたい熱も、落ち着いてきたようだ。

ある肌寒い夜。
残業をして、少し遅い時間にバーに行くと、Y氏がぐだぐだに酔っていた。

「あれ? 珍しく酔ってますね〜」

俺は隣に座り、ミントビールを注文した。
(この頃の俺の流行り。ビールにミントリキュールを入れただけのオリジナルカクテル。ようは、スッキリする酒精強化ビールだ)

Y氏は、突然こう言った。

「女に子供ができちゃってさ〜。結婚することになったよ〜」

いきなりのカミングアウト。

「そ、それは! ……おめでとうございます!」

Y氏は、ジャックダニエルが注がれたグラスをじっと見る。

「一回やっただけだぜ? 大当たりってやつさ……」

俺はなんとも言えず、少し話のベクトルをずらした。

「相手の方、きっと素敵な方なんでしょうね……」

Y氏は、だらっと机にあごをのせた。

「 怖い女だよ。え〜と……。わんちゃんも知ってるはずだよ……?」

「え!?」

Y氏は顔を上げずに言った。

「……レオナだ」


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8話

「次の金曜日、ライブやるんだけど、わんちゃん来てよ!」

Y氏はいつものバーで、俺にチケットを渡した。

「 Y氏、音楽やってるんですか?」

「言ってなかった? バンドでベースやってるんだよ」

「へぇ〜! どんな曲を演るんですか?」

「Mr.BIGとかボンジョビとかの、カバーだよ」

「少し古いロックが好きなんですね!?」

Y氏は少し考えて言う。

「たまたま18の頃に聴いてた、ってだけだよ。誰だって、18の時に聴いた曲が人生で一番好きだろ?」


金曜日。
俺はライブハウスへやってきた。
そこはビルの上階にあり、店内は学校の教室2つ分くらいの大きさだった。

どうやら、2つのバンドが対バン形式でライブをするようだ。

しばらくすると、狭いステージに男たちが上がった。
ベースを抱えた、黒いシャツを着たY氏の姿もあった。
Y氏は、少し長い髪をリーゼント風に立てて、目にうっすらと赤いアイシャドウを塗っていた。
それはなかなか色気のある姿だった。

Y氏は意外にも、目立つ演奏をするわけではなく、淡々とベースを奏でた。
ボーカルはホスト上がりのようなロン毛だったが、英語の発音が素晴しく、気持ちよく聴くことができた。

Y氏たちのバンドが終わった後、入れ替わりに女性ボーカルのバントが上がった。
そのバンドは、少し古いJ-POPを演奏した。
赤い髪の30歳くらいボーカルは、ハスキーな声で歌った。
あまり知らない曲が多かったが、プリンセス・プリンセスの「ダイヤモンド」 は聞いたことがあった。
ボーカルの声質と合っていて、とても気持ち良かった。

2つ目のバンドの演奏も終わり、客席が明るくなった。
俺は、チケットをくれたY氏に一杯奢ろうと、店内を見渡した。
Y氏は、すでに客席で飲んでいた。
隣には、小柄な女性がおり、二人は人目をはばからずにいちゃいちゃしている。

俺が声をかけるのをためらっていると、カウンター席に座る俺の横に、2つ目のバンドの女性ボーカルが座った。
俺は少し迷ったが、声をかけた。

「ダイヤモンド、凄く雰囲気に合ってて、素敵でした!」

女性は少し驚いた顔をしたあと、ニッコリと笑った。

「ありがと! あの曲、大好きなのよね〜!」


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第6

「オーナーの幽霊さんっ!! いますかーっ!!」

Y氏の大声は建物の闇の中を反響して、暫くして消えた。

俺は、Y氏の突然の奇行に驚いた。

(Y氏は、ついに幽霊と対峙するつもりなんだろうか……!?)

ところが、Y氏は俺の方を向いてこう言った。

「さ、帰ろっか!」


車まで戻ったY氏は、車のボンネットにもたれてゆっくりとタバコを吸い始めた。
俺はまだドキドキしながら、聞いた。

「なんで、幽霊を呼んだんですか……?」

Y氏は、廃旅館を見上げたまま、フーッと口から煙を吐いた。
車にもたれるダブルのスーツを着たY氏は、1980年代のCDのジャケットを彷彿とさせた。悔しいが、なんかかっこいい。

「どうやらここには、幽霊はいないからさ……」

俺は驚いて聞く。

「え!? それは、何故……?」

Y氏は建物をぼんやりと見上げながら言う。

「噂だと、この旅館、食中毒を起こした料理長をオーナーが殺した。そしてオーナーも首を吊って潰れた、ってなってるけど……。違うよね? 
……館内の落書き、ぜんぶ黒い壁の上から描いてあっただろう? つまり、廃墟になった時は、壁はもう黒かったんだ」

俺はY氏の真意が分からず、その少し痩けた頬を見ていた。

Y氏は、残念そうに口を開いた。

「……どうやら、潰れたのは火事が原因だな」

「 え!? 火事ですか!?」

「ガラスがぜんぶ内側に割れてる。人が届かない場所もだ。……これは消防車の放水の影響だろうな」

……bb弾と一緒に、床の至るところに散らばっていたガラス。

「火元は、3階だろう。おそらく大浴場のボイラー室か。一番焼けてたもんな」

上へ行くほど黒く不気味になっていく館内。あれは、単純に焼けた跡だったのか……!?

「火は普通、上へ上へと向かうもんだ。恐らく下の階にそんなに影響は出なかっただろう。館内の人はみんな避難できたはずだ。……それに、もし旅館の火事で死者が出てれば、もっと騒がれてる」

Y氏はうーん、と伸びをした。

「噂は、所詮噂だな〜。実際、来てみるもんだなぁ」

眉を下げて、申し訳無さそうな表情で俺を見た。

「 わんちゃん、幽霊に会わせられなくて、悪かったね。今度は、ちゃんと出る場所に行こうね!」


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第4話

風が木々を揺らした。
その奥に、苔の生えた年老いた亀のような、古びた旅館があった。
鉄筋コンクリート造なので、かなりの期間放置されているようだが、しっかりと建っている。

Y氏は、なんだか初めて友達の家に来たみたいに、キョロキョロと建物を観察しながら言った。

「わんちゃん。この旅館がなんで潰れたのか、知ってる?」

「噂では聞いたことがあります……」

俺がネットや噂で知っているのはこんな話だ。

ーーーー昭和の半ば。
普通に営業していたこの旅館は、ある時、客相手に食中毒をおこしてしまった。
たちまち客足が遠のき、経営難におちいってしまう。
腹をたてたオーナーは、料理長を殺害して近くの林に埋めた。
しかし、料理長の死体は通行人に発見されてしまう。
警察の捜査の手が、旅館へ伸びる。
警察が旅館に踏み込んだとき、オーナーは旅館内で首を吊って死んでいた。

「……それ以来、建物の外には彷徨う料理長の幽霊。中にはオーナーの幽霊が出るんですよね……?」

ざわざわと揺れる木々を見て、俺は身震いをした。

「うん。俺の知っている話と同じだね。見てよ。窓ガラスがぜんぶ割れちゃってる」

俺は真っ黒い建物を見上げた。
3階建ての建物には窓がたくさんあったが、その全てにガラスが無く、中には真黒な闇が広がっていた。
Y氏は、割れた窓に無遠慮に頭を突っ込んだ。

「こりゃあ、尾崎豊が現れたかな? 外側から全部だなぁ…… 」

Y氏は「夜の校〜舎、窓ガラ〜ス、壊して回った〜♪」と歌いながら、ずんずんと建物に沿って歩きはじめた。
俺はこんなところに置いていかれてはたまらん、と急いで後を追う。

角を曲がると、正面玄関らしい、大きな開口部があった。
中はやはり真っ暗闇だった。そこに何かがうごめいているような気がして、俺は泣きたくなってきた。
さっき観た「CANDY MAN」 も頭をよぎるし!

「ほ、本当に入るんですか……!?」

俺が聞くと、Y氏は無邪気に笑った。

「分かれてもいいよ〜? わんちゃんが料理長の幽霊の担当する?」

「い、 いえ! ご一緒します!!」


携帯のライトをオンにして、俺たちは廃旅館に足を踏み入れた……。

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第3話

翌日の夕方、Y氏はでかい4WDを店の前に停めていた。

「わんちゃん、行こうか! 楽しみだねぇ〜!」

俺は心霊スポットなんて行きたくなかった。
だって、ホラー映画がどれほど怖かったか、マスターに話していたばかりだよ!?

「……で、どこに行くんですか?」

俺は、鼻歌交じりに車を走らせるY氏に聞いた。
Y氏はそれには答えず、横目で俺を見た。

「わんちゃん、ホラー映画が怖いんだね?」

「 まあ、モノによっては怖いですね」

Y氏は. 嬉しそうに微笑むと、カバンから光るディスクを取り出した。そして、カーナビの下に差し込む。

「 今日ね、職場のホラー映画マニアに『一番怖い映画なに?』って聞いたんだ。で、わんちゃんに観せてあげようと思って借りてきたんだよ〜」

画面に浮かび上がる陰鬱とした文字。
『CANDY MAN』

「……え〜っと、確認ですが、今から心霊スポットに行くんですよね?」

「そうだよ〜。こんなの観ながら行ったら、盛り上がるよな〜!」

「……」

俺は、Y氏の言う「盛り上がり」 がどんな感情を指すのか、全く理解できなかった。
画面の中では「 CANDY MAN」が次々と人を殺し、車は北へ北へと進んだ。

「 CANDY MAN」という映画は、怖いと言うより、悲惨な映画だった。あんな主人公のような目には絶対あいたくない。

余談だが、俺はあの映画を観てから現在まで、厳守していることが1つある。
それは、どれだけ酔っても、夜中に鏡の前で「 CANDY MAN」と3回言わない、ってことだ。
みんなも面白半分でも、やめたほうがいいよ!

さて、車中の俺のテンションは「 CANDY MAN」のお陰で、落ちることまで落ちていた。
しかしY氏は「ははぁ〜ん。黒人差別とホラーの組み合わせかぁ、なかなか斬新だなぁ〜」と、歌うように言うのだった。

外はもう真っ暗だ。
ヘッドライトに照らされて、看板が見えた。
『日無峡(ひなきょう)へようこそ』

……日無峡。
住んでいる人には申し訳ないが、この地方の人なら誰もが知っている、超有名心霊スポットがある場所だ。

Y氏の車はもちろん、一切の迷いなくその場所で停車した。

目の前には、黒々とした木々に覆われた巨大な廃旅館があった……。

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