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わんわん
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第6
「オーナーの幽霊さんっ!! いますかーっ!!」
Y氏の大声は建物の闇の中を反響して、暫くして消えた。
俺は、Y氏の突然の奇行に驚いた。
(Y氏は、ついに幽霊と対峙するつもりなんだろうか……!?)
ところが、Y氏は俺の方を向いてこう言った。
「さ、帰ろっか!」
車まで戻ったY氏は、車のボンネットにもたれてゆっくりとタバコを吸い始めた。
俺はまだドキドキしながら、聞いた。
「なんで、幽霊を呼んだんですか……?」
Y氏は、廃旅館を見上げたまま、フーッと口から煙を吐いた。
車にもたれるダブルのスーツを着たY氏は、1980年代のCDのジャケットを彷彿とさせた。悔しいが、なんかかっこいい。
「どうやらここには、幽霊はいないからさ……」
俺は驚いて聞く。
「え!? それは、何故……?」
Y氏は建物をぼんやりと見上げながら言う。
「噂だと、この旅館、食中毒を起こした料理長をオーナーが殺した。そしてオーナーも首を吊って潰れた、ってなってるけど……。違うよね?
……館内の落書き、ぜんぶ黒い壁の上から描いてあっただろう? つまり、廃墟になった時は、壁はもう黒かったんだ」
俺はY氏の真意が分からず、その少し痩けた頬を見ていた。
Y氏は、残念そうに口を開いた。
「……どうやら、潰れたのは火事が原因だな」
「 え!? 火事ですか!?」
「ガラスがぜんぶ内側に割れてる。人が届かない場所もだ。……これは消防車の放水の影響だろうな」
……bb弾と一緒に、床の至るところに散らばっていたガラス。
「火元は、3階だろう。おそらく大浴場のボイラー室か。一番焼けてたもんな」
上へ行くほど黒く不気味になっていく館内。あれは、単純に焼けた跡だったのか……!?
「火は普通、上へ上へと向かうもんだ。恐らく下の階にそんなに影響は出なかっただろう。館内の人はみんな避難できたはずだ。……それに、もし旅館の火事で死者が出てれば、もっと騒がれてる」
Y氏はうーん、と伸びをした。
「噂は、所詮噂だな〜。実際、来てみるもんだなぁ」
眉を下げて、申し訳無さそうな表情で俺を見た。
「 わんちゃん、幽霊に会わせられなくて、悪かったね。今度は、ちゃんと出る場所に行こうね!」
#Y氏の憂鬱
#連載小説

コメント
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COCCO@ネ

おハム
#lovefighters

あしざ
これぬいにつけたら一つの個体にかわいい顔が2つ付いてるの本当にやばい

ガナ⚽


とい

中央に

だう

ゆう

れう

ドンマ
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たきこみ
1話から読ませて頂きました! とても読みやすくて、引き込まれました!続き楽しみにしてます![大笑い]
jiro-chan
Y氏の観察力すごい👏👏👏