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わんわん

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連載小説です。1話からどうぞ。
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最終話


Y氏は、カウンターにあごをのせたまま言った。

「……レオナだ」

俺の頭に、赤い髪のキリッとした眉の女性ボーカルが浮かんだ。

『私、あの人、嫌いだな……! いっつも女ったらしでさ!』

「……Y氏、レオナさん口説いたんですか!?」

Y氏は、眠そうに長い息を吐いた。

「逆だ、ぎゃく〜。口説かれたんだ〜」

俺は、ミントビールをぐびぐびとあおった。

「女心って、分かんないですね……」

Y氏はコクリとうなずいた。

「 全くだ……! 身籠ったとたん、鬼のように怖いもんな〜。『これからは、心霊スポットみたいなバカみたいな所にはいかないで!』だってさ……」

俺がさんざん怖がった場所を、レオナさんは「バカみたいな所」 で一蹴した。

ーー不意に、少し酔った頭に、ある光景が浮かんだ。

真っ暗で不気味な室内に、剥がれたタイルと割れたガラスが散乱している。
これは、……はじめにY氏に連れて行かれた、日無峡の廃旅館の大浴場だ。 
そこへ、Y氏が目を輝かせて入ってきた。
その後ろから、小学生くらいの少年が現れた。
少年は、キリッとした眉の聡明な顔立ちをしている。
Y氏がキョロキョロと室内を見渡していると、その背中に少年が声をかけた。

「ねえ、パパ。こんなバカみたいな所に、幽霊はいないよ。……もし幽霊がいるとすれば、それは見える人の心の中にいるんだよ」

ガラスのない窓から、不意に陽の光が差した。
ホコリがキラキラと陽光を反射し、室内はただのがらんとした火事の跡に変わった。
それは、無人の公園にポツリと残された、サッカーボールを思わせた。

俺は、はっと我にかえる。
なんだか、とても頭の中がクリアに感じる。
心が、なぜか幸せな気持ちに満たされていた。 

「 マスター! シャンパンを一本!」

「もう飲めない〜」 とグダるY氏に、俺は無理やりシャンパングラスを握らせた。

「 Y氏、今まで俺をさんざん怖いとこに連れてったくせに! 1杯くらい付き合いなさい!」

バーのマスターとY氏は、グラスを持ち上げる。
俺は立ち上がった。

「では、Y氏とレオナさんの婚約を祝しまして……」


ーーーー完


#Y氏の憂鬱
#連載小説
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コメント

たきこみ

たきこみ

1 GRAVITY

執筆お疲れさまでした🎉 Y氏の憂鬱が、まさかの展開でした[大笑い] とても読みやすかったです!

返信
わんわん
わんわん
わー、読んでくれてて、感想までありがとう!!😭💦 まさかのハッピーエンドだったでしょ!?笑
1 GRAVITY
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