「うっせぇわ」と「IDOL」：評価の変遷が問う、音楽批評の現在地

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塩分

2025/11/26

「うっせぇわ」と「IDOL」：評価の変遷が問う、音楽批評の現在地

2020年の「うっせぇわ」リリース時、音楽批評界隈には少なからず冷ややかな視線が存在した。その直接的な言葉遣いや社会への反骨精神むき出しのスタイルは、長らく「行間を読む」文化や、より抑制された表現を是としてきた伝統的な批評の枠組みには収まりきらなかったのである。一部の年長世代や識者からは、「教育上よろしくない」といった論調や、「一過性の流行歌」として片付ける向きもあった。彼らにとって、「うっせぇわ」は、社会の複雑さを単純化しすぎた、未熟な若者の叫びとして映ったのかもしれない。

しかし、数年の時を経て、Adoというアーティストの軌跡、そして特に「IDOL」（「推しの子」オープニング主題歌）の記録的な大ヒットは、当時の否定的だった評価が、いかに近視眼的であったかを痛烈に示唆している。

「IDOL」は、国民的アニメの主題歌としてだけでなく、Spotifyの「海外で最も再生された国内アーティスト」でAdoが1位に輝く原動力の一つとなり、世界的なヒットを記録した。この事実は、「うっせぇわ」の成功が単なる国内の社会現象にとどまらず、彼女の表現スタイルが持つ普遍的な魅力と、インターネット時代の音楽の届け方が、もはや従来の評価軸では測れないスケールに達していることを証明したと言える。

当時の批評家たちが「うっせぇわ」に対して向けた懸念や冷笑は、結果として、新しい時代の音楽の勃興に対する理解不足や経験主義的な限界を露呈させる形となった。

「IDOL」の大成功は、Adoが持つ表現者としての確かな実力と、時代の空気を見事に捉えるプロデュース能力（ボカロPによる楽曲提供という文化背景も含む）が融合した結果であり、もはや「一発屋」などではない、揺るぎない地位を築いたことの証左である。

この変遷は、音楽批評という営み自体に、絶え間ない自己更新を迫るものである。過去の成功体験や慣れ親しんだ価値観に固執することは、新しい才能を見逃すリスクを伴う。当時の否定的意見を「揶揄」するのは簡単だが、むしろ私たちは、この現象を通じて、批評家自身が時代の変化に対してどれだけ柔軟であるか、その「感度」が常に試されていることを認識すべきであろう。

「うっせぇわ」から「IDOL」へ。Adoの軌跡は、インターネット時代の音楽が持つ爆発力と、それがもたらす新たな評価基準の確立を象徴しており、かつての冷淡な批評家たちへの、理知的で含蓄深い静かなる反論として機能しているのである。