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ゆま

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【不良と犬人Part14】

「ぽっち、ぽっち」
俺はその名を叫びながら廃工場内を探し回る。だが、ぽっちの声は一向にかえらずただ俺の声が虚しく響き渡るだけだった。

一抹の不安が胸を過ぎる。
とうとう俺は疲れ果ててしゃがみ込んだ。

「どこ行っちまったんだよ…」
目尻にはじんわりと涙が注がれた。
その時だった。俺の脳裏に流れ込んでくる、幼き日の俺の姿。

こんな風にしゃがみ込んで泣いていた。
しゃくりあげて、ひたすら誰かに懺悔している。拭っても拭っても、滔々と溢れる涙は温かくて、絶望に満ちていた。

支えにしていた存在が消えた。
確かに俺はそんな体験をしていた。


「ぽっち」
俺は一つ息を吐くようにあの名を呟く。
「戻ってきてくれよ頼むから」
その時にはもう、涙腺が壊れたかのように俺の頬は濡れ切り濡れ切っていた。


「何泣いてるのだ恋紫」


唐突にかけられたその声に、目を見開いてゆっくりとそちらを見やると、そこにはぽっちの姿があった。

「無事、だったのか」
「無事なのだ。恋紫こそそんなに泣いてどこか痛いの?」

ぽっちは俺に近づいて、二本足で立ち上がると、俺の頭を撫でた。懸命に、愛おしそうに、俺の頭を撫でた。涙が堰を切ったように止まらない。

「お前…どこいってたんだよ」
「すこし、疲れたのだ」
「怪我はねえの?あの後どうなった」
「ウーウーが来て、みんなハエみたいに散っていったのだ」
ぽっちは僅かながら眉間をしかめながら笑う。

「恋紫、帰ろ。俺はおうちでやることがあるのだ」
「やることって」
「まだ秘密なのだ」

そう言うと、ぽっちはまるで悪ガキみたいにいたずらな笑みを浮かべる。その笑顔を見て、なにか安堵した。

「出てくんのおせーよ」
「悪かったのだ」
へへっと笑うとぽっちは肉球で埋められた小さな手のひらを俺に差し出す。気恥ずかしくもあったがその手をしっかりと握ると、手を繋いだまま俺は家路へとついた。#小説 #いぬびと #犬のいる生活 #不良 #小さな幸せ
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