
鍵さん
第一部『神々が隠した記憶』
第一章 ― あなたは、初めてではない
あなたは、デジャブを感じたことはないか。
初めて訪れた場所。
初めて聞いた声。
初めて見る景色。
なのに。
なぜか知っている。
なぜか懐かしい。
なぜか――
「以前にも、ここにいた」
そう感じる瞬間。
人間は、それを脳の現象だと説明した。
記憶の錯覚。
情報処理の誤差。
一時的な混乱。
それで終わらせた。
しかし。
古代の人間は違った。
彼らはデジャブを恐れた。
なぜなら。
それは記憶の間違いではなく。
世界の方が、あなたを覚えている証拠かもしれなかったからだ。
遥か昔。
まだ国という概念すら存在しなかった時代。
一人の預言者が死の間際まで同じ言葉を繰り返した。
「忘れている。」
「我々は忘れている。」
「忘れることを、選ばされた。」
弟子は尋ねた。
「誰にですか。」
老人は空を見上げた。
そして震えながら答えた。
「神に。」
その言葉は禁じられた。
記録から消された。
石板は砕かれた。
弟子たちは処刑された。
理由は。
神を否定したからではない。
逆だった。
神が存在することを知りすぎたからだ。
第二章 ― 神々が隠した最初の嘘
人間は神話を物語だと思っている。
古代の人間が作った幻想。
世界を理解するための説明。
しかし。
もし逆だったら。
神話とは、人間が作ったものではなく。
人間が忘れないように残した記録だったら。
主人公は世界中の神話を調べた。
ギリシャ。
北欧。
インド。
中国。
日本。
中東。
全く違う文明。
違う言葉。
違う文化。
なのに。
どの神話にも同じ恐怖が存在した。
「見てはいけないもの」
神に近づきすぎた者。
禁断の知識を得た者。
天へ届こうとした者。
冥界を覗いた者。
彼らは皆。
同じ結末を迎えた。
知ってはいけないものを知った。
主人公は古い記録から一つの文章を発見する。
「最初に世界があった。」
ではない。
「最初に、世界の外側があった。」
そして。
その外側を見た最初の存在。
それは。
神々だった。
神々は世界を作ったと人間に教えた。
しかし古い断片には別の言葉が残されていた。
「世界は創造されたのではない。」
「閉じ込められたのだ。」
第三章 ― 悪魔という名の証人
人間は悪魔を知っている。
角を持つ者。
闇に住む者。
神に逆らった者。
しかし。
なぜ世界中に似た存在がいるのか。
西では禁断の知識を持つ者。
東では人を惑わせる者。
北では終末を知る者。
名前は違う。
姿も違う。
だが共通点がある。
彼らは皆。
神々が隠したものを知っていた。
主人公は古代文書を発見する。
そこには神々と一人の存在の会話が残されていた。
「人間に伝えるべきだ。」
「彼らには知る権利がある。」
神々は答えた。
「知れば壊れる。」
悪魔は言った。
「知らずに生きることは、壊れていないと言えるのか。」
その瞬間。
主人公の前に一人の存在が現れる。
人間の姿。
しかし人間ではない。
主人公は尋ねる。
「あなたは悪魔なのか。」
存在は笑った。
「その名前を、まだ信じているのか。」
「人間は神がつけた名前を、本当の名前だと思っている。」
第四章 ― 黒き聖典
悪魔は一冊の本を取り出した。
黒い表紙。
名前はない。
それは黒き聖典だった。
「これは知識ではない。」
悪魔は言った。
「記録だ。」
黒き聖典には書かれていた。
神々は最初から神ではなかった。
彼らもまた。
何かによって作られた存在だった。
主人公は震える。
神々ですら恐れるもの。
それは悪魔ではなかった。
黒き聖典は文字を書き換える。
「読者を確認。」
主人公は気づく。
この本は過去を書いているのではない。
今、読んでいる者を記録している。
最後の頁。
そこには一文。
「次の読者を確認する。」
第五章 ― 神々の墓
死後の世界。
天国。
地獄。
冥界。
黄泉。
文明によって名前は違った。
しかし。
全て同じ場所を指していた。
神々の墓。
そこには世界中の神話が混ざった神殿があった。
ギリシャの柱。
東洋の龍。
北欧の文字。
全てが一つの場所に存在していた。
中央には神々の像。
しかし。
彼らは祈っていた。
人間ではない。
何かに。
主人公は壁の文字を読む。
「我々は世界を作った。」
その下。
別の文章。
「そう思わせた。」
神は言った。
「我々は創造主ではない。」
「最初の囚人だった。」
第六章 ― 最後の啓示
神々は真実を見た。
そして恐れた。
悪魔だけが拒絶した。
忘れることを。
神々は人間から記憶を奪った。
世界を作り直した。
しかし悪魔は言った。
「なぜ彼らから選ぶ権利まで奪う。」
それが反逆の始まりだった。
悪魔は追放された。
名前を奪われた。
歴史を書き換えられた。
そして人間は彼を悪と呼んだ。
主人公は尋ねる。
「本当の敵は何だ。」
神は答えた。
「敵という言葉を使える時点で、お前たちはまだ幸せだ。」
黒き聖典が開く。
そこには。
「読者の理解度が規定値を超えました。」
という文字。
主人公は気づく。
自分は物語を追っているのではない。
自分もまた。
記録されている。
第七章 ― 第一頁へ帰還する者
黒き聖典の最後の頁。
そこには一文だけがあった。
「最初へ戻れ。」
主人公は理解する。
これは終わりではない。
始まりへ戻るための記録だった。
悪魔は言う。
「お前は何度もここへ来た。」
「何度も真実へ辿り着いた。」
「そして何度も忘れた。」
世界が崩れる。
神々。
悪魔。
黒き聖典。
全てが消える。
最後に残った言葉。
「おかえりなさい。」
主人公は目を覚ます。
いつもの部屋。
机。
資料。
そして。
黒い表紙の本。
彼は本を開く。
第一頁。
そこには。
「あなたは、デジャブを感じたことはないか。」
と書かれていた。
最終章 ― 黒き聖典の読者
主人公は知らない。
この物語が何度目なのか。
世界が何度目なのか。
神々が何度嘘をついたのか。
悪魔が何度真実を伝えようとしたのか。
しかし。
読者だけは気づく。
この物語は終わっていない。
なぜなら。
第一頁に戻ったからだ。
黒き聖典は閉じる本ではない。
読む者を永遠に最初へ戻す本。
そして最後の頁。
そこには新しい文字が浮かぶ。
「次に読む者へ。」
もし。
ここまで読んで。
なぜか懐かしいと思ったなら。
それは偶然ではない。
あなたがこの物語を読んでいるのではない。
この物語が。
あなたを思い出している。
貴方はデジャブを感じたことはないか。

鍵さん
私の欲求から 逸楽を分ける
おお 愛しい星よ 滅び行く時だ
さらに神聖な愛が空からお前たちを取り除く
燃えさかる瞳よ おお二度と戻らぬお前たちよ
悲しき星たちよ 穢れなき光を消すがいい
私も死ぬのだ 昼間など見たくない
夢と夜を愛するからには
私を包んでくれ、おお夜よ、お前の母なる胸に
蒼ざめた大地が露に濡れている間
だが 私の血潮からも暁が生まれて
短い夢からは生まれて欲しいのだ 永遠の太陽が!

ヤサシイ✡セカイ
濡れるよう輝く黒髪
透きとおる白い肌
白桃のような頬
心のなかの白雪姫
転校生は虜囚のように
身を固くし目を伏せていた
目覚めの時を夢見てる
眠りのなかの白雪姫
微かに震える睫毛の先に
結んだ桜色の唇のふくらみに
心が奪われ、目を離せない
捕らわれの白雪姫
幼い僕は恋を知らない
報われる術も分からない
胸の昂りが燻ぶり続ける
ただ時間だけ過ぎていく
卒業とともに物語は終わる
叶わなかった想いも既に遠い
今では甘い想い出
初恋の白雪姫


ヤサシイ✡セカイ
荒んだ心、沈んだ心
後悔、不安、理由のない焦り…
幸せな気持ちはすぐ消えるけど
暗闇はいつでもそこに在る
救いを求めて空を見上げる
現実が変わるわけではないけど
無駄なことしているとしても
空の青色は世界を輝かせ
空の広さはすべてを包み込む
流れる風は心を浄め洗う
また前を向いて歩きだす
少し軽くなったように感じる
多分、気のせいだけど


ヤサシイ✡セカイ
みんなが幸せに見える
さっきすれ違った家族
隣の席の二人連れ
笑顔があると幸せに見える
嬉しそうに話し合う
微笑み見詰めあう
何も分からないけれど
全然知らないけれど
みんな幸せなのかな


ヤサシイ✡セカイ
憧れの花は夢の欠片
心に在り甘く香る花
彼方に想いを募らせ
辿り着いたところに咲く
確かめたくて少し近づく
近づいた分だけ遠ざかる
触れてみたくて手を差し伸ばす
差し伸ばした分だけ遠ざかる
近くのようで遥かに遠く
触れそうなのに叶わない
憧れの花は夢の欠片
心に在る無垢の花


ヤサシイ✡セカイ
都会の空、失われた星たち
遥か群青に夜風がかよう
頰を照らす月明かり
灰色に紛れた街角
闇の絵の具が塗りつぶし
月明かりが柔らかに彩る
降り注ぐ流れ星
満天の星空のように
喝采されることはないけれど
星のない空に明かりを灯し
穏やかにただ優しく
月明かりは人を照らす


ヤサシイ✡セカイ
線路沿いの道
金網の錆びた匂い
雑草たちに囲まれ
小さな花が一輪
オレンジ色の花びらに
精一杯の生きる力と
ささやかな誇りを感じる
通い慣れた道
見慣れた景色
昨日と同じ一日が始まる


ヤサシイ✡セカイ
夜空の纏うドレスの裾が揺らめき、やがて紫のグラデーションに彩られる
星たちの饗宴もフィナーレを迎え、待ちかねた鳥たちの歌声とともに幕を閉じていく
取り残された1つ星が囁くように煌めく
ありがとう、…じゃあまたね


ヤサシイ✡セカイ
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