

投稿で載せている小説のみをあげる予定です。

🏡*ana⸊ဂဗ◒
を作りましたー✨⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝✨
是非、お入りください!!
ここに小説を1話〜あげなおしていきます。
小説家になろう、にストックしているものをあげるので、投稿した1話と若干変わってます。(内容ではなく表現とか)
10人入らないと消えるとか、怖すぎ:(´ºдº:;`):ヒィ-



🏡*ana⸊ဂဗ◒
分岐
《助ける》ルート
第8話【助けた先に】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(ミズキは主人公の名前です。)
「あの。それ、一つください」
ミズキは財布代わりの手のひらを、店員へ差し出した。
「え?」
店員は一瞬きょとんとしたあと、安堵したように笑う。
「助かります」
代金を受け取ると、手際よく料理を包み、ミズキへ手渡した。
鬼の子はその様子を食い入るように見つめている。
料理。
店員。
ミズキ。
その三つを何度も見比べながら、小さく首をかしげた。
「はい」
ミズキは包みをその子へ差し出す。
「……?」
戸惑いながら受け取る。
恐る恐る包みを開くと、ふわりと温かい湯気が立ち上った。
その瞬間、顔がぱっと明るくなる。
「……!」
何かを勢いよく話しかけてくる。
もちろん、何を言っているのかは分からない。
いや。
正確には、ミズキには分かる。
『ありがとう! 本当にありがとう!』
イヤーカフが言葉を翻訳してくれるからだ。
「どういたしまして」
そう返しても、相手には通じない。
鬼の子は不思議そうに首をかしげながら、それでも嬉しそうに料理へかぶりついた。
ひと口。ふた口。
夢中で頬張る姿に、周囲から小さな笑いが漏れる。
「……よかった」
その姿を見届けると、ミズキは踵を返した。
これ以上、自分にできることはない。
そう思って歩き出す。
だが。
こつ。
こつ。
後ろから足音がついてくる。
振り返ると、鬼の子が料理を口に入れモグモグしながら後ろに立っていた。
「……」
ミズキは困ったように笑って手を振る。
「じゃあね」
そう言って歩き出す。
こつ、こつ。
また後ろから足音。
振り返る。
鬼の子がいる。
「……」
ミズキはもう一度手を振る。
「バイバイ」
鬼の子も笑顔で手を振り返した。
「いや、そうじゃなくて……」
ミズキは自分を指差してから前を指差し、さらに鬼の子を反対方向へ向ける仕草をする。
「私はこっち。君はあっち」
鬼の子は真剣な顔でその動きを見つめる。
そして何かを理解したように大きく頷いた。
「分かってくれた?」
鬼の子はにこっと笑い、ミズキの真横に並んだ。
「違う違う」
思わず声が漏れる。
今度は少し走ってみる。
鬼の子も同じ距離を空つ走ってついてくる。
立ち止まる。
鬼の子も止まる。
「……」
「……?」
首をかしげる鬼の子。
その口いっぱいに料理を頬張ったまま首をかしげる姿は、木の実を詰め込んだリスそのものだった。
同じくらいの歳のはずなのに、どこか幼く見えてしまう。そんな姿に、ミズキは思わず口元を緩めた。
その笑みに気づいた鬼灯が、きょとんとまた首をかしげる。
そして、何かを思いついたように、食べかけの料理を半分に割ると、ミズキへ差し出した。
「?」
『半分あげる』
「いや、君のために買ったんだから全部食べなよ」
もちろん伝わらない。
鬼灯はぐいぐいと料理を押し付けてくる。
「もう……」
肩を落とす。
鬼の子は自分の胸を叩き、それからミズキを指差した。
『お礼』
翻訳だけが耳に届く。
その目は冗談でも、その場しのぎでもない。
本気だった。
ミズキは小さく息を吐く。
「……このままじゃ話にならないか」
もちろん、その言葉は届かない。
鬼の子は首を横に振った。
『お礼』
「困ったな……」
会話が成立しない。
自分には相手の言葉が分かる。
でも、相手には自分の言葉が分からない。
「……まずは翻訳機か」
鬼の子は差し出した料理に目を落とし、それから不思議そうにミズキを見つめた。
ミズキは近くの露店へ向かい、並べられた翻訳機を見比べた。
「新品は高いな……」
値札には15、20。
とても手が届かない。
店の隅には型落ち品が積まれていた。
『旧式翻訳イヤーカフ 8』
ミズキは店員に話しかけ、新品と同様にどこの言葉も翻訳できるのか、新品と違いなぜこんなに安いのか聞いた。
「もちろん。翻訳精度は現行モデルと変わりませんよ」
「じゃあ、どうしてこんなに安いんです?」
店員は棚に並ぶ新しいモデルへ視線を向けた。
「そりゃあ型落ち品ですから。昔のモデルは、とにかく多機能だったんです。録音や文字起こし、自動検索、通信補助、特殊探索機能なんかも全部詰め込んでいて、その分、重かったんですよ」
そう言って、旧式のイヤーカフを持ち上げる。
「でも結局、みんな翻訳しか使わなくなったんですよ。だから今のモデルは余計な機能を省いて、小型で軽くなったってわけです」
「なるほど……」
旧式のイヤーカフは少し大きく重かったが仕方ない。
「これ、ください」
店員は商品を差し出す。
ミズキは少しだけ手首の59の文字を見てためらった。
この残高で8は決して安くない。
まだこの世界に来て2日目だ…
それでも。
「はい」
鬼の子の耳元へイヤーカフを差し出した。
鬼の子は目を丸くする。
「君のだよ」
もちろん伝わらない。
身振りで耳を指差すと、おそるおそる装着した。
小さな電子音が鳴る。
『……聞こえる?』
鬼の子が驚いて顔を上げた。
「え……?」
「やっと……分かる!」
初めて言葉が重なった。
二人は思わず顔を見合わせる。
「よかった」
その一言に、鬼の子は目を潤ませながら何度も頷いた。
#第8話助けた先に


🏡*ana⸊ဂဗ◒
第2話 【門番】
漆黒の無重力空間。
宇宙服を着た三等身の奇妙な生物が、ぷかぷかと浮いていた。
「グラちゃん!?」
「やぁ、いらっしゃい。グラビティの世界に入りたかったんでしょ?」
「はぁ!?」
思わず叫んでしまった。
いや待て。
何だここは。
さっきまでスマホを見ていたはずだ。
部屋のベッドに腰掛けて、Gravityのルームに入って、無言配信の近未来都市を眺めていて――。
そして主が挨拶(いや、挨拶だったか?)をした瞬間、画面が光って。
気づいたら漆黒だった。
「夢?」
「よく言われる」
「じゃあ夢か」
「残念ながら違う」
グラちゃんは腕を組みながら、くるりと一回転した。
その姿はマスコットキャラクターのようで可愛いのだが、置かれている状況が全く可愛くない。
「まず確認だけど」
グラちゃんが指を一本立てる。
「君の名前は?」
「え?」
「名前」
「……ミズキだけど」
「よし。記憶は正常」
「正常じゃないだろ!?」
周囲はどこまでも続く黒。
星の光すら見えない。
上下も左右も分からない空間。
なのに息はできるし、会話もできる。
意味が分からない。
「ここどこ?」
「グラビティの世界」
「そのまんまじゃん」
説明になっていない。
グラちゃんは無視して話を続けた。
「君たち人間は面白いよね」
「何が」
「寂しいからアプリを開く」
「……」
「誰かと話したいからルームに入る」
「……」
「でも本当に欲しいのは会話じゃなくて、誰かがいるっていう実感だったりする」
少しだけ言葉に詰まった。
それは、図星だったからだ。
今日だってそうだ。
仕事では散々人と話した。
会議もした。
取引先とも話した。
それなのに家へ帰ると、妙に静かだった。
だからGravityを開いた。
誰かと繋がっている気になれるから。
「ここはね」
グラちゃんが指を鳴らした。
途端に漆黒の空間へ光が走る。
無数の線が広がり、星座のような模様を描いた。
よく見ると、一つ一つが小さな光の球だった。
「なんだこれ……」
「人」
「人?」
「正確には人の居場所かな」
光の球が脈打つ。
近づくもの。
離れていくもの。
複数集まって輝くもの。
ぽつんと一つだけ漂うもの。
「君たちが見ているGravityはアプリの画面だけど」
グラちゃんは胸を張った。
「本当はこういう世界なんだよ」
「……本当って何だ」
「感情が集まる場所」
「感情?」
「寂しい、楽しい、嬉しい、暇、誰か来ないかな、話したいな」
グラちゃんは一つの光をつつく。
その光がぽわっと明るくなった。
「そういう気持ちが重力になる」
「重力?」
「似た気持ちは引き寄せ合う」
俺は光の群れを見つめた。
確かに。
ルームだってそうだった。
雑談好きが集まる場所。
ゲーム好きが集まる場所。
夜更かしする人たち。
恋バナする人たち。
誰かの声を聞きたい人たち。
みんな何かに引っ張られて集まっている。
「だからグラビティ」
「……なるほど」
「分かった?」
「三割くらい」
「十分」
グラちゃんは満足そうに頷いた。
そして突然、真面目な顔になる。
「ところで君」
「なに」
「家に帰りたい?」
「そりゃ、当たり前でしょ?!」
「会いたいんでしょ?」
「だ、誰に?」
「毎日待ってるのに?」
「……」
「通知確認してるのに?」
「……」
「声聞きたいなぁって思ってるのに?」
「うるさい!」
グラちゃんはケラケラ笑った。
宇宙服越しでも分かるくらい楽しそうだった。
「安心して」
「何にだよ」
「君だけじゃないから」
そう言うと、周囲の光の球が一斉に輝いた。
誰かを待つ人。
誰かの声に救われる人。
誰かと笑いたい人。
その数は想像を超えていた。
「ここはそういう場所だから」
グラちゃんは手を差し出した。
「ようこそ、グラビティの世界へ」
その瞬間。
まるで新しい星に生まれたみたいに。
嫌な予感を覚える。
「……なぁ」
「うん?」
「あれ何?」
グラちゃんの顔から笑みが消えた。
「見た事あるでしょ?行きたかったんでしょ??」
「……」
「あの塔のテッペンに行ってみて」
グラちゃんは遠くの光を見つめながら呟いた。
「君が推してたあのルームの主さん――」
一拍置いて。
「普通の配信者じゃないんだよね」
#グラゲームブック


🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第15話実験台になる覚悟
キュリオは、机の上で指を鳴らした。
「お互い、目的は一致してると思わない?」
「そうだね!」
鬼灯がすぐにうなずいた。
あまりにも迷いがなくて、ミズキは思わず隣を見る。
「……鬼灯?」
「だって、塔まで行けるんでしょ?」
「いや、そうだけど……。」
鬼灯はキュリオへ向き直る。
「じゃあ、お願いします!」
「うん。任せて。」
キュリオは笑いを堪えるように、口元をわずかに歪めていた。
「話が早くて助かるよ……ふふっ」
「ちょっと待って。」
ミズキは慌てて二人の間に入った。
「なんでそんな簡単に決まってるの。」
「え?」
鬼灯がきょとんとする。
「だって、転送してくれるんだよ?」
「そうだけど、そこじゃなくて。」
ミズキはキュリオを見る。
キュリオはまだ変な顔をしている。
「実験なんですよね?」
「ふふっ、そうだね。」
「人間を使うんですよね?」
「うん。」
「……だったら、もう少し警戒した方がいいと思う。」
そう言ってミズキは鬼灯を睨んだ
キュリオは楽しそうに笑った。
「慎重だね。」
「普通だと思います。」
そこまで言って、ミズキは少し黙った。
鬼灯はもう少し考えてから決めてほしい。
そう思っていた。
けれど、考えてみれば。
貨物列車に乗るとして、本当に安く済むのか。
二人分なら、ある程度アンカーを使うだろう。
キュリオが紹介してくれるとしても、いつ乗れるのかは分からないな。
右腕に視線を落とすと、そこに表示されている数字が目に入る。
今の自分たちにとって、移動にかかる時間もお金も無視できない。
「ちゃんと成功する可能性があるなら、転送実験に参加する方がいいのかもしれない。」
「でしょ?」
キュリオが勝ち誇ったような顔をした。
「いや、まだ参加すると決めたわけじゃないから。」
「うんうん。」
「その返事、絶対聞いてないよね。」
鬼灯がくすくす笑う。
「でも、ミズキも転送の方がいいって思ってきたんだ。」
「……まあ。」
否定できない。
むしろ、最初に研究室へ来たときよりも、少しだけ現実的な選択肢に思えてきていた。
そのとき。
ふと、ひとつの疑問が浮かんだ。
「……キュリオさん。」
「ん?」
「もしかして。」
ミズキは慎重に言葉を選ぶ。
「人間を使った転送実験って……今回が初めて?」
キュリオは一瞬きょとんとした。
そして。
「ふふっ、まさか。」
吹き出すように笑った。
「え?」
「初めてなわけないじゃない。」
キュリオは楽しそうに椅子へ背を預ける。
「僕がそんなに無謀に見える?」
「見えます。」
ミズキが即答する。
「僕も!」
鬼灯まで続いた。
「ひどいなあ。」
キュリオは笑っている。
カップを置くと、指を立てた。
「今まで、人間を対象にした転送実験は二十三回。」
「二十三……。」
ミズキの表情が変わる。
「そんなに?」
「うん。」
キュリオは淡々と答える。
「参加したのは七人。」
「七人で二十六回……?」
「同じ人に何度かお願いしたからね。」
鬼灯が少し首を傾げる。
「何度も転送されたの?」
「そう。」
キュリオは楽しそうに笑った。
「僕の周りには、なぜか変態しか集まらないんだよねー。」
「変態……。」
「褒めてるからね?」
「褒めてるんだ……。」
「もちろん。」
キュリオは胸を張った。
「普通の人なら、人間を転送する実験に付き合ってなんて言った時点で友達じゃなくなる。でも、僕のところに集まってくる人たちは違う。」
その顔には、どこか誇らしげな色が浮かんでいた。
「『面白そう!』って言って自分から実験台になりたがるんだ。」
「……。」
「……。」
ミズキと鬼灯は、また顔を見合わせた。
「だから、実験そのものは何度もやってる。」
「今までに二十六回。正確に到着できたのが九回、少し位置がずれたけど無事に転送できたのが十七回。」
「……じゃあ、失敗は?」
「ふふっ。」
キュリオは楽しそうに笑った。
「人体に異常をきたすような失敗は、したことないよ。」
……“ような”……か
「だから、実験そのものは何度もやってる。少なくとも『何が起こるか分からない装置に、初めて人間を入れる』って実験じゃないよ。」
さっきまで研究室の怪しい機械を眺めていたミズキは、もう一度キュリオを見る。
確かに、怪しい。
かなり怪しい。
けれど。
「……それなら。」
鬼灯がぽつりと言った。
「大丈夫かも?」
ミズキも黙って考える。
成功例がある。
しかも、一度や二度ではない。
少なくとも、キュリオ本人が思いつきで人を装置へ放り込もうとしているわけではないらしい。
「……うん。」
気づけば、ミズキも小さくうなずいていた。
「それなら……大丈夫かもしれない。」
「でしょ!」
キュリオがふっと笑う。
その顔を見て、ミズキは一瞬だけ嫌な予感がした。
「……ただし。」
「うん?」
「まだ参加するって決めたわけじゃないからね。」
「分かってるよ。」
そう言いながら、キュリオは明らかに嬉しそうだった。
鬼灯も隣で笑っている。
ミズキはそんな二人を見て、小さく息を吐いた。
……なんだか、もう半分くらい参加する流れになっている気がする。
けれど。
さっきまでより、その選択がずっと現実的に思えている自分もいた。



🏡*ana⸊ဂဗ◒
第14話 異世界の研究者
#第14話異世界の研究者
研究室の中は、外観とはまるで別世界だった。
天井を這う無数のケーブルが青白く光り、機械の低い駆動音が絶え間なく響いている。
ガラスケースには見たこともない鉱石や金属片が並び、壁際には分解途中らしいドローンや義手、奇妙な形の装置が所狭しと置かれていた。
「散らかってるけど気にしないで。」
キュリオは苦笑しながら奥へ進む。
「研究って、片付ける暇がなくてね。」
鬼灯はきょろきょろと辺りを見回す。
「あっ!」
机の上に置かれた小さな機械が、急に羽を広げてふわりと飛び上がった。
「わっ!?」
鬼灯は驚いて一歩下がる。
機械は鬼灯の周りを一周すると、「ピッ」と鳴いてキュリオの肩へ止まった。
「ああ、その子は警備用ドローン。」
キュリオは頭を撫でる。
「初めて来た人を観察してるだけだから安心して。」
「びっくりしたぁ……。」
鬼灯は胸をなで下ろした。
「座って。」
部屋の中央には、研究室には似合わない木製の丸テーブルと椅子が置かれていた。
二人が腰を下ろすと、キュリオは棚から人数分のカップを取り出す。
「甘いのと苦いの、どっちがいい?」
「甘い!」
鬼灯が即答する。
ミズキは思わず笑った。
「同じので。」
「了解。」
しばらくして、湯気の立つ飲み物が二人の前に置かれた。
ほのかに甘い香りが広がる。
「さて。」
キュリオは自分のカップを手に取り、向かいの席へ腰を下ろした。
「さっきは名前しか名乗ってなかったね。」
一口飲んでから、小さく笑う。
「キュリオっていうのは、この世界で名乗ってる名前。本当の名前は……もう何年も呼ばれてない。」
少しだけ遠くを見るような目をする。
「日本では量子テレポーテーションの研究をしてた。寝ても覚めても転送理論ばかり考えてるような人間でね。」
「に、日本……!?」
思わずミズキは声を上げた。
キュリオは驚く様子もなく、くすりと笑う。
「そう。実は日本人なんだよ。」
義手の指先で自分の胸を軽く叩く。
「こんな見た目だから意外だった?」
ミズキは何度もうなずく。
「キュリオっていう名前も、本名じゃない。」
そう言ってモノクルを押し上げた。
「英語の"キュリアス"。好奇心が強いって意味の言葉から、自分で名乗るようになったんだ。」
「自分で?」
「うん。僕にピッタリでしょ。こっちの方が今の僕にはしっくりくるんだ。」
どこか照れくさそうに笑う姿は、さっきまでの怪しい研究者とは少し違って見えた。
「向こうじゃ『変人』とか、『研究しか頭にない』とか、よく言われたよ。」
肩をすくめて苦笑する。
「ある日、実験をしていたら、そのままこの世界へ飛ばされちゃった。」
「実験って……。」
ミズキが思わず聞き返す。
「量子テレポーテーションの実験。」
その一言だけで、キュリオの目がぱっと輝いた。
「最初は驚いたよ。でも、この世界を知れば知るほど考えが変わった。」
そう言うと、義手をテーブルの上へ乗せる。
「見て。」
金属の指が静かに動く。
「この世界なら、自分の身体を実験に使っても、機械化してしまえばまた動ける。」
今度は肩の機械部分を軽く叩いた。
「日本じゃ止められるような研究も、ここなら誰も止めない。」
少し身を乗り出し、嬉しそうに続ける。
「研究したいことを研究して、作りたいものを作って、試したいことを試せる。研究者にとっては最高の世界なんだよ。」
熱っぽく語るキュリオとは対照的に、ミズキと鬼灯は無言で顔を見合わせた。
「……。」
「……。」
「え、なんでそんな顔してるの?」
不思議そうにミズキたちを見るキュリオ。
「いや……。」
ミズキは苦笑いを浮かべた。
「自分の身体を犠牲にしてまで研究したいっていう発想が、ちょっと理解できなくて……。」
「ああ。」
キュリオは納得したように笑う。
「昔からよく言われる。」
鬼灯も小さくうなずいた。
「なんか……やっぱり天才って変わってる人多いんですね。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
キュリオは嬉しそうにカップへ口をつけた。
少しの沈黙のあと、ミズキが静かに口を開く。
「日本に……帰ろうとは思わなかったんですか。」
その問いに、キュリオはすぐには答えなかった。
カップを見つめたまま、少しだけ考える。
「もちろん、最初は帰ろうとしたよ。」
穏やかな声だった。
「でも、この環境を知ってしまったら、日本は僕には窮屈に思えたんだよね。」
研究室をゆっくり見渡す。
「ここは、僕が僕のままでいられる場所だったからね。」
ミズキはその言葉を黙って聞いていた。
「あ。」
何かを思い出したように、キュリオが顔を上げる。
「勘違いしないでね。帰らないと決めたとしても、一度はちゃんと塔へ行かなきゃいけない。」
「塔へ?」
「うん。この世界で暮らすにしても、元の世界へ帰るにしても、まずは塔で選択をしないと始まらない。」
ミズキは思わず鬼灯を見る。
鬼灯も真剣な表情で聞いていた。
「だからさ。」
キュリオは二人を交互に見て、にやりと笑う。
「塔へ行きたい君たちと、塔まで送る実験をしたい僕。」
机の上で指を鳴らした。
「お互い、目的は一致してると思わない?」




🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第9話仲間
二人は人通りの少ない通りを並んで歩いていた。
鬼の子は何度も口を開いては閉じ、信じられないというように目を丸くする。
「聞こえる?」
「うん……聞こえる! 本当に聞こえる!」
自分の口元に触れながら何度も声を出す。
「すごい……! あなたの言葉が分かる!」
その無邪気な笑顔に、ミズキも自然と口元が緩んだ。
「よかった。これでちゃんと話せるね」
「ありがとう……本当にありがとう!」
勢いよく頭を下げられ、ミズキは慌てて手を振る。
「そんな大げさな」
「大げさじゃないよ! ずっと誰とも話せなかったんだから!」
その一言に、ミズキの表情が少しだけ引き締まる。
そんなミズキを気にする様子もなく鬼の子が言った。
「そうだ。ねえ、君の名前教えて」
鬼の子は胸に手を当て、自分の名前を口にした。
「鬼灯」
「ホオヅキ?」
鬼灯はぱっと表情を明るくし、何度も頷く。
「そう!」
胸に手を当てて名乗る姿は、どこか丁寧な挨拶のようでもあり、それを満面の笑みでやってのける鬼灯が妙におかしい。
釣られるように、ミズキも胸に手を当てた。
「ミズキ」
「ミズキ!」
嬉しそうに名前を繰り返した鬼灯は、にっこり笑う。
「よろしく!」
やっと普通に話せる。
それだけのことなのに、不思議と肩の力が抜けていく。
二人はゆっくりと街を歩き始めた。
「そういえば、手首の数字がゼロだったけど……」
その瞬間、鬼灯の笑顔が固まった。
「……うん、もう、ないんだ」
鬼灯は照れ笑いを浮かべながら頭をかいた。
「初日に観光ドローンについていったんだ。そしたら、この世界がすっごく面白くて……」
両手を広げながら、目を輝かせる。
「空飛ぶ乗り物も、食べ物も、あっちにある広場のお店なんてさ、見た目は狭いのに中に入るとすっっごく広いんだよ! ドローンがあっちもこっちも案内してくれて、気付いたら全部使っちゃってた」
ミズキは思わず額に手を当てた。
「全部……?」
「うん」
悪びれた様子もなく笑う鬼灯を見て、呆れるより先に苦笑が漏れる。
「それで、増やそうとは思わなかったの?」
鬼灯はゆっくり首を横に振る。
「ドローンと別れてから、困ってるって街の人に伝えたんだけど……」
さっきまでの笑顔が少し曇る。
「言葉が全然分からなくて」
その一言だけで十分だった。
屋台で必死に身振り手振りを繰り返していた姿が、ミズキの脳裏によみがえる。
「誰に話しかけても、なんて言ってるか分からなかった」
鬼灯は苦笑いを浮かべる。
「仕事も頼めないし、助けてもらうこともできなかった。だから、どうしたらいいか分からなくて」
ミズキは静かに息をついた。
もしかしたら、お金を稼ぐ方法くらい誰かが教えてくれていただろう。
けれど、言葉が分からずその最初の一歩を踏み出せなかった。
「……そういうことか」
鬼灯は小さく頷く。
少し歩いたところで、ミズキは一番気になっていたことを口にした。
「鬼灯。この世界の人じゃないよな?」
鬼灯は少しだけ目を丸くしたあと、あっさり頷いた。
「うん。気づいたら、この世界にいたんだ」
「やっぱり」
「最初は夢かと思ったよ。でも、見たこともない景色ばっかりでさ」
鬼灯は嬉しそうに空を見上げる。
「わくわくして、夢中になっちゃった」
その笑顔を見ていると、不思議と責める気にはなれなかった。
知らない世界へ突然放り込まれた。
普通なら、不安でいっぱいになるはずだ。
それなのに鬼灯は、恐怖よりも好奇心が勝ってしまう性格なのだろう。
全てを知らず知らずに使い切り、
だから今、こうして腹を空かせていた。
ミズキは少しだけ笑う。
「……実は、僕もそうなんだ」
鬼灯が足を止める。
「え?」
「僕も気づいたらこの世界にいた。だから、君がこの世界の人じゃないって分かった」
鬼灯は目をぱちぱちと瞬かせたあと、ぱっと顔を輝かせた。
「じゃあ、仲間だ!」
その言葉に、ミズキは思わず笑ってしまう。
「そう……なるのかな」
二人はまた歩き始める。
その時だった。
「あっ!」
鬼灯が勢いよく前を指差した。
「ここ! ここ来たことある!」
視線の先には、大きな駅舎が建っていた。
ガラス張りの外壁は陽の光を受けてきらめき、その隣には開放的な広場が広がっている。大勢の人が足を止め、何かを待つように空を見上げていた。
「観光ドローンに連れてきてもらったんだ!」
鬼灯は目を輝かせながらミズキの手を引く。
「列車がすっごいんだよ! 速くて、窓の外びゅーって流れて!」
その時、遠くから滑るような走行音が近づいてきた。
一筋の光をまとった高速列車が駅へ向かって駆け抜ける。
次の瞬間、列車が残していった光の軌跡がふわりと宙へ舞い上がり、大きなクジラへと姿を変えた。
ゆったりと空を泳ぐクジラの周りを、色とりどりの鳥たちが羽ばたく。
光でできた生き物たちは広場の上を優雅に巡り、人々から歓声が上がる。
「わあ……!」
子どもたちは嬉しそうに空を指差し、大人たちも思わず足を止めて見上げていた。
列車の窓から景色を眺めていた子どもたちも、きらきらと目を輝かせて広場を見下ろしている。
そのうちの一人がこちらに気づくと、満面の笑みで大きく手を振った。
鬼灯も嬉しそうに両手を振り返す。
「ね! すごいでしょ!」
まるで列車そのものが、一つのアトラクションのようだった。
鬼灯は目を輝かせながらミズキの手を引く。
「はやく! また何か見られるかもしれないよ!」
期待に胸を躍らせる子どものような鬼灯に、ミズキは思わず苦笑しながら、ミズキも駅へ向かった。
駅の入口まで来たところで、ミズキはふと思い出したように口を開く。
「そういえば鬼灯。君も塔を目指せって言われたのか?」
「うん!」
鬼灯は迷いなく頷いた。
「でも、それ以外は何も分からない。塔に行けば分かるって、それだけ」
「……やっぱり同じか」
二人は顔を見合わせ、そのまま駅の中へ足を踏み入れた。
駅の中は、外から見た以上に広かった。
頭上には何層もの通路が張り巡らされ、光る案内板が行き交う人々を目的地へ導いている。
「すご……」
思わず漏れたミズキの声に、鬼灯は得意げに笑った。
「でしょ!」
そのまま歩いていると、ひときわ大きな案内板が目に入る。
そこには行き先がいくつも並び、その一番上に大きく表示されていた。
『中央塔 直通』
ミズキは思わず立ち止まった。
「塔まで……直通?」
鬼灯も案内板を見上げる。
「本当だ!」
その下には、所要時間と運賃が表示されていた。
ミズキは無意識に自分の手首へ目を落とす。
二人分を払えないわけじゃない。
けれど、その代わりに手元へ残るお金は心許ないものになる。
塔に着いたあと何が必要になるかも分からない今、その選択には少なからず不安があった。
ミズキは駅の大きな窓越しに、遠くそびえ立つ中央塔へ目を向ける。
ここからでも、その姿は街並みの向こうに小さく霞んで見えるほど遠い。
歩いて向かうこともできるだろう。
だが、あの距離なら数日はかかるはずだ。
しばらく案内板を見つめたあと、ミズキは小さく息を吐く。
「……どうするか」
列車に乗れば、あっという間に塔へ着く。
その代わり、お金を大きく消費する。
あるいは、ほかに塔へ向かう方法があるのかもしれない。
ミズキは案内板を見上げたまま、静かに考え始めた。


高速列車で塔へ向かう2
歩いて塔へ向かう5
他に方法がないか探す8投票終了 15人が参加中

🏡*ana⸊ဂဗ◒
#第3話最初の分岐
「君が推してたあのルームの主さん――普通の配信者じゃないんだよね」
グラちゃんの衝撃的な発言の後、黒い霧が晴れるように薄れていく。
その向こうには、無数の光が瞬く巨大な街が広がっていた。
空へ伸びるビル群。
宙を走る光の線。
そして街の中心には、雲を突き抜けるほど高い一本の塔。
「あれが……」
「そ。ゴール」
グラちゃんが指差した。
「あの塔のてっぺん」
「本当にあそこに行けば帰れるの?」
「さぁね」
「さぁね!?」
「でも、みんな目指してるよ」
軽い。軽すぎる!
だけど他に手掛かりもない。
改めて塔を見上げた。
遠い。遠すぎる……。
歩いて何日かかるのかも想像できない。
「……とりあえず行くしかないか」
塔から視線を外し、周囲を見回す。
街へ続く大通り。
薄暗い路地。
そして少し離れた場所はみんなが遊べる広場みたいな場所も見えた。
「どうする?」
グラちゃんが肩をすくめる。
「どうするって言われても……」
情報はない。 土地勘もない。
「じゃボク忙しいからさ、暇になったら見に来るかもね」
そう言ってグラちゃんはクルッと回るとふっと消えていた。
「えっ、ちょっ」
本当にいなくなっちゃった。
それでも、最初の一歩を決めなければ始まらない。
じっと街を見つめた。
さて、どこへ向かうべきだろうか。
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☝投票の結果で次回の行動が決まります‼️

住民に話しかける7
塔へ向かう11
街案内ドローンについて行く5投票終了 23人が参加中

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【第1話】Gravity
「ただいま。」
仕事でたくさんの人と話してきたはずなのに、家に入ると寂しさが込み上げてくる。
そんな時に出会ったのがGravity。
好き勝手話して笑っている。いろんな人がいて。それぞれに楽しみを見つけている。
「今日はルームしていないか。」
何気ない会話をして。手を叩いて笑う。そんな彼女の声を聞きたかったのに……。今日はまだルームを開いてなかったみたい。
いわゆる「推し」というものをこのアプリで見つけていた。
他に自分に合ったルームはないかと、今日は珍しくルームを探してみようと思った。
【グラビティの世界に入ってみよう!!】
という初心者向けなのか初歩的なルームタイトルを見つけた。
気になったが入っているのは一人。これは配信者一人ということだ。少し怖気付きそうになるが、超未来感が溢れる背景に興味を惹かれた。
そして、背景見たさにルームに入るという初めての行動を起こした。
ルームには案の定、主一人。しかも無言だ。入ったのは失敗だったと思いながら。気になっていた背景の超未来感溢れるサイバーシティを、じっくり見る。無言は無言でこういう時にじっくり見れていいなと思った。
すると、動かないはずの背景なのに、空に浮かぶ車が動いているように見えた。そんなまさかなと思いつつ、画面をタップしてみた。当たり前だが空飛ぶ車は動いていない。そんな訳ないか……
子供の頃に読んだ漫画の影響なのか、ネオンブルーとエメラルドグリーンの光が街を包み込む超未来感が溢れる背景を穴が空く勢いで食い入るように見た。
無数の摩天楼が天に向かって伸びる超未来都市。
その摩天楼を覆うようにバカでかい惑星が存在感を放ちながら浮かんでいる。
街の中心には巨大な尖塔がそびえ立ち、その高さは月を思わせるような、もう一つの惑星に届きそうな高さだった。
「あ、こんにちは!!」
そんな主の声がして
「いってらっしゃいませ〜」
の言葉と共に携帯の画面が異様な光を放つ、直視できないほどの光に思わず顔を逸らした。
#グラゲームブック


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#第7話もう一人の異世界人
翌朝。
宿を出て大通りを歩いていると、不意に人だかりが目に入った。
「だから駄目だって!」
店員の大きな声が響く。
何事だろうと近づくと、屋台の前でこの世界では見慣れない格好の子が店員と向かい合っていた。
額には黒い角。
背中には煤けた黒い羽。
服は汚れ、髪も乱れ、何日もまともに眠っていないような顔をしている。
角は鬼を、羽は天狗を思わせる。その姿は、日本の昔話から抜け出してきたような、不思議な雰囲気をまとっていた。
その不思議な子は店先に並ぶ料理を指差しながら言った。
「これをください!」
必死な声だった。
しかし店員は首を横に振る。
「だから、お金がないなら売れない!」
「……?」
その子はきょとんと目を丸くする。
言われた意味が分からない。
もう一度料理を指差した。
「これです! 食べたいんです!」
「いや、食べたいのは分かった!」
店員は頭を抱える。
「お金ですよね!分かってます。でも、無いんです。でも……お腹が空いてるんです。後で返します!お願いです!」
周囲から苦笑が漏れた。
「また翻訳機を持ってない人か」
「珍しいな」
その子はそんな周囲の声にも反応できない。
聞こえているはずなのに、意味だけが届いていない。
代わりに自分のお腹を押さえた。
「お腹が空いてるんです!」
ぐぅぅぅ……。
ちょうどその瞬間、お腹が大きく鳴った。
その子は少しだけ恥ずかしそうに羽を縮める。
それでも諦めず、もう一度料理を指差した。
「お願いします!」
店員は困ったように息をつく。
「だから、売りたいのは山々なんだけど……」
説明しても伝わらない。
その子も悪気はない。
それは誰の目にも分かった。
その様子を見ていたミズキは、思わず耳のイヤーカフへ触れる。
(昨日までの……私だ)
もし翻訳機を買えていなければ。
もしお金が足りなければ。
今あそこに立っていたのは、自分だったかもしれない。
視線は自然とその鬼の子の腕へ向く。
手首の数字は、ゼロ。
もう、一つも残っていなかった。

助ける8
間に入る7
見守る2投票終了 17人が参加中

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#第13話研究室への招待
鬼灯は反射的に両手で角を隠した。
「や、やだ!」
ぶんぶんと首を横に振る。
「これはあげられない!」
その声には、はっきりとした拒絶が込められていた。
「そっか。」
キュリオは肩をすくめる。
「残念。」
その一言を聞いた瞬間だった。
鬼灯の表情が、さっと青ざめる。
「……え。」
恐る恐るミズキを見る。
「も、もしかして……。」
喉がごくりと鳴る。
「断ったから……転送も、貨物列車のことも……教えてもらえない?」
耳がぺたんと垂れそうなほど肩を落とし、不安そうにうつむく。
その様子を見たキュリオは、一瞬きょとんとしたあと。
「ぷっ……。」
肩を震わせた。
「ははっ!」
とうとう堪えきれず、大きな笑い声を上げる。
「あはははは!」
「えっ!?」
鬼灯は目を丸くする。
「ご、ごめんごめん。」
キュリオは笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭う。
「冗談だよ。」
ひらひらと手を振る。
「安心して。そんなことで話をやめたりしない。」
鬼灯はほっと胸をなで下ろした。
「よ、よかったぁ……。」
「まあ。」
キュリオは鬼灯の角をもう一度眺める。
「研究材料として、ほんの少し削って分析できたら最高なんだけどね。」
そう言って片目をぱちりと閉じる。
「もちろん、本人が嫌なら無理にはしないよ。」
鬼灯は慌てて角を押さえ直した。
「やっぱり狙ってる!」
「研究者だからね。」
悪びれもなく笑うキュリオに、ミズキは思わず苦笑する。
「……本当に研究者ってこんな風なんですね。」
「そうだね。」
キュリオは照れくさそうに頭をかいた。
「からかってごめんね。」
今度は少しだけ真面目な表情になって、ミズキと鬼灯を見た。
「実は僕も、この世界の人間じゃないんだ。」
「え……?」
二人の声が重なる。
「だから、君たちの気持ちは少しくらい分かる。」
キュリオは穏やかに笑った。
「研究室においで。」
街の奥を指さす。
「転送のことも、貨物列車のことも。」
「それから、この世界のことも。」
「詳しく話してあげるよ。」
ミズキと鬼灯は顔を見合わせた。
まだ警戒は消えていない。
それでも、この街へ来てから初めて、帰る方法について詳しく知っていそうな人物に出会えたのも事実だった。
「……どうする?」
鬼灯が小声で尋ねる。
ミズキは少しだけ考え、こくりとうなずいた。
「行こう。」
その瞳には、不安と期待が入り混じっている。
「ありがとう。」
キュリオはにこりと笑うと、二人に背を向けて歩き始めた。
「こっちだよ。」
三人は大通りを離れ、細い路地へ入る。
ネオンに彩られた賑やかな通りとは違い、人通りは少ない。
壁には配線が幾重にも張り巡らされ、頭上では透明なパイプの中を青白い光が流れている。
途中、小さな配送ドローンが三人の頭上を音もなく横切っていった。
「こんなところに研究所があるんですか?」
ミズキが周囲を見回しながら尋ねる。
「表向きは修理工房。」
キュリオは振り返らずに答えた。
「研究者って、お金がかかる仕事だからね。生活費くらいは稼がないと。」
「へぇ……。」
鬼灯は工具が並ぶショーウィンドウを興味深そうに眺める。
やがて路地の突き当たりに、一軒の古びた建物が現れた。
外壁には長年の風雨で色あせた金属板が貼られ、小さな看板には『Curio Repair Works』とだけ書かれている。
「ここ?」
鬼灯が思わず声を上げる。
「うん。見た目は普通でしょ?」
キュリオは笑いながら扉の横にある認証パネルへ手をかざした。
ピッ、と軽い電子音が鳴る。
次の瞬間。
重そうな金属製の扉が、低いうなり声を響かせながら横へゆっくりと開いた。
「ようこそ。」
キュリオは振り返り、いたずらっぽく微笑む。
「僕の研究室へ。」
扉の向こうには、外観からは想像もつかないほど広い空間が広がっていた。
天井近くまで伸びる機械のアーム。
壁一面に並ぶ見慣れない装置。
透明な筒の中を青い光がゆっくりと流れ、床には幾何学模様のような回路が淡く輝いている。
「……すごい。」
ミズキは思わず息をのんだ。
鬼灯も目を輝かせながら、一歩、また一歩と研究室の中へ足を踏み入れる。
その後ろで、金属製の扉が静かに閉まり、外の喧騒は完全に遮られた。
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