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???『ねえ、神様』

???『なんだい、天使』

???『歴史に残る英雄ってのは、好んで英雄になりたいのかな』

???『おかしなことを聞くね、彼らは勝ったから英雄なのさ。負ければただの骸だ…そして、彼らは、あるいは彼女は好き好んで英雄になったわけじゃない。ひとはそれを運命って呼んでるね』

以下AIです。

第四話『最後は必ずハッピーエンド!!』

「制御室が見えてきました!」
ノアが先頭に立ち、暗い通路の先にぼんやりと見える光を指差した。

「あの部屋には、絶対に負けられない相手がいる。みんな気をつけて!」

「おいおい、またそんな心配性か?」ロンが肩を叩いた。「前回とは違うぞ。俺たちは強くなってる」

エリカが小さく笑う。「そうよ。もう『前回』みたいにはならないわ」

サファイヤが静かに頷いた。「みんなで力を合わせれば大丈夫」

しかしノアだけは真剣な表情のままだった。

制御室に入ると同時に、巨大な影が天井から降下してきた。

**GAAAAAA!!**

それは前回も出会った『暴走融合体・ギガノヴァ』—全身が金属と有機物の混ざった怪物で、背中からは無数の触手が蠢いている。その目は赤く不気味に光っていた。

「やはりこいつか……!」

ギガノヴァの口から放たれた高エネルギー弾が床を溶かす。エリカが素早く射撃ポジションを取り、

「みんな散れっ!」と叫んだ瞬間、ロンとサファイヤが左右に飛び退く。ノアも壁際に身を寄せたが、背後から迫ってきた触手に気づくのが遅れた。

「キャッ!?」

「ノア!」

サファイヤの絶叫が響く中、ノアは触手に捕らえられ宙吊りにされた。

「うっ……苦しい……」

「ノアを離せぇ!!」
ロンが猛然と斬りかかるが、別の触手に阻まれ吹き飛ばされる。

「グッ……!」

「ロン!」
エリカが援護射撃を行うが、ギガノヴァの表皮は鋼のように硬く銃弾を受け付けない。さらに厄介なことに、撃ち込まれた弾丸を吸収し始めていた。

「ダメ……これじゃあ……」

絶望的な状況の中、ノアは恐怖よりも懸命に思考を巡らせていた。前回と同じ結果にならないために。今度こそ全員で勝つために。

(そうだ……私が前に死んだときも……同じように囚われた……そして)

思い出す。前回の記憶。自分が喰われる瞬間まで見た景色。

(あの時……サファイヤさんの傷を治してくれたあの光……あれを使えば……)

ノアは大きく息を吸い込み、

「みんな聞いて! 私にいい考えがある!」

「何だって?」ロンが這いつくばりながら聞き返す。

「ギガノヴァの弱点は『浄化』の属性! でも普通の攻撃じゃ通じない……だからこうやって……」

説明しながらノアは自分のアイデアを声に出す。死に戻りする前から考えていた作戦—今回は違う展開が起こる可能性もある。だけど信じるしかない。

「わかったわ!」エリカが即座に理解し、「サファイヤ、準備をお願い」「ロンは時間稼ぎを」「そしてノア……あなたは……」

三人は互いに目を合わせて頷いた。

---

ギガノヴァの猛攻を回避しながら、作戦が始まった。

まずロンが囮となり敵の注意を引き付ける。次にエリカが特殊な煙幕弾を投げつけ、視界を遮断した。

「今よサファイヤ!」

「はい! 全力で行きます!」

サファイヤが両手を組み、純白の輝きを放ち始める。彼女の回復魔法には微量ながら「浄化」の属性も含まれていた。その力を増幅させれば—。

一方ノアは拘束されている最中も必死に身体を捩り、右手首の通信端末からある情報を呼び出していた。制御システムの脆弱点—前回の死に戻り時に偶然見つけたものだ。

「エリカちゃん! 順序番号『087-B』を探して!」
「了解!」

エリカが部屋奥のコンソールに飛びつきキーボードを叩く。「あったわ! これを……起動!」

施設内の緊急シェルターが作動し、ギガノヴァの足元が崩れ始めた。巨大な体躯がバランスを崩す瞬間を狙って—

「ロンさん!」

「任せろ!」

ロンの渾身の一閃が触手の根本に食い込み、ノアを解放した。

「今です! サファイヤさん!」

「はい! 清浄なる光よ—すべての穢れを払いて!」
サファイヤを中心に広がる眩い光の波動が制御室全体を包み込む。ギガノヴァの身体がビクリと震えた。効果がある!

だがまだ十分ではない。弱点を突きつつも致命傷には至っていない。「あと少し……!」エリカが銃を構える。

この時ノアは地面に落ちた際についた傷の血を使って—コンソール上の端末画面に何かを書き込んでいた。

「何をしてるノア?」

「この敵は……機械と生物のハイブリッド……なら……」
彼女の目が鋭くなる。「このコードを入力すれば……」

画面に表示されるコマンド文字列は「システムオーバーライド」。

「エリカちゃん! 最後のキーをお願い!」

「えっ……こんな複雑なプログラム……!」
しかし迷ってる暇はない。エリカは一気にパスワードを打ち込んだ。

**SYSTEM OVERRIDE ACTIVATED**

警告音と共にギガノヴァの動きが止まる。体内で暴走していたエネルギー供給が停止したのだ。

「今だ!」

ロンが全力で跳躍し、サファイヤの放つ聖なる光を剣に纏わせた。

「聖刃・浄魂斬!!」

振り下ろされた一撃がギガノヴァの胸部に深々と突き刺さる。

**GAAAAAAAAAAA——!!**

悲鳴とともに巨体が爆ぜるように消滅し、部屋は静寂に包まれた。

「や……やった……?」ノアが呆然とする。

エリカが駆け寄ってきた。「あなたのおかげね! あのコード、どこで覚えたの?」

「えへへ……実は前回の時に……」

言いかけてノアは慌てて言葉を濁す。死に戻りについてはまだ話していないのだ。

「まぁいいわ」エリカが微笑む。「とにかく助かった」

ロンも安堵の息を吐き、「全く……お前がいなければ終わってたぜ」

サファイヤが優しく抱きしめてきた。「ありがとうノアさん……いつも私たちを守ってくれて……」

温かい腕の中でノアは思う。
(私なんて弱くて何もできなくて……でも皆が支えてくれて……)「ありがとう……私こそ……みんながいなきゃダメなんだ」

四人は顔を見合わせて笑い合った。

窓の外に広がる夕焼けが彼らを照らしている。困難を乗り越えた証のようだった。

「さぁ行きましょ」エリカが先導する。「次の階層でボスを倒せば、このダンジョンは攻略完了よ」

「あぁ」ロンが剣を鞘に納めながら続く。

ノアも一歩踏み出した。胸に残る微かな痛み—かつて死んだ時の記憶は消えないけれど。

「行こう! 次の冒険が待ってる!」

彼女の笑顔には確かに希望があった。どんな過酷な運命が待ち受けていても、仲間とともに乗り越えていけるはずだから。#さいハピ
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エンディング

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小説家の星小説家の星
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天月 兎

天月 兎

サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第三十五話 後編

ルーヴェリア「どうして、私が守りたいものは、この手からすり抜けていくのですか…?」
静かな、それでも力強かった彼女の声は、今や弱りきった小さな鳥のようだった。
アドニスはそんな彼女を慰めたかった。
泣かないで、大丈夫だから。
僕は死なない。生きてみせるから。
貴女のため、君のために。
そうして城に帰ったら、今度こそ父上と母上を説得するから。
もう寂しい思いなんてさせないから。
どうすればこの想いは伝わるんだろうか。
もう瞬きすら出来ない自分に。
魔力が渇いて心に話しかけることもできない自分に。
もどかしくて、もどかしくて。
その間にも雨は降ってくる。
仲間の誰かが死んでも、自分には涙一つ見せなかった彼女が泣いている。
ああそうか、僕は助からないんだね。
それを知ってしまったから、堰き止めていた何かが君の中で崩れてしまったんだね。
それならもう、僕にできることは君の話を聞いてあげることくらいだ。
でもちゃんと聞くから。
君の苦しみ、君の悲しみ、君の痛み、全て聞いているから。
重い目蓋を閉じないよう努めて、ぼやけていく視界を必死に目の前に広げた。
だから、沢山話してよルーヴェリア。
滴り落ちる雫の温度も感じなくなっていく。
彼女の口からは自分を責め立てる言葉が吐き出されていった。
ルーヴェリア「何が、何が戦女神だ…何が怪物だ……家族だけじゃなく、大切な仲間まで、手の届くところにいた人さえ、守れないくせに…」
君は誰かが死ぬたびにそうやって自分を責めてきたの?
そうか、だからクレストは君の側から離れることはなかったんだね。
君の孤独に気がついていたから。
ルーヴェリア「私は、自分の時間も家族も友人も戦友も何もかも奪われたのに…まだ、奪うの…」
世界が憎いんだね。
君から何もかもを奪うこの世界が。
理不尽や不条理で覆われた世界が許せないんだね。
ルーヴェリア「私にとって大切な人全て…」
そこまで言って、彼女は言葉を呑むように止めた。
彼は自分にとってどんな存在だっただろう。
家族とは違う。弟子というだけだった筈なのに、あまりに情が移りすぎた気がする。
テオのことは仲間だと思っていた。
クレストのことは戦友だと思っていた。
でも、アドニスのことは?
それらで括られるものだろうか。
どれだけ冷たく振り解いても屈託なく笑って、ただ真っ直ぐに明日を見つめるその姿に、焦がれただけだっただろうか。
違う。
知らない感情だ、私が唯一知らない感情だ。
抱いてはならなかったから、封じ込めていた感情の一つだ。
ああ、そうだ、私は。

──彼を愛していたんだ。

白む東の空。
小川を流れていく小舟は石にぶつかることもなく進んでいく。
ルーヴェリア「殿下、私の声は、まだ、聞こえていますか…」
瞬きの返事はもうない。
顔まで暗い紫色に似た赤色に染まってしまって。
ルーヴェリア「返事を…してください…」
無理だとわかっている。
微かな心臓の音が、更に弱々しくなっていくのが手に取るようにわかる。
ルーヴェリア「私の声は聞こえていますか…」
静寂の返答。
せせらぎの音が嘲笑っているかのようだった。
聞こえていなくても、聞こえていても、どちらでも構わない。
この想いを伝えたい。
本当は抱き締めたかったが、それによって彼の体が崩れ落ちては困るから、我慢した。
ルーヴェリア「殿下、私は貴方を愛しています」
うん、僕もだよルーヴェリア。
初めて君に会ったあの日、女神様のように美しかった君に心を奪われてからずっと。
僕は君を愛しているよ。
心臓の音はもう、聞こえない。
ルーヴェリア「私の声は聞こえますか…私の言葉は届きましたか…」
返事はない。
ああ、愛しいと想った人さえこの世界は奪う。
唯一恋情を抱けた人さえ。
この憎しみを、怨みを、どこに向ければ良いのか分からなかった。
けれど、彼に吐き出すのは違うだろう。
じっと自分を見つめる白濁した翡翠の瞳を見つめ返す長い沈黙の末に、日が昇る。
そうだ、貴方への愛を語ろう。

『殿下、貴方は私の初恋の人です。
馬に乗り、北方に広がる白銀の世界より美しい髪を靡かせて駆ける貴方が好きです。
儚げだった柔肌が、稽古を続けることで健康的な色に変わっていった貴方が好きです。
剣を握るたびに肉刺を作っては潰し、痛くても投げ出さなかった貴方が好きです。
死の恐怖と相見えても諦めない心を持っていた貴方が好きです。
冷えきった私の心を溶かしてくれる温かな声で話しかけてくれた貴方が好きです。
死して尚揺らぐことなく、真っ直ぐに私を見つめる翡翠の瞳を持つ貴方が、好きです。』

全部ちゃんと、聞いてあげたかった。
さらさらと流れる水の音と、小舟の軋む音と、彼女の声が混ざり合って、くぐもって、聞こえない。
せめて瞼くらいは開けていたかったのに、意に反してそっと閉じられた。
厚いすりガラス越しに見えていた景色はついに闇に閉ざされる。
ルーヴェリア「私の声は聞こえますか?私の想いは届きましたか?」
もう、醜い世界を見つめなくて良いと目を閉じてやりながら語りかける。
甘く刺すような腐臭に寄せられて虫達が鎧の隙間に入り込んでいくのを見た。
今晩には、蛆が這い始めることだろう。
焼き払ってあげた方が良かったかもしれないが、未練からそれは出来なかった。
できるだけ長く一緒に居たかったから。
顔の皮膚が溶け、剥がれ落ちて、黒ずんだ骸骨が剥き出しになる。
その頬に唇を寄せて、崩れてしまわないように優しく、そっと触れた。
もっと早くにこの気持ちに気がついていれば。
いや、本当は時折あった。
剣を打ち合わせた時、食事時、朝にかわす挨拶の時など、時間も場所も問わず彼の笑みに胸が高鳴ることが確かにあった。
失うのが怖いから、見ないふりをしていただけで。
でも結局こうなるのなら、そんなことせず素直に認めていたら良かったのに。
そうしたら、彼が自分をどう思っているのかくらいは分かっただろうに。
後悔はいつも影のようについてくる。
城に帰ったら、丁寧に、丁寧に葬ってあげよう。
それからクレストも迎えに行って。
魔王の棲家となった帝国を壊しにいこう。
空を見上げると、高く昇った日が照っていて少しだけ暑さを感じる。
水辺だから湿度が高いのもあるかもしれない。
風が時々周囲の木々を揺らしてさわさわと音を立てる。
羽虫が彼の鎧の中に入っていく。
腐った臓腑から放たれる強い香りに誘われて、一匹、また一匹と。
骨が崩れ落ちた首元に見える空洞からは、白いものが蠢いているのが見えた。
舟が、時間が進むごとに、彼の形は無くなっていく。

『殿下、貴方をこんなにも恋しく思ったのは初めてです。
他の騎士達と談笑する貴方が恋しい。
鍛錬中私の剣技に苦笑する貴方が恋しい。
汗を流したいと水を浴びて無邪気に笑う貴方が恋しい。
休暇の日にはクレストの奥さんが経営する食事処に行こうと約束して、嬉しそうにしていた貴方が恋しい。
貴方が私を呼ぶ声が恋しい。
いつも訂正するよう言っていたのに、いつまでも師匠と呼ぶ貴方が恋しい。
一度くらい名前で呼んでほしかったけれど、あのやり取りを恋しく思うくらいには、悪くない会話でした』

「師匠」
「ルーヴェリアです、殿下」

お決まりの会話。
過って止まらない思い出。
新しい記憶に触れるたびに流れる涙。
溢れてやまない、もう戻ることの出来ない時間。
守りたかった。守れなかった。守れなかった。
いつの間にか夜半の月が顔を覗かせている。
地図がないので憶測でしかないが、明日の夜には城に着くだろう。
きっとその頃には彼の体は跡形もなく消え去っている。
だからそれまでは。
虫が張っていようと構わない。
ただこの想いを貴方に語りながらその時を待たせてください。
サフラニアは私が守ります。

そうして迎えた帰国の時には、城壁から漏れる灯りは無かった。
一切の音も無く、生命の気配も、無かった。
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いる

いる

土の下から蠢く虫や 
葉を散らす樹々の囁きに
春になれば 
春になればと
孤独な頭のしじまの先に
うつらうつらと揺れる君
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いつかのポップコーン

いつかのポップコーン

SNSに蠢くファッションメンヘラが嫌いであって、ちゃんと通院して回復に努めてるメンヘラ(そういった方をメンヘラと呼ぶのは申し訳ないと思うが)は応援するわさ。
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#花彩命の庭 #初投稿 #タスク

『花彩命の庭』

— 灰都の探偵と、命を喰らう花の噂 —

灰色の雨が降りしきる街に、花の香りなんてものは存在しない。
排気ガスと錆びた水道管の臭いが混ざり合った空気が、喉の奥に鉄の味を残すだけだ。
そんな街で、花の噂が流れ始めたのは三週間前のことだった。
「人を生き返らせる花がある」――死者の多い街で、これほど甘い毒はない。
案の定、裏社会はざわつき始め、依頼案件も妙に増えた。

俺の名は久瀬ユウヤ。
だらしない探偵だが、この街の汚れた事件をいくつか拾ってきたことで、
“人間の最期の顔を見るのに慣れた男”などと、不名誉な評判までついている。
そんな俺のもとに、妙な女が訪れたのは、雨の音さえ途切れそうな深夜だった。

「久瀬さん、あなたしか頼れません」
黒い傘の縁から滴る雨粒より冷たい声で、女は言った。
名を、美月というらしい。
白い指が差し出した封筒には、写真が一枚。
そこには――鮮やかな花がひとつだけ写っていた。
錆色の荒地の中央に、まるで“そこだけ神の筆が落ちた”ように咲く花。
花弁は虹を液状化したようにきらめき、不自然なほど光を放っている。

「この花に触れた人々が、次々に消えているんです」
「消えてる……死んだ、じゃなくてか?」
「はい。“消える”んです。足跡も、血も、痕跡も、全部まとめて」

その瞬間、背骨を氷が走った。
死体が消えるなら処理だが、存在ごと消えるのは別だ。
そんな現象を説明できるのは、科学か、宗教か、呪いか。
そしてこの街では、一番可能性が高いのが――三番目だ。

美月を先導し、写真の場所へ向かうころには夜が深く濃くなっていた。
街灯が一本もない旧工業区。
鉄骨とコンクリと崩れた建屋の影が、ゆらゆらと蠢いて見える。

そして――
写真の中央に写っていた場所、そのままの光景が、そこにあった。

“花彩命の庭”。

荒廃した大地の中央で、その庭だけが異常に色づいていた。
何十もの花が咲いているわけじゃない。
ただ一本の花が、周囲の空間ごと塗り替えているのだ。
闇を押し返す光。光の周りで渦巻く、微細な粒子。
まるで空気そのものが“生者の願い”の色を帯びているような、底知れない美しさ。

美月が震える声で呟いた。
「ここに……弟が吸い込まれるように歩いて行って……姿が消えました」
「吸い込まれた?」
「ええ。引き返せと叫んでも聞こえなかった。
 まるで、花に“呼ばれている”みたいでした」

花に呼ばれる――その言葉は、昔読んだオカルト資料の一節と同じだ。
“花彩命の庭は、生者の未練を食む”
“花弁は願いの形を映し、触れた者を引きずり込む”

人の心の闇に咲く花、なんて詩じゃない。
本当に“喰らう”らしい。

それでも近づく必要があった。
弟の行方を知るために。
そして、このまま放置すれば被害が拡大するのは目に見えていた。

俺は一歩、花に向かって歩き出した。

だが、その瞬間。
足元の地面が、音もなく“沈んだ”。

まるで大地そのものが液体になったように。
落ちていく、落ちていく。
美月の叫びは遠ざかり、視界は鮮やかな色で満たされていった。

気づけば俺は、見知らぬ場所に立っていた。
荒地ではない。
夜ではない。
そこは……無数の花が揺れる巨大な庭だった。
花の色は人の記憶の色に似ている。
懐かしさ、後悔、失われた時間、叶わなかった願い――
それらが混ざり合い、虹より複雑な光を放っている。

「お兄ちゃん?」
振り向くと、美月の弟が立っていた。
だがその表情は、なぜか穏やかすぎた。
まるで“ここが帰るべき場所”と信じ切っているように。

「ここはだめだ。戻るぞ」
「なんで? 僕はここで全部叶えてもらえるんだよ。
 願いも、後悔も、忘れたいことも、全部……花が吸い取ってくれるんだ」

言葉が終わると同時に、
彼の足元から淡い光が伸びていた。
花弁の光が、人の輪郭に溶け込もうとしている。

やばい。

俺は彼の腕を掴んで引き剥がそうとした。
だが、力が入らない。
ここでは、生者の意思より“未練”のほうが強く働く。
花はそれを食う。

「……やめろ」
「大丈夫だよ。楽になるんだ」

その瞬間、背後で花のざわめきが強くなった。
生き物が喉を鳴らすような、不気味な音。
庭全体が脈動している。

ここは、生者の弱さを飲み込み、命を代償に夢を与える場所。
“花彩命の庭”の真理が、骨の奥まで染み込むように理解できた。

だったら――
未練ごと、引きずり出してやるしかない。

俺は叫んだ。
「お前は、美月の涙を見たいのか!」

弟の瞳が揺れた。
花の光が弱まった。
そのわずかな隙に、腕を強引に引っ張った。
花が怒鳴るように光を撒き散らし、庭が震えた。
視界が白くはじけ、世界が崩れ落ち――

気づけば、荒地の上だった。
花はすでに影も形もなく、ただの土が残るばかり。
美月が泣きながら弟を抱きしめていた。

弟はかすかに息をしていたが、庭の記憶はすべて失っているようだった。
それでいい。
覚えていたら、生きていけない。

美月が言った。
「久瀬さん、あの花は……もう?」
「消えたように見せて、きっとどこかに移る」
「じゃあ……まだ誰かを喰らう?」
「……ああ。未練の多い街なら、いくらでも餌はあるだろう」

灰色の雨が再び落ち始めた。
花の香りなどない街。
だが、あの庭の色は、まるで、
この街のどこかで再び咲く瞬間を待っているように思えた。

俺は煙草に火をつけ、雨の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
そしてつぶやいた。

「花彩命の庭……あまり人間を甘く見るなよ」
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ふー

ふー

載せ忘れてた!!!!
正直、孫呉より好きかもしれない。自分の感情なんてものは覇王になるためには無駄でしかない…大きく蠢く世界に流されるしかない絶望が描かれててほんとに面白かった。。
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