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ミチフミ龍之介

ミチフミ龍之介

風のQualtet
~松本隆作品詩集~ # 436

#松本隆 #詩集


☆『99%』

踏切並んだ自転車の
フードの横顔覗き込む
卒業の写真より大人の君

99%の恋人
巡り会える確率 ほぼゼロの都会で
こうして出会えたね
顔の斜線消してあげる

涙で汚れたひどい顔
あんまり見ないで 恥ずかしい
世界一綺麗だよ うるんだ目が

99%の恋人
どんなに苦労したかは話さなくてもいいんだ
ぼくらは未完成
愛で余白埋めてあげる

99%の恋人
あと一つわがままを聞いてくれたら完璧
風邪でダウンした夜は
おでこあてて熱をみてよ
GRAVITY
GRAVITY3
あさ

あさ

第二話
言わなかった言葉


行き先を告げなかったのは、理由があったわけじゃない。ただ、そのまま車に乗っていたかった。

熊本城の下で車を止めたとき、夕方の光が石垣に斜めに当たっていた。冬よりも少しだけ、光の角度がやわらいでいる。観光地としては静かな時間で、人もまばらだった。

タクシーの中は、少しだけ暖かい。暖房を切っても、指先がかじかまない程度の空気だった。

運転席の男は、さっきから必要以上のことを話さない。こちらが話せば聞き、黙れば黙ったままでいる。その距離感が、妙に心地よかった。

昔、国語教師をしていた。

若い頃は、言葉を扱う仕事が好きだった。文章を読むことも、書くことも、誰かに説明することも。言葉を知っていれば、たいていのことは何とかなると思っていた。

でも、自分の人生のことだけは、どうしても言葉にできなかった。

結婚したのも、子どもを産んだのも、特別な決意があったわけじゃない。「そういうものだ」と思っていたからだ。

いい母親でいようとした。

それが悪いことだとは、今でも思っていない。ただ、その役割に夢中になるあまり、自分がどこに立っているのかを考えないふりをしてきた。

「あとで」

「落ち着いたら」

「そのうち」

便利な言葉は、生活を回すのに役立つ。角が立たず、誰も傷つかない。でも、そのぶん、何かが確実に先延ばしにされる。

熊本城を見上げながら、ふと思った。石垣の隙間に、冬を越えた草の色が見えた。

ここは、「また今度」と言って来なかった場所だ。

運転席の横顔を見る。

やさしそうで、どこか距離を取っている顔。人の話を聞くことに慣れていて、自分の話をする準備ができていない顔。

少しだけ、昔の自分に似ていると思った。

「“あとで”って、便利な言葉よね」

思わず、口に出た。

彼は何も言わず、前を見たまま、ゆっくりと頷いた。

「やさしくて、残酷で」

それは、説明じゃなかった。確認だった。

ほんとうは、続けるつもりはなかった。でも、言葉は勝手に次を連れてくる。

「あなた、やさしい人ね」

そこまで言って、少し迷った。

言っていいかどうか、ではない。言ってしまったら、この時間が変わってしまう気がした。

それでも、言った。

「でも……やさしいまま、逃げてきたでしょう?」

言葉が車内に落ちたあと、思っていたよりも音がしなかった。

責めたつもりはなかった。ましてや、答えを求めたわけでもない。

ただ、言わずに通り過ぎることだけは、できなかった。

一瞬、胸の奥がひやりとした。後悔というほど強い感情ではない。でも、もう戻れない場所を一つ越えた感覚があった。

この人は、この言葉を受け取っても、すぐには何も変えないだろう。

それが分かっていたからこそ、言ってしまったのだと思う。

沈黙が続く。

その沈黙に、救われている自分がいることに、少しだけ驚いた。

返事は、少し遅れて返ってきた。

「……逃げたいうより、どこにも行かへんかっただけです」

一瞬、関西の響きが混じった。そのせいで、言葉が妙に生々しく聞こえた。

逃げたのではない。

行かなかった。

その違いが、胸に残った。

それは、私が長いあいだ、選び続けてきた生き方でもあった。

本当は、何か言うべきだったのかもしれない。

「もう十分、立ち止まったと思う」

「これ以上、自分を責めなくていい」

そんな言葉が、頭の中に浮かんだ。

でも、それは渡してはいけない言葉だと思った。

この人は、誰かに許されて動く人じゃない。自分で気づかなければ、前に進めない人だ。

だから、言わなかった。

熊本城を背にして車が動き出す。窓の外の空気が、わずかに軽くなった気がした。景色が、ゆっくりと後ろへ流れていく。

病院に着いたとき、私は丁寧に頭を下げた。

「今日は、ありがとう。ずいぶん、話しちゃったわね」

彼は短く、「いえ」とだけ言った。

車を降りて、数歩歩いてから振り返ると、タクシーはもういなかった。

その夜、家に戻ってからも、あの横顔が何度か浮かんだ。

言わなかった言葉は、胸の奥に残ったままだ。

でも、不思議と後悔はなかった。

あれは、今の私のための沈黙でもあった。

言葉は、使わないことで守れることもある。

それを、やっと分かる年齢になっただけだ。


#短編小説
#創作
#行き先未定
GRAVITY
GRAVITY
あさ

あさ

第一話
止まったまま、走っている


夕方の熊本市内は、昼と夜のあいだで、ゆっくりと息をつく時間だった。空はまだ明るいのに、信号の色が一つ変わるだけで、街の表情が少しずつ夜に近づいていく。

タクシーは交差点の手前で止まり、エンジンの振動だけが足元から伝わってくる。フロントガラス越しに見える空は、春の手前の色をしていた。冬の名残がまだ残っているのに、どこかで確実に季節が動いている。

和弘は、ハンドルに両手を置いたまま、ぼんやりと空を見ていた。

大阪で生まれた。進学を機に東京へ出て、そのまま就職した。三十代で長野に移り住み、結婚した。四十歳で離婚した。

それらはすべて、あとから並べれば「経歴」になるが、一つひとつの場面では、ただ「そうなった」という感覚しかなかった。

選んだというより、流れてきた。

それでも、ここでタクシーを運転している。

「ここで降りた」熊本に来たとき、そう思っただけだった。理由はない。ただ、それ以上進む気がしなかった。

後部座席のドアが開き、年配の女性が乗り込んできた。小柄で、背筋が伸びている。白髪はきれいに整えられ、コートの襟元もきちんとしていた。

「行き先は、どうされますか」

いつもの確認の声だった。

女性は少し考えてから、困ったように笑った。

「決めてないの。……こういうの、困る?」

和弘はミラー越しに女性を見る。困っている様子はない。試すようでも、甘えるようでもない。

「いえ、大丈夫です」

そう答え、メーターを入れて車を出す。

洗車したばかりのボンネットに、いつの間にか花びらが一枚、張りついていた。走り出すと、風にあおられて、しぶとく残っている。

「熊本は長いの?」女性が聞いた。

「四年くらいです」

「じゃあ、もう慣れたでしょう」

和弘は、少しだけ間を置いた。

「……まだ、そんな感じはしません」

自分でも、正直な答えだと思った。

女性は窓の外を見たまま、静かに言った。

「私もね、ここに来たとき、同じこと思ったの」

ミラー越しに見る横顔は、穏やかだった。

「お仕事の都合ですか」

「いいえ。逃げてきたの」

冗談めいた言い方だったが、声は軽くなかった。

「若い頃は、教師をしてたの。国語」

和弘は、少しだけ驚いた。

「言葉を教える仕事よ」

「……そうなんですね」

「でもね」

女性は、少し笑った。

「自分の大事なことほど、言葉にできなかった」

信号が変わり、タクシーは静かに進む。窓の隙間から入る風は、まだ冷たいが、冬ほど刺さらなかった。

「結婚して、子どももいたわ」

「……そうなんですね」

「でも、“いい母親”でいることに夢中で、自分が何をしたいか、考えないふりをしてた」

言葉は淡々としていたが、長い時間を生きてきた人の重みがあった。

熊本城が見えてきたとき、女性が言った。

「ここ、少し止めてくれる?」

車を寄せ、エンジンを切る。城の下の道には、掃ききれなかった花びらが、ところどころ残っている。
夕暮れの城は、長い時間そこに立ち続けてきたものの顔をしていた。

「ここね」

女性は城を見上げたまま言った。

「昔、“また今度”って言って、来なかった場所なの」

しばらく沈黙が続く。

「“あとで”って、便利な言葉よね」

「……」

「やさしくて、残酷で」

そして、和弘の方を見ずに続けた。

「あなた、やさしい人ね。でも……やさしいまま、逃げてきたでしょう?」

胸の奥が、少しだけ締まる。

考える前に、言葉が出た。

「……逃げたいうより、どこにも行かへんかっただけです」

一瞬だけ、大阪の響きが混じった。

自分でも驚くほど、はっきりした声だった。

女性は振り返らず、静かに頷いた。

「……そう。それ、一番しんどいやつね」

それ以上、何も言わなかった。

病院に着くと、女性は丁寧に頭を下げた。

「今日は、ありがとう。ずいぶん、話しちゃったわね」

「……いえ」

ドアが閉まり、女性の背中が遠ざかる。

その夜、川沿いで車を止めた。エンジンを切ると、街の音が少しだけ遠くなる。

スマートフォンを開くと、古い留守電が残っている。

再生すると、若い頃の自分の声が言った。

「……また連絡します」

それだけだった。

和弘は、小さく息を吐き、削除を押した。

確認画面。迷いはなかった。

留守電は、音もなく消えた。

翌朝。空は思ったより早く明るくなっていた。
和弘は運転席に座り、メーターを入れる前に、一度だけスマートフォンを伏せた。

昨夜、留守電を削除したときの、あの静けさが、まだ残っている。

何かを決めたというより、決めなかったことを、確かめただけの感触。

営業灯を点ける。

駅前で、若い男が手を挙げた。リュックを背負い、周囲を一度見回してから、後部座席に乗り込む。

「行き先は?」

「……まだ決めてなくて」

男の声は、少しだけ硬かった。

「そうですか」

タクシーが動き出す。朝の街は、昨日より少しだけ輪郭がはっきりしている。

信号を二つ過ぎたところで、和弘のほうから、ふと思いついたように口を開いた。

「……この街、どうですか?」

男は一瞬、言葉に詰まった。

「え?」

「住む人の目から見て、です」

自分でも、なぜそんなことを聞いたのか、はっきりとは分からなかった。ただ、昨夜、削除したあの声が、まだ胸のどこかに引っかかっていた。

男は、窓の外を見た。

「……まだ、よく分からないです」

「昨日、来たばっかりなので」

和弘は、ハンドルに指をかけたまま、小さく息を吐いた。

「ですよね」

信号が赤になる。街が、一度止まる。

その静けさの中で、和弘は、ほとんど独り言のように言った。

「分からんままでも、止まっても、走っても、どっちでも大丈夫な街やと思います」

それは、街の話のようで、昨夜の自分への返事のようでもあった。

信号が青に変わる。

タクシーが動き出したとき、和弘は、もう一度だけ、言葉を外に出した。

「行き先が決まってなくても、走りながら決めても、ええと思うんです」

男は何も言わなかった。

その沈黙が、昨夜、留守電が消えたあとの静けさと、よく似ている気がした。

和弘は、前を見た。

タクシーは、いつもの速度で走っている。


#短編小説
#創作
#行き先未定
GRAVITY2
GRAVITY1
カイザー

カイザー

にゃここさん
ハンギョドンの横顔ありがとうございます
GRAVITY
GRAVITY4
さんちゃん✨

さんちゃん✨

今年投稿した切り絵の中で
👍数TOP3分かりました〜👏👏👏👏
1.女性の横顔ver4.0(左

2.女性の横顔ver1.0(真ん中

3.女性の横顔ver2.0(右
123を女性シリーズ占めましたぁ!
みんな好きね💕︎
年内、切り絵の投稿は最後になります🥺
右手の怪我さえなけりゃ年末いっちょ作る予定立てれたのにぃ〜😭
切り絵繋がりの方も
カラオケ繋がりの方も
普通に仲良しの方も
右手治ったらまた作業して投稿再開しますね!
良き年末をお過ごし下さいm(_ _)m
切り絵コミニティ-刻の星切り絵コミニティ-刻の星
GRAVITY1
GRAVITY15
たまごやき

たまごやき

恋人と映画見る時、横顔ばっか見ちゃうことあるよね(〃ω〃)恋人と映画見る時、横顔ばっか見ちゃうことあるよね(〃ω〃)
恋人いないよー😭
横顔ばっかみちゃうのかな(//∇//)
GRAVITY
GRAVITY8
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