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◆絵本風・長文物語

「アルデンテのひみつと、ぐつぐつ山の旅」

むかしむかし、風にゆれる麦畑のずっと奥、
“パスタの谷”とよばれる場所に、たくさんのパスタの子どもたちが暮らしていました。
そこにはショートパスタの姉妹、リングイネの曲芸師、ペンネの探検隊――
みんなそれぞれに個性があり、毎日をにぎやかに過ごしていました。

その中に、すらりとしたスパゲッティの男の子がいました。
名前はアルくん。細身でやわらかい金色の体を持ち、好奇心がいっぱい。
でもひとつだけ悩みがありました。

「ぼくは、いちばんおいしくなりたいけど……
ふにゃふにゃになりすぎるのもいやだし、かちかちのままでも味気ない。
どうすれば“ちょうどいいぼく”になれるんだろう?」

その疑問が頭から離れず、アルくんはついに旅を決意しました。
向かう先は、谷の向こうにそびえる“ぐつぐつ山”。
山の頂上には大きなお鍋の仙人が住んでいて、
お湯の声を聞き分けるというふしぎな力を持っていると噂されていたのです。

◆◇

旅の途中、アルくんはいろいろな仲間に出会いました。
道で転がるマカロニのおじさんは言いました。

「わしみたいにやわらかく煮えたら、歯がない人も喜ぶぞ」

次に出会ったペンネの兄弟は胸をはって言いました。

「芯までぎゅっと力をこめるんだ! かたいほど冒険に強いんだぜ!」

アルくんはどちらにも“なるほど”と思いました。
でも、やっぱり心にひっかかるのです。

――ぼくにとっての“ちょうどいい”って、いったい何?

◆◇

ついに山頂に着くと、湯気の白い霧がもくもくと立ちこめ、
中央に巨大なお鍋がぽつんと置かれていました。
そのそばに立っていたのが、お鍋の仙人です。
頭には湯気の冠、手には木べら。目はやさしく笑っています。

「仙人さま……ぼくを、“いちばんおいしく”してくれませんか?」

仙人はゆっくりうなずき、静かな声で言いました。

「アルや。おまえの“ちょうどよさ”は、わしが決めるのではない。
お湯とおまえの心が知っておるのじゃ。」

そう言うと仙人は大鍋にたっぷりの水を入れ、
パラパラと塩の雪をふりかけました。

「まず、“心の準備”じゃよ。
お湯がぐつぐつ、元気いっぱいわき上がったら――
勇気を出して、飛びこむのだ。」

アルくんは深呼吸をして、ぽちゃん、と鍋へ入りました。
お湯は熱く、泡たちは「ようこそ!」と笑いながら弾んでいます。

仙人の声が湯気の向こうから響きました。

「アルや、
箱に書いてある茹で時間より、少しだけ早く出てくるがよい。
外はやわらかくても、中心に“こつん”という小さな力が残る。
それが“アル・デンテ”――おまえだけの輝きじゃ。」

アルくんはお湯の流れに耳をすませ、自分の体の変化を感じとりました。
外側がほどよくほぐれ、中に一すじの強さが残る瞬間――
「あ、これだ!」
と思ったとき、ひらりと鍋から飛び出しました。

仙人は木べらを軽くたたき、満足そうに笑いました。

「自分の芯を忘れなかったな。
急いでも、くじけても、のびすぎてもいけない。
“ちょうどよさ”は、いつだって自分の中にあるのじゃ。」

アルくんは胸を張り、谷へ向かって帰っていきました。
その姿は湯気の向こうで、きらきらと光って見えました。

こうしてアルくんは、世界じゅうの台所で愛される
“アルデンテのスパゲッティ”として、みんなを笑顔にする存在になったのです。

――おしまい――
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