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天月 兎
第三十三話 前編
最初は、壁を登って越えればいいと思っていた。
でも、乗り越えるにはあまりにも高すぎた。
空の遥か彼方まで伸びた壁は、城砦のそれよりもずっと堅固で、ずっと高かった。
だからその壁につけられるにはあまりにも小さすぎる門を通り抜けるしかなかった。
人一人が通れる程度の門だ。
けれど誰一人その門を通り抜けることは出来なかった。
その拳は全てを斬り伏せる剣であったから。
その拳は遍くを砕き伏せる槌であったから。
その拳は悉くを貫き伏せる槍であったから。
傍に転がる、自分達を殺すためだけに作られた鉄球なんて安物の包丁だ。
誰かが言った。
「あそこに行っても死ぬだけだ。迂回しよう」
けれどそんなこと、出来るわけが無かった。
あの壁は既に自分達を包囲していたから。
結局、鬼門に挑むしか道は無かった。
飛びかかる魔性の群れに拳が突き出されれば、巻き起こった風は衝撃波という刃となって他者を巻き込み、殺戮の限りを尽くしていった。
「くそ!後方援護はどうなってる!奴の動きを止めさせろ!」
群れをまとめていた者がそう言うと、側近が恐る恐る口を開く。
「あの壁が現れた際、巻き込まれて……」
全滅した、と。
ルーヴェリア達と別れ、王都から馬を飛ば…すより走った方が早かったので、クレストは文字通り走って戦線を見渡せる位置に到着した。
ヘルベ湖、ア・ヤ湖の合間を抜け、いまやもぬけの殻と化したカルシャ村から索敵魔術を行使する。
敵の進軍は発見された位置よりあまり動いていないように思えた。
陽動のための軍、そして平坦になったテフヌト族領を徒歩で進軍すると考えれば機動力はそこまで重視されなかったのだろう。
陣形は円、中心に少しばかり大きな魔力反応があることから、あれらを指揮している者は中心にいる。
だが進軍方向は前方であるが故、接敵した際を案じてか後方に支援魔術に優れた植魔と吸血鬼達を置いたらしい。
欠けてはいるが、まだ使い物になる程度の短剣を戦力として見ているあたり、魔王はそれなりに慈悲深いのかもしれない。
さて、敵の陣形等が分かれば後はやる事をやるだけだ。
クレスト「マルス団長のお力、少しばかりお借りしますぞ」
にっと笑った老騎士は、持ちうる魔力を大きく消耗させながら、敵から身を守るためではなく、敵を殺すための砦を文字通り顕現させた。
クレスト「空間把握、指定」
敵陣の後方を潰しながら、包囲できる位置に。
クレスト「存在固定、城砦概念付与」
敵がゲートを開いて逃げることも出来ないように、その存在を人間界に固定する。
そして大地に、堅牢な砦の意味を持たせた。
果てしなく高い壁、抜け出す余地など持たせない石造りの地下牢、生きながらえさせるのではなく、飼い殺すための牢獄。
出口は、自分が立つこの場所だけにして。
クレスト「建立せよ!否生の砦」
魔族らのいるヤ・クルヌ村付近の地面が大きく揺れた。
ただの地震だと思っていたが、すぐ真横に雷が落ちたのではないかと錯覚するような音が轟いたと思えば、地面が盛り上がり、高く聳える崖のように自分達を囲い込んでいた。
10万の軍勢を、囲い込んでいたのだ。
困惑した矢先、出口らしきところに人間が一人だけ立っていることに気が付いた。
その人間は肩に担いでいた鉄球を地面に転がして仁王立ちしている。
クレスト「人の言葉が通じるのならば、貴様ら魔族に教示しよう。私を倒すことだけが、この場所から抜け出す唯一の道だ」
相手はたった一人。
恐れるものなんて何もない。
1匹の魔獣が飛び出してその首に噛みつこうとした瞬間。
その魔獣は頭部から全身が弾けた。
弾けた後に、パン!という乾いた音が聞こえてくる。
自分達なら飛んで抜け出せるだろうと考えた吸血鬼が空を目指すが、どこまで飛んでも壁は目の前から途切れることはなく。
囲われているために迂回するという道も塞がれ、何故かゲートも開けない。
動揺した魔族の群れがとった行動は、一斉突撃だった。
拳が剣撃となって同胞を八つに斬り裂く。
拳が鉄槌となって仲間を千々に粉砕する。
拳が真槍となって味方を無数に刺し貫く。
たかが人間一人の繰り出す拳に、10万が圧倒されていった。
その数を半分以下に減らすことに、何分かかっただろう。
人間が到達するべきではない境地にまで磨き上げられた一撃は、ただ一度繰り出されるだけで数百、数千を虐殺した。
そうして一度退却できるところまで退却し、後方部隊は既に全滅していることを聞かされたのだ。
どうしろというのか。
武に人生を捧げて人間を辞めた悪魔のような輩相手に、自分達はなす術もなく殺される他に道はないのか。
焦燥感と屈辱に身を震わせる将に、聴き慣れた声が響いた。
それは魔界に住む者なら誰もが頭を垂れ、地に伏し、姿を見ることすら許されないような高みに座す方の声だ。
『諦念は死後に噛み締めよ。彼奴は魔力で身体能力を上げているだけに過ぎない。お前達はゲートを通れぬが、送る方は別であろう。彼奴の魔力が尽きるまで、百千萬の兵を送り続けよう。恨み言は冥土に辿り着いた彼奴の魂にでも吐いてやれ』
ああ、我が王よ。
そのお力を我らの勝利の為に振るわれるのか。
あの悪魔が倒れれば、我らが死せどもそれは勝利となるのですね。
なんと非情かつ合理的で、しかし存分に奮い立たされる言葉なのだろう。
今やこの身は焦燥感や屈辱などという小さなものに震えてなどいない。
目の前にある死という運命に武者震いしているのだ。
否、狂ってしまっただけなのかもしれないが。
そうして正気を失ったように、魔族の群れはクレストへと襲いかかった。
上空にゲートが開き、無数の魔物達が牢獄へと放り込まれる。
表すならば波。幾重にも連なり呑み込まんとする荒波のようだと人は言うだろう。
しかしクレストからしてみれば、雑魚が鯨の口に自ら飛び込むようなものでしかなかった。
群れを率いていたものでさえ、少しばかり珍しい餌に過ぎないような存在。
荒波を拳一つで堰き止めてしまった。
どれだけ高い波であろうと、どれだけ強い衝撃であろうと、その拳は全てを屍へと変貌させ、死を撒き散らして山へと変えてしまう。
イレディア「あの小童が、ここまで強くなろうとはな」
目的を果たした魔王が鏡を通してその光景を見、感嘆の言葉を漏らす。
対して横に立つ魔女は不愉快極まりなさそうな顔をしていた。
サーシャ「目的は終えたのだから、これ以上仲間を殺す必要はないんじゃないの」
鋭い声に動じることもなく、魔王は首を横に振る。
イレディア「いや、あれが死ぬまで送り続けるさ」
サーシャ「馬鹿じゃないの?死体が増えるだけでしょ。もうノクスだって死んでるのに、意味ないじゃない。なんなら私が出て殺しに行ってもいいのよ」
間髪入れず、すぐにでも殺しに行きそうな魔女を魔王は制止した。
イレディア「それでは意味がない、サーシャ。魔術は封じろ。手出しはするな」
硬い沈黙が両者に流れる間にも、魔族の血は絶えず流れ続けている。
もはや山となった死体が流れを相殺して勢いすら殺されていた。
クレストの体は敵が視界から消え去るまで延々と繰り出され続ける。
決して折れない剣、その破壊力は言うまでもない。
さて、送り出した仲間の数はいくつだったか。
とうに百万は超えているはずだが、老騎士に疲れは見えない。
時が夕刻を過ぎても、緩むことはなかった。
イレディアは一度ゲートを閉じる。
サーシャ「………どうするの、あの死体の山の後始末」
イレディア「…………とりあえず後で燃やしてやろう。あの砦は一度入れば死んでも魔界には戻れない場所だからな」
魔女の嘆息を最後に、会話は途切れた。
魔族がこれ以上出現せず、ゲートが閉じられたのを確認したクレストは、ふうと息を吐いた。
とん、という着地音を背後で聞いて振り返ると、鎧も服も破れて腹部が丸見えのルーヴェリアが立っていた。
クレスト「…師よ、私はどこに目をやれば良いのですかな?」
ルーヴェリア「こちらの台詞ですクレスト…その屍は10万どころの騒ぎではないように思えますが…」
クレストはとりあえず自分の持っていたマントを裂いてルーヴェリアの腹部に巻きながら答えた。
クレスト「マルス団長の城砦顕現を使わせていただいたところ、盗み見していた輩がゲートを開きましてな。数で押せば倒せると思ったようです。数十倍は破裂しましたかな」
流石の怪物と呼ばれたルーヴェリアも、これは青ざめものである。
ルーヴェリア「…拳で?」
クレスト「拳で」
末恐ろしい。怒らせないようにしよう。
心の中でうんうんと頷きつつ、ルーヴェリアも戦果を報告する。
ルーヴェリア「こちらはノクスとレイヴを、後、恐らく彼方側の切り札と呼べるような魔物……確か、ロストとか呼ばれていましたね。それらを討ち取ってきました」
クレスト「流石ですな」
マントを巻き終えたクレストは誇らしげに微笑んでいる。
こうしていると、昔を思い出す。
いつの日だったかはルーヴェリアの片腕が飛んでいたのをなんとか鎧で隠したり、潰れた目が周囲の人間の目に触れぬよう包帯を巻いてやったりと苦労したものだ。
下半身が丸々吹き飛んでいた時はどう誤魔化そうか頭を悩ませ、結果的に食糧を運ぶための籠に押し込めたこともあったか。
クレスト「…懐かしいですな」
ぽつりと呟くクレストに首を傾げながらもサフラニアの方面を見る。
じき夜になるが、何の伝令も飛んでこないということは、アドニスの戦線も好調なのだろう。
特に急ぐことはないと判断したクレストが、場に似つかわしくない言葉を吐いた。
クレスト「食事は摂られましたかな?」
ルーヴェリア「あ、そういえばまだでした」
砦の中で火を焚こうとし、しかし辺りは血塗れ。
乾いたものなんて見当たらず火種になるものがない。
どうしたものかと周囲を見渡していた時、ルーヴェリアのいた方から嫌な音が聞こえた。
こう、ガリガリと何かを噛むような……そう、咀嚼音だ。
クレスト「師い!?」
青ざめるクレストが見たのは、その辺に転がった何かの魔族の破片に齧り付くルーヴェリアだった。
ルーヴェリア「…この肉塊、恐らく元は吸血鬼ですね。血の味が濃い。こっちは割と筋肉質で……魔獣、ですかね?」
うむ、そのような方法で元が何の魔物だったかを当てないでいただきたい。
粉々になった魔物の肉塊で神経衰弱をしないでくだされ。
ではなく。
クレスト「せめて火を通してくだされっ!」
そも食用の魔族は出回らなくなって久しいうえ、その体に毒を宿している魔族だって存在するのだ。
不用心に口にして良いわけがない。
ルーヴェリア「確かに、火を通せばクレストも食べられますね」
あ、なんか嫌な予感がする。
クレストはすぐさま防御体制をとった。
刹那、砦内で見事な爆発音を起こしながらルーヴェリアの火炎魔術が"暴走"した。
クレスト「…元から荒野であるのに、更に焼け野原にして如何なさるおつもりで…」
やはり調理は苦手だ。
ほとんどの肉が炭になってしまった。
クレストが心労と頭痛で暫し俯いていることなど意にも介さず、ルーヴェリアはとりあえず炭を払えば食べられそうな肉片を見つけてクレストに差し出した。
ルーヴェリア「感触的に熊型の魔獣の肉です。火は間違いなく通っているので安心して食べられますよ」
そうではないのです師よ…加減というものを覚えてくだされ……何年生きていらっしゃるのか……。
クレスト「ははは…有り難く頂きましょう…」
ああ、ディゼン団長。
せめて貴方が我が師にお茶を淹れる程度の魔力に抑えられるよう鍛えてくだされば、今も残っていた自然が多かったでしょう…。
更に言えば、騎士団の厨房が爆発したり団長専用の個室が吹き飛んだりして国庫に大打撃を与え、当時の宰相が胃薬を毎日倍量飲むことも無かったでしょうな…。
苦くもあり、温かくもあり、そんな空気は魔術を通じて送り届けられた伝令の声に破られた。

takemu

ココ🥃
回答数 38>>
当然投票環境も整えられており、日本でも認められている期日前投票はもちろんのこと、郵便による投票や視覚障害者には電話による投票も認められている他、病院や介護施設には選挙管理委員会が出向いてその場で投票を受け付けることもしているのだとか。
けれども投票率が高い一番の理由は、もしかしたら、「18歳以上の有権者が正当な理由なく投票をしなかった場合、20オーストラリアドル(日本円で約1500円)の罰金が課される」と言う罰則の存在かも知れません。
もちろん外国のお話、これをそのまま日本に輸入しろとは言いません。馴染むかどうかは怪しい、と私は思います。
それと、この制度を知った時に最初に抱いた印象は「そこまでする?」と言う、半ば皮膚感覚的な抵抗感でした。
たとえ中身が何であれ、教育と勤労と納税以外の義務を国民に課すことはあってはならない、誰に投票するかの選択と同様に、投票するかどうかの選択もまた、主権者たる国民に委ねられるべきではないのかと思うので...
上げようと思えば投票率なんか簡単に上げられる例としてオーストラリアの話を持ち出しましたが、それが本当に正義かと言ったら、私はそうは言い切れないのではないかと思います。
「問題の本質はどんな愚か者にも頭がついていると言うことだ」と鉄血宰相ビスマルクは言ったとか言わないとか... 実際にある特定の政党に投票した奴らの選挙権なんか取り上げちまえと思わないでもありません。
実際、衆愚とまでは言いませんがそれに類する(私みたいな)人間もいるのは厳然たる事実です。
もちろん今の政治の状態を作り出したのは政治なんかわかんない、投票なんかめんどくさいと言う国民の怠惰と無関心が招いたことではあるのですが、投票率さえ上がればいいというものでもないような...
私たち国民が政治に関与する数少ない機会として選挙での投票が重要なことは言うまでもありませんが、それ以上に大切なのは日頃から政治や社会に関心を寄せ、国家が誤った道に進まないよう注意を払うことなのではないか、と思います。
流れて来るのは何とも情けない、不愉快なお話ばかりではありますが...

天月 兎
第三十二話 後編
「お姉ちゃん!」
突如鼓膜が感じ取った懐かしい声に、つい動きが止まってしまった。
ルーヴェリア「アリー…」
かつて村が滅んだ時に死んでしまった、大切な妹アリューシアの声だ。
「もう頑張らなくていいのよ」
「お前は十分やったじゃないか」
母マリアベルと、父ライゼスの声もする。
喋っているのは、目の前のこの骸骨だ。
ルーヴェリア「ノクスの死霊術か、よくもこんな下劣な真似を…!」
怒りを孕むその声とは対照に、体は微動だに出来なかった。
マリアベル「またそんなに傷だらけになって、私をどれほど心配させたら気が済むのかしら」
ああ、近くの山で小型の魔獣相手に立ち向かい、ボロボロになって帰ってきた日にも同じことを言われていた。
ライゼス「俺に似て力持ちなのはいいんだがなぁ、無茶苦茶なことをするところは誰に似たんだか」
困り果て、やれやれと首を振っていた様が目の前に浮かんでくる。
でもこれは、ノクスによってつくられた偽物の筈で…。
アリューシア「ねえお姉ちゃん、騎士団に入ったってことは、離れ離れになっちゃうよね?ね、寂しいから3日に1回はお手紙ほしいな!」
違う。偽物なら、こんなこと言わない。
明らかに、あの時交わした約束で、一言一句違わないところを鑑みるに、この骸骨に宿っているのは間違いなく私の家族だ。
あの時守ることのできなかった、家族たち。
鞘を握る手が降りる。
糸に巻かれた腕だけで宙吊りにされたまま、だが振り解くことが出来ない。
だって私は謝らなくてはいけない。
守れなかったことを。
死なせてしまったことを。
ルーヴェリアが口を開きかけた時、言葉を発することも許さないというように、骸骨達が話しかけてくる。
アリューシア「ねえお姉ちゃん、私が倒れてきた棚の下で泣いていた時、どうして助けに来てくれなかったの?」
マリアベル「何のために私達家族の反対を押し切ってまで騎士団に入ったのかしら?」
ライゼス「妻やアリーが死んだのは、魔族に太刀打ちできなかった俺の力不足だったのか?」
違う。違う違う違う違う。
ルーヴェリア「お父さんの力不足なわけがない!村の動けない人の分もって沢山魔獣を倒してたのはお父さんだって、私知ってる。本当に力不足だったのは、私、で…」
助けられなかったあの日の記憶が蘇る。
業火に包まれた村、思うように動いてくれない体、せせら嗤う魔女の声、助けてと響いた、妹の…。
微かに動くこともしなくなったのを好奇と見たのか、蜘蛛の糸はルーヴェリアを六つ並んだ頭部の上にぶら下げた。
それぞれの頭が各方向に伸び、裂けた中央部からワームのような口が覗く。
その様を、ルーヴェリアが見ることは出来ない。
あの日の景色が、瞼の裏に染み付いて離れないあの光景が今眼前に広がっている。
ごめんなさい。
守れなくてごめんなさい。
力不足でごめんなさい。
本当に守らなくてはいけなかった貴方達を、家族を殺してしまってごめんなさい。
私が至らなかったから。
私が弱かったから。
私が…。
体が餌を待つワームの口にゆっくりと降ろされていく。
そんなルーヴェリアの耳に、いつかの仲間達の声が響いた。
ディゼン「また下向きやがって、ケツ引っ叩くぞ」
コルセリカ「そんな過去があったから、今こうして強くなったんでしょ?」
マルス「あーあ、国を守って欲しいって言った俺の意思は継いでくれないのかぁ…」
冥界の門から次々と現れる魂を、ノクスは制御できずにいた。
閉じた筈だ、彼奴の家族の魂を呼び出した後、閉じた筈だ。
なのに何故開いている!?
ノクス「閉じろ、閉じろって!」
何度魔力を注いでも、門は閉じかかるが僅かに開いたままだ。
まるで誰かが必死にそれを押し返しているように。
テオ「おいおいあんたら、それだけでいいんすか!?もっと声かけてやってくださいよ!」
あれは、先日死んだルーヴェリアの仲間の一人だ。
あれが門を閉じるのを遮っているのか。
ノクス「救われることのない魂よ、我が意に従い彼の者を封ぜよ!」
悪霊達が一斉にテオの周りに群れるのを、白い霊魂が蹴散らしていく。
ナギ「邪魔なんかさせねえぞ!俺の師匠にあんな顔させたお前ら魔族を、俺の精霊様も許さないって言ってるからなぁ!」
陽光のような光は彼方此方を駆け巡って悪霊達を消し去っていく。
クワイア「師匠、背中ガラ空きじゃないですか」
この子は50年前共に戦った、クレストの妹だ。
そして、一人の魂がルーヴェリアを背中から抱きしめた。
ソーリャ「ルーヴェ、貴女が私みたいに過去に縛られているのは知ってる。その苦しみがどんなものかも、私は知ってる。でも今守らないといけない人達が貴女を待ってるのよ」
閉じかかっていたルーヴェリアの意識がはっきりとする。
──大丈夫、意思を継ぐ限り独りで戦わせはしない。
温かな声が聞こえる。
ワームの口が閉じる寸前、ルーヴェリアは鞘で喉粘膜を思い切り突き、反射的に自分を吐き出させた。
そうだ、私は独りじゃない。
意志を継いで戦うことで自分にしか出来ない葬送とすると決めたあの日から。
この魔装具達を身に付けると決めたあの日から。
私は独りで戦っているわけじゃない!
腕に絡む蜘蛛の糸を引きちぎり、ロストの頭部を蹴飛ばして地面に転がる剣を取る。
マリアベル「皆さん!間に合って何よりです!」
ライゼス「ギリギリ時間稼ぎ出来たな!」
アリューシア「酷いこと言ってごめんねお姉ちゃん!私たちでこいつの動きを止めるから、思いっきりやっちゃって!」
ルーヴェリアは強く頷いて剣を正眼に構える。
ノクス「クソ!どうなってるんだ!」
テオ「教えてやるよクソ野郎」
驚いて振り返るノクスの頬を、テオの霊魂がぶん殴る。
不意を突かれたのもあって尻餅をつくノクスを見下ろしながら、テオは簡単に説明した。
テオ「あんたからの呼びかけがあった時、ルーヴェリア様が障害になってるからどうにかしたいんだろうってすぐに分かった。だからあの人の家族捕まえて、ありったけの酷い言葉を浴びせてあんたの思惑通りに動くよう伝えたんだ。その間に、俺が歴史書で見た名前の人たちをかき集めて、門が閉じる前に外に出したってわけだ」
死者の魂に意思があるってのは知ってるだろうに。肝心なとこでヘマしたな、と笑うテオにノクスはわなわなと震えながら掴み掛かる。
ノクス「お前だって未練があるから応えたくせに!」
その手は軽々と振り払われた。
テオ「あ?あー、まあ王女様残してきちまったからな…そりゃ心残りだよ。他の人たちも、永遠の時間を生きることになるルーヴェリア様が"心配"だったから応えたんだ。恨み辛みばかりが未練じゃねえよ」
ロストの両腕が自身の胸元にある髑髏を掻きむしるような動きをする。
恐らく中に入った霊魂が暴れ回って妨害し、制御不能に陥らせているのだろう。
自分に向かって炎や氷の息を吐き出し、何とかして追い出そうと必死だ。
その度に自分が傷ついていることにすら気が付かずに。
ルーヴェリア「…私が言うべきなのは、謝罪ではありませんね」
ふっと笑ったルーヴェリアが地を蹴った。
ルーヴェリア「対象認識、概念具現化、斬撃術式展開…」
揺らめく大地。
──百裂き!!
行手を阻む百足の胴の継ぎ目に合わせて無数の斬撃が放たれ、文字通り百に砕かれる。
概念具現化とは、言葉に宿る意味がそのまま具現化される術式だ。
自分にかけられた呪いを解くために必死に魔術の研究をするうちに出来るようになった副産物ではあるが、強力な術である。
ロストは骸骨含め頭部が九つ。恐らくそれぞれが元は一体の魔物だったのだろう。
内二つは停戦交渉の際、魔王に付き従っていた宰相だから間違いない。
魔族に慈悲をかけるつもりも、情が湧くこともないが、死して尚こんな姿にされ侮辱されるのは、僅かではあるが哀れに思う。
故に。
ルーヴェリア「砕破!」
頭部に向けて具現化の術式を使い砕き伏せる。
尚も此方に向かってくるのは、やはり核というものが存在しないからだろう。
だが、頭を潰したおかげか奴の体は再生しなくなった。
今ならば。
地面、空中問わず縦横無尽に駆け巡り、爪を、腕を、毒牙を剥き出しにする蛇達を、内に潜むワームを、全てを切り裂きばらけさせる。
そしてありったけの魔力を込めて世界を断絶させている壁の天井をぶち破った。
ノクス「は!?」
使われたのは既に死んだ魔物だろう。
なら行先は冥界に他ならない。
ルーヴェリア「地獄より燃え立つ劫火よ、哀れな魂の拠り所を焼き尽くし、その魂を冥界へと誘い給へ!」
力技でこじ開けられた天井から爆炎の柱が降り注ぎ、ロストの身を焦がし、燃やし、灰燼に帰していく。
誰もが思わず目を閉じるような光が辺りを照らす。
ゆっくりと目を開く頃には、世界を隔絶する壁は消え失せ、いつもの景色が戻ってきた。
自分を助けてくれた霊魂達の姿はもう無い。
ルーヴェリア「皆さん…有難うございます」
夕焼け空に呟くと、地に膝をついて呆然としているノクスの元へと歩いていく。
ノクス「そんな…あり得ない…こんな…」
壁が破られたことも、死霊術を極めた自分を差し置いて冥界や地獄の門を開かれたことも、受け入れ難かった。
これじゃ、どんな顔して向こうでレイヴに会えばいいか分からない。
ルーヴェリア「…人間に似た姿にもなれたんだな。まあいい……私の家族に苦労をかけさせた罰だ。精々苦しみながら死ね」
冷淡な声色が具現化する。
ノクスの体はあり得ない方向に何度も何度も捻じ曲がり続けるが、不死者の特性でその程度なら治ってしまう。
じっくりと聖なる光に身を侵されながら、ノクスは声にならない声を木霊させる。
殺してくれと叫んでいるようにも聞こえなくはないが、そんな慈悲など持ち合わせてはいない。
ゆっくりと、確実に死に至っていく魔物を背に、夕焼け空の向こう側を眺めた。
他の戦線はどうなったのだろう。
此方は思っていたより時間がかかってしまったので、当初の予定より作戦時間は大きく遅れていることになる。
ルーヴェリアは急いでクレストの元へと向かうのだった。

天月 兎
第三十一話 後編
自分の後に続いていた筈の軍の気配が微かにも掴み取れない。
レイヴ「化け物…」
わなわなと震える声で呟くと、彼女は嘲りを含んだ声で一蹴した。
ルーヴェリア「魔族よりはまともだ」
剣の切先をレイヴとノクスに交互に向けて言い放つ。
ルーヴェリア「どちらが先に死にたい?」
ノクスは必死に思考を巡らせた。
先ほどから死霊術を扱うため何度か閉じられた冥界への門への接触を試みているが、ルーヴェリアの魔力に阻まれて触れることすら敵わない。
この地にはもう、屍人に出来る魔物も人の死骸も無くなってしまった。
かくなる上は、己が身を…。
その時だった。
中空に巨大な赤いゲートが開く。
横を見やれば、大量に血液を流しゲートを作り出しているレイヴの姿があった。
ノクス「何をするつもりだレイヴ!」
レイヴ「俺の残りの血液じゃこの化け物をどうにかするなんて無理だ。お前も死霊術が封じられれば、最終手段を使うしかなくなるだろう。だが、俺達には奴の造ったあれが残ってる」
ノクスは首を横に振った。
計画ではそれはまだ出さないもので、当初の予定を大幅に変更することになる。
それに、そんなに大量の血を流せば、流石のレイヴとて普通に戦うよりも多大な負担がかかる。
ノクス「やめるんだ!まだその時じゃない!僕もお前と同じ気持ちだけど、そんなことしたって…!」
レイヴ「同じなわけがないだろ!!」
言葉を遮った声は怒号に似ていた。
レイヴ「俺は許せないんだ…魂の救済は神の特権だ……神だけがそれを成し、神だけがそれを与えられる、唯一無二の神の力なんだ!それを此奴はやってみせた。神を愚弄した!神への冒涜だ!神への叛逆であり大罪だ!」
もはや誰の言葉にも耳を傾けないと言わんばかりである。
ルーヴェリアはゲートから凄まじい魔力を有する何かが出て来ようとしているのを感じながら、レイヴの言葉に違和感を抱いた。
魔族のくせに、神を信仰し崇拝していると?
よりによって、天から追放された堕天使が?
レイヴ「俺の居場所は彼の方の隣だ…だけどな、それでも俺は神を愛する心を捨てられないんだ!神を貶められて黙っていられないんだよぉ!!」
言い終えると同時にゲートは完成し、そこから一体の魔物が現れた。
何と言えばいいのだろうか。
とりあえず人の形に似た巨大な何か、ではある。
頭は六つ、そのうち二つはいつか見た魔界の宰相のものだった。後の四つは全く見たことのないもので、内一つは犬とも猫ともとれるような獣の姿だ。
胴体は人に当て嵌めるならば、両肩が黒い蜘蛛のそれがついていて、そこから幾重にも連なる木の根のようなもので腕が伸び、手先は熊の手のように鋭い爪を模している。
胸元には髑髏が三つ、薄気味悪い笑みを浮かべていた。その顎下あたりから無数の蛇が伸び、こちらを睨みつけるものもあれば腹部を構成しているようにも見える。
腰は胴と離れて形成されていて、汚物にまみれた沼色を思わせる色合いの巨大な百足が蜷局を巻いている。
本来ならば節足が出ているだろう箇所はなんと人間の手のようなものが畝っていて、率直な感想として気持ち悪いが真っ先に来るような見た目だ。
また、この魔物の全身から時折深い紫色の霧が噴き出しているのも確認した。
恐らく毒霧だろう。
魔界に生きる魔物達の集合体、キメラと呼ぶのならまだ可愛いかもしれないが、ここまでのものは最早何と呼べばいいのかわからない。
確実に言えるのは、これをのさばらせてはいけないということだった。
レイヴ「ロスト、その人間を、喰い殺せ」
ロストと呼ばれた魔物がルーヴェリアの方を向く。
咄嗟に大きく身を引いたルーヴェリアが見たのは、自分が立っていた地面が大きく抉れていることだけ。
瞬きの間には目前にそれが居る。
ルーヴェリア(速い…)
空を蹴って飛び上がり、首を狙って剣を振るうが、その体を凄まじい衝撃が襲って横に跳ね飛ばされる。
ロストは、上半身と下半身でそれぞれ意思を持ち、別々に行動することが出来るようだ。
上半身の一部を狙っても、下半身が邪魔をしてくる。
それに加えて、魔術が一切効かない。
地面に転がる直前に火焔、氷霜、神聖等の魔法矢を放ったが、直撃間際で弾かれるというより掻き消されてしまうのを見た。
衝撃緩和の魔術で体への負担を軽減し、体勢を立て直しつつ剣を構え直す。
これで刃すら通さない硬さを備えていたら、どう戦おうか頭を悩ませることになるだろう。
レイヴ「殺せなくても…一度ロストに喰われれば永遠に噛み砕かれ続けることになる…例えどんなことをしようとも…ロストには…勝てない…」
ふっと笑ってその場に座り込む。
血が足りないからだ。
ノクス「一先ず戦線離脱だ、戦況なら僕の遠見で確認できる。彼の方のところに戻るよ」
レイヴは首を横に振った。
ノクス「は…?」
レイヴ「彼の方の計画を捻じ曲げた責任を、俺は取らないといけない……ロストと共闘すれば、俺もまだ戦える」
ノクス「失血でフラッフラな状態でどう戦うんだよ!万が一ロストがやられても、生きてればあのクソ女に一矢報いる機会がくる!」
自分だって捨て身の覚悟で戦おうと思っていたのだから、説得できる立場にはないが。
それでも仲間は見捨てておけない。
お前が死ぬのは今じゃない筈だと、そう伝えるがレイヴは一歩も引くつもりはないようだった。
再び槍を作り上げ、立ち上がって、一歩踏み出す。
視線の先では剣と爪を交差させながら一進一退を繰り返す化け物同士の戦いが繰り広げられていた。
レイヴ「俺はある意味で謀叛人だ…彼の方が許しても、俺は俺を許せない。だから」
俺が俺を罰するんだ。
お前は後退して彼の方を守れ。
そう言い残して、レイヴはルーヴェリアとロストの戦いに割って入っていった。
ノクス「……転移と遠見くらいしか出来ない僕に、何が出来るって言うんだよ」
呟いた言葉はもう届かない。
もしも彼が崇拝する神がいると言うのなら、縋りつきたい気分だ。
どうか仲間を助けてくれ、奇跡を起こしてくれと。
こんな気分になったのは、久々だ。
ノクス「ごめんよレイヴ、僕は退けない」
もう失うのはごめんなんだ。
ノクスは自分の頭を外し、両手で力一杯押し潰して粉砕した。
闇色の外套が溢れ出た魔力によって翻り、体は魔力によって焼き尽くされていく。
ルーヴェリアの逃げ場を無くすように、魔力は空間と空間を裂いて次元を切り離し、外界と隔絶された領域に自分ごと閉じ込める。
死霊術はその地に残る霊魂を操るだけでなく、死者の棲家へ干渉することを得意とする。
この術を極めると、人間の住む世界、魔族の住む世界、神の住む世界、死者の住む世界、凡ゆる世界に干渉し操ることが出来るようになるのだ。
勿論、対価もそれ相応に必要になる。
ノクス「人間の姿になるまで魔力削がれたけど、まあこの程度なら補佐くらいは出来るよね」
お前が死ぬ気でそいつを殺すって言うんなら、僕だってやってやるさ。
今にも死にそうなほど痩けた頬、青白い肌、ストレスで白くなったざんばらの髪を揺らして、骨ばった腕を伸ばした青年は口の端を吊り上げた。
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ℍ𝔸𝕃〚はる〛
リラックス:寝ること(¦3[▓▓]、サウナ
好きな歌手:L'Arc~en~Cielほか
好きな食べ物:焼肉🥩
目的:色々な方とコミュニケーションしてみたいなぁ思いグラビティ始めました
持病:双極性障害Ⅱ型ほか
こんな僕ですが、仲良くしてやってください☆
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天月 兎
埼玉/女/26歳
出会い目的の方は回れ右してくれ。
下半身に脳みそあるタイプの猿は滅んでどうぞ。
名前の読み、実は「かむづき うさぎ」なんです。
あまつきでもてんげつでもないよ。
普段はゲームに夢中、ロボトミ、ルイナ、リンバス、FGO、雀魂、麻雀一番街がメイン。
FPS大嫌いだけど稀にBF5の愚痴吐くよ。
SSもたまーに書いてて時々うpします。
たまーにお絵描き、作曲もするお。
よろすく。
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まえさん
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巻谷まく
お産金が足りなくてtんこを取られ後から金を払い警察に通報したら国で戸籍上女扱いセツクス禁止結婚禁止になる/隠語でなく外国人と日本人の血脈です/二次文字書き/鬱/テレビゲームアニメAV映画出版社声優イラスト会社VtuberYoutuber舞台風俗アイドル俳優女優イベントボランティア一切関係ないです/真奈美(改名済み)と約100%間違えられており嫁にどうかとか昔の小中学の同級生が親に言われまくってる
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ココ🥃
やっぱりこの名前がいいや。
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