「メゾン・ド・ジラフ」 「ペット可」と書いてあるから私はこのマンションに引っ越すことにした。これで思う存分キリンを飼うことが出来るな。 昔のテレビＣＭで「失恋した時の女性の解決法の第２位は引っ越しである」というのをやってたけど、第１位は間違いなく「キリンを飼うこと」だと思ったよ。 キリンの名前はジム。男の子です。私が公園の前を通った時、ジムがジャングルジムの中に入って絡まって出られなくなっている所を助けたのが二人の出逢いでした。ジムの自慢は身長が５メートルもあること。彼氏の身長としては申し分ないな。一緒に歩く私も鼻が高い。 食事を兼ねて散歩する時に、私が一番困ってしまうのは、ジムが高い電柱を見る度に、その長い首を電柱に向かって思いっ切りぶっつけてゆくことだ。 「ネッキング」という男の子同志が女の子を奪い合う時にする喧嘩らしくて、困った、と言いつつ実は嬉しかったの。今までに電柱を８本倒してしまったことは許して欲しいな。 ジムは私を守ってくれる。信号を一緒に渡っている時などに、危ない車が私に向かって走って来ると、ジムはその車を蹴っ飛ばして壊してしまう。でも決して運転手の命まで奪ったりしないからジムは優しいんだ。 公園に行き、ジムの背中に乗って散歩する時、決まって私はジムの首を強く抱き締めた。 ジムはやっぱりジャングルジムが怖いみたい。脅える。そんな時はいっそう愛しくなって、私はジムの首を更に強く抱き締めた。 一度だけ車道で散歩したことがあるけど、ジムは車並に足が早くって、振り落とされそうになった。 しかも周りの車を破壊しまくって、さらにやって来たパトカーまでも破壊した時は大変だった。 ジムはマンションで、立ったまま眠り、水を飲む。一緒に寝れないことが悲しかったの。 そして水を飲むその長く淫らな舌を見て、ジムの濡れた瞳と目が合い、別れた彼を思い出して泣く時、決まってジムも一緒に泣いてくれた。 ジムが鳴くことは滅多に無かったけど、その声を聴いてると眠くなってしまうよ。 そんな時、私が妊娠してることが分かった。 相手は別れた彼だったが、私はジムとの間に出来た子供だと思った。 私はジムの茶色のまだら模様を、全部ハート型に塗り潰した。名前負けしても構わない。産まれてくる子供が男でも女でも、麒麟という名前をつけようと決めました。
