人気

フルト

りょちん♂
詩:アロイジウス・ベルトラン
訳:庄野健
”スカルボ”
幾度となく私は見た、やつ、スカルボを
金の蜜蜂を縫いとった瀝青色の旗印の
銀色の紋章のように月が輝く夜に
幾度となく私は聞いた
壁の暗がりでやつが漏らすあざけりの声を
ベッドのカーテンに爪をたてる音を
私は見た
やつが天井からするすると降りてきては
魔女の糸巻きさながら
一本足でくるくると
部屋の中を踊りまわるのを
やつは何処へ失せたのか
突然、あやしい小鬼がゴチックの鐘楼のように
月と私のあいだに立ちふさがった
金色の鐘がやつのとんがり帽子で揺れている
しかし、すぐにそいつの身体は蒼白に変った
不気味なろうそくのように
頭は燃えつきたろうそくのように
溶けて流れた
そして冷たく動かなくなった

徳田 潜三☭
ブルジョアジーは、家族關係からそのしほらしいセンチメンタルなヴェールを破り取つて、純然たる一個の金錢關係に引き戾してしまつた。
ブルジョアジーは、保守主義者󠄃がいたく感嘆󠄃してゐる、あの中世時代の蠻勇的行動が、懶惰を極めた安逸󠄄生活といかに似合ひの相棒であるかを明示した。それは實に初めて、人間の活動がどこまでのことをなしとげうるかを示したものである。すなはち實にエジプトのピラミットや、ローマの水道󠄃や、ゴチックの堂塔にも優る大工事を起󠄃し、また昔の民族移住や十字軍を凌駕する大遠󠄄征を決行したものである。
ブルジョアジーは、生產機關を、從つて生產關係を、從つてまた一般の社󠄃會關係を、絕えず革命することなしには存在することが出來ない。これに反し、古い生產方法を何らの變化󠄃なく保存することが、前󠄃代におけるすべての工業階級󠄃の第一の生存條件である。故に、生產の絕えざる革命、あらゆる社󠄃會狀態の不斷の動搖、永久の不安と擾亂、それがすなはちブルジョア時代がすべての前󠄃代と異なる特徵である。すべての確立し凝固した諸󠄃關係は、それに伴󠄃ふ大切な舊說古傳とともに一掃󠄃せられ、すべての新式の事物も、それがまだ固定せぬ前󠄃に廢物となつてしまふ。堅牢なものは悉く氣化󠄃し、神󠄃聖󠄃なものは悉く褻瀆され、そして人間は遂󠄅に自分󠄃の生活狀態と、自分󠄃と同類󠄃との關係を、冷靜な目で見つめるよりほかはないことになる。
ブルジョアジーは、その生產物のために絕えず市場を擴大する必要󠄃があるので、地球表面の全󠄃部に追󠄃ひやられる。それは到る處に巢をつくり、到る處に住みつき、到る處に因緣を結ばねばならぬ。
ブルジョアジーは、世界市場の搾取によつて、各國各地の生產および消󠄃費にコスモポリタン的性質を附與した。產業の足のしたから國家的地盤を引き拔いて、保守主義者󠄃の大なる悲嘆󠄃を招いた。古來の國家的產業は旣に破壞され、なほ日々破壞されつつある。そしてそれに代る新產業を輸󠄃入することは、すべての文明國にとつて生死の問題であり、またその新產業は、もはや內國の原料でなく、最も遠󠄄隔した諸󠄃地方からの原料に加工し、またその生產物は內國ばかりでなく、世界のあらゆる方面で消󠄃費される。昔の、內國產によつて充足された需要󠄃の代りに、今は最遠󠄄隔の國土の產物でなければ充足されない、新しい需要󠄃が生じてゐる。昔の、地方的國家的の自足と閉居との代りに、今は諸󠄃國民相互の間における、各方面の交通󠄃、各方面の依賴が生じてゐる。そして精󠄃神󠄃的生產もやはりこの物資󠄄生產と同じである。個々の國民の精󠄃神󠄃的作物は、世界共通󠄃の所󠄃有となる。國民的の偏執と僻見とは、次󠄄第々々に不可能となる。そして多數の國民的、地方的の文學の間から、一個の世界的文學が起󠄃る。
ブルジョアジーは、すべての生產機關を急󠄃速󠄃に改善することによつて、また交通󠄃機關を絕えず進󠄃步させることによつて、すべての國民を(野蠻國民をすらも)文明に引き入れる。彼らはその商品の廉󠄃價を重砲󠄃として、あらゆる支那󠄃の城壁をも擊破した。彼らはまたそれによつて、頑固に外人を憎󠄃惡する野蠻人をも降伏させた。すべての國民は、もし滅亡を欲しないならば、ブルジョアジーの生產方法を採󠄃用することを餘儀なくされる。いはゆる文明を自國に輸󠄃入すること、すなはち自らブルジョアとなることを餘儀なくされる。これを一言にすれば、ブルジョアジーは自分󠄃の影像に從つて世界をつくるものである
