デカルトによれば、私たちが対象から与えられて抱く第一の感情は、愛でも憎しみでも、喜びでも悲しみでもなく、驚嘆(admiration)である。というのも、感情はいわば心を動かす刺激のあり方、心に与えられる変化である以上、そもそも何らかの刺激がなければ、それ以外の感情に転じることもない。気を引かれないものには、何の感情も抱きはしないのである。
新しいものを認識した時に、その原因や結果を推論することから生じる歓喜が、「驚嘆(admiration)」である。この定義はデカルトのものとは全く異なる。そもそもデカルトでは驚嘆は対象に気を引かれるという感情の出発点だったが、ホッブズにおいては感情は対象による刺激に対する反応として自動的に生じるため、出発点としての驚嘆は必要ない。そこで彼は驚嘆をむしろ好奇心に基づく歓喜の一種と見なす。デカルトについてもホッブズについても、現代の感覚とは少し異なる使い方をしている。