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連載小説です。1話からのどうぞ。
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『待てコラ』

最終話


翌日の朝。
映画の中の俺は、鼻歌を歌いながら、広い道を歩いていた。

しかしその足がピタリと止まり、ぽかーんと前を見る顔がアップになる。
カメラが俺の背後に周り、背中越しに道路の前方が映し出された。

そこには20人程のう◯こ座りの集団がいた。
なぜか全員がガムをかみながら、俺をにらんでいる。

集団の真ん中の男が立ち上がった。
和歌山ヤンキーだ。

「待てコラーー!!」

和歌山ヤンキーが叫ぶと、座っていた人々が立ち上がった。

「「「「待てコラーー!!」」」」

全員が一斉に飛びかかってくる。
俺は「ひー!」と情けない声を出しながら、必死に逃げる。
21vs1の追いかけっこの始まりだ。

街の中を、大学の構内を、広い公園を。
木に登って、集団をやり過ごしたり、渡り廊下から飛び降りる、なんて無茶な事までさせられた。

……しかしついに、21人に囲まれてしまった。
じわりじわりと人の輪が縮まってくる。

映画はいよいよクライマックスだ。

和歌山ヤンキーが俺の肩を、ガシッと掴んだ。
俺の顔を下から舐めるように見る。

和歌山ヤンキーは、表情をやわらげた。

「この前は悪かったな!」

ーー完


さて、後日談になる。

和歌山ヤンキーは、大学卒業後、和歌山へ帰り大工になった。
広島ヤンキーは、先輩のつてで東京へ行き、現在はCMの曲なんかを作っている。

2年前、俺は広島ヤンキーに会いたくて東京へ行った。
広島ヤンキーは若いギャルと同棲していた。
なんでも、風俗で働くギャルの足を洗わせ、作った曲のボーカルをしてもらってるらしい。
着実に夢に向かって進んでいる姿は、とても格好良かった。

つい先日、電話がかかってきた。

「おう、ワシじゃあ。
 今度、有線でワシの曲がかかるけぇ、しっかり聴いとけや!?」

……いや、有線は聴けませんて。

ーー完ーー

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『待てコラ』

第五話

「おう! また映画撮るけぇ、手伝えや!」

少し風がぬるくなってきた頃、広島ヤンキーの先輩が言った。

「……え!? またですか!?」

しかし、日頃から先輩に面倒をみてもらっている俺は断ることができず、またもや主役として参加する事になった。

……結論から言うと、この作品は前作よりもあらゆる面がバージョンアップされていた。
例えば、出演者の数。
前作は、俺と和歌山ヤンキーの2人だけだった。
しかし今作はなんと、22人も出演するのだ。


撮影がなんとか終わり、広島ヤンキーの編集タイムに入った。
しかし、前作と違い、なかなか映写室に呼ばれない。

広島ヤンキーは編集に1ヶ月の時間を費やし、満を持して、映画関係者を大学の映写室へ呼び出した。

「よう来たのう!
 やっと完成したけん、見てってくれや」

今作は出演者が多かったので、映写室には大勢の学生がひしめいていた。
その中には、どこから噂を聞きつけたのか、知らない生徒も大勢いた。

薄暗い映写室のスクリーンにタイトルが浮かび上がる。

『待てコラ2』

……うん。そうですよね。
俺、今回もさんざん走り回ったもんね。

映画がスタートした。

道をとぼとぼと歩く俺。
前方に、道をふさぐように男が腕を組んで立っている。
カメラが、その男を足元から舐めるように上がり、顔がアップになる。

和歌山ヤンキーだ。
和歌山ヤンキーは口からつばを飛ばして叫ぶ。

「待てコラーー!!」

俺は振り返ると、急いで逃げ出した。
和歌山ヤンキーが走って追いかけてくる。
2人は走る。
街の中を、大学の構内を、大きな公園を。

街は夕暮れになり、長い影を落としながら、俺は急な坂道を駆け上がった。
和歌山ヤンキーの足がもつれはじめ、2人の距離が伸びていく。

「ま、待てコラ……」

弱々しく言うと、和歌山ヤンキーは地面に片膝をついた。

なんと、今作で俺は、和歌山ヤンキーから逃げ切ることができたのだ。

しかし、画面がゆっくりとブラックアウトしたかと思うと、風に揺れる木が映し出された。
チュンチュン、と鳥の声がする。

画面に文字が映し出された。

「翌日の朝」

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『待てコラ』

第四話

俺はしばらく呆然としてから、周りを伺った。
みんなもぽかーんとしたり、苦笑いしたりしていた。

「おっさん! なかなか良かったでぇ〜!!」

和歌山ヤンキーの声だけが、室内に響き渡った。


季節は巡る。
冷たい北風の吹くある夜、俺は広島ヤンキーに呼ばれて、部屋に行った。

彼の部屋は広い。
グランドピアノが置いてあり、その横のちゃぶ台の上にカセットコンロと鍋が用意されていた。
そしてその鍋を、6人の男たちが囲んでいる。
全員知った顔で、和歌山ヤンキーもいた。
広島ヤンキーが、冷蔵庫から何やら取り出した。

「実家から鴨が送られてきたけぇ、鴨鍋じゃあ!」

学生の俺たちに、鴨鍋なんてものを食べる機会はそうそうない。
俺たちは我先に、火が通ったかも分からない鴨肉を奪い合うように口に放り込んだ。

ーー後に遊びに行って分かるのだが、彼の実家は名家だった。
ムキムキの祖父が、その地域に強い影響力を持っているようだった。
ちょっとした名所の滝も所有していたから驚きだ。


鴨鍋の残りをつつきながら、酒盛りになった。

俺は、少し飲んだだけで真っ赤な顔になった広島ヤンキーに、この際だと思って聞いてみた。

「先輩、めっちゃピアノ上手じゃないですか。
 クラシックばかり熱心に弾いてますよね。
 卒業後はピアニストですか?」

彼は、ちょっとうつむいて小声で言う。

「ワシは、作曲家になるんじゃ」

隣にいた和歌山ヤンキーが、でかい声で言う。

「おっさんは、小室ファミリー作りたいんよなぁ!?」

こ、小室ファミリー!?
俺は、一昔前にJ-POP界で幅をきかせていた軍団を思い出した。

「安室奈美恵とか、TRFとかの……?」

和歌山ヤンキーはニヤリと口のはしを上げた。

「おっさんはなぁ、こう見えて、ギャルが大好きやからなぁーー!!」

「ギャ、ギャル!?」

広島ヤンキーの顔を見ると、酒のせいなのか耳まで赤くなっていた。
他の先輩が笑う。

「そいつはさ、作曲で有名になって、ギャルたちをプロデュースしたいんだ〜!」

それを聞いた広島ヤンキーは真っ赤な顔のまま、机の引き出しからサングラスを取り出した。

その夜、広島ヤンキーがサングラスを外すことは1度もなかった。

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『待てコラ』

第三話

スクリーンに映し出されたタイトルの文字が消えると、画像は初夏の青空に変わった。

それを見た生徒たちが、少しざわついた。
俺も意外な映像に驚いていた。

映画は全編モノクロ映像だったのだ。

画面は街の雑踏に変わる。
不安をあおるようなBGMが流れてくる。

(後で聞いたのだが、『待てコラ』のBGMは、全てヤンキー映画やヤ◯ザ映画のサントラを使用したらしい……)

画面内では、俺がとぼとぼと歩いている。
どすん。
すれ違いざまに男性と肩がぶつかった。
しかし俺は気にせずに、そのまま歩いていく。

唐突に、和歌山ヤンキー先輩の短い頭髪がアップになる。
画面の下の方で眉毛がヒクヒクと動く。
どうやら、俺の肩が当たって怒っているようだ。

すると和歌山ヤンキーが叫んだ。

「待てコラーー!!」

一瞬、俺のムンクの叫びのような酷い顔がインサートされる。
俺は逃げるように走り始めた。
その後を和歌山ヤンキーが追う。

俺と和歌山ヤンキーはひたすら走り続ける。
街の中を、大学の構内を、広い公園を。

画面はただ二人が走っているだけなので、すぐに飽きてくる。

しかしそれを見計らうかのように、時々和歌山ヤンキーの頭髪がアップになり、その叫び声が響く。

「待てコラーー!!」

その度に、画面に引き戻される様な気がした。
BGMもそこで毎回変わった。

さんざん逃げ回った俺は、ついに高架下のフェンスに追い詰められた。
キョロキョロと辺りを見渡すが、逃げ道はない。

ジャリジャリとサンダルを鳴らして、和歌山ヤンキーが迫ってくる。

アップで映った俺は、酸欠の金魚のように無表情で口をパクパクしていた。

……映画は、いよいよクライマックスだ。

和歌山ヤンキーの片手が、俺の肩を掴んだ。
そのまま、俺の顔を近距離でにらみつける。
俺の額から、汗が流れ落ちた。

突然、和歌山ヤンキーは気が抜けたように言った。

「すまん、人違いだったわ!」

ーー完


小説は続くよ

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はい。突然の短編小説スタートです!
俺の体験談をそのまま小説風にします。
今回は、しょうもないので、すぐ終わりますよ〜!

−−−−−−−−−−

『待てコラ』

第一話

「わんわん、お前を主役に、映画撮るけぇなぁ!」

薄汚い下宿先の廊下に、広島ヤンキーの先輩の声が響いた。

「いやいや、待って下さいよ!
 なんですか、映画って?
 だいたい、先輩は映像学科とは関係ない、音楽学科じゃないですか!?」

先輩は、細すぎる眉毛を吊り上げて、俺をギロリとにらんだ。
とても恐ろしい顔つきだが、俺は怖くない。

なぜなら、この人はこう見えてとてもおちゃめだ、という事を俺は知っているからだ。

「ビデオカメラ借りてきたけぇ、なんかおもろいもん撮ろうと思ってのぅ!」

先輩がこう言い出しては、もう止められないのだろう。
俺はため息をついた。


大学二回生の俺は、下宿先でゆったりと生活していた。
一人暮らしとはいえ、妙に隣人との距離が近い下宿という環境は、俺の性に合っていたのかもしれない。


翌日から、早速撮影がスタートした。
妙に顔が広い先輩は、色んな学生を引き連れていた。
しかし、あくまで監督は先輩のようだった。

「わしがやれぇ言うた事をやるだけじゃけぇなぁ!?」

俺は先輩の言われるがまま、ただひたすらカメラの前を走り回った。

……ん? なんで俺はひたすら走ってるんだ!?


ーーー1年前。

「おっさん! それはアカンって!!」

朝早い下宿先に、大声が響いた。
俺は飛び起きて、ただ事ではないと思ってドアを開けた。

廊下には、広島ヤンキーの先輩と、それを羽交い締めにする和歌山ヤンキーの先輩がいた。
羽交い締めされている広島ヤンキーの顔は真っ赤で、その右手にはバットが握られている。

「離せやわれ〜!! あいつだけは許せんけぇーー!!」

何ごとっ??
和歌山ヤンキーの顔を見ると、彼は必死な顔で俺に叫ぶ。

「おい!お前も止めろや!!」

俺は広島ヤンキーのバットを持つ手にしがみついた。

「ど、どうしたんですか!?
 落ち着きましょう!?」

しかし広島ヤンキーは、俺と和歌山ヤンキーをずるずると引きずって前進しながら叫んだ。

「止めんなや!!
 あいつだけは許せんけぇーー!!」

続く。

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