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紫苑/しおん🐈⬛
④退院日
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
朝の病棟は音が少ない。夜を越えた白が少しだけ薄まっている。七海はベッドに腰掛け、退院用の書類を膝に置いていた。紙は軽い。中身も軽い。
胸の奥が落ち着かない。理由は分かっている。ここを出るという事実そのものだ。昨日までこの部屋では呼吸が管理され、声が届き、名前を呼ばれた。今日は違う。呼ばれない。
衣服を整える。入院時よりも少しだけ選んだ服。派手ではない。ただ身体に沿う。立ち上がると重心が遅れてついてくる感覚がある。それを七海は意識してしまう。意識した時点で、もう戻れない。落ち着こうとする。できない。それも知っている。
ドアがノックされる。
佐藤が入ってくる。
手には退院確認の書類。
『調子はどうですか』
昨日と同じ声。同じ高さ。同じ速さ。
「大丈夫です」
声は安定している。七海自身が驚くほど。
佐藤は頷き、数値を確認する。
酸素。呼吸。問題なし。
『今日で退院になります』
宣告ではない。報告だ。
七海は「はい」と言う。言葉は短い。
それ以上足さない。
佐藤は説明を続ける。
吸入。薬。生活上の注意。
すべて正しい。すべて必要。
だが七海の意識は、声の内容ではなく、声がここにあるという事実に引き寄せられている。
説明が終わる。
『何か質問はありますか』
仕事としての一文。
七海は一瞬だけ迷い、首を振る。
「大丈夫です」
佐藤はそれ以上踏み込まない。書類にサインをし、『お大事に』と言う。佐藤が部屋を出る。白衣の裾が一度だけ揺れる。
扉が閉まる。
音は小さい。
だがはっきりと区切られた。
吉田が来て、手続きを終える。淡々と。
「では、お疲れさまでした」
その言葉に意味はない。儀礼だ。
七海は病棟を出る。エレベーターに乗る。鏡に映る自分を見る。顔色はいい。生気が戻ったと言われる種類の顔だ。だが身体の奥が静かにざわついている。
外に出る。風が思ったよりも冷たい。
七海は歩き出す。歩幅は一定。だが意識は内側に沈んでいる。何かを失ったというより、置いてきた感覚。名前も理由も与えられないまま。
一方、病棟では日常が続く。
佐藤は次の患者のカルテを開き、同じ声で同じ説明をする。吉田は詰所で入力を続ける。〖経過良好により退院。〗それだけで一件は閉じられる。
誰も振り返らない。
七海だけが歩きながら、胸の奥に残った重さをどう扱えばいいのか、まだ分からずにいた。
#創作小説 #紫苑 #経過良好

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