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ハーロック
元妻が声を尖らせた。
「あなた、私を責めたいだけでしょ。娘を盾にして」
父の怒りが、ここで解放される。
爆発じゃない。解放だ。
理性のまま、刺す。
「盾にしてるのはお前だ」
娘が息を止めた。
父は、娘の方を一度も見ない。見たら、優しさが先に出てしまう。今必要なのは優しさじゃない。線を引くことだ。
「娘を使って、俺から何か取ろうとしてる。金か、支配か、見栄か知らないが、全部同じだ。娘の心を踏んでる」
元妻の顔が歪む。
「そんな言い方……!」
父は一歩踏み込む。
声は大きくしない。大きくすると娘が怯える。
代わりに、断言する。
「娘は物じゃない。回収できる荷物じゃない。大学に行く年齢になってから現れて、親ヅラして、人生に割り込むな」
その瞬間、娘の嗚咽が漏れた。
父の胸が痛む。痛むが、止めない。ここで止めたら、また侵入される。
元妻が、最後の札を切るように言った。
「娘はあなたの子じゃない。だからあなたは関係ない」
父はそこで一秒だけ黙った。
黙ってから言う。怒りに任せた言葉じゃないと示すために。
「血の話をするなら、勝手にしろ」
言い切ってから、父は続けた。
「でも家族は血で決まらない。家族は時間で作る。毎日のご飯と、熱と、ケンカと、仲直りと、逃げない背中で作る」
娘の肩が震える。
涙を拭こうとして、拭けない。
元妻が食い気味に言った。
「ほら、こっちに来なさい。お母さんと暮らした方が楽よ。大学だって」
父が元妻を見て、静かに返した。
「その“楽”の中身が金なら、なおさら信用できない」
言い切った瞬間、元妻の目が泳いだ。
図星の時、人は怒るか逃げるかしかできない。
元妻は怒りを選びかけたが、父の“揺れない目”に負けた。
これは理屈じゃない。覚悟に負ける。
「……最低」
元妻が吐き捨てる。
父は返した。
「最低でいい。娘を守れるなら、それでいい」
元妻は一瞬、何か言いかけた。
でも、娘の涙を見た。
娘が元妻を見ていないことも見た。元妻が求めている“支配の手応え”が、どこにもない。
元妻は、引いた。
玄関の外へ一歩下がり、早口で言う。
「勝手にしなさい。でも後悔しても知らないから」
最後の捨て台詞は、負けの証明だ。
元妻は踵を返し、そのまま行った。
二度と戻ってこない歩き方だった。勝てない場所には来ない。そういう人間だ。
ドアが閉まったあと、父は膝が少し震えているのに気づいた。
怒りで震えているのではない。守り切った反動だ。
娘が言う。声が掠れている。
「……ごめん。私、怖かった」
父は首を振った。
「謝るな。怖くて当たり前だ」
娘は涙を拭いた。
「お父さん、あんな怒ったの初めて見た」
父は少しだけ笑った。
笑うと喉が痛い。
「怒る必要があった。あれは、お前の前でやらないと意味がない」
娘がうつむく。
「……私、他人って言われた瞬間、頭が真っ白になった」
父は言った。
「他人じゃない」
言い切ってから、言葉を足す。
押しつけにならないように、でも逃げないように。
「血のことは、事実として受け止める。必要なら調べる。それでも俺は変わらない。お前が望むなら、俺は父親で居続ける」
娘の肩が崩れた。
泣き方が、小さい頃と同じだった。声を殺して、歯を食いしばって、涙だけが落ちる。
父は隣に座った。
抱きしめるかどうか迷って、抱きしめない。今の娘は子どもじゃない。尊厳を守るための距離を選ぶ。
その時、廊下の奥に気配が立った。
黒い服の男だ。黒いコート、黒い手袋。関西弁のくせに、今日はやけに静かに見える。
「自分、ようやったな」
父は小さく息を吐く。
「……娘の前で怒るのが、こんなに難しいとは思わなかった」
黒い服の男が頷く。
「怒りってな、暴れるためやなくて、守るために使うもんや。今日のは、ちゃんと“守る怒り”やった」
父は娘を見る。
娘は涙を拭きながら、父の腕を掴んでいる。小さい頃の癖が、無意識に戻っている。
黒い服の男が続ける。
「元妻が言うたんは“血”の話だけや。ほな自分らが持っとるのは何や。十三年分の生活や。逃げへん背中や」
父は頷いた。
「……奪わせない」
黒い服の男は、ここで少しだけ笑った。
「せや。戦うんちゃう。守るだけや。娘の意思をな」
父が立ち上がり、娘に言う。
「明日、二人で手続きとか相談とか、必要なことを整理しよう。全部、現実で処理する」
娘が小さく頷く。
「うん……私、ここがいい。お父さんと暮らす」
父の目が熱くなる。
でも泣かない。泣いてもいいけど、今は背中を固くしてやる。娘の足場になるために。
父は短く言った。
「分かった。ここがおまえの家だ」
黒い服の男は、玄関の方へ歩きながら、最後にぽつりと落とした。
「血は始まりの材料や。でも家族は毎日作るもんや。自分は十三年作ってきた。そら、もう誰にも崩せへん」
気づけば、男はいなかった。
でも、部屋の空気は少しだけ整っていた。
娘がテレビを消した。
父はキッチンに立ち、湯を沸かす。
二人とも、まだ胸が痛い。
でも“壊れない”ことだけは、今日も更新された。
普通の夜が、戻ってくる。
それがいちばん強い。
#希望 #自作小説

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