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ゆま

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【不良と犬人Part7】

母は一通り光紫を褒めちぎると、俺には目もくれず、夕食の準備のため、再びキッチンに戻っていく。

残された俺の視線の先には、作り上げたつみきの車で遊ぶ光紫の姿があった。

楽しそうで、嬉しそうで、愛されていて、妬ましい。

それは一瞬のことだった。俺は衝動に突き動かされ、善悪の判断もつかないまま、足元にあった光紫のつみきを拾い上げると、「お前のはこっちだろ」
声を張り上げ、投げつけるように光紫をつみきで思いきり殴っていた。

途端に火がついたように泣き出した光紫に俺も泣きながら叫ぶ。

「お前なんかいらなかった!!」
次の瞬間、俺は母に張り倒され、顔をあげると、泣きじゃくる光紫を抱いた母はまるで鬼のような形相で俺を睨みつけていた。

「なにすんの!」
「光紫が悪いんだ、光紫なんか大嫌い、お母さんも大嫌いだ!」

それからは、なし崩し。
母は一層俺に冷たくなり、光紫に優しくなった。
父はいつも俺には無関心だ。
光紫ははじめこそ俺に怯えたが3歩歩けば忘れる鶏のように、次第に俺の後をついて回るようになる。

そんな光紫を俺は敵視し、母に疎まれ、小学校高学年にあがる頃には、万引きやいじめの主犯格。すっかり教師たちの頭を悩ませる問題児に成り下がっていた。

「こんなはずじゃなかったんだけどな」
ひとつ、本音がもれると、これまでの報われなかった想い、自分がしでかしてきた悪さの限りを思い出し、目頭がツンと熱くなる。

「あー、生きんのって疲れる。死んじまおうかな」

喧嘩する度胸はあっても死ぬ度胸なんかないくせに。言ったそばからそんな事を思い、俺は俺を嘲った。

「死んだっていいことないのだ」
真っ暗な部屋の扉がいつの間にか空いていて、廊下から差し込む明かりの中に犬の影がある。

「入ってくんな」
零れそうな涙を慌てて拭った俺は犬を怒鳴りつけた。俺の怒号などどこ吹く風。犬はスタスタと俺の側に近づくと、俺の隣に寝そべる。

「恋紫はいいヤツなのだ。死んじゃだめなのだ」
「お前に何がわかるんだ」
「わかるのだ。だって恋紫は俺を助けてくれたのだ」
「は?」
犬は俺を見つめる。
その目は、カーテンの隙間から降り注ぐ月明かりを得て、涙に潤むかのごとく、輝いている。

「恋紫、お前は大切なこと忘れているのだ」
犬は深く息をついてそう言った。#小説 #いぬびと
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