
あこ
本が好きです
読書
文学

あこ
シャルル・バルバラ/著
国書刊行会
装丁の美しさに、思わず本書を手に取ってしまった。
シャルル・バルバラなる、聞きなれない作家の幻想的な短編集だ。
19世紀半ばのボードレールの友人で、ポーをボードレールに紹介した人物らしい。
本書の収録作品は5篇
「ある名演奏家の生涯の素描」 暴君的な父親に理不尽な教育を受ける息子の痛ましく愛おしい生涯が描かれている。文章も音楽的で美しい。
「ウィティントン少佐」 孤独な天才発明家の屋敷での生活。自動人形に魂を与えようとするかのようなお話。
「ロマンゾフ」 実話の犯罪を元にしたミステリーぽい作品。主人公のロマンゾフの謎が見事に解き明かされていく。
「蝶を飼う男」 表題作品。色彩豊かな蝶の交錯。人工の天国か、夢か現かと惑わせる美しい空間で人間の昆虫との交流がなされる。驚きとおかしみの入り混じった読後感であった。
「聾者たち(後記)」 耳が聞こえないために他人を理解することもできない争いが描かれる。ユーモアたっぷりであるが、物悲しさも伴う笑いが込み上げる。
実際どの話も面白く、これまでバルバラが埋もれていたのが信じられないほどだ。
訳者も、忘れ去られた19世紀の本作品をよくぞ見つけ出したものと感心する。帯に書いてあった《知られざる鬼才》という表現がぴったりだと思う。
幻想文学に興味がある方は、ぜひ一読していただきたい本であった。


あこ
活字中毒者には辛いにゃ〜
読みたい 読みたい!
#読書

あこ
今号の特集は“美”だって。
読むの楽しみぃ。
#読書


あこ
#読書


あこ
わくわく


あこ
ブラム・ストーカー/著
創元推理文庫#読了
言わずと知れた「ドラキュラ」の小説だが、きちんと読んだのは初。
この本は数ある吸血鬼ものの中でも、「英ガーディアン紙が選ぶ死ぬまでに読むべき1000冊」の一冊に入っている傑作だ。
まず驚いたのが、全編、手紙、日記、新聞記事で構成されている書簡体小説であった事だ。
ゴシックホラーらしく、十字架、墓場で眠る伯爵、夜空に飛ぶ蝙蝠、血、死人が握る船の舵…と、不気味な要素が詰め込まれている。
ブラム・ストーカーが、現在の「吸血鬼」のイメージを確立させたのだ。
内容は、ドラキュラ伯爵と、彼の正体を暴き出し彼を退治しようとするヴァン・ヘルシング教授を中心とする人々との闘争だ。
不死者と人間の果てしない闘いである。
序盤から、ドラキュラの捉えどころのない恐怖に囚われる。
恐怖の描写は精緻で、読者の恐怖の想像を掻き立てる。
後半、登場人物たちがお互いの日記を読み合う様が圧巻。
また平井呈一の美文語の訳が、古めかしく美しく、この物語の良さを一層引き立てる。
吸血鬼小説はたくさんあるようだが、これを超える小説はないと聞く。
その通り、素晴らしい傑作幻想怪奇小説だった。
皆さまもぜひご一読を。


あこ
買ってみた……


あこ
ポール・オースター/著
新潮社#読了
久しぶりにポール・オースターを読んだ。
この小説はミステリではない。が、主人公ブルーは探偵だ。
ホワイトという人物の依頼で、ブラックを見張る探偵ブルー。個性を消した色の名前であることが、逆に読者の想像を掻き立て、自分なりの登場人物を描いてしまう。
それにしても監視されるブラックの“日常”には何も起こらない。
淡々と毎日同じ事が繰り返される。なぜ監視させられるのかブルーにもわからない。
何も起こらない中で、憔悴と内面の旅の末にブルーが辿る結末とは何か?ブラックの正体とは誰か?
出だしから秀逸で、尚且つぐいぐいと読ませる筆力は素晴らしい。
事件らしいことは何も起きない、その事が監視する者とされる者の境界を曖昧にしていく不安感がエグい。
訳者後書きで、柴田元幸が「エレガントな前衛」と評しているが、上手く表現していると思う。
筋立てはミステリではないのに、どうなるのかハラハラするような場面もあり、最後まで読んでしまう。
最後はあっと言わせられる結末。
透明な筆致と卓越した筆力で描かれた「不条理」な物語。
割と短いので、あっという間に読めてしまうが、深さのある小説だった。
おススメ。
#読書


あこ
『吸血鬼ドラキュラ』
思ったより怖い……
#読書


あこ
#文学フリマ東京


あこ
ワクワクするぅ
#読書#文学フリマ東京


あこ
アイザック・アシモフ/著
ハヤカワ文庫#読了
アイザック・アシモフの有名SFを今更ながら、初読みした。
銀河大戦やスペースオペラのような話を想像していたのだが、全く違った。
銀河帝国の滅亡を予言した一人の心理歴史学者によって〝ファウンデーション〟と呼ばれる科学財団が作られ、帝国が斜陽となる中、銀河の派遣を握っていく、という話。
野蛮(?)な人々を相手に、
①技術を輸出することで、財団の加護がなければ生きられない経済支配をおこなう。
②原子力技術を〝宗教〟という膜で覆うことで精神的な支配をおこなう。
③野心あるナンバー2の首根っこを掴むことで将来的な傀儡を作り出す。
と、まぁ、これらの政治的な駆け引きがとんでもなくおもしろい。
3度に及ぶセルダン危機によって支配の構造がかわるのだが、その原子力、宗教、経済などさまざまなな要因が絡まって“ターミナス”の支配を拡大させていく様はハラハラするが、最高である。
とにかく壮大なスケールの歴史観が素晴らしかった。
続きのⅡとⅢを読むのが楽しみだ。
#読書


あこ
紀田純一郎+荒俣宏 編集
新人物往来社#購入
怪奇幻想文学全集Ⅰ〜Ⅶ 購入した!
装丁(黒のクロス貼り)も内容も、とても好み。
今日から少しずつ読み始めよう。
この第一巻は“吸血鬼”がテーマ。
ちょうど今、ブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」読んでるから、血まみれになってしまいそうです。
ワクワク
#読書




あこ
中原淳一/著
国書刊行会
とんでもなく乙女で[目がハート]レトロな本買ってしまった。
昭和三十三年(!)にひまわり社から刊行した単行本の復刻です。
可、可愛い……



あこ
ダン・ブラウン/著
角川文庫#読了
みなさまご存知「ダヴィンチ・コード」の第1作目である本作の舞台は、バチカン市国を含むローマ。
教皇選挙が物語の核をなす。
そこで、秘密結社イルミナティを名乗る者が起こす連続殺人を阻止するため、おなじみラングドン教授が街を駆け巡る。走る。
非常に面白かった。
個人的には知名度で勝る『ダヴィンチ・コード』よりも本作の方が一層スリリングで、小説でありながらヴィジュアル的に映える場面が多く、結末も衝撃的で良かった。
宗教と科学の対立を軸にした構成も、全3巻の長編だがブレることなくしっかりしている。
このシリーズはミステリとして読むと犯人は比較的分かりやすいので、ダイナミックな展開が魅力のサスペンスだと思っている。
まぁ、知力と体力と幸運に恵まれていなければラングドン教授のような過酷な一日を乗り切れないので、そこはご愛嬌。
それにしても、スケールの大きさと真相にはただ驚くばかり。
非常に質の高いエンターテインメントであった。すらすら読めるので、どんな方にもおすすめ。


あこ
エドガー・アラン・ポー/著
新潮文庫#読了
史上初となる推理小説「モルグ街の殺人」を含む6作品の短編集。
初読は中学生のときだったか。
その鮮烈な印象は今も鮮やかなため、あらすじは全て覚えていた。
しかし、改めて読み返してみると、その深さに脱帽する。
天才的な名探偵と相棒、猟奇的な殺人、不可能な密室、無能な警察、感嘆すべき推理…と、1841年時点ですでに本格ミステリの骨子が完成されていたことに驚きと共に、尊敬を覚える。
『モルグ街の殺人』『盗まれた手紙』『黄金虫』…
どの作品も素晴らしい出来映えだ。
ポーは詩人でもあったため、言葉の一つ一つが練られていて、単なる推理小説以上の読後感を読者に与えてくれる。
既読でも楽しめるのは、そのためか。
また、あまり話題にはならないが、アンチミステリの「群衆の人」は良かった。
大袈裟かもしれないが、カフカや安部公房のような不条理風、実存主義的風で非常に面白かった。
ポーのミステリの完成度があまりに高いため、その後推理小説が一大ジャンルとなったのも頷ける。
今でも全く色褪せない、素晴らしい文学作品だと感じる。#読書


あこ
ウィリアム・ギャリス/著
国書刊行会#読書
どうしても読んでみたくて、8800円もしたけど!頼んでみた。
届いたら、とんでもなく厚くてーー。
重くてーー。
そのボリュームで読むのに疲れるーー。
(それも嬉しかったりするけどね笑)



あこ
回答数 5>>
これに載ってる本は全部読んでみたくて、でも、載ってない本にも読みたいのが山ほどあって…
リスト見るたび、気持ちがぱたぱたします。


あこ
ポー短編集I ゴシック編
エドガー・アラン・ポー/著
新潮文庫#読了
皆さまご存知のエドガー・アラン・ポー。
久しぶりに読み返してみたが、本当に素晴らしい作品だ。
ポーは、推理小説、SF、ホラー、ゴシックなどの祖と言われ、その作品の完成度の高さから天才作家と言われている。
今回はそのうちのゴシック編。
まぁ、「ゴシック小説と言えばこれでしょう!」という要素が全て詰まっている。
謎めいた雰囲気、不吉な予感、先の読めないサスペンス、そしてあっと驚く結末もあってエンタメ度も抜群。
短編なので文章は短いが、そこに詰められた情報量で、いくらでも深読みが出来てしまう。だから、再読してもその度に恐怖に揺らいでしまう。
そう、各話主人公は揺らぎ続けている。 正気と狂気。善と悪。生と死。 この境界を登場人物も読者もゆらゆらと曖昧に振れる
周囲の描写がやけに静謐で現実味を帯びている。そのために人智を超えた出来事が妄想だとは思えない恐怖が襲ってくる。
ともに恐怖に揺れながら、わけもわからず進んでいくと、唐突に強烈なラストに突き当たる。
この短編集には、「黒猫」「赤き死の仮面」「ライジーア」「落とし穴と振り子」「ウィリアム・ウィルソン」「アッシャー家の崩壊」の6編が収められている。
どの短編も完成度の高さと面白さは超一級だ。
とても200年前に書かれたとは思えない。
昔読んだ方も多いとは思うが、ぜひ今一度再読して頂きたい。
何度読んでも、ポーが天才作家だと再認識されられること必至である。
相当おすすめ。


あこ
フィリップ・K・ディック/著
ハヤカワ文庫#読了
ディック作品の中でも、傑作との評価が高い本作。
この物語は、全面ジャンキー(麻薬中毒者)たちのかなりイカれた会話で進んでいく。
主人公の覆面麻薬取締官フレッドこと、ボブ・アークターは、流通しはじめた物質D(麻薬)の供給源を突き止めるためにおとり捜査をしていた。
しかし、彼もその過程で物質Dの中毒者になってしまった。
その中でフレッドは自分本人であるボブ・アークターの監視を命じられ、もうフレッド=ボブ・アークターなのかどうかすらもわからなくなっていく。
自分を監視する自分という矛盾に満ちた環境に自我が引き裂かれる。ディックらしい悪夢が展開されていく。果てのない薬物摂取。そして全編が饒舌な中毒者の会話と分裂した自我の叫びで構築されている。
全面的にジャンキーの言葉で語られ、ジャンキーの視覚で語られる世界は、ぐちゃぐちゃに乱れていく。
この作品は、作者であるディック自身が麻薬に溺れ、その過程で多くの友人の死、また自身の健康をなくした過去に捧げられているという。
そのせいか、終始語り口もどこか悲惨で、救いのないイメージが纏わりつく。
しかし、是非にも最初から丁寧に読んでいって欲しい。
最後に必ずググッと胸に迫るラストが待っている。
このラストを迎えるためだけにも、この本は読む価値がある。
#読書


あこ
アンソニー・ホロヴィッツ/著
創元推理文庫#読了
この本は、「アガサ・クリスティ」へのオマージュに満ちた傑作と言われ、それにまた帯の惹句が派手だ。
何たって、「ミステリランキング全制覇第一位」「4冠!」なのである。
読んだ感想は、まず「うーん、よくできているなぁ」。
構成的にトリッキーではあるものの、前代未聞というほどでもなく、色々な場面が緻密に練り上げられている、上質なフーダニットである。
しかも、そのフーダニットが2つ、一つの小説に格納されているのだ。上手い。
作中作のミステリと、現実のミステリが入れ子状態になっていて、またそれを解くのが「ミステリ好きの編集者」という、実にミステリファンの心をくすぐる設定である。
しかし、殺される側の心情にも、犯人の動機にもピンとこない違和感があったのは事実。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、納得いかない部分が複数あった。
しかし、それを鑑みても良いミステリである。
多分この小説は、映像にはむいている。
最後の作中作が現実ともつれあって解決していく件は、傑作と呼ばれるのもわかるほど読み手も引き込まれる。
つまりこの作品は構造第一なのだと感じた。
この作品はシリーズ9作目という事だ。
他の作品も購入してしまったほどに面白かった。
#読書


あこ
グレッグ・イーガン/著
ハヤカワ文庫#読了
グレッグ・イーガンの3番目の短編集。
7編の短編から成っている。
短編と言いながらも、最新テクノロジーと最新数学・物理学理論を駆使したイーガンらしいハードSFだ。
私は正直、代数や圏論はさっぱりわからないのだが、それでもやっぱり滅法面白い。どの話も素晴らしく、心に響いてくる。
作者が真に目を向けているのは”人間存在とは何か”というところにあると思う。
一見難解な科学理論や目くるめく様な未来テクノロジーは、それを扱いそしてそれに翻弄される人間達の本質を浮き上がらせる為の方便なのかな。
例えば、私が1番好きだったタイトル作である《ひとりっ子》は大雑把に言うなら“アンドロイドに心はあるのか?”を問うている。
さらに、この物語はそれのみに留まらない複雑に交錯したテーマを孕んでおり、それだけに作品集中最も味わいの深い物語になっていることは確かだと思う。
量子コンピュータによる多次元宇宙解釈は私にはかなりむずかしかったが、
量子コンピュータを思考回路として持つアンドロイドの生きる決定論的な宇宙の存在。
さらにはもっと人間的な、親と子の愛情、関係の在り方について。親は子に何を託すべきか?子を持つ、というのはどういうことか?
それらは普遍的で、すんなりと頭に入ってくる。
ひとりっ子だけではなく、全体を通して“人はその生の中で何を選択して生きてゆくのか”というメッセージを量子的多世界解釈に託して描いているように思う。
テクノロジーと生命がせめぎ合う中で人間存在とは何かを問おうとする。
そんなことをイーガンは問うているのかなと思いながら読んだ。
それにしてもこれは再読必至の短編集だった。
おススメ。
#読書


あこ
回答数 55>>
エドワード・ゴーリー/著
子どものくせに、この絵本が大好きだった。
日本語のリズムもよかった。
今でもすき。


あこ
草野原々/著
ハヤカワ文庫JA#読了
新人デビュー作での「星雲賞受賞」
「東北大学SF研」のレビューをみて、手に取ってみた。
短編が3作載っている。
どれも、はちゃめちゃだけど、しっかりとSFだった。
導入部の馬鹿馬鹿しさ(文章の素人臭さ)さえクリアすれば結構楽しめる。
ソシャゲ、アイドル、声優のオタクの方々が読んだら、最高に血湧き肉躍るSFだと思う。
「自分、実はオタクなんです」という方は是非どうぞ。


あこ
テッド・チャン/著
ハヤカワ文庫
テッド・チャンは非常に寡作なSF作家だ。
この30年の間、本作を含めて2冊の中短編集しか発表していない。
しかしながら、作品はヒューゴー賞を3度、ネビュラ賞・ローカス賞・星雲賞をそれぞれ2度とった。書けば、決まって斯界に瞠目されたのである。
9種類もの濃密な物語を詰め込んだこの『息吹』もまた、是非にとお勧めしたい。
膨大な想像力を緻密に書き連ねている筆力もそうが、独自の世界の中で人が生き生きとしている。
どれか1つでも読んで頂けば、テッド・チャンの世界の素晴らしさがお分かり頂けると思う。
一つの物語をじっくりと味わいたいので、自然と読むスピードがゆっくりになる。そんな風に読んでいきたい本であった。
一つ一つの話のレビューはしないでおこう。
私は、後世に残るようなSFだと感じた。
つまり、傑作と言うことだ。
かなりおススメ。


あこ
ジェフリー・ディーヴァー/著
文藝春秋#読了
自分では事件現場を訪れず、情報だけを基にして真実に辿り着く探偵を「安楽椅子探偵」という。
この本の主人公リンカーン・ライムは「世界一の犯罪学者」にして、最高の「安楽椅子探偵」である。
このライム率いるチームと、狡猾にして残忍な猟奇殺人犯「ボーンコレクター」との息詰まる対決が始まるーー。
緻密な科学捜査、犯罪心理への精通により、犯人のメッセージを的確に読んでいく展開には、終始ハラハラさせられる。それが実に見事に描かれている。
四肢麻痺となり、それに悲観し、死を考えていたライム。
しかし、犯人との知恵比べに生きがいを見出し、犯罪学者であり名探偵というかつての自分を取り戻していく過程が素晴らしい。
シリーズの第一弾となる本作は、ミステリーとしてもサスペンスとしても一級品だ。
ミステリーファンなら、ぜひこの作品を手に取って欲しい。


あこ
H・P・ラヴクラフト/著
創元推理文庫
アメリカの怪奇小説作家H.P.ラヴクラフトが創造した「クトゥルフ神話」を中心に4話が構成された作品集。
未知の恐怖や古代からの神々といった、現代の人類の理解を超えた力が描かれているのだがーー。
これは夜読むもんじゃない。恐怖がひたひたと擦り寄ってくる。
訳の硬さも、この恐怖に一役かっている。
元の文章がすでに硬質で不思議なのかもしれない。
不気味は不気味のまま、いずれの話も怪しげな筆致で、仄暗い物語が語られていく。
説明、比喩、暗示的表現が多く、かなり優れた奇譚であることは間違いない。
なるほど、ラヴクラフト作品群が、数多くの作家に影響を及ぼした理由が、僅か4編を読んだだけでもわかる。
さすがである。
特に「インスマウスの影」、「闇に囁くもの」の2編は素晴らしい。
恐怖と狂気が、物語の中に見事に閉じ込められている。
主人公の狂気の片鱗は、しかし誰でもが持っていて感じているものではないか?
全部で9冊の全集。
狂気に溺れながら読んでいこう。


あこ
ジョージ・オーウェル/著
ハヤカワ文庫#読了
先日、『一九八四年』のレビューをした際に、コメントでこの本をおススメされて、読んでみた。
読んだ方も多いと思うが、この本も素晴らしかった。
これは動物たちの姿を借りて、ロシア革命後のソ連で演じられた権力構造の変質を描いている物語だそうだ。
動物達が、人間のジョーンズからの支配を逃れたのに、別の支配者(豚のナポレオン)が生まれたり、支配者を恐怖の対象にして自分たちに都合の悪いことに関しては黙らせたり話を逸らしたりがリアルで、ゾワッとする。
また「すべての動物は平等である」と革命のスローガン「七戒」にはうたわれていたのに、それがいつの間にか変えられている恐怖。
偽りの理想郷の支配者となった「知識」に秀でたブタたちは、「だが一部の動物は他よりもっと平等である」と開き直る。
権力を握った革命家たちによる都合のよい言い換えへの、作者の皮肉がにじんでいる。
独裁国家だけではなく、この私たち自身も、疑問を抱くことなく、正しい資料が燃やされているのを眺めているだけなのではないか。
他人事ではない…
そんな気持ちでページを閉じた。
#GRAVITY読書部


あこ
『富江』上,下 伊藤潤二傑作集1,2
伊藤潤二/著
朝日新聞出版#読了
伊藤潤二センセの傑作集、買っちゃった。
怖くて最高です、はい。


あこ
筒井康隆/著
新潮文庫 #読了
いきなり、何の説明も無しに始まっていく物語。
舞台は、文明が失われた世界。
文明が失われた代わりに、この世界の人々は様々な特殊な能力を発芽させている
集団で転移したり、壁を抜けることができたり、思考した人の顔になったり、空中を浮遊したり・・・。
ひとりの若者「ラゴス」が、この世界の国々を旅してまわり、様々な不思議な体験を乗り越えて、ある目的の地へたどり着く冒険の旅を描いている。
大変ありがちな喩えではあるが、この作品では「旅」=「人生」という構図が成り立っている。
物語最終章の章である「氷の女王」内にも、
「旅をすることによって人生というもうひとつの旅がはっきりと見えはじめ、」
とあるように作者は「旅」=「人生」という構図をはっきり意識しているし、単純に読めば読者はそのことを途中で理解できるようになっている。
ラゴスと共に旅をすることによって、私たち読者は「目的をもって生きることの魅力」あるいは「面白さ・素晴らしさ」に気づくことになる。
旅とは生きることであり人生だ。そう考えたときに一つ所に安定しているよりも、旅を続けて目的であるどこかに進み続けていることは面白い。
それが共感できる読者にとって、この作品の魅力の根幹として存在しているのだろう。


あこ
劉慈欣/著
早川書房#読了
「三体」シリーズの作者、劉慈欣の短編集。
発表順に、13編の短編が収録されている。
「三体」シリーズを読んだ方なら誰でもきっとニヤリとしてしまうだろう。
出てきたモチーフが散りばめられているからだ。もちろん、「三体」未読でも大変に楽しめる。
個人的に好みだったものは、まず「地火」。
町に襲い来る「地火」の恐怖は臨場感たっぷりで、その恐ろしさにハラハラしてしまう。
が後半一転して、未来へと繋がっている。その転換が見事。
「郷村教師」では、貧困に喘ぐ農村で命をかけて教育に心血を注ぐ教師の姿が描かれていく。壮大な宇宙戦争パートとのギャップが凄まじい。
「詩雲」は、読んですぐにボルヘスの「バベルの図書館」を、彷彿とさせた。訳者後書きにも触れていたので、発想の原点にあったのかもしれない。
「円円のシャボン玉」は、全編がポジティブで、思わず微笑みながら読んだ。
「円」は一番好きだった作品。
「三体」作中でも出てくるエピソードだが、単体で読んでも素晴らしい。そのスケールとビジュアルを想像しただけで、目眩が起きそうなほど面白かった。
劉慈欣が、こんなに短編の好手とは知らずにいた。現実の辛苦と未来への希望を短編に落とし込み、ここまで完成させるとは、劉慈欣以外にはなかなか出来ないのではないだろうか?
どんな方にも勧められる良い本だった。


あこ
ジョージ・オーウェル/著
ハヤカワepi文庫#読了
言わずと知れた、古典にして名作のディストピアSF小説。
その評価にたがわず、素晴らしい内容だった。
ビッグ・ブラザー、ニュースピーク、二重思考恐るべし。
読後感はかなり重い、憂鬱になる。バッドエンドや途中の拷問と洗脳が徹底される感じがきつい。
作中「なぜこんなことを?」という問いに「それは権力のための権力だよ」と答えることや
巻末の付録のニュースピークがエグくて、衝撃だった。
2+2が4と言える世の中に生きていれて良かったと思う反面、現在も監視社会であったり、メディアやSNSなどでの偏った思想の流布とか、本作のようなディストピアに繋がりうる種は撒かれているような気もする。
重たいが、さすが名作と言われるだけある一冊だった。


あこ
#読書


あこ
トルーマン・カポーティ/著
新潮文庫#読了
この小説は、実際に起きた「クラッター一家殺人事件」を描いた、ノンフィクションノベルである。
作者のカポーティが、膨大な取材と資料をもとに書き上げた。
クラッター一家は、誰にも恨まれることのない、地元の裕福な一家であった。
その一家のうち4人が、ほとんど金銭も取られずに惨殺される。そのことに、街の住民は恐れ慄く。
全くもって、不条理な殺人事件なのだ。
カポーティが、3年以上の歳月を費やし、取材した作品である。
しかし事件の過程も、犯人の心情も、取材がしっかりしているからといって、事実を羅列しただけではリアリティは生まれない。
そこにはカポーティの才能が発揮されているので、よりリアルに事実が胸に飛び込んでくる。
そんな中、カポーティがいちばん力をいれて描くのは、犯人の1人「ペリー」だ。
ディックとペリーの2人組のうち、ペリーに沿って描かれるのは、カポーティと生い立ちが似ているからともされている。
しかし、この2人が「死刑」にならなければ、物語が完結しない。そこにカポーティのペリーにたいする情とも言うべき気持ちとの相反が見られるのが興味深い。
ノンフィクションノベルとしてだけではなく、不条理な犯罪を犯してしまったものの心理を描いた小説としても傑作だった。


あこ
フィリップ・K・ディック/著
ハヤカワ文庫#読了
物語は、第二次世界大戦で、日本とドイツが連合国に勝利した、架空のアメリカが舞台になっている。
数多くの登場人物は、それぞれ交わることなく、ただどこかで繋がっているという凝ったプロットになっている。
何が誰が繋がっていくのか知るのは、作者と読者だけだ。
また、作中で重要になってくるのが「イナゴ身重く横たわる」という作中作の本。これは何と[連合国側が勝った時の世界]を書いているという、入れ子構造になっている。
また、「本物とまがいもの」「真実と虚」が重要なテーマとして何度も姿を変えて繰り返される。
この群像劇の中の登場人物たちが、真実を求めて、勇気ある一歩を踏み出して生きる姿が、鮮明に描き出されていく。
田上が、知らぬ間に損な役回りをさせられて悩み苦しみ、タオにより真理に近づいていく姿に、深い感銘を覚えた。
また、最後の最後に世界がひっくり返される結末は、本当にディックの素晴らしい手腕を感じた。
奥深い人間性探究の本作は、多くの方に読んでもらいたいし、私も何度も読み返したくなる傑作だった。


あこ
早川書房編集部/編
ハヤカワ文庫
最近になってSFに初めてまともに向き合っている。そんなSF超初心者の私が、入門書として読んでみた。
オールタイム・ベストSF、必読作家・必読100選、編集部のおすすめ、マイ・スタンダードSF、年代別SF史、ハヤカワ文庫SF全データ…等々、多彩な切り口&視点。
また、長谷敏司と藤井太洋の肩肘張らない対談(これがめっぽう良かった)
盛りだくさんの内容で、SFに対する興味はますます上がり、読みたい本はますます増え続け……
とても面白く、興味深く読めた。
こう言う本は楽しくて、いくらでもパラパラと読み続けられるね📕


あこ
莫言/著
中公文庫
小説の舞台は、100年前の清朝末期の山東省。
ドイツの鉄道敷設工事が始まり、ドイツの横暴に怒った孫丙(猫腔の座長でもある)が反乱を起こすのが、事件の発端。
主な登場人物は5人。
銭丁(眉娘の愛人で県知事)は、孫丙(眉娘の実父)を捕らえる。
そして見せしめのために趙甲、小甲父子(眉娘の舅と婿)を使って残酷な極刑である「白檀の刑」に処すことになる。
父は罪人、舅と夫は処刑人、愛人が処刑責任者となった眉娘は、その狭間で幾重にも引き裂かれてゆく。
大きく歴史が転換しようとしている端境期に起きたこの出来事そのものが、猫腔(マオチアン)と言うひとつの劇仕立てになっている。
各章の冒頭には必ず猫腔の歌がはいる。
そして、語り手は先の5人であり、それぞれの視点から物語は語られていく。
とにかく読む者の肉体感覚を刺激する描写が素晴らしい。ここで人間は特別な生きものではなく、動物と区別のつかないものとして捉えられている。
そこには、血や汗や涙や鼻水や体液や糞便にまみれ、全編に芝居の哀切な歌と猫のニャオニャオという鳴き声がひびきわたる。
また、刑罰描写も凄まじい。これでもかと残酷な処刑が描かれていく。
しかしこの本の素晴らしいのは、そうした肉体を刺激する描写だけにとどまらない。
登場人物は一見冷酷無比だったり、好色だったりするのだが、その実、人間味に溢れているいいヤツ揃いなのである。
後半では、猫腔の「芝居」仕立てが中心になり、全てを竜巻のように巻き込みながら、悲劇的な大円団を迎えていく。
その描写も素晴らしく、この作家の力量に唸らせられる。
読み終わった後は、しばらく力が抜けたように感じられたほど、エネルギーのある小説であった。ニャオニャオ🐈


あこ
『風の一二方位』
アーシュラ・K・ル・グィン/著
ハヤカワ文庫#読了
初読の作家と思い込み読んでいたが、途中であの『ゲド戦記』の作者であることに気づいた。
作者のおそらく造語であるだろう、心の童話(サイコミス)17編からなるこの短編集は、初期のキャリアを時系列順に配している。
それぞれの話の前に、自作解説が添えられている。
それによると『オメラスから歩み去る人々』は遠くドストエフスキーの影響下にあることなど興味深い。
筆致は凛として孤高。非常に美しい。
チクリと痛みを植え付ける大きな問題意識と小さく沢山の生理的嫌悪感を含んだ感情の揺れが胸に残る。
話はどれも面白く、どうやら後の長編の萌芽やスピンオフ的な話もあるようだが、そんな知識が無くても十分に堪能できる。
ゆっくりと作品を味わいながら、これからも大切に読んでいきたい一冊だった。


あこ
ディクスン・カー/著
創元推理文庫#読了
カーの短編集の第1作。
トリック自体は危なっかしいものもあるのだが、これらの作品が書かれてから60年以上も経っていらことを考えると仕方ないと思える。それでも、全ての話にきちんとオチがあり、十分楽しめる。さすがカーである。
短編ながら物語の構成が際立っていて、怪奇趣味も舞台の雰囲気作りに一役買っており、軽やかながら読み応えのある短編集だった。
特に怪奇趣味の語りくちの『めくら頭巾』は良い出来のミステリーだと思う。
完全犯罪ミステリー全盛期の作品を手軽に楽しみたい方におすすめ。


あこ
アゴタ・クリストフ 著
白水Uブックス#読了
『悪童日記』にはじまり『ふたりの証拠』、『第三の嘘』と続く三部作が、「フランス語」で出版され、世界弟30ヶ国以上でロングセラーを続けている著者の自伝である。
1935年にハンガリーに生まれ、ドイツやロシアからの圧力を避けて、生後4ヶ月のおさな児を抱えオーストリアへ、そしてさらにスイスのフランス語圏へと逃れる。そんな運命のもと、ハンガリー語が母語でありながら、ドイツ語やロシア語を押しつけられ、フランス語を話さなければ暮らしがなりたたない土地へと逃れた著者。
そのため、最後までフランス語は「敵語」と表現される。
この自伝の語りは、あの三部作のように、各場面を苛酷で具体的に描きつくすわけでも、感情をつぶさに表す文章でもない。要所となる場面を淡々と、両手にのるほどの言葉数で救いあげて読者の前に示すような短さだ。
タイトルを彷彿とさせる淡々とした文章は、ともすれば辿々しく感じられるほどだ。
なのに、一つひとつの場面から、あるいは前の場面からの時間の経緯を踏まえて想像力の翼を広げて、筆者の日々や積る辛苦と感情を思い浮かべながら読み進めてしまう。
4歳から本を読むことができた少女だった女性が、母親になってから自国を離れ、母語を捨てざるを得ず、会話・読み書きができない言葉に囲まれる日常を、漢字2文字になる言葉で表すのだ。
作家でありながら「文盲」とは、どれだけの意味が込められているのか。想像しただけで胸は苦しくなる。
この本は、筆者の自国を離れてからの時間の長さと心の空虚さを、読者に静かに投げかけるものだった。
名作。


あこ
マーサ・ウェルズ 著
創元SF文庫
人間のドラマを耽溺する弊機(マーダー・ボット)を描いたシリーズ2作目。
下巻も2つの話が描かれている。
とにかく、まずは面白い。
弊機は数々の難局を乗り越え、顧客(人間)を救っていくのだ。
「暴走プロトコル」では、弊機が心の奥で望み、そして恐れる人間との関係性を、そして「出口戦略の無謀」では、上下巻を通じての葛藤と脅威を、それぞれ圧倒的な疾走感のある筆致で描いていく。下巻では、さらに大きな悪を相手に人間を護るために闘っていくマーダーボット。
強さと感情を併せ持つ弊機の姿に、こちらも心がざわめく。
エンタメ的なアクションでありながら、本格SFの味わいもきっちりあり、最高だった。
他者との関係性の恐れ、一生懸命な人を好く心根、信じたい思い、エンタメに逃げたくなる弱さ、そんな弊機のパーソナリティが作品の中心で廻る。
そんなマーダーボットを慮り、好きな道を選択させ、安らぎを与えるプリザベーションの人々。
ロボットと人間の境目とはどこにあるのか。
そんな問いを投げかけながら、安らぎを与える展開の良い本だった。


あこ
ジャレド・ダイアモンド 著
草思社#読了
なぜ「インカ帝国」を征服したのが欧州だったのか、なぜ逆ではなかったのか?
それに対して、「欧州の技術が進んでいた」「欧州人が優秀だったからと答えるのは謝っている。
著者のダイアモンドは、膨大な調査に基づき、人類史の因果関係を丹念に説明していく。
まるでミステリーのように。
壮大な歴史書である本書からは、「人類の発展には何が影響しているのか」を学ぶことが出来る。
究極の要因は、地理的要因であり、東西の広さ。同じ緯度なら気候はほぼ同じなので、南北に比べて農作物は東西に伝わりやすいのである。
現在、世界の富と権力は恐ろしく不均衡であるが、それが人種の違いという考えが、微塵もなかったとは私は言い切れない。
この本には、その考えの誤りを正してくれる本質が書かれている。
膨大な調査と思考に基づき、人類史の因果関係を解明し、仮説を提示している本書は、私にとっては必読書であったようだ。



あこ
マーサ・ウェルズ 著
創元SF文庫#読了
とにかく主人公のマーダーボット(殺人ボット)のキャラクターが良い!
「弊機」という自己評価の低そうな1人称と、敬体による和訳がいい味を出している。
大体本作タイトルの「マーダーボット(殺人ボット)」とは、大量殺人の過去を抱えた主人公が考えた自分自身の呼び名なのだ。
とっても自虐的。
この「弊機」が、物語の冒頭で護衛した善良な研究者チームに刺激を受け、仕事以外でやりたいことを考え始めることから、物語が動く。
「弊機」は脳内の有機部品を除けばほぼロボットなので、どんな人間よりもデータの処理能力に優れている。さらに保険会社の護衛用ユニットなので戦闘能力も高い。簡単に言うと「凄い」。 また、護衛対象を守るときに以下のような挙動が頻繁に見られる。
・敵を狙撃する ・敵妨害用のプログラムを書く ・ピンチでも「ドラマ見たい」と言い出す ・安全そうになるとすぐドラマを見始める
そう、めっちゃ有能だけど、めっちゃオタク気質。
しかも人間嫌い。途中で何回も笑ってしまう。
この設定で、その嫌いな人間と関わってしまう(守ってしまう)のだ。
上巻では、2話が語られて、それぞれに解決していくのだが、それが滅法面白い。
物語の大きな流れはそのまま下巻に続いていくのだろう。今から読んでいくのが楽しみだ。

