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「普通」という名の旅
三蔵一行は、人間と妖怪が入り混じる混沌とした世界を旅していた。彼らは皆、それぞれの業（カルマ）を背負っていた。
玄奘三蔵は、無気力に仏典を読み、煙草を燻らせる。だがその眼差しは、常に世界の不条理を見つめていた。悟空は純粋な魂を持つが、その内には制御不能な衝動を秘めていた。悟浄は血の混じった髪を持つ半妖として、過去の業に苦しみ続けていた。八戒は優雅な笑みを浮かべるが、その奥底には深い狂気を隠していた。
彼らの旅は、己の中にある「普通」という名の幻想を打ち砕くためのものだった。
ある日、三蔵は酒場で、自分のことを「無趣味で無欲な、欠陥のある人間」だと嘆く青年に出会った。三蔵は冷ややかに言い放った。
「くだらん。てめぇの言う『普通』とは何だ？　クソつまらねぇ定義に自分を嵌め込もうとするから、そんなにも苦しむんだ。『無』という名の、無限の可能性に気づきもしねぇで、嘆いてばかりいんじゃねぇ。」
悟浄が茶化すように言う。「三蔵さまらしいぜ。俺たちだって、人間から見りゃただの『異端』だ。でもよ、それが俺たちの個性だろ？」
悟空は、その青年の眼差しをじっと見つめ、静かに呟いた。「なあ、おっさん。頭で考えるんじゃなくて、ちゃんと見ろよ。俺の拳（て）も、悟浄のタバコの煙も、八戒の微笑みも。全部、おっさんの知らねぇ世界だ。」
八戒は優しく微笑みながら付け加えた。「人は、分かりやすい『原因』に固執したがります。でも、そうやってラベルを貼って安心するのは、自分の中にある醜い部分から目を背けたいから。この世界に、一つのレッテルで説明できる人間なんて、一人もいませんよ。」
彼らの言葉は、青年がこれまで考えてきた「普通」という概念を、根底から揺さぶった。
狂いと業の旅路
一行はさらに旅を続けた。彼らは、人間が妖怪を、妖怪が人間を指差し、「病」だと罵り合う光景を何度も目にした。しかし、三蔵の眼には、その光景は滑稽に映った。
「笑えるぜ。全員、同じ地獄にいるくせに、自分だけはマシだとでも思ってるのか。この世界にいる奴は、人間も妖怪も、みんな**『業』という名の病に侵されてる**。そして、その業から目を背け、他人を指差す様は、まさに狂気そのものだ。」
八蔵が静かに答える。「ええ、三蔵。自然の摂理を逸脱し、自分たちの欲望のままに世界を歪ませた人間は、もはや皆、**『障害者』**なのかもしれませんね。」
悟空は無邪気に空を眺め、悟浄はタバコを深く吸い込んだ。彼らは知っていた。この旅路の果てに、自分たちの業を断ち切る道があるのかどうかは分からない。しかし、それでも彼らは進み続ける。
旅とは、己の「普通」という幻想を壊し、誰もが抱える「業」を自覚するためのもの。彼らの旅は、まさしく、自分という存在の本質と根本に迫る、終わりのない巡礼だった。

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