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ロウソクの火が消えるまで🕯
2025年12月27日 00:44

深夜、上階の住民の物音が、まず不快感として胸に広がり、
次の瞬間、恐怖となって脳内を満たした。
音そのものよりも、音が連れてくるものが苦しかった。

学生時代の機能不全な家族の様子。
音に含まれていた感情の温度。
息が詰まるほど近く、逃げ場のない空気。

それがフラッシュバックだと理解する前に、
身体のほうが先に反応していた。

私はこういうとき、文字を読む。
意味を追うのではない。
ただ、情報を脳に流し込み、
感覚の隙間を埋めるためだ。

けれどその夜は、それができなかった。
文字はただの記号として存在し、
視界の手前で、ばらばらに崩れていった。

ノイズキャンセリングの無音が、
かえって恐ろしくなった。
静寂が、空洞のように耳を覆い、
私はそこに閉じ込められた気がした。

音楽を再生した。
言葉が入ると息が詰まりそうで、
自然と、クラシック音楽を選んでいた。

専門的な知識はない。
だから私は、音を分析しない。
評価もしない。
ただ、通過させる。

最初に再生していたアルバムが終わり、
次に知らないピアノのアルバムが流れ始めた。
装飾のない音。
美しさと儚さが、
ゆっくりと心に流れ込んでくる。

その中の一曲に、妙に引き留められ、
私は思わずメモを取っていた。

シューベルトの即興曲第2番D.935。

冒頭、かすかな宗教的気配。
それは信仰の告白ではなく、
祈りが空気に溶けていく、その直前の姿勢のようだった。

この曲は、何も主張しない。
誇らない。
ただ、過去を振り返りながら、
静かにそこに立っている。

序盤の音は穏やかで、
透明な明るさを帯びている。
かつて栄えていた時代を思い出しているようで、しかし、決して陶酔しない。

懐かしさはある。
けれど、戻ろうとはしない。

「かつて、こうだった」

それだけを、
遠くを見るように確認している。

二分を少し過ぎた頃、流れが変わる。
音はなお穏やかだが、
厚みを帯び、
時間の重さを含み始める。

三分あたりで、
深刻さが、ほんの少し前に出てくる。
明るい音が混じるのは、
希望ではなく、
記憶が光を反射しているだけのように思えた。

四分半頃、構成は冒頭へ戻る。
けれど、そこに最初の輝きはない。
高さも、輝かさも失われ、
音は静かに、しかし確かに沈んでいる。

五分を過ぎ、
ピアノは強く弾かれる。
抗いではない。
これまでの出来事を受け入れ、
終わりを静かに選び取るような力だ。

やがて音は小さくなり、
魂そのものが弱まっていくように感じられる。
永遠の眠りに入る、
その直前の静けさ。

最後、
強い意志を帯びた音が、
一度だけ光り、
すべてが閉じていく。

一族の栄華が終わり、
同時に、ひとりの人生が終わる。
そんな光景が、自然に浮かんだ。

ロウソクの火が、
ぽっと消える。

この曲を聴きながら、
私は自分のことを考えていた。

最近の私にとって、
文学と、昔の物書きたちは最後の砦だ。
もしそこに、何の支えも見いだせなくなったら、
私はきっと、
苦しさを感じない場所へ向かう準備を始めるだろう。

内省もできず、
本も読めなくなるほど疲弊し、
心を支えるものがすべて消えてしまったとき、
この世界に留まる理由は、
私には見つからない。

世界に合わせるために、
私は日々、自分の輪郭を削っている。
摩耗していく感覚を、
身体でも、心でも知っている。

だからこそ、
失わないために、
今は自己を探求する。

知れば知るほど、
私は生きづらい要素で
構成されている人間なのだと、
確信していく。

シューベルトの音楽は、
それを否定もしないし、
慰めもしない。
ただ、最後まで付き合ってくれる。
火が消える、その瞬間まで。

私にとって音は、
時に寄り添い、
時に攻撃してくる。

それでも今夜は、
確かに音が、
私をここに留めた。

答えは出ないまま、
ピアノの余韻だけが残る。

ロウソクの火は、
消えずに、
ただ、静かに揺れている。
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セリフ枠への好奇心が止まないんだけど盛大な黒歴史になること覚悟でやるべき?
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