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あかつき

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ハーロック

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古いベッドは、二人用のはずなのに、片側だけが妙に広かった。
シーツの皺も、枕のへこみも、まだ昨日のまま残っているのに、彼女の体温だけがない。

老人は、朝になるたびに手の置き場を失った。
起きる理由はある。食べる理由もある。薬を飲む理由もある。
でも、声をかける相手がいない。

「おはよう」

言ってみる。返事はない。
返事がないだけで、家はこんなに大きいのかと思う。

妻は先日、亡くなった。
衰えゆく彼女を、男は甲斐甲斐しく看病した。
喉が乾けば水を運び、寒がれば毛布をかけ、夜中にうわ言を言えば手を握った。
できることは全部やった。
だからこそ、できなかったことが胸に残る。

男はベッド脇の椅子に座り、何もしていないのに疲れた顔をした。
特にやることもない。
テレビをつけても、音が部屋に馴染まない。
散歩に出ても、帰ってくる家が静かすぎる。

「そろそろ、わしも……」

言いかけて、言葉が途切れた。
追いつきたいと思う時がある。
それは悲しみというより、長年の癖みたいなものだった。ずっと一緒にいたのだから。

その時、玄関の鍵が回る音もしないのに、廊下に足音がした。
きしむ床が、いつもより丁寧に鳴った。

居間の入口に、黒い服の男が立っていた。
黒いコート。黒い手袋。
初めて見るはずなのに、昔から知っているような立ち方。

男は関西弁で言った。

「自分、家が急に広なって、落ち着かん顔しとるな」

老人は驚かなかった。
今は、驚きに使う力も惜しかった。

「……誰じゃ」

「ただの通りすがりや。座ってええか」

「勝手にせい」

黒い服の男は対面の椅子に腰を下ろした。
部屋の空気が、少しだけ動いた。
それだけで老人の胸がふっと緩むのが分かった。
“誰かがいる”というだけで、人の心はこうも変わる。

しばらく、何も言わない時間が流れた。
こういう沈黙は、若い頃は気まずかった。
歳を取ると、沈黙はただの毛布みたいになる。

黒い服の男が、ベッドの方を見て言った。

「空いた側、見てまうんやろ」

老人は目を閉じた。

「……見てしまう。
癖じゃ。起きたらまず、あいつの方を見る。
おらんのが分かっとるのに」

黒い服の男は頷いた。
慰めもしない。励ましもしない。
ただ、その頷き方が、老人の言葉を“ここに置いていい”と言っていた。

老人は、ぽつりと話し始めた。

「看病はな、ようやったんじゃ。
飯も、薬も、風呂も、夜中も。
わしなりに、できるだけのことはした」

「でもな……最後は、結局、死んでしもうた」

語尾が揺れた。
責めたい相手はいない。
それでも、責める声だけが自分の中に残っている。

黒い服の男は、急に正しいことを言わない。
代わりに、老人の指先に目をやった。

「自分、その手、よう働いた手やな」

老人は自分の手を見た。
皺が深い。血管が浮いている。
爪は短く切ってある。看病のとき、引っかけないように何度も切った。

黒い服の男が、数えるように言う。

「その手で、何回、あの人の背中をさすった?」

老人は答えられなかった。
多すぎて。
数えたくないほど、あったから。

黒い服の男は続けた。

「水を飲ませた回数も、体を起こした回数も、
夜中に目を覚まして名前呼んだ回数も、
全部、自分の体に残っとる」

「その疲れはな、失敗の疲れちゃう。
一緒に生き切った疲れや」

老人の喉が鳴った。
涙が出るより先に、胸が熱くなった。

「……一緒に生き切った、か」

黒い服の男は窓の外を見た。
午後の光が、畳の目に沿って伸びていた。

「自分、今な、やることない言うてたな」

老人は苦笑した。

「ないよ。
掃除しても、飯を作っても、誰も褒めん。
話しかけても返事がない。
何のために、って思う」

黒い服の男は、すぐに答えない。
代わりに、小さなことを拾う。

棚の上の写真立て。
二人が若い頃の、少し色褪せた写真。
妻が笑って、老人が照れた顔をしている。

「自分、あの写真、捨ててへんやろ」

「捨てられるか」

「せやろ。
捨てられんもんが残ってるのは、ちゃんと生きた証拠や」

老人は、何か言い返そうとして、やめた。
その言葉は腹の底にすっと沈んだ。
嫌じゃない沈み方だった。

黒い服の男は、立ち上がらずに言った。

「自分、奥さんのこと、よう世話した。
でもな、世話っていうのは、最後まで“相手に触れる”ことやろ」

「今は触れられへん。
せやから手が余る。心も余る。
それが今の淋しさの正体や」

老人は唇を震わせた。

「触れられん……」

黒い服の男は静かに頷いた。
言葉の代わりに、少しだけ身を乗り出して、テーブルの上の湯呑みを老人の近くに寄せた。
熱いお茶は入っていない。空っぽの湯呑み。
それでも、その動作が“世話の形”に見えた。

老人は湯呑みを見つめた。
ふっと笑ってしまった。

「……誰かに茶を淹れるのが、癖になっておってな。
今も、二つ用意してしまう」

黒い服の男は、口元だけで笑った。

「癖はな、簡単に消えへん。
消さんでええ。
消えへんのが、ちゃんと好きやった証拠や」

老人の目から涙が落ちた。
ぽろっと。
理由は分かるようで分からない。
ただ、涙が落ちる場所が見つかったような感覚だった。

黒い服の男はそれを見て、何も言わない。
「泣くな」とも「泣け」とも言わない。
老人の涙が落ちる速度を、邪魔しない。

しばらくして、老人が言った。

「わし、そろそろあいつのところへ行きたいと思う時がある。
それを誰かに言うのは、悪いことのようで」

黒い服の男は、その言葉を善悪で裁かなかった。
裁かない代わりに、ただ一言だけ置いた。

「それぐらい、ちゃんと一緒やったってことや」

老人の背中が、少しだけ丸くなった。
丸くなった背中が、少しだけ楽そうに見えた。

黒い服の男は席を立ち、玄関の方へ向かった。
去り際に振り返らず、ぽつりと言う。

「自分、今日は一個だけやっとき」

老人が顔を上げる。

「……何を」

黒い服の男は、声を少し柔らかくした。

「奥さんの布団、たたまんでええ。
そのままでええ。
寝る前に、一回だけ、そこに手を置け。
言葉はいらん。置くだけや」

それは、何かを決める命令ではなかった。
生きろでも、死ねでもない。
ただ、今日を抱くための小さな仕草だった。

黒い服の男が消えると、家はまた静かになった。
でも、さっきまでの静けさとは違った。
冷たい静けさではなく、少しだけ温度のある静けさ。

夜。
老人は言われた通り、古いベッドの空いた側に手を置いた。
そこにはもう誰もいない。
それでも、手のひらはゆっくりと沈んだ。
布団の柔らかさが、過去を引き戻す。

老人は、声にならない息を吐いた。
胸が痛いのに、痛みが“壊れる痛み”ではなかった。

ただ、長い時間を生きた人間だけが持つ重さが、そこにあった。
誰に見せなくてもいい、誇りに近い手触りが。

老人は目を閉じた。
何も解決しない。何も決めない。
それでも今夜だけは、ひとりの部屋が少しだけ狭く感じた。

抱きしめられたのは、死でも生でもなく、
彼が積み重ねてきた日々そのものだった。


#希望 #自作小説
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なつみ

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集会所のテーブルでお酒飲むアクション10回しても酔わないけどもしかしてあれ無くなった?
もともと無かったっけ?
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カズヤ

カズヤ

神戸市の垂水駅西口前に昨日オープンした「長浜ラーメン」に行った。
豚骨ラーメンが今時なんと580円!
おいしかった。
コスパいいです。
意外とあっさりしたスープ。
細麺で固さは選べる。
チャーシュー2枚とネギだがテーブルに高菜、紅生姜、にんにく、ごま等あり。
12席。22:00まで。
#長浜ラーメン
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まぁな

まぁな

実家帰ってきてぐちゃぐちゃのままの部屋。
どうしたら可愛くなる?

・白い横棚は本やDVDでびっちり
・白い縦棚は趣味グッズで溢れてる
・その前に白色の丸テーブル
・その前に寒さに弱い為ストーブ種類違い2つ
・扉の横にごちゃごちゃ入ってる6段ボックス

どうやったら可愛いお部屋になると思う??
何を取り入れるべきかわからない…

物で溢れかえってるのは断捨離すべし
可愛くする雑貨を取り入れたいけどわからぬ
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Gina

Gina

朝早起きするコツは何?朝早起きするコツは何?
毎朝は無理。

特別な日(始発で出掛ける系)なら前日に荷物詰めて服を用意して、起きてから家を出るまでの動作を分単位で紙に書いてテーブルに広げて目覚ましかけて寝ると目覚ましが鳴る10分前にスッキリご機嫌で目が覚めるイベントenjoy体質

でも連日だと慣れて起きなくなります。
毎朝は無理。
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こっち〜☺︎🌈

こっち〜☺︎🌈

🥢🟥赤養なべ改・幅ちゃん🟨2🟩2投入ぅ

岐阜県のTJM市は現在 -1℃で❄️白い悪魔がしんしんと降り注いでまする☃️
そんな環境下でひっそりと暮らしてる🧑‍🦲こっちぃ〜部屋の気温は15℃で、テーブルのど真ん中の取り皿の上に🟡黄色い悪魔が威風堂々と鎮座しております😱

もぉぉ〜かじる前からの🟡オーラが、ホンマにえげつあれへんし😱

舐めるだけて🍺ハートランド半分瞬殺しました[目が回る]
あと✨ワシの頭上から🐳あぶら汗がが大量に噴き出てます[目が回る][目が回る][目が回る]

🟡2個目。。。以下同郡

#GRAVITY飲酒部
#GRAVITY料理部
#GRAVITYエブリ泥酔部
#GRAVITY鍋部
#GRAVITY激辛部
ミチミチ侍の星ミチミチ侍の星
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ハーロック
僕は、うつ病からの生還者です。 病気を克服した時に学んだことや、日常の出来事を投稿しています。 よろしくお願いします。
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朝はお疲れ主夫 昼は社畜社員 夜はWワークマン そして…
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大阪弁ポンコツ呑んだくれ✨はげGGYです🙇🎵 フォローご自由にどぉぞぉおおおお〜🎵 趣味:🍷🍻🍾🥂🍶🍸🥃🍛🍜🥩🍖🐟🥦🥑🍅🧄🍽☕️🚗🏍✈️♨️🛋🎼🏋️🏊💪🐯🐯🐯🐯🐯🐯🐯⚾️
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カズヤ
椎名林檎(林檎班最古参)、東京事変、小南泰葉、Tommy heavenly6、Tommy february6、the brilliant green、筋肉少女帯、ゲスの極み乙女、凛として時雨、ストレイテナー、ポルカドットスティングレイ、みるきーうぇい、aomidoro、etc.
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あかつき
40代おっさん 既婚。 娘は30代!?だったりする。 孫もいる笑 ただコメントをどんどん付けていく迷惑おっさん。笑 それが誰かの何かのきっかけになればいいなと思ったり。 文章のやりとりは好きですが、話すのは苦手。 ただ、複数人だとどうして良いかわからないです笑 知らない人とのBBQでは隅で焦げたソーセージしか食べられません!
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