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りょ
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人畜無害魑魅魍魎の類

だむの

たびと
#ばーばぱぱ

アイな

アイな

░モジバケ░永そ哀
バンコクの午後
アスファルトは揺らめく蜃気楼に溶け
湿った空気は肌にまとわりつき
呼吸までも重くする
市場の屋台で働くソムチャイは
扇風機の風さえ熱を含んでいることに
苛立ちながら
氷の入った甘いジャスミン茶をすすった
「宇宙も いつかこんな蒸し暑さに
疲れ果てるんだろうか」
彼は ふと頭に浮かんだ考えに苦笑した
熱的死ー一聞きかじった言葉を
ソムチャイは蒸気に溶かすように思い出す
宇宙はどんどん膨張して 熱は拡散し
やがてすべてが均一に冷えきってしまう
星も消え エネルギーのやりとりも止まり
永遠の眠りが訪れるという
「不思議だな こんなに汗が噴き出してるのに
最後は凍てついた沈黙しか残らないなんて」
屋台の上で跳ねる油の音が
遠い未来の恒星の終焉と重なる炎は燃え尽き
残るのは静かに冷える鉄鍋のような宇宙
夜 ソムチャイは
チャオプラヤー川のほとりに腰を下ろす
頭上では
南の空に散らばる星々が濁った空気の中で瞬き
汗ばんだ首筋に風がようやく通る
「でも 宇宙が冷たく暗くなる前に
俺たちはこうして汗をかき 笑って
踊ることができる」
彼は川沿いの屋台のネオンを見やった
赤や青の光は
まるで未来の闇へ抗う
小さな恒星のように瞬いていた
エネルギーがいつか均一に
散ってしまうとしても
今はまだ 熱と光に包まれている
それは
タイの蒸し暑さすらも祝福に思える一瞬だった

