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ミロク

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迅鯨の任務

三宅島。火山の息吹が響き、黒い溶岩と青い海が交錯する孤島。潮風は塩と硫黄の匂いを運び、夜には星空と波の音だけが支配する。
夕暮れの岩だらけの海岸線。波が砕ける音に混じって、棒立ちのアグロヴァルの関西弁が小さく響く。
「……出たわホモtheゲイ。あれ、ホモゲイ狩るんか? 参ったでほんま……見た目、クジラやなぁ。捕鯨(ホゲイ)かいな……(絶望)」
アグロヴァルは屈強な褐色の男。短く刈った黒髪と鋭い灰色の瞳を持ち、討伐チームの一員として無法者を追い詰めるのが使命だ。しかし、その口調には軽妙なユーモアが漂う。
対する迅鯨は、まるでセミクジラのように堂々とした風貌。白黒のアシンメトリーヘアが風に揺れ、白黒のオッドアイが鋭く相手を見据える。白い肌に白黒の軍服風コートが翻り、その手には「海鳴り」と名付けられた巨大な銛。
「……笑止千万」
低く響く声は、深海のうねりのよう。迅鯨は三宅島を「自分の海」と呼び、島の自然と共に生きる異端の保安官だった。
二人は火山岩の広場で対峙する。背後では火口が朱に染まり、遠くで海鳥の叫びがこだまする。
アグロヴァルは二本の短刀を抜き、軽やかに構えた。
「…7日以内に死なんクジラなんて……あ、そんなんお前以外おらんわぁ!!!!」
「……曖昧模糊」
迅鯨は銛を振り下ろし、岩場を砕く衝撃波を放つ。アグロヴァルは軽やかに跳び退き、間合いを詰める。迅鯨の一撃は海の力を宿した重撃だが、アグロヴァルの舞うような動きはそれをかわし続ける。
「食用はテメェがなれやぁ!!!!」
「有耶無耶……」
迅鯨の一振りで海がうねり、水柱がアグロヴァルを呑み込もうとする。しかし短刀は確実に返しの一撃を与え、迅鯨のコートを切り裂いた。布の切片が宙を舞い、白い肌が一瞬露わになる。
「テメェは捕まるクジラらの代わり務めとけやぁ!!!!」
「…発言終始意味不明」
戦いは夜に持ち越された。星空の下、迅鯨のオッドアイが妖しく輝く。アグロヴァルは息を切らしながらも戦力を絶やさない。
「セミクジラに謝れや」
迅鯨は動きを止め、銛を地面に突き立てる。
「……私は、その子に何をした???(てか、初っ端から、君の言ってる事が全く分かんない)」
アグロヴァルは短刀を下ろし、真顔で見詰める。
「お前、セミクジラも含めて全部のクジラにケンカ売っとんねんぞ? 謝らんかい」
再び刃と銛が交錯する。迅鯨の一撃がアグロヴァルの肩をかすめ、返す短刀が迅鯨の胸に浅い傷を刻む。
「……(もう無理)」
迅鯨の銛が再び振り下ろされ、海から巨大な波が立ち上がる。アグロヴァルは波に呑まれ、岩場に投げ出された。立ち上がろうとした瞬間、銛が目前に突き立つ。
「……ッ!!!!」
「ちゃうかったわ、海の生きもん全種類にケンカ売ったんやから謝れや」
迅鯨は無言で銛を引き抜き、アグロヴァルを海へと放り込む。
「……」
アグロヴァルは波に流され、島の外へと消えた。迅鯨は星空を見上げ、銛を肩に担ぎ直す。
「…疲れた」
再び静寂が三宅島の夜を包み込む。波の音と、遠くで鳴る火山の唸りだけが、迅鯨の勝利を祝していた。
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