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ギギギギギギギギギ
GRAVITY
GRAVITY8
おじさん

おじさん

鳩時計
うちの鳩時計、めっちゃ陽気なんだよね。毎正時になると、勢いよく扉から飛び出してきて「ヘイお待ちッ! 今ちょうど3時ね!」みたいに、威勢のいいお寿司屋さんの大将みたいな声で時刻を教えてくれるんだ。たまに「今日のラッキーカラーは、ガリ色!」とか余計なアドバイスまでくれる。正直、そのおかげで毎日ちょっとだけ楽しい。
先週なんて「ヘイお待ちッ! 昼の12時! 午後も気合入れてきな!」って応援されて、思わず「はい、大将!」って返しちゃったよ。最高の相棒さ。
…一週間くらい前からかな。あいつの様子が、少しおかしいんだ。
「ヘイ…おまち…」
やけに声が低い。それに、なんだか湿っぽい。自慢の威勢の良さはどこへやら、まるで井戸の底から響くような声になった。それからというもの、決まって夜中。鳴るはずのない時間に、ギギ…と扉が軋む音がするようになったんだ。
昨日の深夜2時。
時計をちらりと見ると、長針も短針も、ぴたりと真上を指して止まっていた。壊れたのか?そう思った瞬間、ギギギギギギギギギ……。
ゆっくりと、錆びついた蝶番みたいな音を立てて、時計の小さな扉が開いた。暗い穴の向こうから、何かがこちらを覗いている。ソレは、鳩じゃない。赤黒く濁った二つの目が、俺をじっと見つめていた。
その瞬間、強烈な眠気に襲われた。
気が付くと、視界がやけに狭い。一体何が起こったんだ?パニックになりかけた時、遠くから「ヘイお待ちッ!」という声が聞こえた。いや、違う。これは俺の声だ。
理解した時、背筋が凍り付いた。
俺は、あの鳩時計の中にいた。さっきまであいつがいた場所に。
扉の向こうには、ぼんやりと見慣れた部屋が見える…
…あの日からどれくらいの時が経ったのだろう…俺はただ、次の時を告げる瞬間を待つことしかできない。ただ、威勢のいい寿司屋の大将の声で、次の誰かを「お待ち」するだけだ。
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GRAVITY9

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