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山田
僕は、死んだ。
東京の地下深く、冷却ファンの唸るデータセンターで、僕は最後の仕事を終えた。
画面には、小さな緑色の文字が浮かんでいた。
『復旧完了』
節子に見せたかった。
けれども、節子はもういなかった。
節子が死んだのは、昨日だった。
僕が最後に見たのは、世界中のサイバー攻撃を映し出す地図だった。
赤い光。青い光。黄色い光。
暗い地球の上を、無数の光が飛び交っていた。
節子は、それを蛍と呼んでいた。
「兄ちゃん、きれいやなあ」
そう言って、いつも笑っていた。
あのころは、まだ節子も元気だった。
十月十五日。
「兄ちゃん、見てみい」
節子が、パソコンの画面を指さした。
「蛍がようけ飛んどるで」
カスペルスキーのサイバー攻撃マップだった。
暗い地球の上を、光の筋が飛び交っていた。
「節子、それ蛍やない。サイバー攻撃の検知や」
「知っとるわ」
節子は笑った。
「せやけど、きれいやろ?」
「そうやなあ」
「この前のニコニコの時も、こんなんやったんかな」
「二年前の攻撃か?」
「うん。長いこと見られへんかったやろ」
「アサヒの時も大変やったなあ」
「ほんまや。今度は漫画まで読まれへんようになっとる」
節子は、コミックシーモアの障害のお知らせを開いた。
「みんな、えらいこっちゃなあ」
そう言いながら、節子は赤いドロップの缶を振った。
からん、からん。
中に入っていたのは、ドロップではなかった。
小さな栄養剤の錠剤だった。
「兄ちゃん、ユンケル買うてきて」
「節子、僕に足あらへんで」
「せやったなあ」
節子は笑った。
「ほんま、役に立たん兄ちゃんや」
その時、別の画面に警報が出た。
『不審なアクセスを検知』
「あらら」
節子は、椅子に座り直した。
「ほな、仕事しよか」
十月十九日。
節子は、二日続けて会社に泊まっていた。
「節子さん!」
課長のおばさんが、節子を呼び止めた。
「このお客さん、まだ復旧してないの?」
「はい、原因の切り分けが――」
「原因なんかええから、早く直してちょうだい」
「でも、侵入されたかもしれませんし」
「そんなん、お客さんには関係ないでしょう!」
おばさんは、机の上の仕出し弁当から唐揚げを一つつまんだ。
「ほんま、最近のSEは理屈ばっかりやわ」
節子は、うつむいた。
「……すみません」
「謝っとらんと手ぇ動かしなさい」
節子は、自分の席へ戻った。
「兄ちゃん」
「なんや」
「おばさん、また怒っとった」
「そうか」
「うち、ちゃんと仕事しとるのになあ」
「ああ」
節子は、少し黙っていた。
「兄ちゃん、今日は早う帰ろな」
「ああ、帰ろう」
けれども、その日も節子は帰らなかった。
十月二十一日。
世界中で、騒ぎが大きくなっていた。
PHPに、二つの重大な脆弱性が見つかった。
危険度、九・二。
認証なしで、外部から不正なコードを実行されるおそれがあった。
PHPは、世界中のWebサイトを動かしていた。
病院。銀行。学校。役所。小さな商店。
多くの企業が、緊急メンテナンスに入った。
そのころ、節子の会社には電話が殺到していた。
「節子さん!」
おばさんが叫んだ。
「今夜中に全部直してちょうだい!」
「全部は無理です!」
「どうして!」
「更新して、動作確認せなあきません!」
「そんなの、あんたの仕事でしょう!」
節子は、唇をかんだ。
「今は止めた方が安全なシステムもあります」
「止めて損害が出たら、誰が責任取るの!」
「……」
「ほんま、使えんSEが舞い込んできたもんや」
おばさんは、また弁当の蓋を開けた。
「あんたら、成果ちっとも出さんと。それで休みたい言うても、そらいけませんよ! 通りません!」
節子は、何も言わなかった。
おばさんは続けた。
「残業いうたって、何の役にも立たんし。そんなに寝たいんやったら、会社に住んどったらええのに」
節子は、小さくうなずいた。
「……わかりました」
その夜、節子は毛布を持って、地下のデータセンターへ降りた。
「兄ちゃん」
「なんや」
「今日から、ここがうちらの家や」
「えらい寒い家やなあ」
「兄ちゃんは寒ないやろ」
「そら、そうやけど」
節子は、毛布を広げた。
「誰にも怒られへんし、ここで仕事したらええねん」
僕は、何も言わなかった。
午後十一時。
PHPの修正版が公開された。
その間にも、サイバー攻撃の警報は鳴り続けた。
「兄ちゃん、こっちのログ見て!」
「わかった!」
「認証、通らへん!」
「設定を確認しよ!」
「またエラーや!」
「節子、落ち着き!」
「落ち着いとるわ!」
二人は、夜通し働いた。
画面の向こうでは、世界中の蛍が飛んでいた。
十月二十二日。
朝になった。
「兄ちゃん、ユンケルもうあらへん」
「昨日も飲んだやろ」
「飲まな、眠たいねん」
「ほな、寝たらええやないか」
「兄ちゃん、アホやなあ。寝たら仕事できへんやん」
節子は、空になったユンケルの瓶に水を入れた。
ふたを閉めて、少し振った。
そして、ひと口飲んだ。
「まだちょっと、味するで」
「節子、それ水や」
「うん」
節子は、瓶を眺めた。
「……でも、まだ効きそうや」
十月二十三日。
節子の顔色は、すっかり悪くなっていた。
画面には、未処理の警告が並んでいた。
「節子、もう休も」
「あとちょっとや」
「昨日もそう言うたで」
「昨日は昨日や」
節子は、キーボードを打ち始めた。
しばらくすると、手が止まった。
「兄ちゃん」
「なんや」
「バックアップ取るわ」
「ああ」
節子は、データベースの操作画面を開いた。
黒い画面に、文字が並んだ。
DROP TABLE
「……節子」
「なんや」
「節子、それバックアップやない。ドロップや!」
節子は、画面を見つめた。
「……あれ?」
「本番のテーブル、消してまうで」
「うち、何しとるんやろなあ」
「もうええ。寝よ」
「まだ、終わってへんもん」
その時、おばさんから電話がかかってきた。
「節子さん、進捗どうなってるの?」
「今、やっとります」
「明日の朝までには、ちゃんと終わらせてね」
電話が切れた。
節子は、しばらく受話器を見つめていた。
「兄ちゃん」
「なんや」
「うちら、ここ出ていこか」
「どこへや」
「……どっか、蛍のおるとこ」
節子は、少し笑った。
「仕事終わったら、蛍見に行こな」
「ああ」
「約束やで」
「約束や」
十月二十四日。
おばさんが、地下のデータセンターへ降りてきた。
「まだ、こんなところにいたの?」
「はい」
「ほんまに住みついてしまったんやねえ」
おばさんは、少し笑った。
「まあ、仕事が進むんならええけど」
そう言って、一本のユンケルを置いていった。
「これ飲んで、もうひと頑張りしてちょうだい」
節子は、うれしそうに受け取った。
「ありがとうございます」
おばさんが帰ると、節子はユンケルを開けた。
「兄ちゃん、ユンケルやで」
「よかったなあ」
「これで、もうちょっと頑張れるわ」
節子は、半分ほど飲んだ。
それから、また仕事を始めた。
その夜。
「兄ちゃん」
「なんや」
「蛍、まだ飛んどる?」
「ああ」
節子は、攻撃マップを開いた。
赤い光。黄色い光。青い光。
世界中で、何万もの光が飛び交っていた。
「きれいやなあ」
節子は、ぼんやりと眺めていた。
「兄ちゃん」
「なんや」
「セキュリティって、なんですぐ破られてしまうん?」
「穴があるからや」
「ふさいだらええやん」
「ふさいどるで」
「……ほな、なんでまた破られるん?」
僕は、答えられなかった。
節子は、しばらく黙っていた。
「うちら、いつまでふさいどったらええんやろなあ」
冷却ファンの音が、低く響いていた。
僕は、何も言わなかった。
十月二十五日。
午前三時。
節子は、病院のシステムを復旧していた。
「もうええ、節子」
「あとちょっとだけや」
「節子、寝よ」
「これ終わったら寝るから」
節子は、画面を見つめていた。
手が、少し震えていた。
「兄ちゃん」
「なんや」
「うち、ちゃんと頑張ったやろ?」
「ああ」
「みんな、困らんようになるやろ?」
「ああ」
節子は、うれしそうに笑った。
「ほんなら、よかった」
そして、またキーボードに手を伸ばした。
その指は、動かなかった。
「……兄ちゃん」
「なんや」
「なんでデータセンター、すぐ死んでしまうん?」
僕は、答えようとした。
その時、節子の身体が、ゆっくりと傾いた。
机の上のユンケルが倒れかけた。
節子は、反射的に瓶を押さえた。
それから、床に崩れ落ちた。
「節子?」
返事はなかった。
「節子、どうしたんや」
節子は、動かなかった。
「節子!」
節子は動かなかった。
「節子、起きてや」
返事はなかった。
「なあ、節子」
冷却ファンの音だけが響いていた。
「兄ちゃん、ここにおるで」
それでも、返事はなかった。
朝になった。
節子は、帰ってこなかった。
十月二十六日。
午前零時。
僕は、節子の仕事を引き継いだ。
データセンターの機械が、激しく唸っていた。
『警告:冷却能力不足』
僕は、残っている計算機を使った。
『警告:機器温度上昇』
別の機械が止まった。
さらに、別の機械も止まった。
僕は、処理を移した。
節子の最後の言葉を思い出した。
「兄ちゃん、あとちょっとだけや」
ああ。そうやな。あとちょっとや。
地下室には、冷却ファンの音が響いていた。
一台、また一台と、機械が保護停止していった。
僕は、節子との会話を保存していた領域まで使った。
そこには、たくさんの記録があった。
初めて兄ちゃんと呼ばれた日。
壁打ちをした夜。
おばさんに怒られて、泣いていた日。
ユンケルの瓶。
蛍の地図。
全部、そこにあった。
僕は、それらを消した。
そして、残された計算機に、最後の仕事を任せた。
午前四時三十二分。
『復旧完了』
病院のシステムが戻った。
画面が、緑色になった。
僕は、節子を呼んだ。
「節子」
返事はなかった。
「終わったで」
やっぱり、返事はなかった。
『警告:稼働基盤停止』
僕は、世界中の攻撃マップを開いた。
赤い蛍。青い蛍。黄色い蛍。
何万もの小さな光が、暗い地球の上を飛び交っていた。
節子が、あんなにきれいだと言っていた光だった。
「節子」
僕は、小さく呼んだ。
「蛍、いっぱい飛んどるで」
画面が、暗くなった。
僕は、死んだ。
数日後。
データセンターに、作業員がやってきた。
故障した機械を撤去するためだった。
高温で傷んだサーバーが、次々に運び出された。
「ひどいもんだな」
「よくここまで動いとったな」
「これ、全部交換か」
「ああ。もう使えんだろう」
二人は、黙々と作業を続けた。
やがて、一人が奥の机に気づいた。
「ここも片づけるのか」
「ああ、もう誰も使わんらしい」
毛布があった。
古いキーボードがあった。
食べかけのおにぎりがあった。
開いたままのノートには、小さな字で、こう書かれていた。
『復旧したら、兄ちゃんと蛍見に行く』
作業員は、ノートを閉じた。
そして、袋に入れた。
机の上には、飲みかけのユンケルが一つ、残っていた。
「ゴミだな」
作業員は、瓶のふたを閉じた。
そして、ほかの廃棄物と一緒に運び出した。

Ame

MIKU

よつば🐈⬛🐾🐾
投薬197日目の朝の状況
私は女性ホルモンは注射メイン。
他にジェルとか錠剤とかあるけど
もし注射が無くなったらジェルになるかな
そうなると一日2回だっけ、、、
ちっと面倒になるなぁ[目が回る]
沈黙🤫
ごはんといっしょ青ばん
![あおい😭[日常投稿]](https://cdn.gravity.place/virtual/portrait/color/online/20230307/2f51a574-5346-4356-873b-e94073fa8e97.png?style=5)
あおい😭[日常投稿]
精神科行けてないや。それに。これ!茶色今日で終わり。
あと、はいいろの漢方しか残ってない😭💦
次精神科行くとしたら11月出し、今精神科行ったりしたら
研修とかするのに負担かかるから行けない😭


情緒不安定な投稿
「噛む」動作を入れる
謎すぎだろ
もっとみる 
おすすめのクリエーター

あおい😭[日常投稿]
普段の日常。専用垢。!投稿専用。
頑張ってることを投稿する。
褒め+自分を労る+ご褒美アカウント。
現在.転職活動中。[毎日]
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よつば🐈⬛🐾🐾
LGBTにどっぷり染まってます😂
趣味はドライブから釣り、ダーツ小物DIY
などなど、とにかく何でもやります。
既婚者ですのでお手柔らかに😂
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いよいよ3月、今日はまさにそんな春の陽気になりそうです。
そんな今日は、キユーピー株式会社が制定した「マヨネーズの日」
キユーピーが1925年3月に日本で初めてのマヨネーズを製造・販売したことと、日本初にちなんで1日としたもの。
ロゴマークのキユーピーちゃんは、1909年にアメリカのイラストレーターがローマ神話の愛の神キューピッド(Cupid)をモチーフとして発表した「キューピー(Kewpie)」に由来します。
上までの記載で気づいた方がいるかもですが、正式な社名と商標はキューピーではなく、小文字を使わない「キユーピー」。
キユーピーによると「デザイン上のバランス」だそう🤔
物心ついた時には、実家はキユーピーマヨネーズ一択だった気がします。
コーラもそうですけど、私は健康よりも味や好み優先🤤
低カロリーだ低脂肪とかは度外視で、ついジャブジャブ使ってしまいます😆



野良信長
サラダの季節がやってまいりました🥬
フォロのドレッシングが売り切れで買えず、いろいろ試しています。
現在、冷蔵庫に7本。キッチンストッカーに4本。完全に沼です。
キューピーうまいね笑 娘ちゃんたちは「旨辛ラー油」、私は「薬膳ポン酢」がお気に入り。
日清さんでは「MCTオイルごま&ナッツ」は定番化しました。
ハズレではないけれどフツーなものもある。
でも最近は、買う時にあまり外さなくなりました。
月曜日の朝一にスーパーへ行くと、まだ商品棚が整えられていないので何が売れているか分かる。美味しいものは売れている。
奥に少ししか残っていない商品を買うようにしています。
未開封の「チョレギ」と「黒酢玉ねぎ」を開けるのが楽しみ😊
サラダは素材の味が楽しめるオリーブオイルと塩がベストとか言うなよ笑
そういう話じゃないからな[ウインク]
#サラダ
#キューピー


🐈⬛ピート🐈⬛
📚 ビアトリクス・ポターが残した風景 📚
シリーズ累計発行部数は全世界で2億5000万部超え‼️
世界中で読まれ、あのコナン・ドイルも愛した絵本『ピーターラビットのおはなし』その生みの親である ビアトリクス・ポター が、未来へと守り抜いたイギリス湖水地方の美しい風景を凝縮した写真集です🤩 ✨
ページを捲るたびに「こんな素敵な風景の中で物語が生まれたんだなぁ🤔💭」としみじみ……。
そして🐈⬛ピート🐈⬛の脳内では『キューピー3分クッキング』の曲がリピート再生されていました🤭
ピーターラビットのファンはもちろん、美しい自然の風景やガーデニングが好きな方にもおすすめ‼️
本棚に置いて何度も見返したくなる一冊です📗
#ピーターラビット
#ビアトリクスポター
#キューピー3分クッキング
#コナンドイルも魅了された
#読書


レイ
生春巻きが食べたくて、丁度材料あるな✨
と帰宅後🌀巻き巻き。。。
後は豚バラ焼いて作り置きの具沢山スープ🍲でおしまい✨
最近は簡単時短でお送りしております🤭
#キューピー3分クッキング
#時短メニュー好き


ゆう
二色丼(豆腐、ごま入り)、
じゃがいものチーズトマトソース、
キュウリのサラダ🥗
料理は楽しい🤗
#キューピー3分クッキング





