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『琥珀の声』

早めにスタジオに着くとロビーに一人の女の子が座ってる。きっと遅めのレコーディング上がりかボイトレの子だろうと気にせず、L字に並べらたソファの斜向かいに座る。

「こんばんわ。」

唐突なので困惑し僕も「あ、こんばんわ...」と答える。歳の頃20代半ばにはまだ行かない印象。長い黒髪のロングヘアと整った目鼻立ちが若い時のカヒミカリィ(知らない奴はググれ失敬なw)を思い出した。病院の待合室でいきなり知らない人に挨拶されたら誰でも困惑するだろう。それと全く同じ心境で少し恐怖すら感じた。彼女は、口角をキュッと上げる上品な笑顔で自己紹介を始めた。やはりボイトレに通っている生徒で、通学年数、どこどこに住んでて、普段は書店でアルバイトをしているのだ等と個人情報を意図もあっさり僕に話す。(ちょっと痛い子かも知れない...)と心の中で思いつつ、何よりも彼女の声の美しさに気を取られうっとりする。綺麗に磨かれた琥珀のような光を放ち、ふわりと僕を包む。(僕は絶対音感の他に強力な共感覚を持っていて、音に色や形、温度匂いとその時々で強弱もあるが一つの情報に幾つかが乗ってしまう)色んな声を聴いて来たが、琥珀に光る声を待ってるとは。初めての経験と美しさに話はほとんど聞いてられず、彼女の話が途切れた時、

「いつデビューするの?グループ?ソロ?」

と矢継ぎ早に問う。

「え?いや、そんなの全然...。もう諦めようかと思ってるところです。」

「オーディションは?色々受けてみた?」

「ええ、たくさん...どうしてですか?」

僕はスタジオ入りの時間も忘れ彼女がどんな歌声を持つか知りたい。

「八小節でいいから何か歌ってくれる?」

「え?ええ?...」

「なんでも良いよ。好きな曲か簡単な曲。」

「...はい。じゃあぁ...」

大きな目をくるりと上半径回し

「ぞうさん。ぞうさん歌います!」

吹き出しながら、

「うん(笑)良いよそれで八小節。じゃあいい?ツー、スリー!」

ぞーうさん

ぞーうさん

おー鼻が長いのね

そーよ母さんもなーがいのよ

Jeeeeeeesus!!、、!おいおい世の中のプロデュサーは耳栓でもしてんのか?おい、こいつぁ凄い。なんなんだ?いったい???

「事務所はどこ?」

「いえ、所属してないです。」

「えーと、とりあえず連絡先教えて?そしたら事務所紹介して俺が企画書書いてで、俺がプロデュースするから音源出してみる?」

「え?CD出すって事ですか?」

「そうそう。絶対売れるから。俺が売れるって言った奴ら全員売れたから。俺だけ売れなかったけど(笑)」

つられた笑顔が整った顔立ちに似合わぬ愛らしさだ。

「今ここで約束は出来ないけど、俺が絶対話し通すから。とりあえず一週間もらえる?そしたら連絡する。あ、俺これから仕事だから。」

彼女の携番を聞き急いで入力して掛ける。彼女の携帯が鳴る。

「おっけー。じゃあまたね!」

多分今度は、彼女が困惑しただろう。あ、彼女名前、うっとりして覚えてない。

風が吹くかも知れない。
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