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ジャスミン(ミント)
知人に勧められてaudible初月無料に入ってみました。お目当てはこれ!櫻井さんの朗読なので、まるで冨岡義勇さんが語ってくれてるみたいで耳が喜んでおりました!お話も良かった、書の魅力が伝わってきました!


久彩
not found
冬はきらいじゃない わりとすき
息が白くなるシンとした空気の冷たさ
寒いね ってかわす言葉
重ねた服の色とディティール
落ち葉のゆらめき
悪くない
もう一度あたらしく はじめたいな
歩けるかな 走れるかな
#ひとりごとのようなもの
#音楽をソッと置いておく人
冬と春

アバッキオ🧌
心のままにわがままに
君と話したくな〜い〜♪
誘えるもんなら誘ってみやがれ🤪

kagenaカゲナ
第7話(ノクシアがいない夜、未来の扉)3
食事と会話
しばらくして、共用スペースの大きな机に食事が並んだ。
煮込み肉の香り、焼き魚の匂い、香草の蒸気が部屋いっぱいに広がる。
「わっ、この魚……骨が多い!」
リアが小声で文句を言いながら、器用に箸を動かす。
「文句を言う前に、ちゃんと味わいなさい」
ミレイナは淡々と魚を口に運び、無駄な所作ひとつ見せない。
「鉄分も多いですし、消化にもいいですよ」
クレアナは真面目に説明を続ける。その堅さにリアがむくれ顔をし、場が少し和らいだ。
「……クレアナ、食事中でも先生みたい」
「知識は力です。軽んじてはいけません」
「はぁい……」
そんなやりとりに、微かな笑い声が混じる。
その中で、カゲナだけは食欲がわかず、静かにスープをすすっていた。
耳に届く声は心地よく響くのに、胸の奥にはぽっかりと穴が空いたような感覚が残っていた。
(……ノク。いつもなら絶対――肉だけ山盛りにして、魚なんか見向きもしないで……)
思い出す。
皿の肉を一気に掻き集めて、リアに「ずるい!」と怒鳴られ、口いっぱいに詰め込んでは「ノクの勝ちだ!」と笑う声。挙げ句の果てにスープをこぼし、クレアナに眉をひそめられて、しょんぼり肩を落とす――そんな騒ぎが、当たり前のように繰り返されてきた。
(……どうして、何も言わないんだよ……)
呼びかけても返事はない。
賑やかな食卓の中で、彼だけがひとり、静かな空洞を抱えていた。
⸻
クレアナからの告げ
食後、しばし和やかな時間が流れた。
だが、やがてクレアナが箸を静かに置き、表情を引き締めた。
「――そろそろ、大切な話をしておきましょう」
その声に、場の空気がすっと張りつめる。
「お二人には、数日後“島の学校”に行っていただきます」
カゲナは手を止め、リアはぱっと目を輝かせた。
「学校? 絶対面白いに決まってる!」
クレアナは頷き、言葉を続ける。
「ただし――入学の前に、いくつか段階があります。まず、能力や強さを測るための検査を受けてもらいます。その結果で、基礎クラスや指導者が決まります」
一呼吸置いてから、声をさらに深めた。
「“島の学校”は、ただの学び舎ではありません。島全体が学びの場として造られています。街には知識を競う塔が立ち、森には魔獣と共に生きる術を学ぶ試練の小道があり、海では航海術と精霊との契約を、山では剣技と魔法の極致を試されます。そこでは、生きることそのものが授業であり、島のあらゆるものが師となるのです」
リアは目を丸くして身を乗り出した。
「街も森も海も山も……ぜんぶが学校!? ――すごい、絶対楽しいに決まってる!」
クレアナは小さく頷き、さらに付け加えた。
「それだけではありません。この家も特別に“学校”と繋がっています。結界を通じて、島の内部と直接つながる仕組みになっているのです。移動に不自由はありません。むしろ――選ばれた者しか、その道を通ることはできない」
カゲナは思わず眉をひそめた。
「……つまり、僕たちはもう……」
「はい。すでに“学ぶ者”として迎え入れられている、ということです」
クレアナの声には、淡々としながらも確かな重みがあった。
リアは「ふーん」と小首をかしげながらも笑みを浮かべ、カゲナは逆に顔をしかめる。胸の奥に重たいものがのしかかり、言葉は出てこなかった。
「それに加えて、今回は特例です。“未来を見る魔王”に一度会ってもらいます」
「未来……を見る?」
カゲナが思わず問い返す。
「はい。進むべき道を見定め、その力にふさわしい居場所を決めるためです。その者は、数多の世界を見通し、未来を示す存在。――その言葉ひとつで、人生の流れが大きく変わることもあるでしょう」
リアは椅子から身を乗り出し、胸を弾ませた。
「未来が見えるなんて……! すごい、絶対に会ってみたい!」
その隣で、カゲナは渋い顔のまま黙り込む。胸の奥でざわめきが広がり、目を逸らした。未来を見せられることが、自分の自由を縛るように思えたからだ。
「僕は……別に……」
小さくこぼした声は、リアの無邪気な笑顔にかき消される。
――結局、何も言い返すことはできなかった。
クレアナは二人を見渡し、落ち着いた声で締めくくった。
「――具体的な日程を伝えておきます。明日は能力検査と、“未来を見る魔王”との対面です。明後日は、学校生活に必要な物を買い揃える日。そして三日後――正式な入学式が行われます。そこからが、あなたたちの新しい生活の始まりです」
クレアナは少し間を置き、さらに一つ大切なことを告げた。
「――そして、検査を受ける前に。お母様とお父様が帰ってこられます」
「……え?」
リアが息を呑み、カゲナも思わず顔を上げる。
母は長らく魔王の秘書として遠征に同行しており、父は魔王として任務に就いていた。
その二人がそろって戻る――それは、ただの家族の再会ではなく、大きな変化の前触れを意味していた。
⸻
家族の話の余韻
食卓に静寂が落ちた。
リアは箸を握ったまま瞬きを繰り返し、期待に輝く瞳と、不安に揺れる影が交互に浮かんでいた。心の奥からは「やっと会える」という喜びがあふれてくるのに、その一方で「どんな顔をすればいいのか」「どんな言葉をかけてもらえるのか」――わからない未来に胸が締めつけられていた。
「やっと……会えるんだね……」
小さくこぼれたその声は、喜びと震えを同時に孕んでいた。
カゲナは胸の奥がざわつくのを感じた。
再会を心から喜びたいはずなのに、頷くことができない。
父が“魔王”であるという事実が、のしかかるように頭上に落ちてくる。
(魔王の子……僕は、そう呼ばれるのか……)
その言葉が胸の内で何度も反響し、呼吸を重くする。
期待よりも責任、喜びよりも重圧――その対比が心を締めつけて離さなかった。
ミレイナは腕を組んだまま視線を伏せていた。
「……再会は、喜びだけで済まないわよ」
その声には冷たさと、どこか覚悟を帯びた響きがあった。
リアは不安げに姉を見上げた。胸の中で喜びと恐れがせめぎ合い、けれど言葉にはできず、唇をきゅっと結ぶしかなかった。
⸻
夜の静けさ
その夜。
皆が眠りについたあとも、カゲナは目を閉じても眠れず、ひとり布団を抜け出した。
外に出ると、冷気が肌を刺した。昼間の熱はすっかり失われ、岩山に囲まれた野原を夜風が吹き抜ける。鼻をかすめるのは、まだ消えきらない焼け焦げた大地の匂い。草木の根元から漂う煙のような残り香が、静けさの中に不気味に混じりこんでいた。
戦場に立つと、地面に黒い痕が広がり、そこから影がゆらめいていた。月明かりに照らされたその影は、生き物のように揺れ、時折形を変えてはカゲナの足元にまで伸びてくる。
「……」
ただ呼吸をするだけで、胸の奥に重たい沈黙が残る。
いつもなら心をかき乱す何か――ノクシアの声や気配があるはずなのに、今は妙に、静かすぎた。
カゲナは拳を握りしめ、影に向かって小さく呟いた。
「……僕は、もう止まらない。どんなことがあっても……進む」
その背後から、かすかな足音が近づいた。
振り返ると、月光に照らされてミレイナが立っていた。
彼女は影を見つめ、目を細める。風が吹き抜け、黒い髪が揺れる。
「……まだ消えていない」
その声は低く、夜気に溶けていきながらも鋭い刃のように響いた。影がゆらめき、まるでその言葉に応じるかのように形を歪める。
カゲナは息を呑み、姉の横顔を見つめた。
言葉は交わさなかった。
だが、その沈黙の中に確かに感じる――影は終わっていない、と。
遠くで雷がごろりと鳴り、夜の風が冷たく吹き抜けた。



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