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ちくわマン

作者、はるまき


第一章 『弱肉強食・転』
第一章1 『失敗作のモンスター』


 ここはどこだ?


 目が覚めると、俺は地面の上で寝ていた。
 周りを見渡してみると、死んだ場所とまったく同じ場所だった。
 いや、そもそも俺は死んだのか?
 今、確かに意識はある。
 俺は死んだはずじゃなかったのか?
 というか、さっきから引きずられてる感覚がある。
 手に違和感がある。
 俺が自分の手を見ると、俺の腕は誰かに引っ張られていた。
 
 「うわっ?!ちょ、誰だよ!」

 俺は、茶色の生物に腕を引っ張られて引き摺られていたのだ。
 よく見ると、茶色の生物の手が俺の手にめり込んで一体化していた。
 その茶色の生物は、ちくわのように見える。
 いや、ちくわだ。
 
 「は、離せよ!」

 ちくわは俺の声に気づき、ゆっくりと俺の方を見た。
 ちくわの見た目は、目と口があり、手と足が生えていた。
 そして、そのちくわは喋り出した。

 「何だ。意外と早く起きたようだな、人間」

 そう言いながら、ちくわの手がさらに俺の腕にめり込んでいった。
 
 「俺はお前を食う。でも安心しろ。ただお前が俺になるだけだ。俺は今人間のエネルギーが欲しいだけだ」

 そのちくわは意味不明な事を言いながら、俺の体を一口で飲み込んだ。
 本来ちくわの穴にはただの空洞しかないはずだが、そのちくわの穴には歯があり、ちくわの穴が口になっていた。
 
 「どわぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 俺はちくわの口の中に入れらて飲み込まれ、俺の体は消化された。
 そして、なぜか俺はちくわと一体化した。
 俺の体は、ちくわになってしまったのであった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 俺の名前は黒瀬ハヤト、16歳だ。
 彼女はいないが、親友や友達と普通の高校生活を送っていた。
 彼女はいないが….。
 だがある日、突然ニュースで肉や魚などの食材が人を食い始めたという意味不明な事件が起きた。
 その事件は愛知県豊橋市で起こり、そこからさまざまな食材、フードモンスターに食われる被害はどんどん拡大していき、たったの3日で世界中の人口の3割を食べ尽くすほどだった。
 俺の両親も食事中にネギに食われて死んだ。
 俺は周りの人間や両親が死んでいくのを見て食事をするのが怖くなって、何も食べれなくなり、そのまま餓死した。
 そして今に至る……….。


 「いや、意味分かんねーよ」


 ハヤトは自分の体を見て混乱する。
 ハヤトの体は、ちくわになっていたのだ。
 おそらく、さっきのちくわに食われたせいだとは思うが、なぜ俺自身がちくわになったのだろうか。
 もしかすると、フードモンスターに食われるとその食われた人間がフードモンスターになるのかもしれない。
 いや、だとすればネギに食われた俺の両親もネギになっているはずだ。
 それに、食われた人間もフードモンスターになるゾンビ方式なら、被害はもっとデカかったはず。
 そういえば、さっきあのちくわは俺を食べる前に言葉を話していた。
 普通のフードモンスターには喋れるほどの知能は無いはずだ。
 ネギだって喋ってはいなかったし、それほどの知能があるならもっと色んな方法で人間を追い詰めていた可能性がある。
 だとするならば、あの喋れるちくわには他のフードモンスターには無い知能を持っていたのかもしれない。
 だから、あのちくわはあえて俺を殺さないで食べるという器用な事が出来たのかもしれない。
 だとしても、わざわざ俺と一体化した意味が分からない。
 普通に他のフードモンスターみたいに俺を食い殺してもよかったはずなのに。

 「それは、俺が人間のエネルギーを常に補給し続けるためだよ」

 ハヤトが考え事をしていると、突然さっきのちくわが喋り出した。
 その声は、俺自身の体から響いて聞こえてくる。
 まぁ、なぜか今は俺自身がちくわになっているから当然か。
 ちくわになった自分の体を見てみると、腕から口が生えて喋っていた。
 体が一体化しているせいだろう。
 
 「俺たちフードモンスターは、お前ら人間を食べて栄養を摂っている。お前たち人間も俺たちを食べて栄養を摂ってるだろ?それと同じだよ」

 確かにそうかもしれない。
 俺たちも牛や豚を殺して食べている。
 だから逆に、その牛や豚も人間を殺して食ってもある意味文句は言えないのかもしれない。
 
 「だが、俺以外のフードモンスター共は全員俺よりも知能が低いバカばっかりだ。別にいちいち色んな人間を食い殺さなくても、俺みたいに1人の人間を食って人間と一体化すれば、人間から自動的にエネルギーを補給出来て空腹になる事もないのになー。ま、そんな器用な事が出来るのは俺みたいに知能を持った奴だけだけどな」

 ちくわはそう自慢げに言った。
 めちゃくちゃな理論だが、つまり俺を食って俺と一体化すれば、俺のエネルギーがちくわに補給され続けるから、他のフードモンスターみたいにわざわざ人間を食い殺す必要がないということだ。
 ん、待てよ?
 ということは、

 「俺のエネルギーがお前に吸収され続けるってことは、俺っていずれは死ぬってこと?」

 「あぁ、もちろん。俺にとってはお前ら人間の命なんてどうでもいいからな」

 ちくわのそのあっさりとした回答に、ハヤトは頭が真っ白になる。

 「ふざけんなよ!!!何でお前の空腹を満たすためだけに俺が死ななきゃならねーんだよ!!」

 俺は腹が立ってきた。
 当然のことだ。
 何で俺がこんなちくわ野郎のために死ななきゃいけないのだろう。
 
 「お前ら人間だって野菜とか食って栄養摂ってんだろ?だから俺が人間を栄養にして人間を殺しても誰も文句言えねーだろ?」

 「は?」

 元から分かってはいるが、やはりフードモンスターは頭がおかしい。
 餓死したと思ったら突然ちくわに食われて、体がちくわになったと思ったら勝手に俺が死ぬ運命を背負わされていたなんて、到底受け入れられる事ではない。
 
 「おい人間。ちょっとは落ち着いて話を聞けって。ピリピリ来ちゃってんのか?俺はただお前を食料にしてるだけなんだからさぁ」

 「だからそれが問題だって言ってんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

 俺がちくわに対してブチギレていると、誰かから電話がかかってきた。
 見てみると、それは俺の親友であるアオイからだった。
 俺は一旦冷静になり、応答ボタンを押した。

 「あ、やっと出た!お前出るのおせーよ、しばくぞ!!!!!!!!」

 それは、とても安心感のある声だった。
 今はまだ、アオイが生きてるだけマシなのかもしれない。
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