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社会はデジタル化の奔流に飲み込まれつつある。書類の山はクラウドに、対面のやり取りはZoomに置き換わり、日常の隅々まで「オフライン」の痕跡が薄れていく。だが、そんな潮流の中で、意外と頑なにアナログの牙城を守っていたのが「試験」の世界だ。国家資格の筆記試験から民間のスキル検定まで、紙と鉛筆の香りがまだ色濃く残る。ところが、2025年7月、そんな古き良き習慣に一石を投じる新組織が誕生した。一般社団法人「デジタルテスト推進協会（DiTA）」。理事長に就く佐藤信也氏の言葉を借りれば、これは「単なるシステムの置き換え」ではなく、「試験の公平性と信頼性を社会インフラとして再構築する」試みだ。　

振り返れば、日本でのデジタル試験の歴史は意外に古い。2000年頃、パソコンを駆使したCBT（Computer Based Testing）が登場し、テストセンターでの会場受験やインターネット経由のIBTが徐々に広がった。2010年代にはeラーニングも企業内で花開いたが、全体のデジタル化率は2割止まり。残り8割は、依然として紙の解答用紙が主役だった。転機はコロナ禍。マスク姿の試験会場が閉鎖を余儀なくされ、リモートワークの波が「自宅で勉強」を常態化した。

TOEICのように、オンライン試験の利用率が70%に跳ね上がる例も出てきた。加えて、2023年の「デジタル社会」重点計画、2024年の国家資格手続きデジタル化、そして2026年の司法試験CBT化予定――政府の後押しが追い風となり、業界は一気に動き出した。　とはいえ、喜びだけではない。2025年に起きた集団不正受験や経歴詐称事件は、デジタル化の影の部分を露呈した。テクノロジーは便利だが、不正の温床にもなり得る。問い合わせが殺到する中、佐藤氏は嘆く。「受験生の利便性を忘れ、事務局の効率化だけを急ぐケースが増えている」。こうした混乱を、個別企業ではなく業界全体で解消すべく、DiTAはイー・コミュニケーションズやプロメトリック、学研ホールディングスら8社・団体が手を組んで発足した。使命は明確：受付から採点、認定証発行まで、試験プロセスの全域をデジタル化。加えて、AIを活用した不正監視やデジタル認定証のガイドライン策定も視野に。年1回の「デジタルテスト白書」刊行や、2～3ヶ月ごとの勉強会で、海外事例も取り入れていく。　

10月24日の設立記念セミナーでは、待望の「デジタルテスト白書2025」が初公開された（同27日、協会ウェブサイトで一般公開）。約1000人の受験者アンケートを基に、業界の「定義書」を目指す内容だ。デジタルテストの対象を7領域（受付～データ分析）に分け、実施形態を4つ（テストセンター随時/一斉、リモート監視型随時/一斉）に分類。期待の声は「会場の自由度」（50.2%）や「日程の柔軟性」（44.1%）がトップで、自宅受験希望は83.8%と圧倒的。随時受験を望む声が54.4%と、一斉型を上回ったのも興味深い。一方、不安は「操作ミス」（54.4%）や「通信トラブル」（44.6%）。満足度は9割超だが、操作性の向上や不正防止強化が急務だ。提言の柱は3つ：マイナンバーID基盤のシームレス管理、国際標準準拠の相互運用性、AIと人間のハイブリッド監視。佐藤氏の言葉通り、「官民連携で政府が基盤を、民間が技術で競う」モデルが理想形だろう。　セミナーには、文部科学省の橋爪淳審議官とデジタル庁の上仮屋尚審議官が登壇し、政府のコミットメントを示した。文科省は全国学力調査のCBT化を加速（2027年全面導入）、自前のMEXCBTシステムでビッグデータを活用。デジタル庁は国家資格のオンライン申請を拡大中（2025年度内11資格追加）、マイナンバーカードの有効性を強調した。両者は「信頼性確保が大前提」と口を揃え、DiTAにエールを送る。佐藤氏は展望を語る。「今は2割のデジタル化だが、早期4割、将来的6割へ。紙の領域も残すバランスが鍵だ」。　

試験は、単なる「合格の門」ではない。個人の努力を社会が公正に評価する鏡だ。デジタル化は、その鏡を曇らせず、より鮮明にするチャンス。コロナの教訓を生かし、業界が一丸となって進むDiTAの歩みに、期待を寄せたい。紙の時代が終わる日、きっと新しい公平の風が吹くはずだ。

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