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しおん
もう、取り壊されて無いはずの家の夢を見た。
構造も広さも、記憶の中とは少し違っていたけど。
そこには、もう会えないはずの人が座っていて。
何も語らず、ただ「おかえり」と言ってくれた。
あの家は、もうないけど
私の中には、まだ在る気がした。
『あの家は、もうないけど』
── 本編少しずつ載せていきます。
#創作 #オリジナルストーリー
#短編 #不思議な話 #祖父との記憶

しおん
夢の中の家が、知らない形をしていた。
取り壊されたはずの家なのに、夢の中では体育館のように縦に長く、構造も広さもまるで違っていた。
ふすまのような扉を開けると、そこには大きなガラス戸に囲まれた作業用キッチンのような部屋があった。
初めて見るはずなのに、なぜか懐かしかった。
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#あの家はもうないけど


しおん
『あの家は、もうないけど』⑤
祖父は、
どうでもいいことで、ちょっと怒っていた。
「このカーテン、前よりペラペラじゃないか。
朝日が強くて、まぶしくてたまらん」
私は頷いた。
何も言わずに、ただその話を聞いていた。
「だからこうしてやれば、うまくいくだろうって思ってたんだよ。
でも、やってみたら全然違った。そういうもんなんだな、ほんと」
祖父は、いつもの口調で、
何でもない日々のことを、ぽつぽつと語っていた。
私は、ただそれを聞いていた。
それだけなのに、
祖父はどこか満足そうな顔をしていた。
特別な話じゃなかった。
でも、話せたこと。聞いてもらえたこと。
それだけで、そこにはちゃんと時間が流れていた。
次回、最終話です。お楽しみに…!
#創作 #祖父との記憶 #心の居場所
#あの家はもうないけど
#変わらないままここにいる

しおん
その姿を見て、私はふと気づいた。
ああ、この人は――
何も変わっていないんだ、と。
――この場所は、もしかしたら“あの世”の一部なんだろう。
けれど、ここには“黒い何か”の気配がない。
それどころか、
この空間そのものが、祖父の気配で守られている気がした。
祖父はきっと、自分でも気づかないままに、
この不思議な家を、結界のように作っていた。
あの“黒い何か”が、ここに近づけないのは、
たぶん、祖父の魂が“上の方”にあるからだ。
霊とか、あの世とか、
そういう言葉で説明できるものじゃないのかもしれない。
でも確かに、
ここは、安全な場所だった。
祖父がここにいて、
昔と同じように過ごしていて、
その空気が、今の私にも届いている。
何かを守ろうとしていたわけじゃない。
ただここに、ずっと“いる”だけで。
それで十分だった。
祖父は、何も言わなかった。
ただ、いつものようにそこにいた。
私が20の頃に亡くなった祖父は、
なぜだか自然と――
今ここにいるように感じられた。
そして、自然と「大丈夫」と思えた。
私は、目を覚ました。
窓の外の風景も、部屋の空気も、
何ひとつ変わっていないはずなのに、
どこかすべてが、優しくなっていた。
――あの家は、もうないけど。
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