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kagenaカゲナ

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#カゲナ異世界扉


#カゲナ光と闇のはじまり
シリーズのメイン小説です。
イラストや物語の世界をすぐに楽しめますっ

#カゲナショート小説1シーズン
メイン1章の裏話短いストーリーや世界観の紹介

#カゲナキャラクターストーリー
それぞれのキャラクターの紹介

#要点まとめカゲナ光と闇のはじまり
メイン1話ごとの要点と、キャラたちの想いや裏側をま とめています。
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#カゲナショート小説1シーズン
「観測できなかった未来」

時は、無数に分かれている。
選択のたび、瞬きのたび、
世界は静かに枝分かれしていく。

クロノはそれを見ることができた。

世界の“可能性”を。
破滅の先を。
希望の残骸を。

けれど、その日――
彼女の前に現れた未来は、
どの枝にも属していなかった。



そこは、音のない世界だった。

風が吹かない。
鼓動もない。
時間が、止まっていた。

空には、灰色の太陽があった。
光を放たない、ただ“置かれているだけの太陽”。

地面には都市の残骸。
けれど人はいない。
命の“気配”が、どこにもない。

世界が存在しているのに、
生きているものが何もいない未来。

クロノは歩く。
靴音は響かない。
靄のような空気の中を、ただ進む。

(……ここは……何?)

彼女は知っている。
これは未来のはずなのに――
どの時間にも、記録されていない。

ここだけが“抜け落ちている”。

未来にすら、存在を拒まれた場所。



そして、そこで彼女は見つけた。

ひとつの影を。

それは人の形だった。
だが、光を持たない。
色も、輪郭も、曖昧で。

ただ――そこに “沈んで” いた。

まるで世界そのものの影のように。

クロノは足を止めた。

(……あなた……誰?)

当然、返事は返らない。

影は動かない。
呼吸もしない。
ただ、世界の中心に“落とされている”。

それなのに。

なぜか、そこからだけ――
微かに“存在”を感じる。

彼女の胸元の宝石が弱く光った。

未来を示す針が、狂ったように軋む。

クロノの喉がわずかに震える。

「……おかしい……」

彼女は影の周りを歩く。

けれどどれだけ“観測”しようとしても、
その存在は、未来のどこにも 登録されていない。

名前も。
起源も。
行き先も。

ただ、そこにいる。



「あなた……は……」

クロノは囁くように言った。

「観測外の存在……?」

未来視に映らない。
記録されない。
名前もない。

それなのに――
自分は今、こうして“見ている”。

矛盾だらけだった。

普通なら、存在しないはずの者。

この世界が“拒絶”したはずの存在。

それなのに、なぜ。

(……どうして……ここに、いるの?)

影は、わずかに揺れた。

その瞬間、
クロノの中で時間の糸が弾けた。

無数の未来が、同時に崩れた。

彼女の視界に
見たことのない未来が一瞬だけ流れ込む。

・燃える空
・砕ける光
・誰かが誰かを抱きしめて泣く光景
・そして――

その影が、
誰かの胸の奥で“生きている”未来。

(なに……今の……?)

クロノは息を呑む。

影は、ゆっくりと顔を上げた。

顔は見えない。
でも。

そこには、
“消えたくない”という意志だけがあった。

言葉もない。
声もない。
名前もない。

ただ、心だけが残っていた。



「……あなたは……」

クロノは震えた声で呟く。

「未来に……いないはずの存在……」

「でも……」

その影を見つめながら、
彼女はようやく気づく。

「あなたがいない未来は……
全部、壊れてる……」

影は答えない。

でも、
確かにそこにいる。

どの時間にも属さず、
どの歴史にも記録されない。

それでも、
必要とされている存在。



クロノは静かに目を閉じた。

そして、初めて決意する。

未来を見るためじゃなく。
未来を“守る”ために。

「あなたの名前は……まだ知らない」

「でも……」

彼女はそっと言った。

「あなたは、“空白”なんかじゃない」

「この世界にとって、必要な“誤差”なんだ」

影の未来が、
ほんの少しだけ揺れる。

クロノの胸元の宝石が、
淡く光った。

そして世界は もう一度
時の流れへと戻っていく。



記録されない未来の中で。

誰も知らない存在は、
それでも──

まだ、ここにいる。
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#カゲナショート小説1シーズン

ショート(魂なき英雄伝説)
『ノクの夢の中の影』
影の繭の中で、ノクが見る夢。
幼いリア、小さなカゲナ、消えた光の少女ルミナ、そして母セルロラ。
声を持たない影の中で、それでも彼女は「生」を思い出していく物語。
小説はコチラ⬇️

『まだ、ここにいる』

影は、音を持たない。

冷たくも、温かくもない。
ただ、無限の夜みたいに広がっていた。

ノクは――
そこに沈んでいた。

足も、手も、羽もない。
輪郭も曖昧で、形という形が自分から抜け落ちている。

ただ、胸の奥だけが、
かすかに脈を打っていた。

ドクン……ドクン……

それが、自分がまだ“ここにいる”証だった。



1. 昔のリア

暗闇の向こうで、光が滲んだ。

最初に現れたのは、小さな女の子。

幼い頃のリアだった。

まだ剣も持っていなくて、
魔法も下手で、
何度も失敗して泣いていたころのリア。

「……ノク?」

声が、少し震えている。

ノクは声を出そうとする。
でも、音にならない。

リアは気にせず、笑った。

「ねぇ、今日ね、お兄ちゃんと喧嘩したの」

白い手で、地面に座り込みながら話し始める。

「私がさ、無理したの。
そしたらあの人、怒って……でも怒り方下手でさ」

クスクスと、小さく笑う。

「でもね、本当は怖いんだと思う。
私がいなくなるのが」

その言葉が、
影よりも深くノクに刺さる。

リアは空を見上げた。

「ノクはさ、どう思う?」

ふわ、と
影に風が流れる。

ノクは何も答えられない。

けれどリアは、
もうわかっているみたいに微笑んだ。

「……うん、知ってる」

「守ってくれてるんでしょ?」

その笑顔が、
光になって溶けていく。

ノクの中に、何かが残った。

痛みじゃない。
悲しみでもない。

ただ、後悔のような何か。



2. 小さい頃のカゲナ

次に現れたのは、
まだ少年よりも小さなカゲナ。

訓練場でもない、
外の草原にひとり座っていた。

剣も持たず、
空間もまだ創れなかった頃の彼だ。

「……なあ、ノク」

空を見るように呟く。

「僕な、強くなりたいんだ」

その横顔は、不安で揺れている。

「守りたいとかさ、正しいこととか……
正直よくわからない」

「でも」

彼は膝を抱えて、続けた。

「僕が弱いと……誰かが苦しむんだ」

ノクは静かに、彼を見つめた。

「だから……
もし、ノクがいなくなったら……」

一瞬だけ、空間が震えた。

「僕は、たぶん……折れる」

カゲナは笑う。
自分をごまかすみたいに。

でもその目は、まっすぐだった。

「だからさ……勝手に消えるなよ」

その言葉が響いた瞬間、
幼いカゲナは霧のように消えてしまった。

影だけが、
静かに残る。



3. ルミナ

闇の中に、
小さな光の粒がひとつ落ちる。

それが――羽になった。

白く、淡く輝く一枚の羽。

ノクの胸にある、
あの羽と同じだった。

やがて、光が人の形を結ぶ。

ルミナだった。

空に浮いたまま、
昔のように穏やかに笑う。

「また会えたね」

ノクは何も言えない。
でも、彼女はそれでいいというように頷いた。

「寂しかった?」

ノクは、少しだけ首を振る。

「ルミナ、あなたは……」

声は出ないのに、
言葉だけが影に浮かぶ。

ルミナはそれを読み、微笑んだ。

「私はもう、光じゃなくなった」

「でも、消えたわけじゃないよ」

彼女はそっと胸に手を当てる。

「ここに、いる」

影の中で、
彼の心臓と重なる位置に。

「私は記憶でも、残留でもない」

「あなたの“選び続けた想い”そのものだよ」

ノクの胸が、強く脈を打った。

ドクン……ドクン……

「だから、ノク」

ルミナは少しだけ真剣な顔をした。

「あなたはまだ、生きるの」

「夢の中じゃない。
ここでも、あの世界でも」

彼女はそう言って、
ふわっと消えていった。

羽だけを残して。



4. 母、セルロラ

最後に現れたのは、

暗闇の中に立つ、
ひとりの女。

セルロラだった。

王でもなく、
魔王の妻でもなく、

ただの「ひとりの女」の姿で。

「随分と眠ったわね」

静かに言う。

ノクは動けないまま見つめていた。

「……酷い目に遭わせたわ」

彼女の声には、
いつもより柔らかさがあった。

「あなたを剣にしたのは、私」

「道具にしたのも、私」

でも、と彼女は続ける。

「それでもあなたは、まだ人でいようとしている」

セルロラはゆっくり膝をついた。

影に咲く花のように。

「ありがとうとは言わないわ」

「でも……」

わずかに目を伏せる。

「……ごめんなさい」

空間が、震えた。

彼女は手を伸ばし、
ノクの胸に触れようとする。

触れる直前で、止まった。

「そろそろ、戻りなさい」

「彼らが待っている」

その言葉と同時に、
影の世界にひびが走る。


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#カゲナショート小説1シーズン
ルミナ外伝:時の果てで目を覚ます。
静かだった。
もう、何の音もしない。
ただ、遠くでノクの声が聞こえる気がした。
“影が光を抱く”――その温もりが、まだ胸の奥に残っている。

けれど、その腕の感触はもう消えていた。

体から光の粒がゆっくりと離れていく。
まるで、自分が世界から少しずつ切り離されていくようだった。

(……これで、終わりなの?)

そう思った瞬間、空間の奥で“軋む音”がした。
光と闇がぶつかり合い、世界が逆さまにひっくり返る。

ノクの影と、私の光。
二つの力は限界を越え、バランスを失った。

「……ノク、ごめん。私、止められなかった……」

その声は空気に溶け、風も音も消えていく。
時間すら――止まっていた。

それでも、心の中にはひとつだけ残っているものがあった。
ノクと過ごした日々。
あの笑顔、あの優しさ。
それが、今も私の中で灯のように輝いている。

(ノク……あなたがくれた“影”が、私の“形”を作ったんだ)

その瞬間、何かが弾けた。

世界の色が音もなく崩れ落ち、空は裏返り、地は裂けた。
上下も遠近もなく、ただ“流れ”だけが残る。

――時間が、壊れたのだ。

ルミナの体は光の糸となり、
“時の海”の中をゆっくりと漂っていく。

(ここ……どこなの……?)

手を伸ばしても、指先が泡のように消えていく。
自分の輪郭が溶け、過去と未来の区別も消えた。

けれど――たったひとつ、消えなかったものがある。

名前”。

――ルミナ。

それは、誰にも奪えない唯一の“私”。

光のせいではない。
私という存在が“紙”のようにこの世界に刻まれ、
名前という座標を与えられたから。

記憶が失われても、身体が滅びても、
この座標だけは世界のどこかに残り続ける。

――だから、私は消えない。

たとえ形がなくなっても、
“ルミナ”という名が、私をこの世界に繋ぎとめてくれる。

時の海の底で、誰かの声が響いた。
それは昔、どこかで聞いた言葉。

“光は時を越えるんだよ”

(……時を越える?)

その言葉が、胸の奥で響く
青い羽が光り、ひとひらの羽が浮かび上がった。

闇が反転し、無数の光の線が走る。
ルミナの体は流星のように、時の流れを駆け抜けた。

見える――。
笑うカゲナ、泣きながら頬を拭うリア、微笑むクレアナ。
あの日の世界が、少しずつ遠ざかっていく。

(ごめんね……もう少しだけ、行ってくるね)

光はさらに速くなり、色が消え、
世界が何度も生まれては壊れていった。

そして――

――世界はもう、終わっていた。

大地は黒く焦げ、空は赤く濁っている。
そこに生きるのは、悪魔と怪物と、かつて人だったものの残骸。
夜も昼もない世界。
月は砕け、太陽は死んだ。

その中で、ただ一人の男が生きていた。

何度殺されても、また目を覚ます。
何度切り裂かれても、肉は再生する。
この世界で最も長く生きている――
それが、不死身の男。

だが、もう誰も助けない。
戦う理由など、とうに燃え尽きていた。

彼は廃墟の地下に身を潜め、息を潜めていた。
外では怪物の呻き声が響く。
腐った風が鉄の臭いを運んでくる。

「……何百年だ? もう、数えるのも飽きたな」

その時だった。
空が、一瞬だけ――青く光った。

眩い閃光。
まるで天がひとつだけ涙を落としたかのように。

男は息を呑む。
青い光は尾を引きながら落ちていく。
無数の化け物が吠え声を上げ、空へ牙を向けた。
だが、光は止まらない。
彼らの群れを貫き、地上へ――。

ドォン――!

世界が揺れた。
光の柱が崩壊した都市を貫き、静かに消える。

男は咄嗟に剣を手にした。
「……あれは、何だ」

光の落ちた場所へ向かう。
腐った獣の死骸を踏み越えながら、焼けた道を進む。

――そこに、少女がいた。

瓦礫の中心。
青く透ける髪が風に揺れ、
背中には壊れたような“光の羽”があった。

男は目を疑った。
「……嘘だ。まさか、まだ……光が残っていたなんて……」

少女――ルミナはゆっくりと目を開けた。
焦点の合わない瞳。
記憶の欠片もない。

「……ここ、どこ……?」
「地獄だよ」

男は苦笑した。
「この世界に、もう“生きてる人間”はいない。悪魔と怪物の巣だ」

ルミナは首をかしげた。
「じゃあ、あなたは?」
「……俺は、死ねない人間だ。呪いみたいなもんだ」

彼女は小さく瞬きをした。
そして、ふと空を見上げる。

「……でも、空、きれい」

男は思わず息をのむ。
何百年ぶりかで、誰かが“きれい”と言った。

だが、その直後。
空が裂けた。
黒い霧の中から、巨大な翼を持つ悪魔が姿を現す。
その後ろに続くのは、化け物たち。無数の手と牙。
大地がうねり、建物が崩れる。

「ちっ……またか」
男は剣を構える。
「お前は下がれ、あれは――倒せない」

悪魔が咆哮する。
耳を裂くような声が響き、空気が砕けた。
男の体が吹き飛ぶ。
肉が裂け、骨が折れた。
だが――死なない。

ルミナの目に涙がにじむ。
「なんで……なんで立てるの……?」

「……立つしかねぇだろ。倒れたら、終わりだからな」

彼は血を吐きながら笑う。
「……けど、もう限界だ。あの化け物どもには、勝てねぇ」

その瞬間。
ルミナの胸の奥で何かが鳴った。
青い光が脈打ち、羽が広がる。
時間が止まる――

世界のすべてが、凍りついたように動かない。
空に浮かぶ悪魔も、空気の震えも。

ルミナは震える手を見つめた。
「……これ、わたしの……力……?」

男の目が見開かれる。
「その光……まさか、“時の力”か?」

ルミナは小さく首を振る。
「わからない。でも……この世界、止めるのはいや」

彼女は空に手を伸ばした。
凍りついた時間が、逆流する。
砕けた空が再び形を取り、赤い空が青に変わる。

悪魔たちは溶けるように消え、風だけが残った。

静寂。
光が世界を包み込む。

ルミナは膝をつき、息を荒げながら微笑んだ。
「……すこしだけ、きれいになった」

男は呆然と立ち尽くす。
その世界で、初めて“祈り”のような感情が生まれた。

「……光は、まだ死んでなかったのか」

ルミナは顔を上げた。
「光はね、時を越えるんだって。誰かが……そう言ってた気がする」

男は小さく笑う。
「そうか……。じゃあ、俺も、もう少しだけ生きてみるか」

風が吹き抜ける。
灰の空に、ひとすじの青い光。
ルミナの羽が、流星のようにきらめいた。

それは、
絶望の底で見つけた、最初の希望だった。
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#カゲナショート小説1シーズン
(いろんな世界を見てきた魔王と未来の依頼)

カゲナの父――彼は魔王になるまでに、数えきれないほどの世界を旅してきた。

神さまが支配する世界。
人の姿がデータに変わり、情報だけでできた世界。
妖怪や怪物がはびこり、夜が終わらない世界。
遊びが命を決める“ゲームの世界”。

世界ごとにルールはちがい、そのせいで力を封じられることもあった。
それでも彼はあきらめず、見て、学び、すべてを自分の力に変えていった。

出会う人々も文化も新しく、すべてが驚きと学びに満ちていた。
旅は厳しく、数えきれない試練が立ちはだかった。
だが彼は乗り越え、ついに魔王の座へとたどり着いた。

その旅の途中で、ひとりの若き人間の女性と出会う。
彼女は未熟で、力も乏しかった。
それでも強くなりたい理由を胸に秘め、魔王と共に歩み出した。

彼女の前にも数々の試練が待っていた。
炎の地を越え、知恵を試される迷宮を抜け、心を砕こうとする闇に挑んだ。
幾度も倒れそうになりながら、彼女はあきらめなかった。
努力を重ね、一歩ずつ前へ進んだ。

やがて――未来を見通す力が芽生えた。
それは与えられたものではない。
苦労と努力の果てに、彼女自身が掴み取った力だった。

人々はその姿に敬意を抱き、こう呼んだ。
――「未来を見る魔王」と。

ふたりの魔王は語り合った。
「いくつもの世界をつなげて、誰もが自由に行き来できる場所をつくろう」

その願いから生まれたのが――“ギルド町”。

雲に包まれ、外からは入れない結界の世界。
町の奥には無数の扉が並び、別の世界へとつながっていた。
だが、そのほとんどはまだ閉ざされたままだった。

広い町は人影も少なく、どこか寂しい。
それでも依頼はすでに集まり始めていた。
薬草集めのような小さな仕事から、未来を変える大きな使命まで。
最上位には――“魔王クラス”と呼ばれる依頼すら存在した。

その多くを掲げるのは、未来を見る魔王だった。
「この世界の“奴ら”を倒せ」
「時の流れを乱す者を探せ」
「未来で起きる争いを止めろ」

理由は誰にも分からない。
だが彼女の依頼を果たすたびに、未来は少しずつ変わっていった。

広場を歩くのは、魔王が造り出した案内役のロボットたち。
教育機関も設けられ、若き冒険者が基礎を学んでいた。

町はまだ未完成だった。
だが時が経てば経つほど技術は進み、扉は次々と開かれ、やがて多くの世界から人々が集まるだろう。

その始まりを支えていたのは――
いろんな世界を見てきた魔王、カゲナの父の願い。
そして、未来を見る魔王が紡ぐ数多の依頼。

「いろんな世界を、ひとつにつなげたい」
その夢は、この場所から始まった。
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#カゲナショート小説1シーズン
君に届きたくて


ルミナ視点

風が気持ちよかった。
雲の上に手を伸ばすたび、光が指の間をすり抜けていく。

(……やっぱり、空って好き)

羽ばたくたびに心が軽くなって、地上の音も悩みも遠ざかっていく。
誰にも縛られず、ただ風と一緒にいられる場所。

――だから、ノクには見せたくなかった。
あの子はきっと、無理してでもついてこようとするから。

下を見下ろすと、黒い影が丘の上でうごめいていた。
案の定だ。

(ノク……また、怒ってる顔してる)

黒髪が風に揺れて、影がぐるぐると彼女の足元を囲んでいる。
まるで空を妬むみたいに。

その姿を見て、ルミナは小さくため息をついた。

「ほんと、もう……かわいいんだから」

――けれど、次の瞬間だった。
ノクの影が、まるで心臓の鼓動みたいに“跳ねた”。



ノクシア視点ノク

ルミナが、遠い。
空の上で笑ってるその顔が、ずっと頭から離れない。

“ノクは地面の子だもんね”って、笑って言ってた。
――あの一言が、胸の中でくすぶってる。

「……地面の子じゃないもん」
思わず、声が漏れた。

風が頬を叩いて、影が背中を揺らす。
「ノクも飛べる。飛んで、あいつの隣に行くんだ……!」

どろり、と影が形を変えた。
翼のように伸びて、空気を掴む。

一瞬、体が浮いた。
視界が広がって、風が顔を撫でた。

「――やった!」

けど次の瞬間、体がくるりと回転して、落ちる。
地面に叩きつけられて、息が詰まった。

「いったぁ……」
でも、涙が出そうなくらい嬉しかった。

空はすぐそこにある。
手を伸ばせば、届く気がした。

「ルミナ、待っててよ……今、行くから!」

もう一度、影を呼ぶ。
今度は“焦り”じゃなく、“想い”で。

影が背中からあふれ、風と一緒に舞い上がる。
地面が遠ざかって、青が目の前に広がった。

その中に、ルミナがいた。
驚いた顔で、でもどこか嬉しそうに笑っている。

「ノク……本当に飛んだの?」
「へへ、びっくりした?」
ノクは照れ隠しの笑みを浮かべた。

心の中では叫んでいた。
(やっと、同じ空に立てた……!)

ルミナの目が、やわらかく光る。
そのまま二人は、並んで空を漂った。



ルミナ視点(結び)

ノクの影は黒くて、風の中で溶けそうなくらい儚い。
けど――その中には、確かに光があった。

「ねぇ、ノク。どうして、そんなに無茶するの?」
「だって、ルミナが飛んでたから。ノクも、話したかったんだもん」

その答えに、ルミナは胸の奥がくすぐったくなった。

(……もう。やっぱり、かわいい)

ふたりの笑い声が、風に溶けていく。
青と黒の軌跡が、空の真ん中でひとつに重なった。

それが、ノクシアが初めて空を飛んだ日。
――そして、ルミナが“ひとり”ではなくなった瞬間だった。
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画像
実際はカゲナの中にノクシアがいる。

#カゲナショート小説1シーズン
夜空と三つの声(1話より前)
 夜の丘に座り、僕は星を仰いでいた。
 冷たい風が頬を撫で、胸の奥まで静けさを運んでくる。

 隣でリアが小さく首をかしげ、問いかける。
「カゲナ、また考えごと?」

「……考えているというより、答えを探しているんだ」
「答え?」
「僕たちが……どう生きるべきなのか。そのことを」

 リアは少し驚いた顔を見せたが、すぐに微笑んだ。
「そんなの簡単だよ。強くなって、みんなを守る。それでいいんだよ」

 僕は目を伏せる。
「……君は、本当に強い」

 その時だった。
 胸の奥で、幼い声が跳ねるように響く。

――「ノクは知ってるよ。カゲナはね、守りたい守りたいって言うけど、結局ノクがいなきゃ何もできないんだ」

 影がにじみ、意識に割り込んでくる。
 ノクシア――僕の中に棲む悪魔。

「……ノクシア」
 低く名を呼ぶと、声は楽しげに続く。

――「ふふん♪ ノクは悪魔だもん。怖いでしょ? でもカゲナはノクを手放せないの。だって、ひとりじゃ弱っちいからぁ」

 子供のように甘え、わがままを言う響き。
 リアは僕を見つめ、そっと僕の手を握った。

「……怖くなんかないよ。ノクシアも、カゲナの一部だから」

――「えぇぇ? ノクはノクだよ! カゲナの一部なんかじゃないもん!」

 ぷくっと拗ねた声色に、思わず口元がゆるむ。
 リアは夜空を見上げながら、真っ直ぐに言葉を紡いだ。

「それでも、ノクはカゲナと一緒にいる。なら……家族だよ」

――「か、家族ぅ? ノク、悪魔なのに?」

「うん。悪魔でも天使でも関係ない」

 短い沈黙。ノクシアは何かを飲み込むように黙り、やがて小さく鼻を鳴らした。

――「……ふんっ。ノクはね、別に寂しくなんてないんだから」

 その声が遠ざかり、夜の静寂が戻ってくる。
 僕は深く息を吐き、隣の妹に視線を向けた。

「……結局、僕は君に救われてばかりだ」
「それでいいの。だって、兄妹なんだから」

 星々はただ静かに瞬き、光と影を分け隔てなく照らし続けていた。
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#カゲナショート小説1シーズン
「欲する心と、守る心」(1話より前)
ノクシア:

「ノクは、たくさん欲しがるの。
強さも、愛されることも、誰かに必要とされることも……ぜんぶ。
でもさ、“そんなのダメ”って、大人はすぐ言うでしょ?
“我慢が美徳”とか、“分をわきまえろ”とか、“そんなに求めるな”って。
ノクは思うの、それってズルいよ。
ノクたちの世界が壊れてるのは、“誰かが我慢したまま黙ってたから”じゃないの?
声を上げて、欲しいって叫んでも、いい世界のはずなのにね。
ノクはね、もっと欲しがっていい世界にしたいの。
誰かを独り占めしたいんじゃない――“ちゃんと一緒にいたい”って言える勇気が、ほしいだけ。」



カゲナ:

「ボクはいつも、考えてばっかりなんだ。
これが正しいのか、間違っているのか――どうすれば、誰も傷つかずに済むのかって。
でも、正しさって案外ずるいよね。
声の大きい人や、多数決が“正しい”って言ったら、それが“答え”になる。
そんなのって、本当の意味で“守る”ことになるのかな。

ボクはね、迷ってる自分を否定したくない。
誰かのことを思って、それでも決められないボクを、“弱い”って笑うなら、それはきっと優しさを知らない人だよ。

ボクが戦うのは、“強くあるため”じゃない。
誰かと一緒に、弱さごと抱えて生きていくために――その場所を、守りたいだけなんだ。」

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