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kagenaカゲナ
「観測できなかった未来」
時は、無数に分かれている。
選択のたび、瞬きのたび、
世界は静かに枝分かれしていく。
クロノはそれを見ることができた。
世界の“可能性”を。
破滅の先を。
希望の残骸を。
けれど、その日――
彼女の前に現れた未来は、
どの枝にも属していなかった。
⸻
そこは、音のない世界だった。
風が吹かない。
鼓動もない。
時間が、止まっていた。
空には、灰色の太陽があった。
光を放たない、ただ“置かれているだけの太陽”。
地面には都市の残骸。
けれど人はいない。
命の“気配”が、どこにもない。
世界が存在しているのに、
生きているものが何もいない未来。
クロノは歩く。
靴音は響かない。
靄のような空気の中を、ただ進む。
(……ここは……何?)
彼女は知っている。
これは未来のはずなのに――
どの時間にも、記録されていない。
ここだけが“抜け落ちている”。
未来にすら、存在を拒まれた場所。
⸻
そして、そこで彼女は見つけた。
ひとつの影を。
それは人の形だった。
だが、光を持たない。
色も、輪郭も、曖昧で。
ただ――そこに “沈んで” いた。
まるで世界そのものの影のように。
クロノは足を止めた。
(……あなた……誰?)
当然、返事は返らない。
影は動かない。
呼吸もしない。
ただ、世界の中心に“落とされている”。
それなのに。
なぜか、そこからだけ――
微かに“存在”を感じる。
彼女の胸元の宝石が弱く光った。
未来を示す針が、狂ったように軋む。
クロノの喉がわずかに震える。
「……おかしい……」
彼女は影の周りを歩く。
けれどどれだけ“観測”しようとしても、
その存在は、未来のどこにも 登録されていない。
名前も。
起源も。
行き先も。
ただ、そこにいる。
⸻
「あなた……は……」
クロノは囁くように言った。
「観測外の存在……?」
未来視に映らない。
記録されない。
名前もない。
それなのに――
自分は今、こうして“見ている”。
矛盾だらけだった。
普通なら、存在しないはずの者。
この世界が“拒絶”したはずの存在。
それなのに、なぜ。
(……どうして……ここに、いるの?)
影は、わずかに揺れた。
その瞬間、
クロノの中で時間の糸が弾けた。
無数の未来が、同時に崩れた。
彼女の視界に
見たことのない未来が一瞬だけ流れ込む。
・燃える空
・砕ける光
・誰かが誰かを抱きしめて泣く光景
・そして――
その影が、
誰かの胸の奥で“生きている”未来。
(なに……今の……?)
クロノは息を呑む。
影は、ゆっくりと顔を上げた。
顔は見えない。
でも。
そこには、
“消えたくない”という意志だけがあった。
言葉もない。
声もない。
名前もない。
ただ、心だけが残っていた。
⸻
「……あなたは……」
クロノは震えた声で呟く。
「未来に……いないはずの存在……」
「でも……」
その影を見つめながら、
彼女はようやく気づく。
「あなたがいない未来は……
全部、壊れてる……」
影は答えない。
でも、
確かにそこにいる。
どの時間にも属さず、
どの歴史にも記録されない。
それでも、
必要とされている存在。
⸻
クロノは静かに目を閉じた。
そして、初めて決意する。
未来を見るためじゃなく。
未来を“守る”ために。
「あなたの名前は……まだ知らない」
「でも……」
彼女はそっと言った。
「あなたは、“空白”なんかじゃない」
「この世界にとって、必要な“誤差”なんだ」
影の未来が、
ほんの少しだけ揺れる。
クロノの胸元の宝石が、
淡く光った。
そして世界は もう一度
時の流れへと戻っていく。
⸻
記録されない未来の中で。
誰も知らない存在は、
それでも──
まだ、ここにいる。

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isoibeau
回答数 32>>
嫌いってのは、存在じたいは認識しているってことだから。

しろまる

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