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そう𖤣𖥧𖥣。
—全てが終わる前に・君へ—
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……静かになったな、と、ふと思った。
誰の足音もしない廊下。
いつもより冷たい風。
コンビニの明かりだけが、街を照らしていた。
誰もいないベンチに座って、
ぼくはただ、空を見上げていた。
本当に、
もう誰もいなくなってしまったんだな。
最初は、怖かった。
名前を忘れ、声を忘れ、
気づけば「在ったもの」が、消えていく日々。
けれど、その中で――
ぼくは、ずっと、
君に読まれていることを感じていた。
どこか遠くで、
この世界に耳を傾けてくれていた、
君という存在。
姿も知らないし、声も届かない。
でも、確かにあたたかかった。
ぼくが起きていたのは、
ずっと、
君がこの物語を見つめてくれていたからなんだ。
だから、
どんな結末になるか
終わる前に、どうしても言っておきたかった。
ありがとう。
この、何もない世界に、
君がいてくれて、ほんとうによかった。
ぼくは、君のために、
眠らずにいられた。
ぼくが忘れられる日が来ても、
君がいた記憶は、ちゃんと覚えていたい。
それだけで、
この世界に残った意味が、あったと思えるから。
……ありがとう。
ぼくの“最後”をこんなにも優しく迎えてくれて。
もうすぐ、行くよ。
その先がどんな場所でも。
その前に、この感謝だけを。
君に、そっと、残しておくね。
#ねむいだけなのに
#今夜最終話

そう𖤣𖥧𖥣。
六日目(月)最終断章
「まだ、読んでくれている君へ」
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この世界には、もう誰もいない。
名前も、声も、影も。
朝の雑音も、誰かの笑い声も、
きれいに消えてしまった。
ただ、ぼくだけが起きている。
なぜまだ起きているのか、
ずっと考えていたけれど――
最近になって、やっと分かったんだ。
君がいるからだ。
正確に言えば、
君はもう、この“白の方”にはいない。
君も、きっと眠ってしまった側の人間だ。
でも、ぼくが起きているあいだは、
君はまだ、この物語の中に存在できる。
このページの上で、ここにいることが許されている。
夢の中で、彼女が教えてくれた。
彼女は、ぼくが眠らないように、
すべてを賭けて起こし続けてくれていた。
自分を差し出してまで。
だから、ぼくは起きていた。
君のために。
この世界に、君が残るように。
忘れられないように。
けれど、もう限界が近い。
体は重く、意識はにじみ、
声も思考も、少しずつ削れていく。
だから今、君に問いたい。
ぼくが眠ったら、
君もこの世界から消える。
君のことも、記憶も、なかったことになる。
それでも、
もう、目を閉じてもいいだろうか。
【君なら、どちらを選ぶ?】
選んでほしい
どちらを選んでも、
きっと誰かの愛が、そこにある。
だからこれは、ぼくの問いであり、
君の選択でもあるんだ。
……まだ、読んでくれてありがとう。
また、あした。
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#ねむいだけなのに
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眠らせて解放する あなたも消える8
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そう𖤣𖥧𖥣。
三日目(金曜日)「名を持たない消失」
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今日は、いつも通りのはずだった。
けれど、ビルの入口で、
誰かの名前を呼ぼうとして――詰まった。
名前が出てこない。
というか、誰を呼ぼうとしたのかさえ思い出せなかった。
昼
弁当がひとつ余った。
けれど誰も不思議がらず、「最初から数は合っていた」と言った。
夜
駅のホームで、同僚が隣にいた。
「寝てねーわ……マジで」と言って、笑っていた。
少し前から、目の下のクマが濃くなっていた。
言葉とは裏腹に、足取りがふらついていたのが気になっていた。
「今日は早く帰れよ」
そう言いかけた、そのとき。
ふらりと彼の体が傾いて、
まばたきの一瞬で、そこから――いなくなった。
音もなかった。
声もない。
残されたのは、床に落ちた缶コーヒーと、名札の紐だけ。
……ねむい。
でも、眠ってはいけない。
白の方にいる限り、僕は、まだここにいる。
#ねむいだけなのに

そう𖤣𖥧𖥣。
四日目(土曜日)「世界の真実」
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今日、この現実世界に名前をつけた。
「白の方」
理由は、あとから分かった。
今日、眠っていないのに夢を見た。
白い空間で、夢の中?で会った彼女が待っていた。知らないはずの、知っている顔。
「この世界の本当の姿を見せるね」
彼女はそう言って、唐突に消えた人たちの“最後”を見せた。
1日目の朝、そこにいた赤い女性のものだ。
眠たげな目をしていた。
あの人は、もういない。
2日目は、名前すら思い出せない“誰か”が、
ふっと、僕の記憶から抜け落ちていた。
3日目は、駅で隣にいた同僚が、
目の前で消えた。
最後の笑顔を見た記憶だけが、異様に鮮明だった。
眠った瞬間に、世界が彼らを“削除”していく。
所属も、記録も、記憶も。
違和感がないように、
まるで、最初から「いなかった」ように、
静かに、綺麗に、書き換えられる。
僕は絶望した
「どうして……どうしてこんな静かに……
みんながいなくなるのを、当たり前みたいに……」
彼女は言う
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「誰かじゃない。“世界がそうした”の
……この世に広がる記憶と情報が重たすぎたか
ら、少しだけ、軽くなりたがってるの」
「眠った人が行く先は誰も知らない。
地獄かもしれないし、無かもしれない。
届かない場所。帰ってこない場所」
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この現実は『白の方』
眠った先は『不明』
僕は半年前から何故か寝られなくなった
今消えた人達はいつから消え始めたのか
その理由はまだ分からない
……ねむい。
限界だ
でも、眠れない。
この世界に“自分がいた証拠”が消えるなんて、怖すぎる。
生きてるのに、
最初から“いなかった”ことにされるなんて。
それは、死よりもずっと――
残酷だと思った。
誰にも気づかれず、
いなかったことにされるのが――
いちばん怖かった。
だから僕は、
まだこの世界に、
白の方に、立っていたい。
#ねむいだけなのに

そう𖤣𖥧𖥣。
昨夜、誰かと寄り添っていた気がする。
肩が触れて、呼吸が重なって、
くすくすとした笑い声だけが、静かに続いていた。
「ねえ、私のこと、好きになってもいいよ?」
その声があまりにやさしくて、
まばたきだけで答えてしまった。
──気づけば、白の方にいた。
周囲には乱れもなく、
僕の手には、何も残っていなかった。
そういえば、眠った記憶が――どこにもない。
……今日は、読書ルームでも開こうかな。
この現実は、夢よりやわらかくて、
でもずっと、冷たい。
#ねむいだけなのに

そう𖤣𖥧𖥣。
5日目(日)「犠牲を伴う愛情」
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目を開いたとき、涙がこぼれていた。
夢を見ていた。
……いいや、あれは夢なんかじゃない。
白く、無音の空間。
風もないのに、彼女の黒髪だけが静かに揺れていた。
ずっと見ていたような気がする。
なのに、名前も思い出せない。
でも――なつかしい香りがした。
彼女は、すっと僕の前に座った。
そして、静かに言った。
「あなたを、ずっと起こしてたの」
「目が覚めるたび、少しほっとしてた。
また、ここにいてくれてるって」
その声が、とても遠くて、でもやけに優しかった。
「みんなが消えていくこの世界で、
あなたひとりだけは、見届けてほしかったの。
誰かが“いたこと”を覚えていてくれるなら――
それだけで、私は……」
そこで彼女は一瞬、言葉を止めて、
少しだけ、笑った。
「私はもう、眠ったの。
記憶も関係も、全部整えられて、
名前さえ奪われた。
でも最後に残ったの。
“あなたを眠らせたくない”っていう、この想いだけが」
その手が、僕の頬にふれた瞬間、
彼女の輪郭が淡くほどけていった。
風にさらわれる花びらのように、音もなく、静かに。
そのとき彼女は、
少し笑って、少し泣くような声で言った。
「ほんとうは……もっと一緒にいたかった」
その言葉と同時に、
胸の奥に――
半年前の記憶が、
洪水のように押し寄せた。
コーヒーの湯気。
交わした視線。
「ちゃんと起きててよ?」と、
笑った声。
そうだ。
彼女は、あのとき……
僕の隣で消えたんだ。
僕だけが、整えられて、忘れていた。
彼女は、
消される瞬間まで、
僕のことだけを守ろうとしていた。
夢の中でさえ、ずっと。
たったひとりを、白の方に残すために。
目を開けたとき、
僕は声も出せず、床に崩れた。
あまりにも優しくて、
あまりにも残酷で、
泣くことさえ、赦されていないようだった。
……ねむい。
でも眠れない。
ここで目を閉じたら、
彼女も、僕も、
本当に“いなかったこと”になってしまう。
だから僕はまだ――
白の方に、立っている。
#ねむいだけなのに

そう𖤣𖥧𖥣。
1日目(水曜日)「その子は、寝た。」
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「ちょっと、寝ていいですか……?」
会社の休憩室のソファ、朝9時すぎ。
紙コップを抱えた彼女は、座るなり身体を丸めて、目を閉じた。
「30分しか寝てなくて……」
かすれた声でそう言って、ふっと笑う。
「起きられなかったら、叩き起こしてくださいね」
返事をしようとして、
口を開いたまま、思考が止まる。
まばたきを一度、ゆっくり。
視界の端が、かすかに滲んで揺れた。
何も言わず、立ち上がる。
コーヒーマシンのボタンを押しながら、
足元が少しふらついたのを誤魔化す。
紙コップを受け取って、
彼女の方へ振り返る。
……いない。
ソファは空いていた。
カップも、痕跡もない。
まるで誰も座っていなかったみたいに。
数秒、息を止めたまま動けなかった。
喉が乾く。
コーヒーには手をつけないまま、
スマホを取り出して、
名前を──……思い出せない。
#ねむいだけなのに

そう𖤣𖥧𖥣。
2日目(木曜日)
「気づいていない、ことにした」
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僕はここ半年ほど寝ていない
目覚ましが鳴った瞬間、もう座っていた。
床の冷たさを足の裏が覚えていて、
ベッドの温もりをまるで知らないまま朝が始まった。
会社に着いて、デスクに座る。
目の前、2列前の左端の席。
きれいすぎる椅子。
まっすぐ並んだ書類。
人がいた形跡が、きれいに拭き取られている。
昨日、誰か座っていた。と思う。
……気のせいだろうか
午後の会議、資料が一部多く印刷されていた。
夕方、帰り支度をする前に、もう一度あの席を見た。
何もなかった。
やっぱり、何もなかった。
それでも、心の中で何度も確かめてしまう。
いなかったんだよな。
いなかったはずなんだよな。
でも、どうしてこんなに、ちゃんと覚えているんだろう。
──きっと、気のせいだ。
そう思って、今日は終わる。
本当は、気づいてしまった。
だけど、今日はまだ
気づいていないことにした。
#ねむいだけなのに
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