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アッチャー
【母の好きな人】2話(全5話】
#九竜なな也
#note より
あれは、真希斗の高校卒業が近い季節だった。卒業式までの数日間、学校が休みになった。大学受験の日程や高校のカリキュラムが全て終わり、卒後の進路の準備などに充てるための時間として与えられた休校期間だった。
他の家族は皆いつも通りに家を出て、真希斗だけが2階の自室にいた。
午後2時を過ぎたころ、誰かが帰ってくる音が階下から聞こえた。真希斗が様子をうかがうと、階段下の玄関に寿美子がいた。いつも母が勤めを終えて帰宅するのは午後6時を過ぎた時間帯だ。体調でも崩して早退したのだろうか?と真希斗が考えているところで電話が鳴り、寿美子が誰かと話し始めた。
真希斗の部屋は、玄関口から続く細い階段を上って一番手前にあるため、部屋のドアを開けて耳を傾ければ、玄関口に置かれた電話の話し声が聞こえる。
「サキちゃんに見られたんですよ。あの子の顔を見てすぐわかりました。いつから見ていたのかしら」
寿美子の話す内容から、電話の相手との情事を向こうの家族に知られるという事態が起きていることが、真希斗には理解できた。そしてその相手が誰なのかということも。
真希斗の父・英樹はかつて炭鉱で栄えた北海道の小さな町の出身だが、田辺家は母・寿美子の実家がある関東北部の中規模の都市に暮らしている。東京の工業大学に進学した英樹は、卒業後、中堅クラスのゼネコンに技術者として就職した。しかし、社風に馴染めず一年で精神を病んで退職してしまった。生活のためにレストランでアルバイトをしている時に、同じ店の従業員だった寿美子と知り合った。やがてふたりは結婚を望むほどの間柄になった。ちょうどその頃タイミングよく、寿美子の故郷の、実家と関係のある建設会社が大学出の技術者を求めているという知らせが入った。寿美子に強く押されて、英樹はその会社に再就職し、それと同時に二人の結婚が決まった。英樹は母子家庭に育ったが、すでに母はこの世を去っており、彼が誰とどこに根を下ろそうが、干渉する者はいなかった。
この話を寿美子は幾度となく子供たちに聞かせていた。ふたりが出会ってこの町で結婚するまでのいきさつの、どの部分が重要なのか子供たちにはよくわからなかったが、なぜか寿美子は繰り返しこのことを話すのだった。
(つづく)
©️2024九竜なな也

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