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アッチャー
【母の好きな人】1話(全3話】
#九竜なな也
#note より
概して息子にとって、父親とは大きな存在である。それは、必ずしも何か偉業を成し遂げた父親とはかぎらない。無名で地味な生き方をしている父親でも、息子にしかわからない大きさというものがある。
真希斗にしてもそうだった。しかし、はじめからというわけではない。むしろ、思春期の頃は、父の無欲でおとなしい性格に物足りなさを感じ、少し軽蔑するような気持ちもあった。
真希斗がその存在の大きさを感じるようになったのは、父の田辺英樹が他界した後からだった。
「ヒデくん。いや。行かないで。あたしをおいて行かないで。お願い!」
真希斗の母・寿美子は、病院のベットの上で呼吸が弱まっていく夫に泣きすがった。
この時、真希斗と姉たちは、初めて母が父のことを「ヒデくん」と呼ぶのを聞いた。父は、家族の前ではいつも「お父さん」と呼ばれていた。田辺家にとって、田辺英樹は常に「お父さん」であった。その父と死別したのは、真希斗が大学四年の時だった。
難治の病が発覚して、二年を待たずに英樹は他界した。50余年の生涯だった。寿美子のひどい落ち込み具合に、彼女があとを追ってしまうのではないかと、子供たちや親しい者は心配したが、一周忌を終えた頃から、寿美子は自分らしさを取り戻していった。
寿美子が元気になってから姉たちが聞き出したところによると、父の周囲では彼女だけが父を「ヒデくん」と呼んでいたそうだ。しかしそれは、ふたりが恋人同士だった時と、結婚して子どもたちが生まれるまでのことだった。長女、次女、そして真希斗と、次々に三人の子どもが生まれてからは、英樹は寿美子にとっても「お父さん」と呼ぶ存在になっていった。
それが、息絶えていく最後の数分間だけ、「ヒデくん」に戻ったのだ。
姉たちからその話を聞きながら、真希斗はある出来事を思い出していた。
真希斗には家族に隠している秘密があった。それは、彼が母・寿美子の隠し事を知っているという秘密だ。
(つづく)
©️2024九竜なな也

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まとめて買ってますよ…
お友達わりと高めの水入ったシールとか
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