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紅緒べにを🦚
ぎっと堪えた吐き気が鼻腔を抜ける。喉に残る異物感も目頭に溜まった涙も、不快だった。しかし不本意に、痺れるような快感が脳を支配する。背中に当たるフローリングはどこまでも冷えていた。
嗚咽とも喘ぎともつかない声を、口元に置いた手の甲で押し戻しながら、ただただじっと、二律背反な感覚の波が通り過ぎるのを待つ。
彼は私が拒まないことを知っていた。激しい虚しさを私に叩き付けるくせに、組み敷いた私の髪を柔く撫で、抱き締める。彼はきっと、私を正しく慈しんでいると思っている。
ベッドに息の上がった彼の裸がどさっと転がる。ワンルームの狭い床に、私は落ちたままだ。
「愛してる」
シングルサイズのパイプベッドは、毎日二人で使うせいか、酷く軋む。彼の囁きにもギィギィと雑音が混ざって、私に降ってきた。
私はただ黙って、西日で一筋の線が浮かぶ天井を仰いだ。
去年の春、一人暮らしを始めるために借りたアパートの四階は、階段もなく不便だが、天井が高く、小さな窓から日の光が差し込むところは気に入っていた。
どうしてこうなったのか。ズルズルと半同棲のような生活になってから、一年近くが経つ。いつからか、彼は突然不機嫌になると、黙って私の下着を剥ぎ取るようになった。彼とのこれまでをチクチクと思い返しながら、まどろみに身を任せる。
気が付くと天井に差す西日は消え、部屋は暗くなっていた。壁時計の秒針の音と彼の寝息だけが聞こえる。
私は音を立てないように起き上がり、足首に引っ掛かったままの下着を履いた。ベッドと反対の壁の間接照明を頼りに、ワンピースの乱れを直す。あちこちに散らばる衣服を集め、彼の足元に畳み、タオルケットをそっと掛ける。
−−−あなたのスマホの中の彼女たちは、こうやってタオルケットを掛けてくれますか?
胃の内容物と嫌悪感が腹の底から止めどなくせり上がってきて、トイレに駆け込む。自分の吐瀉物の臭いにまた、腹を絞られるような嗚咽が出た。
分かっている。一番嫌いなのは、求められることを求めて、そうすることでしか立っていられない私自身だ。トイレに流れていくのは、私から剥がれ落ちてしまった自己愛だ。これまで私を正しく慈しんでくれた人たちのぬくもりだ。
彼の寝息は規則正しいままだ。
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なぁ…ジュリアンシェフ…あなたの幸せな未来と満たされる日はどこにあるの…
一周見終わった後に今一度頭からみると、浪費されるばかりの愛を作る貴方の目の昏さと空虚さが辛いよ…

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紅緒べにを🦚 投稿者
『えずき』 紅緒 字数足りなくて、タイトルすら入りませんでした。 過去の私なのか、今の私なのか、いつまで私たちはイビツで居ればいいのでしょうか。