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ハーロック
父と娘は、普通に幸せに暮らしていた。
劇的な幸せじゃない。朝起きて、出勤して、晩ご飯を食べて、洗い物をして、娘がテレビを見ながら笑って、父はその横でスマホをいじる。そんな生活の幸せだ。
父子家庭になったのは娘が五歳のときだった。
浮気をした妻と離婚し、父は娘を引き取った。
大変だった。
仕事をしながら、保育園の送り迎え、発熱、夜泣き、入学準備。
父は不器用で、完璧ではなかったが、誠実だった。娘が転べば抱き上げ、泣けば理由が分からなくても隣に座った。いちばんしんどいときに逃げずにそこにいる。それだけは揺らがなかった。
娘はスクスクと育った。
反抗期もあった。父の言い方が気に入らない夜もあった。でも家が“壊れない”ことは分かっていた。どれだけ口が悪くなっても、父は朝になれば弁当を作り、娘の靴紐がほどけていれば黙って結び直す。そういう積み重ねが、娘の人格の背骨になった。
娘は大学に進もうとしていた。
父は学費の計算をしながら、内心、誇らしくて仕方がなかった。やっとここまで来た。ここから先は、この子の人生が広がる。
そのタイミングで、元妻が現れた。
何年も音沙汰がなかったくせに、いまさら、堂々と。
インターホンのモニターに映った顔を見た瞬間、父の胃が冷えた。
娘も廊下の奥から気配をうかがっている。大学の資料を抱えたまま、立ち止まっている。
父は一呼吸置いてからドアを開けた。
「久しぶり」
元妻は笑っていない。
いや、笑ってはいる。目が笑っていない。人を数える目だ。
「娘を引き取りたいの」
その言い方が、もう“交渉”ではなく“回収”だった。
父は一瞬で理解する。彼女の視線が、娘の顔ではなく、部屋の奥。家の広さ。生活の匂い。大学の資料。将来の金の匂いを嗅いでいる。
「今さら何言ってる」
吐き捨てたくなるのを、父は飲み込んだ。娘が見ている。
元妻は肩をすくめた。
「あなた、自分の子だって思い込んでただけでしょ」
そこで、娘の肩が揺れた。
父は、その揺れを見て、はっきり分かった。
この女は、娘を守りに来たんじゃない。
娘を武器にしに来た。
父の声が低くなる。
「娘の前で言うことか、それ」
元妻は平然としていた。
「事実を言っただけ。私が産んだの。あなたの権利なんて最初からないのよ」
娘の手が、大学資料の端を握り潰していた。
父の中で何かが切れた。
怒鳴りたい。
壁を殴りたい。
でも、それをやった瞬間、娘の世界が壊れる。父は、壊す方向の強さを使わない。
代わりに、壊さない方向の強さを出す。
「まず言っとく。今ここで、娘を連れて帰ることはできない」
そう言って父は、玄関から一歩も退かずに立った。
娘と元妻の間に、自分の身体を置く。
元妻が鼻で笑う。
「できるわよ。親なんだから」
父は、笑わなかった。
目だけで刺す。
「娘は十八だ。成人してる。どこで暮らすか、誰と暮らすか、本人が決める」
元妻が言い返そうとしたが、父は言葉を継がせなかった。
ここで勢いを与えたら、娘が“揺れる”。
「親権がどうとか、監護権がどうとか、そういう時期はもう終わってる。今は本人の意思が最優先だ」
娘が息を呑んだ音がした。
父は、振り返らない。視線を元妻から外さない。娘に安心を背中で渡す。
元妻の眉がぴくりと動いた。
この女は、“力関係”で生きている。理屈じゃない。勝てる場所にだけ座る。負けると分かれば逃げる。
だから父は、ここで“理屈の刃”をもう一本足す。
「それから」
父は、声をさらに落とした。
「お前がこの十三年で一回でも娘に金を払ったか。養育費。生活費。学用品。医療費。何か一円でも“責任”を払ったか」
元妻の口角が一瞬止まる。
娘が、はっと父を見る気配がした。父がこんな言い方をするのを見たことがない。
「……それは、いろいろ事情が」
父は遮る。
「事情があるなら、娘に言え。俺に言うな」
玄関の空気が硬くなる。
娘の涙が、床に落ちた。
#希望 #自作小説

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