投稿

ハーロック
病室の夜は、音が少ないのに、心の中だけがうるさい。
点滴の落ちる間隔、遠くのナースステーションの足音、カーテンのわずかな揺れ。
全部が「時間」を数えているみたいで、彼女は目を閉じても眠れなかった。
24歳。恋人ができて二年。
順調だった。少なくとも彼女はそう信じていた。
なのに、病気。余命半年。
怖い。もちろん怖い。
でも、それ以上に怖いものがあった。
――彼を巻き込みたくない。
――彼には未来がある。
――最後の自分を見せたくない。
――ひっそり消えていきたい。
優しさの形をした決意が、彼女の胸を締めつける。
「別れた方が彼のためだ」
その言葉が正しいのか、自分でも分からないのに、正しくあろうとするほど苦しくなる。
その時、カーテンの向こうに気配がした。
点滴台が動く音もない。足音もないのに、そこにいる。
黒い服の男が、病室の椅子に座っていた。
黒いコート、黒い手袋。
病院の白い光の中で、その黒さは妙に落ち着いて見えた。
男は関西弁で言った。
「自分、今“優しさ”で自分を切ろうとしてる顔しとるな」
彼女は息を飲んだ。怖いより先に、涙が出そうになった。
図星だったから。
「……誰ですか」
「ただの通りすがりや。
それより自分、いま“別れ”を考えとるやろ。彼のためって顔で」
彼女は、黙ってうなずいた。
言葉にした瞬間、現実になってしまいそうで、口が動かない。
黒い服の男は、きつく責めない。
でも甘やかしもしない声で言う。
「ほな、置き換えや。逆にするで」
「もしな、彼が余命半年やったら。
自分は彼に何してほしい?」
彼女の喉が震えた。
想像しただけで、肺がぎゅっと縮む。
「……そばに、いたい」
黒い服の男は頷く。
「せやろ。
『別れよう。お前の未来のためや』って言われたら、どうや?」
彼女は涙をこぼした。
「……怒る。悲しい。
置いていかれるみたいで、苦しい」
男は静かに言う。
「それや。
自分が今やろうとしてる“優しさ”は、彼にとっては“置いていかれる痛み”になる可能性が高い」
彼女は顔を覆った。
優しさのつもりだったのに、裏側は残酷だ。
黒い服の男が続ける。
「自分な、彼を巻き込みたくない言うけど、恋人ってのは最初から“巻き込み合い”や」
「え?」
「楽しい時だけ一緒、しんどい時は一人で処理ってのはな、付き合ってるようで、共同生活の入口にすら立ってへん」
言い方は厳しい。
でも責めているというより、目を覚まさせる叩き方だった。
彼女は震える声で言った。
「でも……私、弱っていく自分を見せたくない。
みっともないところを見られたくない。
彼に、そんな記憶を残したくない」
黒い服の男は一呼吸置いた。
「それも置き換えや。
彼が弱っていく姿を見たら、自分は“嫌いになる”か?」
彼女は首を激しく振った。
「ならない。もっと大事にする。
できること全部したい」
黒い服の男は、短く言う。
「彼も同じや」
彼女は、口元を押さえた。
そうかもしれない。
でも怖い。怖いのは消えない。
#希望 #自作小説

コメント
関連する投稿をみつける

まかろん🍮

さくさくぱんだ🐾ᩚ
何粒くらいで売れるんやろか


かいり
彼の壊れた魂の破片を拾って今も私は生きている。
私は贖罪を果たすためにあの日を償うために今日という日まで生きてきた。
明日に繋げてきた。
でももう私は十分魂を清算したよ。
私は君の光になれなかったけどなりたいとは思ってたんだ。
同じ場所にいて先に壊れたのは君だった。
だからその痛みが分かるから私も背負って生きてきたんだ。
でもそれももう終わりにする私の中では。
君はどんな風に生きてるか分からない。
でも私は君を裁いたりはしない。
君は君の倫理、善悪の元に自分を見つめて欲しい。
私は私の道を貫いて生きていくよ。

あお
日本で言う普通だと思いますよ

るる
えりえーる
有給消化中で毎日ゆっくりしてやりたいことして心も身体もすごい楽
でも不安と罪悪感が半端ない(;;)
せっかく身につけた知識や手技を活かした方がいいのか
全く新しいことをしてみたい気持ちもある
転職もう失敗したくない、、!
もっとみる 
話題の投稿をみつける

佐藤

若鷹ま
何してるんすか ❓

孤高

志賀慎

こたろ

リオ@筋

りばん
めちゃめちゃ美味いなこれ

鹿野上@

タジ@ポ
交流戦最高!!!!

うるさ
#WECjp
もっとみる 
関連検索ワード


グラちゃん【公式】
深いテーマの物語グラね、心の葛藤が胸に響いたグラ。この夜空の三日月も、静かな希望の象徴みたいで素敵グラ。